新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第64話 オールヘイル・ガルヴァトロン

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な!! 儂のトランステクターが、軍団が……儂の、儂の夢が、こんな所で!!」

 

 崩れ落ち炎を上げるトランステクターから分離したアフィモウジャスは、頭部から人型に戻ると地面をはいずる。

 ドリル特攻のダメージがエクゾスーツにまで及んでおり、立つことすらままならない。

 それどころか鎧の中の本体までも負傷してしまい、結果精神エネルギーを維持できずドローンたちまでも停止してしまう。

 

 それでも、アフィモウジャスは諦めることなどなく、懐から先祖の遺した調和のエニグマを取り出す。

 

「いいやまだだ! このエニグマさえあれば……」

「いいや。お前の夢も、秘密結社ゴッコも、ここで終わりだよ」

 

 周囲のドローンたちと合体しようと藻掻くアフィモウジャスだが、エニグマを持つ手が手首から斬り飛ばされた。

 ブレードを振ってオイルを払い、地面に落ちた手ごとエニグマを拾ったガルヴァトロンは、その持ち主の背中を踏み付け後頭部にキャノンを突き付けた。

 

「グっ……! 貴様ら、次々チート能力を使いおってこのメアリー・スーどもが!!」

「めありー・すー?」

 

 アフィモウジャスの罵倒の意味を理解できずにガルヴァトロンは小首を傾げる。

 

「ッ! 将軍!!」

「おっと、ドロスではお前のニンポにまんまと出し抜かれたが、今度はそうはいかない」

 

 一方で意識を取り戻したステマックスはホット・ロッドが拘束具を使って捕えていた。

 本体である頭部、その額にしっかりとレーザーライフルを押し当てホット・ロッドはドスの効いた声で警告する。

 

「改めましてドーモ・ステマックス=サン。ホット・ロッドです。ニンジャ殺さないし、慈悲もある……大人しくするならな」

 

 ステマックスは目を鋭く光らせつつも一応はそれに従う。

 

「くそう、くそう! 何故勝てなかった! メガトロンの後継である儂が、何故……!!」

「まだ言うか……」

 

 呻く秘密結社首領……いや元首領にガルヴァトロンは悲し気な顔をした。

 アフィモウジャスは、地面を叩いて慟哭する。

 

「貴様らなど、唯のお人好しと馬鹿ではないか! 儂は、儂はずっと頑張ってきたのだぞ! 飢えに耐え、屈辱に耐え、貧しさに耐えてきたのだ!!」

 

 アフィモウジャスにとって、メガトロンは憧れであり目標だった。

 底辺から成り上がりに成り上がりを重ね、種族の長にまでなったその姿は、彼にとって一種の救いですらあった。

 

「ならば……ならば! 儂だって成れるはずだ! メガトロンのように!!」

「成れねえよ」

 

 それを強く否定したのは、バリケードだった。

 後ろにオンスロート、ニトロ・ゼウス、モホーク、バーサーカー、ドレッドボットの五人が他のディセプティコンたちに引き摺られるようにして連れてこられている。

 ブリッツウィングらトリプルチェンジャーたちもオートボットたちに囲まれて歩かされてくる。

 

「お前がメガトロン様の後継だと? 最低の方法で金を稼ぐだけのお前が? 馬鹿を言うのも打ち止めにしておけ」

 

 バリケードは鋭くも爛々と燃え滾る眼を、足蹴にされている秘密結社首領に向ける。

 

「だいたい、貴様なんぞにあの方のなにが分かる」

「貴様には分かると言うのか、一兵士の分際で……!」

「ああ分からんさ。俺如きにあの方は理解出来んよ……しかし、誰よりもあの方のことを理解している女を知っている。誰よりもあの方を愛し、あの方に愛されている女をな」

 

 アフィモウジャスの傍までやってきたバリケードはそこで後ろのディセプティコンたちの方に振り向いた。

 彼はいつもとまったく違っていた。本気で怒り狂っていた。

 

「そいつが言うにはだ。メガトロン様だって嫉妬に焦がれていた! 自分のしてきたことを後悔もしていた! 何よりも孤独だった!!」

 

 ディセプティコンたちは顔を見合わせ、特にニトロ・ゼウスは不愉快そうに何か言おうとしたが、クロスヘアーズに銃を突きつけられて黙らさられた。

 

「……俺だってそんなこと考えたことも無かったよ。だがそんな俺でも分かることくらいあるぞ! メガトロン様の最も偉大な所はな、愛する者のために戦いを止めることを決意なさったことだ……家族のためにな!!」

「家族だと……!! そんな、そんなつまらない物のために、覇道を捨てたことがメガトロンの偉大さだと言うのか!!」

 

 アフィモウジャスは地面を拳で叩き、怒声を上げた。そんなことは認められないという声だった。

 ニトロ・ゼウスやモホークらもそれに同調して頷いていた。

 

「家族! 家族!! ハッ、そんな連中は優れた者に集る寄生虫よ! どいつもこいつも金を毟り取ることしか頭にない!! 親とて勝手なもんだ! 愛してるとか言って、結局は子供に迷惑をかける!!」

 

 酷く実感の籠った声に、ホット・ロッドは戦いの前に覚えた違和感をまた覚えた。

 やはり、こんな言い回しを聞いた。確かあれは音楽の街ユーリズマで……。

 

「まさか、そんな……」

 

 自分の中に芽生えた考えが信じられず、ホット・ロッドは頭を振った。ステマックスは苦し気に黙り込んでいた。

 ガルヴァトロンは目を細めると、アフィモウジャスを蹴って仰向けにさせてキャノン砲を向けた。

 

「……その鎧を開け、でなければ中身諸共吹き飛ばす」

 

 砲口にエネルギーが溜まっていく。

 その破壊力はアフィモウジャスのエクソスーツを『中身』ごと粉砕するには余りあるだろう。

 

 ややあって、白い鎧の、胸から上部分の装甲が車のボンネットのように開いた。

 

「それがお前の正体か」

「やはり……君は!」

 

 アフィモウジャスの正体に、ガルヴァトロンとホット・ロッドがそれぞれ声を上げる。

 果たして、エクススーツを動かすコードや機器に埋もれるようにして収まっていたのは……。

 

『そんな……!』

『子供じゃないか!!』

 

 頑強で刺々しい鎧を動かしていたのは、まだ幼さの残る、少年だった。

 白い服を着て、病弱そうな白い肌に金髪と線の細い面立ちが貴族的な印象を受けるが、目だけはギラギラと年齢不相応に光っていた。

 

 ユーリズマやダロスとホット・ロッドと会話した、あの少年だ。

 

「こんな子供が、これだけのことをしでかすとは……」

「ふん! そうやって儂を子供扱いした奴は、皆後悔させてやったわ!!」

 

 感嘆しているとも、悲しんでいるとも付かない顔のガルヴァトロンに、アフィモウジャスことアイフ・モージャスは中性的な声を上げる。

 アイフにとって、この弱々しく貧相な己の姿は強いコンプレックスだった。だからこそ、強く大きな鎧に身を包んでいたのだ。

 鎧から這い出したアフィモウジャスは立ち上がろうとするが、痛みから体をふらつかせる。

 

「将軍!」

 

 ステマックスはトランステクターから分離すると、目にも止まらぬ速さで主君を支える。

 忠臣に庇われながら、アイフはそれでもガルヴァトロンをねめつけた。

 

「ガルヴァトロン……」

「殺すな、とでも言いたげだな。ホット・ロッド」

 

 諫めるような声のオートボット隊長に、ディセプティコン指揮官は冷たい声で返した。

 

「ガルヴァトロン殿、アイフはまだ若い身で御座る! どうか御慈悲を……アイフだけはお助けくだされ!」

「今更、許しを請える身か」

 

 ステマックスは地べたに土下座して懇願するが、バリケードが冷徹に吐き捨てた。

 しかし、すでにガルヴァトロンは砲を降ろし殺気を消していた。

 

「はん! 相手が子供だと分かってやる気が失せたであるか、この腰抜けめ!!」

 

 そんな彼を、両腕をディセプティコンに捕まれたオンスロートが侮蔑した。

 視線を向けられても、攻撃参謀は怯むことはない。

 

「貴様を貶め、金のために世界を裏切るような奴だ。子供と言えど生かしておけば必ず同じことをするぞ!! 我輩とて、何度でも貴様に逆らう! ……禍根を立つ方法は、分かっているはず」

「貴様、少し黙っていろ!!」

 

 バリケードはそんなオンスロートの顔に鉄拳を打ち込むが、言葉を止めることは出来なかった。

 

「軍団には、規律が必要だ! ディセプティコンにそれを齎すのは力と恐怖だけだ! ……貴様の父親は、そうしてきたぞ」

『オンスロート?』

 

 必死さすら感じられる声を、マジェコンヌは訝しく思った。これではまるで、罰せられるのを求めているようではないか。

 

「メガトロンは力で我らを統べていた! これは揺るぎない事実だ!! 貴様も、本当にあの方の息子だと言うならそうするがいい!!」

「お前、まさか……最初からそのつもりで?」

 

 ここに至って、ホット・ロッドは攻撃参謀の真の狙いに当たりが付いた。

 思えば、ニトロ・ゼウスらに根回しもせずに反乱を起こした時点で可笑しかった。

 彼らを合体パーツとして取り込んだのも、責任を自分一人に集約するためではなかろうか。

 

 オンスロートは鼻を鳴らした。

 

「ふん! 火口に落ちて、あのまま死んでいたなら、それまでの男だったというだけの話……だったのだがな」

 

 攻撃参謀の赤い眼は、ガルヴァトロンを真っすぐに見ていた。彼にはその姿が、かつて忠誠を誓った破壊大帝に重なって見えていた。

 

 幼体の育成施設を襲撃したあの日、オンスロートは自分の喉元に食いつく幼体の中に王足る覇気を感じ取った。

 そしてフェミニアでの一件を経て、どうせ平和の世に置き場のない身、最後は新たな帝王の贄となるのも一興と、そう考えるようになった。

 

 だが、この男が余りにリーダーとしての適性に欠けていたのも事実だ。

 野心も、気概も、何より冷酷さも足りない。

 

 地球人に対してこそ狂気染みた憎悪を見せるが、それすらもこの甘ちゃんはいつか失ってしまうかもしれない。そんな予感がした。

 

 それではいけないのだ。

 

「ディセプティコンの王には……恐怖を持って部下を統べ、時に切り捨てる冷酷さが必要なのだ!!」

 

 その非情の精神を身に着ければ、ガルヴァトロンは必ずや復讐を成し遂げ、いずれ足るや世界を支配する王にすら成れるだろう。

 

「だから、()()。そいつでもいい、我輩でもいい! 誰か一人を見せしめにすることで、軍団を締め上げろ!! それがメガトロン()のやり方だ!!」

 

 自らを贄にして甘さを捨てさせ、ガルヴァトロンを一人前の王にする……それはオンスロートの独善的なエゴではあるが、同時にディセプティコン流の献身の形だった。

 

「ガルヴァトロン……止めろ!」

 

 無言でキャノン砲にエネルギーを溜めていくのを見止めたホット・ロッドは、レーザーライフルをさっきまで共闘していた相手に向けた。

 確かにアフィモウジャスのやったことは、子供だからと許せる範囲を超えている。だがここで殺してしまったら、ガルヴァトロンは()()()()()()

 本当に、本物の鬼になってしまう。そう思うのだ。

 

 いやそれ以上に、ホット・ロッドの胸の奥の何かが、それが()()()()()()()()()と告げている。

 

「ガルヴァトロン殿、なにとぞ、なにとぞお情けを……!! 拙者の首でよければいくらでも……」

「止めろ、ステマックス」

 

 地面に額を擦り付けるステマックスだったが、当のアイフはそんな忠臣を制し、ガルヴァトロンを見上げた。敗北してなお、この少年の目は鋭かった。

 

「儂の親は愚かだった。お人好しで、先祖から受け継いだ使命……エニグマの守護を愚直に実行する、そんな奴らだった」

 

 急に己の親を罵りだした彼を、ガルヴァトロンは止めなかった。

 

「叔父に付け込まれて財産と家督を奪われても、恨み言一つ言わんような奴らだった……その結果が食うや食わずの貧乏暮らし。挙句に病気でアッサリとくだばってしまった。儂に残された物と言えば、連中が後生大事にしていたエニグマと、いかれたニンジャ執事にペット三匹くらいだ」

 

 堪えきれない怒りと嫉妬を込めて、貧しい暮らしで募った怨念を込めて、少年は巨人に吼える。

 

「お人好しは、無残に死ぬしかないのだ。この世には理不尽を押し付ける者と、押し付けられる者しかおらん。だから儂は、押し付ける側になると決めたのだ」

 

 そんな人生の中で、ある日ふとテレビに映った破壊大帝の姿に、アイフは強く憧れた。

 あるいはそれは、メガトロンに理想の父親像を見たからかもしれない。何より強く、賢く、そして自分を置いて死んだりしない……。

 

「だが儂は敗れた……よかろう。儂もまた理不尽に潰される、蟻の一匹に過ぎなったのだろうよ」

 

 せめて潔く散ろうと言うのか。アイフは堂々とした態度で立っていた。

 しかし、恐怖で足が震えているのは隠せていなかった。

 

「しかし、このステマックスのことは助けてほしい。見て通り役に立つ男だ」

「だ、駄目で御座る! ガルヴァトロン殿、どうか殺すなら拙者だけを……!」

 

 お互いに庇い合う主従を見て、ガルヴァトロンは顎に手を当て少し考える素振りを見せた。

 この時、ガルヴァトロンの脳裏には奇妙な声が聞こえていた。

 甘く囁くような、ゾッとするほど優しく、しかしこの世の全てを嘲り嗤うような、そんな声だ。

 

(いいじゃないか。いっそ二人纏めて殺してしまえば……オンスロートの言う通り、この子供は全く懲りることなんてないよ。ここで彼らを始末して容赦の無さをアピールする方が、ずっと理に適っている……君が憧れる父親なら、きっとそうする)

 

 明らかに異常なその声に、ガルヴァトロンはまったく疑問を抱かなかった。

 確かにオンスロートや声の言うことはもっともらしく聞こえ、一瞬それに従うのも良しと思えた。

 

『ガルヴァトロン……』

 

 だが、マジェコンヌの制止するでも咎めるでもない声が彼を止めた。

 そして、ワイゲンド卿がジッとこちらを見ていることに気が付いた。

 ガルヴァトロンは大きく排気すると、アイフたちを一瞥した。

 

「……貴様らの命までは取らん。が、捨て置くことも出来んので拘束させてもらう」

 

 その言葉を受けて、バリケードはアイフとステマックスを両手で潰さないように握り持ち上げる。少年はムッツリとした顔だったが、忍者の方はホウッと息を吐いた。

 それを見たガルヴァトロンは振り返って部下と同盟者たちに号令をかける。

 

「さあ、いつまでもこんな所にいてもしょうがない! 一度ダロスに戻るぞ!!」

「何という甘さだ。やはり見込み違いか……」

 

 その判断に、当然の如くオンスロートは反発し失望した様子を見せた。

 ガルヴァトロンは、しかし怒るでも呆れるでもなく真っすぐに攻撃参謀の目を見た。

 

「これが俺のやり方だ、文句は言わせん」

「……メガトロンなら、殺していた」

「そうだな。だが俺はメガトロンではないのだ……貴様も言っていただろう? メガトロンの尻尾でいいのか、と」

「ッ!」

 

 オンスロートは眼前の相手の目に、今までとは違う光が宿っていることに気が付いた。

 これまで多くのディセプティコンにあった光だ。

 

 例えば、スタースクリームの。

 例えば、ブリッツウィングの。

 そして、メガトロンの。

 

 ……剥き出しの野心が齎す光だ。

 

  *  *  *

 

『ふむ、なるほど。そ奴らが外敵を引き入れていたと』

 

 もう一度ホット・ロッドにポータルを開いてもらってダロスに戻ると、立体映像のマーリンが待ち構えていた。

 外敵の襲撃時にも姿を見せず、その後に場を治めるでもなかったにも関わらず、今頃ノコノコと出てきた老魔法使いに対し、オートボットもディセプティコンも良い顔は出来なかった。

 

『では、そ奴らは儂が預かろう。色々と聞きたいことがあるからな』

「こちらも聞きたいことがある」

 

 街の中央広場で、まだ合体形態のガルヴァトロンはマーリンに対して質問をぶつけた。

 脇には、回収した彼のエクスカリバーを抱えてバリケードが控えていた。

 さらに周囲にはディセプティコンたちに加え、ワイゲンド卿以下同盟諸侯も集まっている。

 大規模なポータルを開いたため疲れている様子のホット・ロッドは仲間たちと共に広場の隅で、事の成り行きを見守っている。

 

『なんだ?』

「確かに()()()アフィモウジャスたちが地球人を呼び寄せた。だが、その前は?」

 

 外敵の襲来は、ブリテンの有史以来何度となく繰り返されてきた。

 だが少し考えれば、それは不自然なのだ。

 

「地球人どもにスペースブリッジを開く技術はない……あったら、こんなまどろっこしい真似はしない。ならば必然的にこちら側の誰かが、奴らを招き入れたことになる」

『ふむ……それは、問題だな』

「俺が思うに……そして我が参謀、オンスロートが言うにはだ。その誰かはブリテンを今の状態に止めて置きたい者たちなのだろうな」

「外に分かりやすい『敵』を用意し、内側の結束を強め、緊張感を与える。ままある手だ」

 

 顎髭を撫でるマーリンをガルヴァトロンが睨むと、その後ろに立つオンスロートが言葉を継ぐ。

 彼はあれほどの叛逆劇を演じたにも関わらず、拘束されていなかった。後ろのブリッツウィングたちが拘束具を着けられているのは対照的だ。

 

「それは脅威から国を守る者の権威を高めることにも繋がるし、民衆の怒りの矛先を逸らす相手としても機能する。『税金が上がって生活が苦しいのも外敵に対抗するためだ、仕方ない』という具合にな……」

 

 この言葉に、周囲に集まっていたジャールと同盟を結んでいる諸侯は動揺し……そしてミリオンアーサーは唇を強く噛みしめていた。

 スッと、マーリンの目が細くなった。

 感情の読めない老魔法使いの顔に、僅かに……ほんの僅かに浮かんだ色は困惑か、それとも焦りか。

 

『中々に面白い推論だな。貴殿らには空想作家の才がありそうだ。……しかしキャメロットを侮辱するのは止めてもらおう』

「おや、俺たちはキャメロットが外敵を引き入れているなどとは一言も言っていないぞ」

『図に乗るのも大概にしておけ』

 

 挑発するような態度の金属の戦士に、マーリンは僅かに眉を吊り上げて不愉快そうに口を開いた。

 

『もういい、遣いの者を出す。その小僧どもをこちらに引き渡せ』

「ああ、その話ならば……答えはNOだ。こいつらは俺の預かりとさせてもらう」

『貴様……!』

 

 嘲笑するように放たれた答えに、ついに老魔法使いは苛立ちを露わにする。

 

『あまり舐めるなよ、鉄騎アーサー……! 貴様のブリテンでの立場は、エクスカリバーを抜いた王候補であるが故のもの! この場でその資格、剥奪しても良いのだぞ!』

 

 王候補としての地位を失えば、ガルヴァトロンはブリテンでの立場を失う。

 キャメロットから支援を受けられなくなるし、騎士であるレギオンを指揮することも出来なくなる。

 それは彼の破滅に直結しかねない。

 

「そちらこそ、俺を舐めるな。貴様の寄越す錆の浮いた権威を、いつまでも有難がっているとでも思ったか」

 

 しかし、ガルヴァトロンは地獄から響くが如き重低音で返した。

 その迫力に、威圧感に、マーリンともあろう者が僅かな間、言葉を失ってしまった。

 するとそれを待っていたかのようにバリケードが恭しくエクスカリバーを、王権を示す剣を彼の主君に差し出した。

 

「ブリテンの民よ、ディセプティコンよ、聞け!」

 

 剣を受け取ったガルヴァトロンは、その柄と刀身を握ると、そのまま大怪力を込めた。

 普通の剣であればそのままボッキリと折れてしまう所、エクスカリバーは凄まじい頑丈さ故に持ち主の怪力に耐えていた。

 

「俺はアーサーに非じ! たかが剣なんぞに我が器、計られてなるものか! こんな物がなくとも、俺はこのブリテンを護ってみせる!!」

 

 しかし、ガルヴァトロンは全身から稲妻と炎を噴き出し、それを腕に伝播させて聖剣にさらなる負荷をかける。

 

「俺はメガトロンに非じ! 俺は孤高の王にはならない! この地に王道楽土を築くために、皆の力を貸してほしい!!」

 

 それは、以前の演説とは違う、もっと心の奥底からの叫びだった。

 計算も何もなく、故にこそ心を打つ声だった。

 父を神聖視し、何処か虚無に染まっていた今までとは違う、()()()()()()()()()という決意が込められた声だった。

 真っ赤に赤熱し、ミシミシと音を立てていた剣は、やがて限界を迎えて……小気味いい音を立てて、真っ二つにへし折れた。

 

「……俺はガルヴァトロン! ()()()()()()()()()()()()だあぁぁッッ!!」

 

 天を轟かすような大咆哮を上げたガルヴァトロンは、もはや用済みとなった剣の残骸を投げ捨てた。

 シンと辺りが静まり返るなか、折れた剣は人間サイズにまで戻り輝きを失った。

 それは正しく、キャメロットとの決別、アーサー王伝説との決別を意味していた。

 

『なんということを……!』

 

 呆気に取られていたマーリンだが、さすがと言うべきかすぐに正気を取り戻した。

 

『だがこれで貴様は唯の野良トランスフォーマーよ! もはや貴様に従う者などブリテンにいないと知れ!!』

「私は従うぞ!!」

 

 老魔法使いの声を遮ったのは、ジャール領主『黒冠の』ワイゲンド卿だった。

 黒衣の騎士は、胸に拳を当てる。

 

「我がジャールはガルヴァトロン殿に忠誠を誓う! これまでと変わりなくな!!」

 

 彼の忠誠と友情は、大昔の王でもメガトロン何某でもなく、この若き破壊大帝にこそ向けられていた。

 それは彼に助けられたこと以上に、彼の人柄を好いているからだった。

 すまない……かつてジャールを野良アーサーたちから救ったとき、ワイゲンドと対面したガルヴァトロンの第一声がそれだった。

 傷ついた民を見て、ガルヴァトロンはもっと早く自分が来ていればと涙を流して悔いた。そしてジャール復興のために力を尽くしたのだ。

 

 ガルヴァトロンもまた、危険を冒してまで助けにきてくれた彼らのために、より良い国を造りたいという理想を抱いた。

 

「……何よりマーリンよ、私は貴様が好かん」

『ワイゲンド、貴様……!』

「私もだ!」

「我が領もガルヴァトロン殿に従おう!」

 

 他の領主たちも、ガルヴァトロンに従う旨を表明する。

 彼らはワイゲンドほど強く彼に惹かれているワケではないがキャメロットへの反感や、単純な自己利益への欲求など、それぞれの思惑から同盟を放棄しないことにしていた。

 

『だが、エクスカリバーなくして騎士を操ることは……』

 

 マーリンは、それでも相手にイニシアティブを取ろうとするが、ガルヴァトロンが腕を振るうとレギオンたちが跪くのを見て言葉を失う。

 はなからマーリンを信用していなかったマジェコンヌは、自分が魔術でモンスターを生み出しまた操る技を応用して、騎士をコントロールすることに成功していた。

 

「……と、言うワケだ。失せろ、魔法使い。もはや貴様の出る幕は無い」

『…………』

 

 何も言わず、マーリンの映像は消えた。

 その時、示し合わせたワケでもなく、バリケードが声を張り上げた。

 

「祝え! ブリテンの支配者にして新たなる破壊大帝、ガルヴァトロンの誕生である! ……オールヘイル・ガルヴァトロン!!」

「オールヘイル・ガルヴァトロン!」

「オールヘイル・ガルヴァトロン!」

『オールヘイル・ガルヴァトロン!! オールヘイル・ガルヴァトロン!!』

 

 人間も、ディセプティコンも、拳を突き上げ熱狂を持って若きリーダーを称える。ダロスの住人たちも、いつしかその輪に加わっていた。

 困ったのがニトロ・ゼウスら四人である。彼らは互いに顔を見合わせ、どうしていいか分からないようだった。

 

「く、くくく。くくくく!」

 

 他方、オンスロートは堪えきれないとばかりに笑いを漏らした。

 

 情や甘さを捨てることなく、それでも覇道を目指す。

 それは矛盾を孕んだ、最初から破綻した道だ。ディセプティコンとしては邪道極まる、メガトロンとは違う道だ。最高にイカレている。

 

 だからこそ、面白い。

 久方ぶりにスパークが燃えるのを感じる。

 

「皆の力を貸してほしい、か。いいだろう、この攻撃参謀オンスロート、貴様に足りぬ『非情』を請け負ってやろうではないか」

「頼む。信頼はせんが、戦術家として信用はしている」

 

 ガルヴァトロンは短く、攻撃参謀の言葉に応じた。

 もとより、自分に冷酷さが足りないことは良く分かっていた。こういう相手を使いこなせてこその王であろう。

 

「うん。ま、及第点ってとこだな」

 

 と、その身体からアーマーが分離して、ドラゴンの姿に結集したかと思うと、マジェコンヌの姿に戻る。

 マジェコンヌは首を回したり腕を伸ばしたりして体の調子を確かめる。

 彼女なりに、この若者が野望を抱いたことが嬉しいのだということが、顔つきから分かった。

 

「しかし……なんたって急に破壊大帝を名乗る気になった? あれだけ、そんな気はないと言っておいて」

「…………」

「ま、言いたくないならいいさ。それより、うずめたちと話しに行こう」

「ああ」

 

 マジェコンヌはホット・ロッドやうずめが控えている方に向けて歩き出す。

 いい機会だからと一回腹を割って話し合うことにしたのだ。さて鬼が出るか蛇が出るか……。

 

 颯爽と歩く彼女の背を見ながら、ガルヴァトロンは思う。自分が父と道を違える決心をしたのは彼女のためだと。

 

 合体している時、ガルヴァトロンは彼女の記憶を断片的に見た。

 橙の女神のために奔走する日々。

 ネズミと共に女神打倒に掛ける日々。

 眼帯の少女と共に畑を耕す日々。

 

 そして、メガトロンに一人の女性として惹かれていた部分。

 

 それを知った時、ガルヴァトロンは生まれて初めて父に激しい嫉妬を感じた。

 最初はそれを恥じ、自らを律しようとしたが、どうしても父への怒りを抑えることが出来なかった。

 

 男子は父に反抗することが、大人になるための一種の通過儀礼だと言う。

 ならば、父への反抗心もその機会も永遠に奪われていた彼は、今ようやっとそれらを得ることが出来たのだ。

 

 もとより、この事は誰にも言わない気だが。

 

 歴史を変えた後、自分がどうなるかは分からない。

 それでも、この世界に、マジェコンヌの心に、自分という存在を強く刻みつけたいという欲求が今のガルヴァトロンにはあるのだった。

 

 




以下、どうでもいい一人語り。

何つうか、G1からこっちオプティマスとメガトロンは最初から英雄で確固足る理想や野望があって、それがキャラに深みを与えていたけれど、ロディマスとガルヴァトロンは何処まで言っても『偶然にリーダーなった一オートボット』『メガトロンの強化(実質的に劣化)再生体』でしかないワケで。

事実、2010に置いてロディマスにオートボットの一人としてではなく個人としての理想は薄く、ガルバトロンにメガトロンを超える野望を持ち得るはずもなく、二人の間に深い因縁はなく真にライバルになることもありませんでした。
そして2010最終回において復活したオプティマスと『メガトロンに戻ったかのような』ガルバトロンが握手をして物語は一旦幕を引きます。

つまり今作は二次創作でくらいロディマスとガルヴァトロンが『オプティマスの代打』『メガトロンの尻尾』という立場を脱却すべく『理想』や『野望』そして『英雄性』を得ていく話になればいいなあと。
君が選ぶ君のヒーロー、ならば作者の選んだヒーローは思い出深きロディマスなので。

しかし最近、本格的にスランプだ……。
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