ーーー病院、ちひろsideーーー
…戦いは、終わった。
私が病院に搬送されてたから、そうなんだろう。
…なのに。
神官A「改めて聞こう。貴様は誰だ。なぜ勇者システムを、それも大赦の知らないものを持っている。今すぐ出せ。」
ちひろ「誰も何も…上里ちひろですよ!上里家の!!上里月夜と、上里和斗の娘の!!」
神官B「はぁ…どうせつく嘘ならもう少しマシなものにするべきだったな。」
ちひろ「嘘って…ここまで確固たる証拠他にないじゃないですか!なんでこれで嘘だなんて…」
言い返せない。せるはずがない。
…その、はずなのに。
神官C「いないからだ。」
ちひろ「…え?」
神官C「上里家に、そんな名前の子供はいない。
…いや、そもそも上里家に子供はいない。」
わけが、わからなかった。
ちひろ「は、はは…何を言ってるんですか…さすがに寝起きドッキリはひどいですよ…?」
神官A「…応じる様子はなし、か。なら…力づくで━━━━━━━━━━━━━━━」
実力行使、それに移行する気配を感じた瞬間に胸からスマホを取り出す。
神官B「なっ…そんな場所に!?」
(生まれて初めて感謝したかも!!)
神官C「使われる前に取り押さえろ!!」
ちひろ「もう遅いです!!」
変身、そしてソードビットをそれぞれにスレスレで押し付けて動きを止める。
神官『っ…!』
ちひろ「…よっぽどの時以外は信念を貫け、そうお父さんが言ってました…
…答えてください。満開の代償、あの結界の外の炎、そして須美さんと園姉の場所を!!」
神官A「結界外のことまで知ってるだと…!?いよいよなにもn「早く!!」…答える理由がない。貴様が味方だろうと敵だろうと、私たちを殺せば犯罪者だからな…この胸に突きつけられてるものは脅しにならないぞ。」
(…賢い…!命に関わる寸止めなら、多くは動揺させられる…父さんがそう言ってたのに…!こうなったら直接証拠を…)
スマホの画面を切り替えて、写真を見せようと…
ちひろ「…え?なんで!?」
…消えていた。
どの写真からも、私だけがすっぽりと。
(…ならいつでも見せれるように挟んである身分証明書を…!!)
白紙。
ちひろ「…な…んで…」
ありえない。ありえて、なるものか。
神官B「現実逃避は終わりか?いくら本物のような演技をしても、証拠がなければ信じるに値しない。無駄な抵抗はもうやめることだな。」
(…おかしいよ…なんで…?私たち…ずっと…みんなのために頑張って…なのに…!!)
心を絶望が、支配していく。
(…いっそ、もう捕まった方が楽なんじゃないかな…勇者システムを持ってた人間だ…殺されるはずがないし大赦中に知れ渡るから母さん達がきっと気づく…)
…変身をとく。
神官C「…!捕らえろ!!」
そしてそのまま神官達に取り押さえ…
…トサッ
ちひろ「…ぁ。」
髪を結んでいた、リボンが落ちた。結び目が緩くなってたらしい。
そして、そこには。
『上里ちひろを、初代巫女上里ひなたの名と、私上里月夜の名において認めます。』
代々受け継がれるリボン、その継承の証がハッキリと、残されていた。
神官A「…っ!!止まれ!これは…!!」
ちひろ「…私なんかよりあなた方の方がよくわかるんじゃないですか?これが、上里家の帯…リボン?どっちなのか分からないけど、そういうものだって。初めての勇者適正持ちだった私は、初代の人のをお母さんから直接受け継いだんですし。」
神官B「…偽物の可能性は…?」
神官A「ない。月夜様とは小学生の頃から同級生だった。これは間違いなく本物だ。」
神官C「…つまり…」
神官A「…彼女の言ってることは真実、ということだ。」
ザッ
神官様が一斉に礼をする。
神官A「先程までの無礼、大変申し訳ありませんでした。こちらも現在大変に忙しく、人手が足りない。詳細が分かるまで少し時間がかかること、どうかご許し願いたい。」
ちひろ「わかってくれたなら、いいんです…あとは、質問にも…」
神官A「…了解しました。まず━━━━━」
そして全てを知った私の心には、音を立てて、ヒビが入った。
ーーー上里家ーーー
ちひろ「…」プルルル
楓『もしもし。』
ちひろ「…もしもし…」
楓『…どちら様でしょうか?ご要件は。あ、父どもは出かけてるので伝えたいことなら代わりに。』
ちひろ「…いえ、なんでも、ないです。」ガチャ
…心が。
プルルル…
お手伝い『はい。こちら伊予島です。』
ちひろ「…天音さんって、いらっしゃいます?」
お手伝い『はい。今変わりますね。』
天音『お電話変わりました、天音です。』
ちひろ「…ど、うも…」
天音『はい、どうも。それで、ご要件は…』
割れて。
ここな『もしもしー?誰ですか?』
ちひろ「えーっと…」
ここな『うん。』
ちひろ「…上里の者なんですけど…」
ここな『上里!?それならちょっとこっちも頼みたいことあるんですけど!』
砕ける。
数年とはいえ、ずっと一緒に過ごし、将来仲良くすることを誓ったはず…それなのに。
ヒビが…絶望のヒビが、広がる。
和斗「…クソが!!!」
バキッ!!
机が音を立てて地面につくほどまでに凹む。
和斗「考えてみればおかしかった…なんで勇者のいないうちにわざわざ許可を取りに来たのか…そんな不自然な点にすら、気づけなかった…!!」
月夜「ちひろは…頑張ってたはずなのに…私は…そんなことも忘れて…まるでいなかったように…!!たとえどれだけの人が忘れようと、親である私だけは覚えてなきゃいけなかった…なのに…!!」
…哀れんでもらえたら、少しは救われるかもしれないなんて、幻想を抱いた。
しかし現実は、残酷で…傷は癒されるどころか、さらに深く、広く心を蝕んだ。
ーーー大赦深部ーーー
神官「この奥にお進みになられますと、乃木園子様のいらっしゃる部屋です。」
ちひろ「はい…ありがとう、ございます…」
…その目に、生気はなかった。
これでもかというほどの真実に打ちのめされ、今にも崩壊しそうな心。
それをつなぎとめるためにはもう、微かに残る希望に、縋るしかなかった。
たとえ、その人がどんな姿になってるかを、知ることになったとしても…
それしか、もうなかった。
…ガチャ
扉を開ける。
(…ひどい…)
…全身に包帯が巻かれ、私が来たのを確認しても顔くらいしか動くことができていない。
…私が倒れたあとに、20回もの満開を繰り返したせいだと聞いた。
そして、そのせいで崇められてるということも。
(…私たちは…みんなを守るために…なのにその仕打ちが…これなの…?)
本来の目的を達成する前から、心が壊れかける。
(…ダメだ…まだ動けるだけ私はマシ…園姉よりは…!)
無理やり、自信を鼓舞する。
しかし、そんなボロボロの鼓舞は。
園子「神官さんの…お子さんかな?初めまして〜乃木園子って言います。」
わずかな希望と、崩壊寸前の心ごと粉砕された。
ーーー???sideーーー
『…なんと、愚かなものだろうか。世界を救った者が…ただ、友と過ごしたいと願ったものがこんな結末とは…
1人は唯一命を落とし、概念的に孤独となった。
1人は記憶…否、人格を喪失、事実的に孤独となった。
1人は身体中のほとんどの機能を失い、崇められ、社会的に孤独となった。
…そして、1人はこの世の全てから忘れられ、自身の歩んできた道を失い、精神的に孤独となった。
…ああ、
英雄とは、なんと、孤独なものだろうか。』
鷲尾須美の章、完