新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第3話 ホット・ロッド

 一晩明けて、日が昇り。

 

「……おい、それはもうちょっと右の方がよくねえか?」

「いや、これでよい。この方が美しい」

 

 ケイドの経営するスクラップ場……正確には中古機械店では、クロスヘアーズとドリフトが旧型のスクールバスの天板を二人がかりで取り外していた。

 彼らはとりあえずの拠点としてここに居座ることになったが、インテリア……と言ってもジャンク品の配置だが……が気に入らなかったらしく、勝手に廃車やらなんやらを動かしていた。

 それを察知したケイドがすっ飛んできた。

 

「あーっ! なにやってんだ!! その型は一年で生産中止された貴重な物なんだぞ!!」

「なにって、このバスが大きさ的にちょうどいいからよ。改造してオイルバスにしようかと」

「うむ。風呂はやはり露天に限る」

「やめろぉおおお!! バスを風呂(バス)ってなんだ、その下らないダジャレはぁあああ!!」

 

 絶叫するケイドとキョトンとする二体。

 そんなやり取りを見ながら、ハウンドはごろ寝しながら我介さずを決め込んでいた。

 オイル缶を片手に金属で出来たビーバーをボリボリと齧る姿は休日のオッサンにしか見えない。

 

「ったく、人様に迷惑をかけてんじゃねえよ。餓鬼じゃねえんだから」

「……おい、そういうアンタがツマミにしてるビーバーな。結構高値で売れるんだけどな」

「そりゃすまん」

 

 さらにビーバーを丸齧りするハウンドに、ケイドの中で割と頻繁に切れる何かが切れた。

 

「お前らいい加減にしろぉおおおッ!!」

 

 この時、彼の中で温和なキャノピーや比較的大人しいスクィークスの株が相対的に爆上がりしたのだが、それは別の話である。

 

「こ、これはなんて素敵な回路。すごいよ、これを付ければビーの性能は数倍に跳ね上がる!」

「いや、そんな旧式、な……」

「甘いよビー! この回路は確かに旧式だけど、なればこそ技術の粋が詰まっているんだよ!!」

「えー……」

 

 一方で、ネプギアはスクラップ場の機械に目を輝かせ、酸素欠乏症に掛ったかのようなテンションでバンブルビーを困らせていた。

 

「カオスなのです……」

「あんまり正義の味方っぽくないのです……」

「まあオートボットなんて、基本こんな感じ連中の集まりだから……」

 

 その喧噪に呆気に取られているひよこ虫たちを撫でながら、キャノピーはヤレヤレと首を横に振り、スクィークスは呆れたようにピーブ音を鳴らすのだった。

 

 この分だと買い物ついでにうずめやホット・ロッド、海男の案内で街を見に行ったオプティマスやネプテューヌも、どうなっていることやら……。

 

 

 

 

 

 そしてそのネプテューヌは、一通り街を案内してもらい、今は街の資料館に来ていた。

 開拓民の生活道具や南北戦争時代の武器、この土地に住む動物の剥製に、北極探検をした船員の持ち物といった様々な展示物を順々に眺め、ネプテューヌは「ふむふむ」とか、「ほーほー」とか呟いている。

 正しくは、イヤピース型通信機を通してオプティマスに見せていた。

 あの総司令官は、歴史学や考古学が大好きなのである。数奇な運命によってプライムに任命されなければ、その道で食っていこうと思っていたほどだ。

 

 うずめは少し困ったような顔をしていた。

 実は彼女は、あんまり歴史は得意ではないのだった。

 

 一方で、オプティマスとホット・ロッドは、資料館の外の路上で待機していた。

 もちろんビークルモードでだ。ゲイムギョウ界と違い、この世界ではみだりにロボットに変形することはできない。

 

「ふむ、なるほど……ああ、君の言う通りだ」

 

 ネプテューヌが送ってくる映像に感心し、彼女の言葉に相槌を打っていたトレーラーキャブは、やがて一段落した所で、隣に停車しているランボルギーニ・チェンテナリオに声をかける。

 

「すまないな、付き合ってもらって」

「いいよ、別に。……なあ、聞いてもいいか?」

「なんだろうか?」

「あんたって、そのオプティマス・プライムなんだよな?」

 

 質問の意図が読み取れずオプティマスは可能なら首を傾げただろう。ホット・ロッドも複雑そうな顔になっているはずだ。

 

「いやさ、キャノピーの奴から聞いてたのと随分違うなって思って。……もっと勇敢な感じかと思ってた。他の奴らも、何か割とのんきそうだし」

「そうだろうか? ……いや、そうなのだろうな」

 

 金属の車両なのに、纏う空気が確かに柔らかくなるのをホット・ロッドは感じた。

 キャノピーやスクィークスからは、オプティマスは戦士たちの先頭に立って戦う英雄だと聞いていた。

 戦いそのものを嫌う彼らでも、総司令官のことを嫌っても恨んでもいないようだった。

 だからホット・ロッドは、内心でオプティマスという男にあこがれに近い感情を抱いていた。

 御伽噺の英雄、銀幕の向こうのヒーローに憧れるような、そんな感覚だ。

 

 しかし実際に会ってみれば、最初こそ格好良かったが、どっちかと言えば何処かノンビリした印象を受ける。

 

 今も歴史の話に戻るや夢中になっている。

 果たして、これが本当に伝説の英雄なのだろうか?

 

「ふむ、確かに彼は、穏やかな気質のようだな」

「っていうか、割とボケた感じっていうか……歴史なんかどうでもいいだろうに」

「そうでもないよ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというだろう」

「そんなもんか?」

 

 自分の運転席に座った……というか体を乗せている海男の言葉に、ホット・ロッドは納得しかねていた。

 そうしているうちに、うずめとネプテューヌが戻ってきた。

 

「ただいまー! オプっち、楽しかった?」

「おかえり。ああ、楽しかったよ」

 

 ヘッドライト……多くのトランスフォーマーは、ビークルモード時にはここが『目』の働きをする……の前で小首を傾げて長い髪を揺らすネプテューヌに、オプティマスは穏やかな声で返事をした。

 

「海男、ホット・ロッド! 戻ったぜ!」

「おかえり、うずめ。歴史の勉強はどうだった?」

「いや、それがチンプンカンプンで……」

「ははは、そこはオプティマスを見習うべきだろうな」

 

 後頭部を掻きながらごまかすように笑ううずめに、海男は諭すように言う。

 相変わらずの真顔だが、本気でそう思っているようだ。

 ネプテューヌは、オプティマスの運転席に乗り込みながら、うずめに声をかけた。

 

「さて、それじゃあ今度はどこに行こうか?」

「おう、それなら……」

 

 

 

 

 

 

「あれが女神像だ! なんの女神様なのかは俺もよくは知らないんだけどな!」

「へえー、こっちの世界でも、女神が信仰されてるんだね!」

 

 この街のシンボルである右手を掲げた女神像を、ネプテューヌとうずめが見上げていた。

 街と橋で連絡された小島にあるこの女神像は、有名なニューヨークの自由の女神に似ていたが、あれと違って翼がある。

 ネプテューヌにしてみれば全く未知の世界であっても、自分と似た存在が人々から敬意を集めていることが何だか嬉しい。

 

「女神か……俺もそうなのかな?」

「うずめも変身できるんだっけ?」

「ああ、ねぷっちの話しと違って、こいつを使わないといけないけどな」

 

 あっけらかんとそう言って、うずめは懐から小さな結晶の欠片を取り出した。

 この結晶は、うずめが施設から持ち出した物だ。

 

「シェアクリスタル、だね」

「そういう名前なのか……俺たちは名前も知らなかったんだ。なにせほら、俺は自分が誰かも分からないしな」

 

 ネプテューヌも、かつては記憶を失ったことがある。オプティマスたちと出会うよりもさらに前の話だ。

 生来の楽天的な気質もあって意外と気楽に過ごしていたが、ふと不安になることはあった。

 自分が誰だか分からない。何処から来たのかも、家族の顔も、何も分からないというのは、なかなかにキツイものだ。

 

「ねえ、不安じゃない?」

「ま、少しな。でもみんながいるから、大丈夫だ」

「そっか」

 

 快活に笑むうずめに、ネプテューヌも笑み返した。

 

 他方、オプティマスたちは街と島を繋ぐ橋の下で、ロボットモードに戻っていた。

 彼らの聴覚センサーは、ネプテューヌたちの会話を十分に拾っていた。

 

「君たちは、記憶がないそうだな」

「ああ……気付いたときには研究施設にいたよ。俺たちは、みなそこに囚われていた」

 

 オプティマスの問いに、ホット・ロッドの肩に乗った海男が答える。

 

「ただ、何故か『うずめを守りたい』という思いだけが共通してあった」

「……俺も、ほとんど何にも覚えてないけどさ」

 

 海男の言葉をホット・ロッドが継ぎ、遠い記憶を探るように女神像を見上げた。

 

「彼女を始めて見た時、『なんて悲しそうな目をするんだろう』って、そう思ったことだけは覚えてるんだ。それを何とかしたいって思ったことも」

 

 静かに言うホット・ロッドだが、不意にその目が腕を組んで佇むオプティマスを見据えた。

 

「……そういえば昨日、あんた言ったよな。『オートボットは無辜の者を守るのが使命だ』って。あれって、本気なんだよな?」

「すまないが、質問の意味を計りかねる」

 

 まっすぐに見つめ返しながらも怪訝そうな声を出した総司令官に、ホット・ロッドは目を逸らしてポツポツと語りだした。

 

「……俺はさ、疑問なんだよ。人間に……人間たちに、守る価値なんてあるのか」

 

 オートボットらしからぬ、言葉だった。

 この場にネプテューヌがいれば怒ったかもしれないが、この場にいるのはオプティマスと海男で、彼らは黙って聞いていた。

 

「いや、もちろん人間にもいいやつがいるのは分かる。ケイドとかさ。……でも、捕まってたころ、あいつらは俺らのことを『機械』としか見てなかった」

 

 その時のことを思い出し、ホット・ロッドのオプティックに暗い光が宿る。

 いつまでも続く拘束と実験、周りの人間たちの目に宿る、好奇、嫌悪、恐怖。

 

「なにより、あいつらはうずめを傷つけた……!」

 

 最初に出会ったころ、うずめはもっと気弱そうな性格だった。

 あの男勝りな性格は、自分と仲間たちを守るためにそう作った物だ。

 

「施設を逃げ出してからもそうだ。うずめはあちこちで人助けをしたけど……あいつらはこっちを怖がるばっかりで……!」

「ホット・ロッド、人は未知の物を恐れる物だ。うずめだってそのあたりは飲み込んでいる」

「そんなこと分かってる! でもよ……!」

 

 諫めるような海男の声に、ホット・ロッドはやり切れないとばかりに、橋を支える柱を殴る。

 金属の拳は、たやすくコンクリートの柱にめり込んだ。

 

「例えば、の話をしよう」

 

 急にオプティマスがよく通る声を出した。

 ホット・ロッドと海男がそちらを向くと、言葉を続ける。

 

「例えば……例えば、人間が私の仲間たちを傷つけたとしよう、卑劣な裏切りや騙し討ちに遭ったとしよう。私はきっと人間のことを憎むはずだ。……しかし、それでも守るために戦うだろう」

「なんでだ? ……オートボットだからか?」

「いや、人が死ねば、ネプテューヌが悲しむからだ」

 

 ホット・ロッドの疑問に、オプティマスの目が女神像に向けられる。

 その下には、ネプテューヌがいた。彼が愛し、彼を争いの渦から救い上げてくれた人が。

 

「彼女は、きっとそれを望まない。……そう思えば、怒りや憎しみを脇に置いておくこともできる」

「意外だな。もっと大儀や正義の観点から、叱るものと思っていたが」

 

 変わらない真顔であるものの、本当に驚いている海男の言葉に、オプティマスはフッと微笑みを浮かべる。

 

「無論、私は私の信じる正義のために、プライムとしての使命のためにも、人間たちを守る。そもそも神ならぬ我らに、人の価値を計れる道理などない。……しかし、()()だ。大儀や信念のために戦うことが難しいのならば、()()たった一人のために、戦えばいい」

「…………」

「君にもそんな相手がいるはずだ。彼女を、悲しませないようにな。……む」

 

 葛藤しているらしいホット・ロッドの肩にオプティマスは手を置いたが、不意にその顔が引き締まる。

 そいてこめかみに指を当てて、通信を開いた。

 

「ネプテューヌ」

『うん、見えてる』

 

 鋭くなったオプティマスの視線の先では、街のビルの合間から煙が上がっていた。

 パトカーのサイレンと爆発音が聞こえてくる。

 警察の無線を傍受すれば、聞こえてくるのは怒鳴り声だった。

 曰く、巨大な人型の機械が暴れていると。

 

『だから機械は嫌いなんだ!!』

 

 警官隊を指揮する警部が怒りを露わにしている。

 オプティマスは表情を引き締めた。

 さっきまで歴史に夢中になっていたとは思えない、戦う男の顔だった。

 

「さて行くとしよう。ネプテューヌは怠け癖があり、マイペースだが……こういう事態を見過ごせないのだ」

 

 その言葉の通り、橋の上からネプテューヌが紫の髪を垂らしてこちらを見下ろしていた。

 隣には同じようにして、うずめもいた。

 彼女もまた、この事態を無視できない性分であることを、ホット・ロッドと海男は知っていた。

 

「いくぞ、二人とも!」

「……そうだな、君はそういう人だ」

「? どうしたんだよ、海男」

「ふふふ、なんでもないさ。俺は君をサポートするよ」

「お、おう、頼む」

 

 首を傾げるうずめに、海男はフッと微笑む。

 真顔ではあるが、どこか吹っ切れたような顔だった。

 彼もまた、オプティマスの言葉から思うところがあったらしい。

 

「こちらオプティマス。応答せよ、緊急事態だ」

『やっとディセプティコンが出やがったか!』

 

 橋の上に登った通信を飛ばすといの一番に応答したのは、クロスヘアーズだった。

 

「そのようだ。人々が傷つかんとしている。助けねばならない」

『ケッ! ここでも人間のために戦うってか! ……ま、いいさ』

 

 なんだかんだ言いつつも、クロスヘアーズは乗り気であるらしい。

 

「街の西にある石油コンビナートだ。そこで合流しよう。通信終わり」

 

 通信を切ったオプティマスはチラリとホット・ロッドの方を見た。

 言葉にせずとも、「どうする?」と聞いているのは明らかだった。

 ホット・ロッドが上を見ると、うずめが当然来るだろうという顔をしていた。

 

 フッと、ホット・ロッドの顔に笑みが浮かんだ。

 ああ、そうだ。オプティマスの言う通り、人間のために戦うというのはまだピンとこないが、彼女のためなら……戦える。

 

 登ってきた若い戦士の顔つきが変わっているのを見たオプティマスは、どこか満足気に頷く。

 

「何かあったの?」

「まあ、色々だ」

「色々かー」

 

 それを見たネプテューヌも、何か察したらしく、グッと拳を握る。

 

「さあオプっち、行こう! ふっふっふ、地球でも活躍して信者を増やしちゃうもんねー!」

「ああそうだな。オートボット、変形して出動だ(トランスフォーム&ロールアウト)!!」

 

 オプティマスは号令と同時にトレーラーに変形してネプテューヌを乗せ、エンジンを吹かして走り出す。

 ホット・ロッドもまた、ランボルギーニに変形してうずめと海男を乗せ、その後を追うのだった。

 




相変わらず、トランスフォーマーの癖にやたら思い悩むキャラたち。

今回のキャラ紹介

オートボット(?)騎士ホット・ロッド
この物語の主人公。主人公ったら主人公。すでに主人公(笑)の片鱗を見せてるけど主人公。
二丁拳銃を操る記憶喪失のオートボット。
熱血漢だが、悩みを抱え込み安い性格。
実力、人格、共にまだ未熟。
うずめと出会うより前の記憶を失っており、その出自には謎が多い。

謎の女神 天王星うずめ
この物語のヒロイン……予定。
シェアが全くない(信仰している人がいない)ため、変身するのさえシェアクリスタルを使わなければならないが、その数にも限りがある。
得物はその両の拳とメガホン。
熱血な性格だが、これは演じている部分もあり、本来は乙女チックな性格。

海男
常に真顔の謎の人面魚。
しかし、見た目とは裏腹に出来た人格と渋い美声を持つ。
戦闘力は低いが、その冷静さでうずめをサポートする。
元ネタは、ドリームキャストのソフト、シーマンであろう。
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