誕生日短編 大切なあなたへ
ーーー神世紀301年 3月2日、樹sideーーー
樹「はぁ…どうしよう…」
竜治「やっぱ樹でもムズいか…どうにか助けてえけど俺は初めてだから経験不足だし…」
2人「「はぁ…」」
ため息をつきながらイネスをとぼとぼと歩く。
何があったのか、それは━━━
===3月1日、部室===
風「よーしみんな来たわねー!今日集めたのはなぜでしょうか!」
東郷「はい!友奈ちゃんの誕生日の計画です!」
風「違う!!早すぎるでしょ!!」
東郷「早すぎる!?友奈ちゃんの誕生日のお祝いなんて1年は欲しいくらいなのにですか!?」
夏凜「準備だけで一年かけてちゃ回らないでしょ!?そもそも友奈は遅刻してくるって言ったのあんたでしょ!!」
東郷「ぐっ…夏凜ちゃんの言う通りだわ…でもそれなら他に誰が!?」
園子「そりゃね〜1人しかいないんよ〜」
銀「うんうん、てか須美いくらなんでも友奈に気を取られすぎだろ…」
樹「はい!」
風「お、樹!」
樹「ちひろちゃんのです!!確か今月の12日だって言ってたの聞いた事ある!」
風「正解!!ということで今日はちひろの誕生日に何するかを決めたい…ところなんだけど…」
竜治「え?やらないんですか?」
風「やるわよ!そんでもってみんなで案練りたかったわよ!!でも緊急依頼が入っちゃったの!!」
夏凜「緊急依頼!?」
風「そう!!神樹様がいなくなってからいっぱい地震とか起きて、経済混乱してるじゃない?それでとある宿屋さんが倒産寸前らしくて…世界を救った勇者様達と会える的なのでなんとかしたいんだって。それで3日から6日の間来てほしいって…」
銀「うーん…一時しのぎにしかならないと思うんですけど…」
風「一時しのぎでいいらしいわ。3月後半なれば桜が咲いて、形勢逆転できるプランが用意してあるとか。」
夏凜「勇者のネームバリューっていうのが私たちしかできない案件よね…でもちひろの誕生日もあるのよ?さすがにそこまで長くは…」
風「えぇ…だから私もせめて2日って言いたかった…でも…でも!!」
園子「まだ何かあるの?ふーみん先輩。」
風「…依頼主の宿屋さん、大赦から恩赦として海辺観光に行ったあそこなのよ!!!!」
樹「…あ。」
竜治「????」
東郷「…それは…」
倒産の危機を助けて欲しいと頼み込んできた依頼主さんは、かつて私たちが勇者であり、その戦いにひと段落がついた頃に、観光を楽しませてもらったあそこだったのです。
夏凜「…それは確かに言いづらいわね。倒産しちゃったらの事を考えると。1回泊まって良さ知ってるからなおさら。」
銀「あー…しかもそこって2年前に私たちが訓練で利用させてもらってたところでもあるんですよね…須美が言ってました。」
風「贔屓目抜きにしても今この状況の中で失業するのは先が真っ暗にもほどがあるから受けるわ。でもちひろの方もほっとくわけには行かない。
ってことで2人、ちひろの誕生日担当を決めて残ってもらう。」
園子「ちっひーはもちろん宿屋ですよね〜?」
風「そりゃそうよ。あの子勘いいから残したら絶対バレるもの。で、帰ってくるまでに草案まとめてもらって、残りの5日で準備!この作戦のつもりよ。」
東郷「なるほど。賛成ですが、問題はその担当の2人と…」
銀「順当にいくなら樹ちゃんと園子か?」
園子「いや、それは無理なんよ〜。いっつんはともかく、私まで残ったらちっひーは絶対勘づくよ、ミノさん。わたしの代わりに竜治君かな〜」
竜治「俺っすか!?でも俺園子先輩ほどちひろの事なんて…」
園子「知らないからこそ見えることもあるかもしれないんよ〜ないかもしれないけどね〜」
竜治「…そういうことならやらせてもらうっすけど。」
夏凜「樹は?大丈夫?」
樹「…うん!!ちひろちゃんにはずっと助けられてきたし、頑張る!!」
風「…じゃ、2人に任すわね。それじゃ宿屋の方のスケジュール確認を「すみませーん!遅れましたー!!」友奈!ほら、席につきなさい。今までの流れ説明するから!」
友奈「はーい!」
ーーー今ーーー
(…って、気合い入れたのはいいけど…これまで私主体でなんて1回もやってなかったからなぁ…)
お姉ちゃんの時は一応私が主体ではありましたが、何よりちひろちゃんの存在が大きかったです。
でも、今回は力を借りられない。
樹「ちひろちゃんの誕生日…絶対失敗できないのに…」
竜治「家で2人で考えても何も浮かばなかったから、手がかり求めてイネスに来てはみたけどなぁ…どうすりゃいいんだ。」
2人でうーんと唸りつつ周りに何かないか探す。
(…ない、よね…)
…が、方向性すら固まってないのに急にコレだ!となる物などあるはずもない。
樹「…はぁ…「ちひろ」ちゃん「は何を求めてるんだろなぁ…」」
樹、???「「…ん???」」
声が誰かと見事にハモる。
後ろを振り返ってみると3人の少女。
しかし…1人だけは心当たりがありました。
樹「…天音ちゃん!?」
天音「樹…!?」
竜治「どうした樹、ちひろの友達でもいたのって楓!?」
楓「え、竜治!?」
ここな「…え、なに?偶然ハモったと思ったら私以外ペアできてる感じ!?のけ者やめよ!?」
4人がそれぞれ驚く中、取り残された紫髪の女の子の悲鳴がイネスに響き渡りました。
ーーーフードコート、天音sideーーー
樹「で、私が犬吠埼樹です。」
ここな「…え、あんたがちひろの親友の!?!?」
楓「こーこーな?初対面じゃないけどほぼ喋ったことなかった人相手にあんた呼びはおかしいよね?」
ここな「楓はほんっと厳しいなー。転校してから少しは変わったかなぁとか思ってた私がバカだったわ。」
楓「うん、知ってる。」
ここな「知らないで!?」
邂逅から10分、立ち話はほかの人方にも迷惑がかかる危険があったため、フードコートで自己紹介したところが今の場面です。
天音「…しかし、まさかちひろにできた新たな親友が樹だなんて思いもしませんでしたの。」
樹「私もだよ。まさか天音ちゃんが神樹館の時のちひろちゃんの友達だなんて…」
竜治「気になってたけどそこはどういう関係なんだ?俺が聞いたことのあるちひろへのサプライズの時のってことじゃないんだろ?他のふたりが覚えてなかったし。」
樹「うん。天音ちゃんとは親戚なの。」
天音「犬吠埼家は元々伊予島家の分家でありまして…樹のお父様がよく図書館を利用なさってたんです。その時に樹も来てらっしゃってたのです。結構仲良かったのですよ?」
そう言ってほほ笑みかける
ここな「まあ天音が呼び捨てするくらいだからねぇ…で、楓と竜治は?どこで知り合ったの?」
楓「あ、うーんとね…それは…」
と、誤魔化しながら楓が竜治さんと壁に消えます。
(…事情でもあるのでしょうか?)
ーーー竜治sideーーー
楓「…さあ、どうする竜治。ここなも天音も一般人だからあかせるはずもないわよ。」
竜治「だよな…俺がバーテックスだって知ったらどうなることやら。」
楓「あ、それは問題ないと思うわ。特にここなは写真撮ろうとしそうだし。」
竜治「嘘だろ?」
楓「だってここなの夢壁の外写真に収めることだったし…」
予想外の答えに絶句する。
桐生楓、天の神との決戦で防人を芽吹さん達と率いてた副リーダー。
もちろん出会いは市街地に入り込んだ星屑殲滅のため、言えるはずがない。
防人も一応お役目、しかも勇者とよりもまあまあブラックだったらしいし、仮にそこはセーフでも一般人の俺が防人の助っ人などできるはずもないから十中八九怪しまれる。
竜治「…まぁあんまり長いと怪しまれるし早めに決めようぜ。」
楓「そうね。異形から避難誘導してる時に偶然会って協力してたとか。」
竜治「それでいこう。」
ーーーここなsideーーー
楓「…ってわけ。」
竜治「あっちで打ち合わせしたのは食い違いあったら困るから。あの時は必死だったからな…」
2人が出会った経緯をなんで壁に隠れて打ち合わせしたかも交えて明かす。
(異形…星屑だっけ。なかなかヤバい感じだったけどよくもまぁやったなぁ。まあ私も飛び出してたけどさ。)
2人の行いに感心しつつ、己の行いも逡巡する。
(もちろん後悔はしてないけどねー。)
天音「では、ある程度の紹介も終わりましたし、情報を整理しましょう。お2人もちひろの誕生日を祝おうと来た、ということでよろしいんですわよね?」
樹「うん。でもどうしたらいいのか浮かばなくって…それでもジッとしてるよりは動いた方が浮かぶんじゃないかって。」
楓「私たちは乃木先輩からちひろがイネスで買い物よくしてるって聞いて手がかりを探しに。」
ここな「…トラウマ残しちゃったからね。盛大に祝ってあげたいんだよね。」
そう、私たちは…ちひろが一番助けを求めてる時に、力になってあげられなかった。
ちひろの存在をなかったことにして、突き放した。
彼女は許してくれた。でも…
(それで、罪が消えるわけじゃないから。)
竜治「…なんか暗くなったから話を戻そうぜ。どっちもちひろに喜んでもらいたいってわけだ。協力しないか?」
天音「返事するまでもない案件ですわよね?2人も。」
ここな「もちのろん!」
楓「協力しましょう!…と言っても、2人も案がなかったんだよね。」
樹「そうなんだよね…天音ちゃん達は何かない?ちひろちゃんの喜びそうなこと。」
ここな「うーん…ある事にはあるよ?ただ今当てはまるかって言うと…」
竜治「ん?どういう事だ?」
天音「あれから何回か会ってるのですが、2年前とだいぶ好みが変わってるんですよちひろ。」
樹「え?そうなの?」
天音「はい。例えをあげるなら…2年前のちひろって、ゲームあまり上手じゃなかったのですよ?」
竜治「…マジで?めちゃくちゃ上手いんだけどあいつ。」
楓「多分2年の間にやり込んだんだろうね…ともかく、2年間の空白が及ぼした影響が大きすぎるのよ。だから好きな物とかならそっちの方が詳しいと思う。」
竜治「樹任せた」
樹「え!?うーん…ゲームはさっき言ってたけど…買い物とかチーズケーキとか、あとオシャレも結構楽しそうだし、あとミステリー系の物もかな!考察が楽しいとか言ってたよ!」
ここな「…結構知ってんね…」
天音「チーズケーキとオシャレは共通ですわね。」
楓「確か管轄の中に美味しいチーズケーキの店あったからそれは任せて。あとはゲームか…」
ここな「それなら私がたっぷりとあるよ!!」
竜治「でもちひろも結構持ってるっすよ?ゲーム機器は一式。」
ここな「あー月夜さんからの支給かぁ…ならソフトだけでも持ってこ。なんかないのあるかもしれないし。」
樹「ミステリーは組み込みようないですけど…オシャレはどうしましょう?」
天音「プレゼントとしてお洋服を用意する、とかでしょうか?」
ここな「じゃないのー?あいつならよっぽどじゃない限り着こなすだろうし。」
楓「そうね…場所はどうする?」
樹「部室の予定だったけど、3人も来るなら別な場所がいいよね…ちひろちゃん家かな?」
竜治「まあベターだな。となると準備までの陽動役が…」
とまあこんな感じで、お互いの力を合わせて計画は進んでいった。
ーーー伊予島家車内ーーー
楓「ごめんね、方向違う私まで…」
天音「楓が気になさることではありませんよ。私たちの仲ですし。」
ここな「そうそう!ありがたく受け取っとけばいいんだよ!」
楓「ここなはもうちょっと感謝をね…」
誕生日パーティーの計画会議(?)は無事に終わり、後の微調整は樹ちゃん側で行ってもらうことに。完全に決まったら連絡するそうだ。
(まあ、2人が経験不足で若干慎重になりすぎてただけだと思うけどね。計画の軸は樹ちゃんからの情報だし。)
ここな「…2人はどう感じた?あの2人。」
天音「どういうことです?」
ここな「あーやって計画任されてる以上、多分相当に仲良いよちひろと。まあ樹ちゃんはちひろを救ってくれたんだから当たり前だろうけどさ。」
楓「んー…竜治の方は面識あるから樹ちゃんの方だけになるけど、芯がしっかりしてたよね。優しさも相まって気弱に見えがちな気もするけどね。」
楓「竜治さんの方は話しやすかったですわよね。最初は緊張してたように見えましたけど…」
ここな「私はそうだねー。一言で言うなら「ちひろ、いい友達持ったな!」だね!以上!!」
楓「おい、2人の印象について言いなさいよ。」
ここな「はー?だからいい友達って言ったじゃん。」
天音「それはそうですが、個々の印象であるとは言い難いですね…」
ここな「天音まで微妙に楓派じゃん…味方がいない!!」
楓「なんでわざわざ渋る必要があるのよ…早くいいなさーい。」
ここな「やだー!!もう言ったもんねー!!」
話すことを渋る理由は特になかった。
思ったことも2人と変わらないから、同じといえば終わり。
ただ…私とちひろが張り合い、楓が止めようとして、それを天音が時々参加しながら眺めてる。
そんな、2年前まであるあるだった流れを久しぶりにやってみたいな、と思っただけで。
ーーー3月12日、ちひろsideーーー
ちひろ「まだダメなの?園姉。」
園子「あとちょっとなんよ〜。あ、段差あるから気をつけてね〜」
目が見えないので、視覚に頼らず足先に集中して階段を昇る。
園姉が目隠しをしろと言ってきたのはイネスからの帰り道。
もちろんOKしたけど…
(…まあ、誕生日パーティーだろうなぁ…)
自身の誕生日、忘れるはずがなかった。
(…なんだかんだ言って久しぶりなんだよな。一昨年は誰も覚えてくれてるはずがないし、去年はコマさん達がやってくれたけど一応1人だったし…)
ガチャッ
そう考えてると前方から扉の開く音がする。
園子「ここで靴脱いでちっひー!」
ちひろ「分かったよ園姉。」
(このマットレスの感じだとうちかな…?)
園子「よーし到着〜!目隠し取るんよ〜」
そしてついに目隠しが外され…
みんな『ちひろ(ちゃん)、誕生日おめでとう!』
予想通りみんなの声が私を出迎えた。
ちひろ「やっぱりそういうことかぁ…ありがとうございます、みなさん。」
風「あれ?意外と驚いてないわね。」
ちひろ「いや、自分の誕生日に目隠しされたら普通に気づきますよ…」
ここな「じゃあ私たちの登場には驚かずにいられるかな?」
ちひろ「…はあ!?!?なんでここな達がいるの!?」
ここなに声をかけられて、楓や天音もいることに気づく。
天音「2日に樹や竜治さんとばったり会ったんですよ。」
楓「それで協力しよう、ってね。はいこれ洋服。」
ちひろ「おー可愛い!!ありがとう楓!!」
夏凜「はいこれは私から。」
ちひろ「え?にぼっしーも服?ジャージはいくらあっても困ることないからありがたいけど…」
友奈「ちひろちゃんがオシャレ好きって聞いてみんなお洋服持ってきてるよー!はい!」
ちひろ「あ、ありがとうございます…」
(オシャレ好き…いや確かに好きだけど知ってる人少なかったはず。なのになんで…)
ここな「…と、今思ってるんでしょ?なんのために私たちがいると思ってんのさ。」
ちひろ「…あ、なるほどね。確かにここな達入れば気づくね。」
風「ちょっと待ちなさい。前私がそれした時とか軽く殺されかけたと思うんだけど。」
天音「殺され…?ちひろがするとは思えないのですが…」
風「するわよ!ホントに!!結構無茶苦茶だからねこの子!?」
ちひろ「あ!誕生日ケーキがチーズケーキだ!」
銀「楓がオーダーメイドしてくれたらしいぞ。」
楓「桐生家の管轄にいたから利用しただけだよ。食べてみて。」
ちひろ「絶対美味いやつじゃん…今すぐ食べたいけどその前に!」
窓際に移動する。
ちひろ「…誕生日パーティー、ありがとうございます!」
私は、2年前のあの日に一度、自分が死んだと思っている。
最初の誕生日は孤独だった。
2回目の誕生日は今はいない家族が祝ってくれた。
…そして、これが新しい私の三回目。
かけがえのない友達と過ごす、最初の誕生日だ。