ーーーちひろsideーーー
私たちは1ヶ月半ぶりに樹海に来ていた。
理由は単純。
バーテックスが来たからだ。
(山羊座…スクリューアタックが来るとまずいな…)
「久々で戦い方わすれてないかな?牛鬼出ておいで!」
「友奈さんこれですこれ。」
「いや、もう出て来てるし…あ、ウサピョンもウリもはしゃがない!」
「本当にちひろちゃんの精霊元気だよね〜。私の木霊も朝起こしてくれたらいいのに…」
(いやそれ元気と関係ないんじゃないかな?うん。)
「成せば大抵なんとかなる!ビシッとやるわよ!」
「狙撃体勢に入ります」
部の五箇条のうち一つを語る、さっきまでよだれを垂らして寝ていた風さんと、淡々と戦闘準備に入るスナイパー東郷さん。
(なんというか…)
「さっきまでよだれ垂らしてたのによくそんなこと言えますね、風さん。」
「グサッ!」
「東郷さんの方がカッコいいですね。」
「グサグサッ!」
「ちひろちゃーん、やめてー、お姉ちゃんが死んじゃーう!」
「ああ、樹、なんて優しい「これじゃ風さんより東郷さんの方が部長にピッタシデスネー。」グッサーーーーーーー、チーン…」
「お姉ちゃーーーーん!!」
(ふう、スカッとしたぜ…)
「と今思ったでしょ!」
「ひゃ、ひゃい!?な、な訳ないじゃないですか!?」
「ふふ、甘い甘い!その反応!慌てよう!間違いないわ!あんたはびっくりすると隠し事できなくなるのよ!」
「ふざけるな!」
ゴーン
「エブシ…」
「今のは驚かせたお姉ちゃんが悪いよ…」
はあ、はあ、驚かせやがって…
「前方に敵確認!全員交戦用意を!」
「「「はい!」」」
「それ私が言うとこ…」
だがそのとき…
ボガァン!
山羊座が爆発した。
「今のは…東郷?」
「違います。私じゃありません。」
(東郷さんでなければ…一体誰が…?)
ーーー???sideーーー
(あいつらが勇者?戦闘前にあんな話してるなんて…論外ね!)
刀を投げて山羊座を爆発させる。
「ふっ、ちょろい!」
「なんですか!?あれ!?」
「新しい…勇者…?」
「かっこいいですね!」
これなら…
「私一人で充分ね!」
刀でダメージを与え、すぐさまに封印を開始する。
ベロン
「まさかあの子、一人でやる気!?」
ブシューーーーー
「なにこれ…なんも見えないよ…」
「樹ちゃん落ち着いて!モードシールド!展開!」
(目隠しの霧か…でも!)
「関係ない!わたしいの力、思い知れ!」
(気配を探って…見つけた!)
「そこだ!殲・滅!」
(ふ、やったわ!)
「えーと…誰?」
「…ふん、揃いもそろってぼーっとした顔してるわね。こんなのが神樹様に選ばれた勇者ですって?」
「あの…」
「なによチンチクリン。」
「チン…はぅ。」
(ま、自己紹介くらいはしてあげますか。)
「あたしは三好夏凜。大赦から派遣された完成型勇者よ」
「完成型?」
「つまり、あなたたちは用済みってことよ。お疲れさまでしたー」
「「「「えぇーーーー!?」」」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。」
(ん、なにこのチビ、生意気ね。)
「背、ちっさいですねww」
「ハァイ!?なに言ってんのよあんた!?私の方が背が高いじゃない!同学年で自分より背小さい人に言われたくないわ!」
「いや、私中1ですけど。」
「え?」
(嘘でしょ!?この中だったらかなり冷静そうなこいつが1年生!?)
「私が中2の時には私が当時の夏凜さん抜かすんじゃないですか〜?」
「ぐぬぬ…あんた今度痛い目にあわしてやるわ!」
ビュオオオオ
「あ、逃げるなーー!!」
ーーー樹sideーーー
夏凜さんは私達の戦闘データを元にアップデートされた勇者システムを持っていて、援軍として大赦から派遣された勇者らしいです。
これを知ったのは勇者部部室です。夏凜さんは転校してきたそうなので。
「東郷と友奈のクラスメートなんだって?」
「はい。」
「わざわざ転校生のフリしなきゃなんないから大変だわ。」
「夏凜ちゃんすごいんですよ!試験ほぼ満点で!」
「へえー…てっきりおバカキャラだと思ってました。」
「あんた覚悟はいいかしら?」
「上等!」
「ちひろちゃんのらないで〜!」
「樹ちゃんがそう言うなら。」
「おい!」
(よかった〜最初から仲悪くなっちゃったらあとで大変だと思うし…)
「ていうかなんで上里家の娘がこんなとこにいるのよ!?そしてなんで存在を隠されてんのよ!?」
「?上里家がなんかすごいの?」
私も聞いたことがありません。
「はあ!?風あんた大赦の人間なのにそんなことも知らないの!?上里家は大赦の最高位家の一つよ!?」
「「「「えぇーーー!!!」」」」
ええ!?まさかちひろちゃんが話せないことって…
「どういうことよ!ちひろ!まさか最初から知ってたの!?」
「…」
「ちひろちゃん…私も風先輩の時みたいに言わないから。真実を述べて…」
「…」
「ちひろちゃん…?」
皆さん各々声をかけます。
(私は待とうかな。だってちひろちゃんを信じてるから。)
「…いや特になにも。」
「「「えぇーーー!!!」」」
「じゃ今の間は何よ!?今の間は!?」
「その方が面白いかな〜って。」
「でもやはりあや「なにもないならいいや!ね、東郷さん!」ええ!友奈ちゃん!」
「てか最高位家のことすら知らなかったですもん。めっちゃお金持ちだな〜って思ってたくらいで。」
「え、じゃあなんで自分が隠されてたかについては?」
「さっぱり。」
「えぇー、まあ、私が来たからには完全勝利確定よ!あんたたちトーシロと違ってね!」
(ありがとう、ちひろちゃん、私にはちゃんと伝わったよ。)
『樹ちゃん、私が何か言ったときは大体言い切ったときだから。』
『なんで?ちひろちゃん?』
『例えば「に」とかで終わったときだとあとに続いてるようにも感じれるじゃん。暗号てきな?』
『なるほど!覚えとくね!』
(まだ言えないんだね…でも待ってるから。)
「それで夏凜ちゃん、勇者部入るって言ってくれたんですよ!」
「は!?なな何を言ってるのよ!」
「さっきこう言ってましたね。」
『あんた達を監視しなきゃならないし、入っといてやるわよ!』
「どっちにしても入っちゃった方が早いよ!ね、東郷さん!」
「そうね、友奈ちゃん。」
「樹ちゃんは?」
(うーん、監視とか連携とかを考えると…)
「やっぱり入るべきかと。」
「ワタシモソウオモーウ(棒)」
「なによあんたたち!?どんだけこの部に入れたいの!?」
「まあまあ、落ち着きなさいって。この書類にサインするだけでいいからさ。」
「ってこれ入部届けじゃない!?」
お姉ちゃんも受け入れる気満々みたいです。
「ともかくっ!これからバーテックス討伐は私の指示に従って貰うわよ!いいわね?」
「それはいいけど、事情はどうあれ学校にいる以上、上級生の言葉には従って貰うわよ…正体を隠すのも任務のうちでしょ?」
「しょうがないわね。残りのバーテックスを殲滅するだけの短い期間だもの。我慢するとしましょう。」
「え、マジで?じゃあ夏凜飲み物買ってきて。オレンジジュース。」
「んなっ!?じゃあってなによじゃあって!?」
「パシりに使えるのは先輩特権じゃないの?」
「そんなわけないでしょ!?」
(お姉ちゃん早速からかってるよ…自分はちひろちゃんにちょくちょくからかわれてるのに…)
「ともかく!ともかくよ!?私の足引っ張るんじゃないのよ!」
そう言って夏凜さんは部室から去ってしまいました。
「樹、これからかいすぎたかな?」
「うん、圧倒的に。」
「マジ?ヤバ。」
部室に沈黙が訪れ黙っていると、閉まった筈の部室の扉が少しだけ開かれました。
正体は夏凜さん。
「…バッグ忘れた///」
「ブフッ!」
「何それかわいい!!」
「すみません、かわいいすぎて見られない//」
(ホントにすみません!でもだって…)
「あんたら揃いに揃ってーーー!!!」
「でもあんな去り方してたのに〜?」
「グサッ!」
「決め台詞まで決めてたのに〜?」
「グサグサッ!」
「あんな顔真っ赤にして帰ってきたら〜?」
「グッサーーー!!!」
「かわいいと思われて当然じゃな〜い?」
「ーーーーーっ!!!」
「?はい!バッグ!夏凜ちゃんは元からかわいいよ!」
「/////」
気付かず友奈さんがさらに追い討ちを…
「てかあんたら1年生二人が一番しっかりしてるってどういうことよ!?」
「あ、話逸らした〜!」
「うっさい!いいから答えなさい!」
「「「一番しっかりしてるの東郷(さん)じゃね(じゃないですか)??」」」
「東郷さんもしっかりしてると思う!」
「もう…友奈ちゃん…みんなも…///」
「いや私知ってるからね!?東郷は友奈に甘いでしょーが!!」
「そうかな?私朝弱いから起こしにきてくれたりはしてくれてるけど。」
「それが甘いっつってるのよ!」
「それに!私の精霊、義輝は喋れるのよ!」
「諸行無常。」
「あ、このままいるんだ。」
「精霊だったら東郷さん3体いるよね!」
「えっ?」
「ええ、そうよ、友奈ちゃん!」
(あれ、そういえば…)
「ちひろちゃんは6体だよね、確か。」
「うん、あと賢いし。」
「…はぁああ!?」
「ということで残念でした〜!」
(あ、これ獲物を見つけた目だ、夏凜さんすみません…こうなったらもう止まらないからなぁ、ちひろちゃん…)
ーーーちひろsideーーー
(あー、さっきまじで危なかった。樹ちゃんに真意が伝わってるといいけど…さっきから黒板になんか書いてるけどあれ何?バーテックス?風さんよりはマシか。てか煮干しくわえてるな〜。煮干し、煮干し、煮干し…)
「「にぼっしーね。」」
「はぁ!?」
「「あ、息あった(あいました)ね。」」
「てかさっさと説明しなさいよ、にぼっしー。」
「にぼっしー言うな!あんたらがたるんでるから注意をまとめてあげたの!」
「ワーヤサシイデスネー。」
「バーテックスの出現は周期的なものだと考えられてたけど…相当乱れてる。1か月前には3体現れたし、相当な異常事態よ。」
(いや、2年前もあの3体セットで来たから一回勇者倒してるから味しめたんでしょ。双子座は…全然貢献してなかったから解雇されたんじゃね?てかスルーしやがったな!ちくしょう!)
「気をつけないと…死ぬわよ。」
(…死なないんだけどね…勇者である限り。)
「あと、戦闘経験値を積むことで、勇者としてレベルアップして強くなる。これを『満開』というわ。」
ピクッ
「?ちひろちゃん?」
「ん?なんか変なことした?私。」
「いや、気のせいかな。」
(大赦…何がレベルアップだ。ただ生贄に近づくだけのくせに。)
「『満開』を繰り返すことで、勇者はより強くなる。これが大赦の勇者システムよ。」
(あ、でも精霊が増えて攻撃の手段が増えるからパワーアップっていい方は間違ってないか。
問題はそのあとの代償…散華を大赦が隠してることだけど。)
「ところで夏凜さんは満開経験者何ですか?」
「う...まだ。」
「なーんだ。夏凜もあたし達と同じなんじゃない。」
「あ、あんたたちとは基礎経験値が違うのよ!」
「じゃあ私達も運動部みたいに朝練しようか!」
「友奈ちゃん朝起きられないでしょ。」
「あははー…、ごめんなさい…」
パンッ
「はい。じゃあ次は週末の子供会の手伝い、なにやるか決めるわよー。」
「この前折り紙教室やろうって決めたよお姉ちゃん...」
「あれ?そうだったっけ?」
「皆まで言わなくていいよ樹ちゃん、風さんはもう長くないから。」
「ちょっとーーー!?」
(うーん、これは…)
「夏凜さんと風さん、どちらの方がイジりがいがあるか悩ましい…」ボソッ
「それ今考えることじゃないよ…ちひろちゃん…」ボソッ
勇者部の活動で三番目くらいに入る内容が、こうした子供達への催しの手伝いだ。
以前は幼稚園で人形劇をやった。
回数こそ少ないものの、皆に喜んでもらおうと全員の士気は高く、一回一回の思い出が深い。
(それに子供と触れ合うの楽しいしね。)
「こんな非常時によくそんなことやれるわね。」
「夏凜も手伝ってもらうわよ?」
「は?なんで私まで!」
「にぼっしーの入部届けさっき出したもん、私が。」
「なに勝手に出してんのよ!?…ていうかにぼっしー言うな!」
「でも〜書いたのは自身でじゃ〜ん。つまりのちに出すつもりだったからじゃな〜い?
「くっ…」
ーーー夜ーーー
ーーー夏凜sideーーー
「こんな非常時にレクリエーションなんて...」
いつものトレーニングと食事(コンビニ弁当だけど、完全食のにぼしとサプリを食べているから問題ない)と大赦への連絡を済ませ、私は子供会のプリントを眺めていた。
「…はぁ。」
大赦が用意した一人きりの部屋にはトレーニング器具と、一般家庭に揃っていそうな家具一式と所々に赤丸がついているカレンダーと上里ちひろに渡された折り紙入門書だけだ。
「ーっ!!」
二つのことが頭を支配する。
一つはあの友奈の笑顔。
あれを前にすると、言いたいことも言えなくなってしまう。
もう一つはちひろの目。
どこかに悲しみを持ってる感じがするのよね。
隠されてた理由も結局分かんなかったし。
東郷も、風も、樹も_____!
「...ふん!緊張感のないやつら!」
私は全部の思考を振り払うようにして、折り紙作りに集中した。
ーーーちひろsideーーー
私はいつも通り犬吠埼家を訪れていた。
目的は子供会と夏凜についての会議+夕食。
「本受け取ってくれましたし大丈夫でしょう。」
「それなら安心ね。断られたらドッジボールの的でもやらせようかと思ってたわ。」
「「えげつない…」」
「樹はともかくあんたには言われたくないわよ!?」
「そりゃどうもー。」
「まったくもう…、昼すっごいビックリしたんだから…」
「私もですよ。」
「教えないのって優しさ故なのかなんなのか、だね、ちひろちゃん。」
「んー、優しさだと思うけどね。」
(だって忘れてたって知ったとき何か思い出そうと考え続けて12時間、ぶっ倒れたくらいだし。)
「あ、ところでさっきの続きだけど_____。」
(ほほう…)
「なるほど、いいんじゃないですか?」
「私もいいと思うよ、お姉ちゃん。」
「オッケー、友奈と東郷にも伝えておくわ。あ、お風呂沸いたから二人とも入って来なさい。」
「「はーい。」」
ーーーお風呂ーーー
「プハ〜相変わらずいい湯加減だ〜」
「相変わらずって初めてでしょ…」
「ありゃ、そうだっけ?」
「今までは一緒に温泉行ってただけだよ…」
(あら、私としたことが…)
「ところでちひろちゃん、部室のことだけど…」
「あ、あの暗号伝わった?」
「うん、それで勇者のことは…知ってたんだね。」
(やっぱ…鋭いなぁー、樹ちゃんは。別にそこまで伝えようと思ってなかったのに。)
「…うん、話せないのはその深いところについて。」
「でも私に嘘つかないためにああいういい方してくれたんだよね?」
「もちろん。私は樹ちゃんと出会って救われたから。」
(だって私にもう一度、守りたいものを作ってくれたから。)
「そんなことないよ…ときどき思うもん、ちひろちゃんって運動も勉強もできて、スタイルもいいから私が友達でいいのかって。」
「樹ちゃんで充分!お風呂上がったら耳かきしてあげる!」
「ありがとう、ちひろちゃんの耳かき気持ちいいからね〜癖になっちゃって…///」
(さーて日曜日が楽しみだな〜!)