上里ちひろは勇者である   作:☆ここな☆

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7話 相反する思い 前編

ーーー通学路ーーー

ーーー東郷sideーーー

「はあ、はあ、はあ…」

(友奈ちゃん…かなりキツそう…どう声をかけたらいいのかしら…)

「最近、あったかくなってきたね。」

「うん…」

「もうすぐ春だ。」

「うん…」

(早くなんとかしないと…友奈ちゃんが…!)

「東郷さん、私ね…」

「うん…」

「結婚する。」

「うん…うん!?」

(へ!?いいいいいまなんて!?)

「突然ですが、結城友奈は結婚します。」

(はい!?ううううううそでしょ!?)

「なななななな何を言ってるの、友奈ちゃん!? あなたは中学生なのよ!? 大体、相手は!?」

「神樹様だよ。」

「え…?」

 

ーーー数日前・夕方ーーー

ーーー友奈sideーーー

今日はまた大赦の神官さんが来ていた。

(今度はなんなんだろう…)

「あ、あの…今日はなんの御用でしょうか?」

「友奈様に急ぎお知らせしなければならないことがあります。」

「えっ? な、なんですか?」

「私たちを約300年の間守ってきてくださった神樹様の寿命が近づいております。」

「えっ?」

(そんな…神樹様が…?)

「神樹様が枯れてしまわれれば、外の炎から守る結界が無くなり、我々が暮らすこの世界は炎に飲まれ、消えてしまいます。」

「消え…る…?」

(そんな…みんなも…?)

「ダメです…消えるなんて…」

「仰る通りです。人間を全滅させるわけにはまいりません。全滅を免れ、皆が生きる解決法を我々は見つけております。」

(ならよかった…でもこれって…)

「勇者部全員で聞いた方が…いいのでは…?」

「まずは友奈様にだけお話を。皆が助かる方法は一つ。選ばれた人間が神樹様と結婚するのです。」

(へー、結婚かぁ…え?)

「結婚!? 結婚って、あの結婚ですか!?」

「はい。神との結婚を、古来神婚と云います。神と聖なる乙女の結合によって世界の安寧を確かなものとする儀式。」

(そ、そうなんだ…でもなんで私に?)

「神婚することで新たな力を得て、人は神の一族となり、皆永久に神樹様と共に生きられるのです。ご理解いただけたでしょうか?」

「よくはわかりません…でも全滅だけは…」

「私たちも友奈様と同じ気持ちです。」

「そ、それで…なんでまず私に…?」

「神婚の相手として、神樹様は友奈様を神託で示されたからです。」

(っ!?私!?)

「な、なんでまた私を…」

「心も身体も神に近い…御姿だからです。天の神が生贄として友奈様を欲してるのと理由は近いかと。」

「そ、そうなんですか…」

「私たち大赦は人類が生き延びる為に様々な方法を模索し続けて来ました。そして、神婚という選択肢のみが残されたのです。また、神婚が成立すれば選ばれた少女の存在は神界に移行し、俗界との接触は不可能になります。」

(神界に移行?俗界?どういうことだろう?)

「ど、どういうことでしょうか…」

「神婚した少女は、死ぬということです。」

「っ!?」

(死ぬ…?)

「すみません…すぐ答えられなくて…頭が追いつかないっていうか…」

「天の神の怒りを背負われている。さぞ、お辛いでしょう。祟りの為に、皆にこのことも話せず…」

「話せないなら話せないで、もっと賢いやり方もあったかもしれないんですけど…私、友達を傷つけちゃって…」

(ごめんね…夏凜ちゃん…)

「皆を慈しむ心。友奈様は素晴らしい勇者であると、私は思います。」

「そんなこと…ないですよ…」

「その友達を、人間を救うことが出来るのは友奈様だけです。」

(私しか…みんなを…救えない…)

「神婚したとして、その…人が神の一族になってずっと生きるって言うのは…?」

「言葉通りの意味です。我々を神樹様に管理していただく、優しい世界。人は死んでしまえば終わりですが、神の眷属となり、神樹様と共に生きてゆけば希望が持てます。」

(でも…それって…)

「それって、皆、ちゃんと人間なんですか?」

「神の膝下で確かに存在出来ます。信仰心の高い者から神樹様の元へ。皆が、神樹様と共に…どうか…この世の全ての人々をお救いください。」

「…少し時間をください。」

 

ーーー翌朝ーーー

ズキズキズキッ

「ううっ!あっ!」

痛みのあまりベッドからも転げ落ちてしまう。

「はあ、はあ…祟りの次は神婚だって。ビックリだね、牛鬼…」

(痛みはますますひどくなってる…もう時間は残されてない…)

「お父さんとお母さんは泣いてたけど、私の意志に任せるって、言ってくれたけど…私の体は…命は…」

(もう…長くないんだ…)

 

ーーー外ーーー

胸を押さえながらいつもの高台へ向かう。

(神婚して死ぬと、どうなるんだろう?祟りで死ぬより苦しくないのかな?)

「っ…!私ダメだなぁ。勇者なのに、自分のことばっか。」

(勇者らしいことしなきゃ…!)世界が炎に包まれるなんて、そんなのイヤだ…絶対!)

「勇者部五箇条。成せば大抵なんとかなる。」

(そうだよ…迷ったり怖がってる場合じゃない。やらなきゃ!だって私は…勇者なんだから…祟りで消えてしまう命なら…みんなのために使える方がいい。)

「怖くない…怖くない…!怖くない!」

高台に着く。

「はあ、はあ…きれい…うっ!」

(必ず消える私の命で、みんなが生きられるなら…やるしかない。)

「私…決めたよ。」

 

 

 

 

ーーー部室ーーー

「いや、怪しいでしょ! 何引き受けようとしてんの!」

「ゆーゆ…」

「友奈さん、そんなぼかした言い方してる時点で信用に値しないとおもうんですけど。」

「違うと思います。」

「俺もです。反対です。」

(そんな…)

「みんな…」

「今の皆の反応でわかるでしょ? 友奈ちゃんの考え方が間違ってることが。」

「東郷さん…」

(でも…)

「それにしても大赦め…!また隠しおって…友奈、私たちもついていってあげるから、バシッと断りなさい。」

「園姉と私がいる時点であちらさんに勝ち目ないだろうしね。」

「神婚なんてする必要ありませんよ。」

「そもそも神樹様って複数の神様が合体してんのに性別ありゃしないと思うし、やらなくていいですよ、絶対。」

「園子、今から連絡いれられる?大赦に。」

「任せなされ!」

(そんな…!)

「みんなまっ…」

「もう我慢できない!」

(東郷さん…)

「行くわよ。一度潰した方がいい組織になるかもね。」

「てかなるでしょうね。構成員のほとんどクズですから。」

「そんだけなのか…聞いてる限りだとわかんなくもねぇけど。」

(違う…そうじゃない…私が言いたいのは…!)

「待って!私は…神婚を受け入れるって最初に…」

「その必要はないんだって!」

「だって…死ぬんでしょ?」

「そんなの生贄と変わりませんよ!」

「さっきちっひーも言ってたけど神樹様と生きるって、ゆーゆが想像してるのとは違うよ?多分。」

「ええ、とても幸せなことだとは思えないわ。」

(そんなこと言ったって…)

「私が神婚しないと神樹様の寿命が来て世界が終わっちゃうんだよ!」

「だからって友奈先輩である必要はどこにあるんですか!」

「神樹様の寿命は分かるわ。でも友奈はもう頑張った。これ以上頑張らなくてもいいのよ。」

(でも…でも!!そしたら他の人ならいいってことになっちゃう!)

「私はそもそも神婚やらなくていいと思いますけどね。誰かしら犠牲になるなら。」

「たしかにそうね。なんで大赦はいっつも犠牲を払うことばっか…」

「風先輩。」

「ん?なに?」

「勇者部は人の為になることを勇んで行う部活、でしたよね?」

「これは違うよ、ゆーゆ。」

(でも、私は…)

「これも勇者部の活動だと思うんです。」

「…」

「誰も悪くない。世界を守るために他に選択肢が無いなら…それしかないなら、私は勇者だから…」

「友奈!」

「っ!」

「一回頭冷やしなさい。」

「それしかないって考え方はやめよう、ゆーゆ。神樹様の寿命が無くなるまでの間にもっと考えればいいんだよ。」

「そもそも友奈さんがそう決めつけてるだけです。他に方法は絶対あります。」

「そ、そうよ!」

(たしかに…前だったらそうもできたかもしれない…けど…)

「ダメなんだよ…考えるって言っても…私には…もう時間が無くて…」

(しまった!つい!)

みんなの胸に紋章が浮かび上がる。

「友奈ちゃん、私たち知ってるわ。友奈ちゃんが天の神からの祟りで体が弱っていることを。」

(ダメ…その話をしたらみんなが…!)

「その話はやめて! 私は何も言ってない!」

「大丈夫よ、友奈ちゃん。その件も含めて解決してみせる。」

「大体おかしいです。何で友奈さん一人がこんな目に遭わなきゃいけないんですか!?」

「そうです!祟りだけでもダメなのに神婚って…」

(でも私がやらなきゃ別のひとが…!)

「で、でもね、樹ちゃん、竜治君。私はイヤなんだ。誰かが傷つくこと、辛い思いをすることが…でも今回は私一人が頑張れば…」

「ダメよ!」

「友奈さんは一人で頑張りすぎです!」

「友奈ちゃんが死んだら、ここにいる皆がどれだけ傷ついて辛い思いをすると思っているの!?」

(そんなこと…言われても…)

「私…想像してみたけど…後を追って腹を切るかもしれない!」

(そんな!?それで言ったら東郷さんだって…!)

「で、でも東郷さんもみんなを守るために火の海に行ったでしょ。あれだって、自分一人で世界を救えるならって思ったからでしょ!?」

「そうよ! でも壁を壊した私の自業自得でもあるのよ。友奈ちゃんは悪くないじゃない! 反対よ! 腹を切るわよ!」

(そんな…東郷さんに腹切られたら…私…)

「そんなの…ずるいよ…私は…東郷さんのかわりに…っ!?」

(えっ!?今なんで私そんなことを…!?)

「代わりに…何?友奈ちゃん。」

「ゆ、友奈さん。友奈さんが言うように、勇者は皆を幸せにするために頑張らないといけないと思うんです。」

「そうだよ。だから私頑張ってるよ。」

「で、でも…」

「皆って言うのは、自分自身もそこに含まれているのよ、友奈。」

(私は…)

「幸せだよ…それでみんなが助かるなら…」

「嘘よ!」

「ならなんでそんなつらそうなんですか?心のどこかでは嫌だって思ってるからじゃないんですか?」

「俺はいつもの友奈先輩は一番勇者だと思います。でも今最も勇者から遠いのも友奈先輩ですよ!」

(そんなこと言われても…!)

「ゆ、勇者部五箇条! なるべく諦めない。私は皆が助かる可能性に賭けているんだよ!」

「あんたが生きることを諦めているじゃない!」

(祟りと神婚…諦めるしかないじゃないですか…!)

「勇者部五箇条! 成せば大抵なんとかなる! なさないと何もならない!」

「友奈さん!そんなこと書いてないです!」

「友奈!五箇条をそういう風に使わない!」

「私は、私の時間のあるうちに私の出来ることをしたいんです!だからこうして皆にきちんと相談しました!」

「みんなの言ったこと聞いてないじゃん…これじゃ相談じゃなくて報告だよ、ゆーゆ。」

(どこが報告なの!?)

「相談してるよ!!」

「友奈、その…とにかく、無理すんな…」

(無理しなきゃ生きてられないよ!)

「無理してないよ!」

「ご、ごめん…」

「勇者らしく、私らしくしてるよ!」

「友奈先輩!全然らしくないです!」

「どこがなの!」

「っ!いつもの友奈先輩のもっと余裕が…」

「余裕持ってるよ!」

「っ!!」

「待ってくださ…「友奈!!」…っ!」

「皆がここまで言って、まだわかんないの!?」

「風先輩の言う通りよ!友奈ちゃん!」

「風さん!風さんも余裕なくなってきてます!少し落ち着いてください!」

「わっしーもらしくないよ。冷静になって!」

「落ち着いてるわよ!」

「冷静でいられるわけないじゃない!」

「だから! 他に方法がないからこうなっているんです!!」

「待って…なんで…なんでこんな…ケンカなんて…」

(そんな…樹ちゃん…)

「風さん…さっき樹ちゃんのこと遮ってましたよ。」

「そんな!?」

「いつもならすぐ気付くはずです。落ち着いてください。」

「うっ…うう…」

「樹ちゃんよしよし…」

「ごめんね…樹…」

(そんな…私には…もう…)

「私は…本当に時間がなくて…」

そのとき、みんなに紋章が。

「っ!!!」

(そんな…みんなが…みんなが!)

ダダダッ

私は部室から走り去った。

そして私の心の中には絶望と歪な決意だけが残っていた。

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