-SYUKUTEKITOUJO-
先日の工作活動により、カズマと私の関係は少し変わった。
まず一つ目は一緒にいる時間が減った事だ。
これについては予想通りで問題ではないけど、思っていたよりも寂しくなる。
二つ目はカズマのセクハラ行為がなくなったという予想だにしない変化だ。
その後も爆裂散歩は続いているが、ここだけが変わっている。
別にカズマにセクハラされたい訳ではない。
断じて違う。
でもどういう心境で止めたのかが気になる。
他にもまだ沢山あるけど、それはまた今度に。
今何をしているかと言うと、久しぶりにゆんゆんを交えた三人での爆裂散歩をしている。
ゆんゆんが一緒にいるのは、最近モンスターが活発化しているという情報を聞いたため、護衛としてついてきて貰っているからだ。
「もうそろそろ良くないか?昼飯の事もあるしここら辺の岩で済ませて帰ろう」
今日のカズマは、少し機嫌が悪い。
朝は普通だったのに、出発する頃には不機嫌になっていた。
理由は分からない。
「お昼の心配は要りませんよ。今日はお弁当を持ってきましたから」
早起きして、作った甲斐があった。
「マジか」
「マジです」
カズマは早く帰りたかったのだろうか。
溜め息を吐いていた。
そんな中、お腹の鳴る音がした。
当然、その音源に視線が集まる訳で。
「ええーと、違うんです。朝あまり食べていなかったから、偶々鳴っただけで」
誰も聞いていないのに、言い訳を始めたゆんゆん。
「我慢しなくていいですよ。ゆんゆんがお腹空かせているみたいですし、ここらでお昼にしませんか?」
「そうだな。あそこの木陰で食べよう」
ゆんゆんの意見は聞かずに昼食をとる事にした。
私のお弁当は好評で、カズマの機嫌も良くなっていた。
今回は一応、ギルドからの依頼も兼ねた散歩になっている。
依頼内容はゆんゆんがついてくる原因となったモンスターの活性化についての調査。
どのようなモンスターが居るかを調べて報告するだけだから、ついでに見て回ろうという話になった。
「それにしても、見つからないね。活性化してるって聞いたから、街を出たらすぐに見つかると思ってたんだけど」
「活性化してるって情報の真偽を見極めるのも今回の調査だから、その情報がデマだったんだろうな」
そう、これも最近変わった事だ。
ゆんゆんがカズマに対して、敬語ではなくなった。
経緯は詳しく知らないが、ゆんゆんとカズマの仲が急に縮まった。
益々ゆんゆんが恋敵としての脅威になろうとしている。
何故ならアクアとダクネスには、未だに敬語だからだ。
全員に対して同じであれば気にする事はないが、カズマだけと言うのは危険視する他ない。
「二人とも待ってください。あそこに何かいませんか?」
「何処だ?・・・あそこか。確かにいるな。ジャイアントトードだな」
カズマの言う通り、私の見つけたモンスターはあの憎きカエルだった。
「この時期にジャイアントトードがいるのは珍しいから、やっぱりあの情報は本当だったんだ」
「めぐみん、今日の目標は群れてるカエルでいいか?」
「構いませんよ!今日こそはリベンジです。飲み込まれる事なく終えて魅せます」
いつも負けているが、毎度同じという訳にはいかない。
「大丈夫だろう。今日は結構距離があるし、隣に俺らも居るからな」
頼もしいけど、フラグに聞こえたのは私だけだろうか。
「丁度いい感じに纏まってきましたね。『エクスプロージョン』ッ!」
撃ち漏らしはないようで安心だ。
「おおー!モンスター相手はいつもと違うな。中心に集められたエネルギーが分散しない様に爆破されていて、それでいて心地よい爆風を届けてくれる。今日のは九十七点だ。ナイス爆裂!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ナイス爆裂!」
今日も無事日課を終える事が出来た。
後は帰るだけだ。
「・・・ね、ねえ、いつも二人はこんな事をしてるの?」
引き気味の様子のゆんゆんが質問してきた。
「そうですよ。それがどうかしましたか?」
「変な所でもあったか?」
ゆんゆんの反応が理解できない私達は尋ね返した。
「いや、なんでも」
私達を見て諦めた様にゆんゆんはそう呟いた。
「そうだ、めぐみん、座り心地はどうだ?違和感とかないか?」
「異常ありませんよ。では帰りましょう」
ゆんゆんは私達から一定の距離をおいて歩いていた。
私が爆裂魔法を放ってからゆんゆんの様子がおかしい。
「なあ、ゆんゆんはどうしたんだ?さっきからあの調子だけど」
「私にも分かりません。そのうち元に戻ると思うので、気長に待てばいいと思いますよ」
原因が分かればいいけど、私達は未だに原因を解明できていない。
「それしかないか。そろそろ街も見えてきたから、そこまでの我慢だな」
「そうですね。・・・カズマ、右に気配を感じたのですが、気の所為でしょうか?」
何かが通った気がする。
「いや、気の所為じゃないぞ。敵感知の反応が右の方からするから警戒した方がいい」
「ゆんゆんも気をつけてください。ってゆんゆん聞いてますか!」
空を見上げてゆんゆんはぼーっとしていた。
「えっと、どうしたの?」
「どうしたの?ではありませんよ!カズマの敵感知に反応があったので警戒をしてください」
「分かったわ、その為に着いてきたんだから。任せて・・・」
ゆんゆんが急に喋らなくなった。
不安がさらに大きくなる。
「ゆんゆん、俺らの事頼んだ。めぐみん、今日も俺らの負けみたいだ」
「カズマ、何を言ってるんですか?変な事言わないでくだクプッ・・・」
隣から湧いてきたジャイアントトードに私とカズマは飲み込まれてしまった。
その後、ジャイアントトードはいつもの様に動かなくなり、ゆんゆんによって討伐された。
如何して私はいつもいつも粘液塗れにならなきゃいけないんだ!
街に到着した後は、ギルドへの報告をゆんゆんに任せて、帰宅した。
いち早くヌルヌルを落とす為に。
「体動きそうか?」
「いえ、まだ動きそうにないです」
体力が十分に回復できていない為、カズマに近くに居て貰わないと困るのだ。
此方のカズマはまだドレインタッチを覚えていないから、体力供給もできない。
「そうか、どうする?俺が先に入って回復するのを待つか?でもこのまま待つのもキツイよな」
「では、一緒に入りましょう。カズマが私の補助をしてくれれば、問題は解決できると思います」
体を洗うのを後からにすれば、自分で出来るだろうし、一番手っ取り早い案だ。
「それは名案だ?・・・今一緒に入るって言わなかった?」
「言いましたよ。早く入って、この粘液を落としましょう」
生臭くて、気持ち悪いから、早くしたい。
「言いましたよじゃなくて!本気か?一緒に風呂に入るんだぞ?」
「何を焦っているのですか?早くしないと粘液が乾いて、洗うのが大変になりますよ」
前は、子供扱いして、一緒に入ったと言うのに。
この間のアレのおかげだろうか?
それとも私がもう誕生日を迎えているから?
「分かった。入るよ。一緒に入ればいいんだろ?」
「お願いします。体力が戻ったら、後は自分で洗いますから」
やっとお風呂に入れる。
今俺は、風呂に入っている。
めぐみんと一緒に。
決して、俺が変な気を起こした訳ではない。
めぐみんが誘ってきたからこそ、一緒に入っている訳で。
それに断りきれない事情があったから仕方ない。
でも、今の状況は非常に不味い。
服を洗って、俺が先に体を洗っていたのだが、その間にめぐみんが寝てしまったのだ。
何が不味いかと言うと、めぐみんの髪の毛はまだ洗えておらず、このままではめぐみんがのぼせてしまう事だ。
前者は俺が洗えばいいと思ったけど、そう簡単では無かった。
髪を洗うには、体を仰向けにしなければならない。
そうなると、浮力で体や身を纏っているタオルが浮いてしまう。
そして、最悪の場合、めぐみんの裸が晒される事になる。
そうなれば、俺の理性が持つかどうかも怪しいし、めぐみんが起きてしまったらその時は俺の人生が終わるだろう。
また、そのまま放置すればそれはそれで問題が残る。
めぐみんが起きた時に何をされるか分かったもんじゃない。
後者の問題はもっと深刻だ。
このままめぐみんが起きなかったら、脱水症とか命の危機にも繋がりかねない。
だがしかし、めぐみんを脱衣場まで運ぶのもまた難しい。
濡れたタオルだと重さでズレてしまうから危険だ。
早く何とかしないと、とは思うけど、どっちにしろ今の俺には動けない、どうすれば。
「あれ?服がある。でもめぐみんの服だから大丈夫か」
ゆんゆんが来てしまった!
そう言えば、入浴中の札付けるの忘れてた。
それに鍵もしてなかったし。
「めぐみん、一緒に入ってもいいよ、ね・・・」
終わった。
ゆんゆんが入って来てしまった。
ゆんゆんは此方を見て固まっている。
この後の展開は読めた。
前回の添い寝事件の時みたく尋問されてしまうのだろう。
それに今回は、決定的場面を押さえられたからな。
取り敢えず、ゆんゆんの方を見ないようにして言った。
「ゆんゆん違うんだ。これはちょっとした事故で」
「おおお、お邪魔しましたあああああ!」
ゆんゆんは叫びながら去って行った。
「・・・」
一先ず助かった。
だが、これはどうしよう。
ゆんゆんに完全に誤解された。
いっその事、このまま上がって事情を話して見るのも悪くないかもしれない。
そう思い、立ち上がろうとしたその瞬間。
「カズマ〜、もう上がるんですか?」
後ろからめぐみんが抱き着いてきて、甘い声で囁いた。
寝起きだから仕方ないかもしれないが、刺激が強すぎる。
我慢だ、佐藤和真、お前ならできる。
「さっきゆんゆんに見られてしまったから、それの誤解を時にいかないと」
「せっかく二人きりなのに、他の女の事を言わないでください!」
どうなってるんだ!
ここは現実だよな?
こんな事言うのはサキュバスサービスのめぐみんだけだぞ。
まさか、今日の出来事は全部夢だったのか?
でも、それにしてはいつもより現実感があった気がする。
それに昨日は店に行ってないはずだ。
くそっ、あの店に行ってなかったらこんな葛藤はしてないのに。
「めぐみん、からかうのもいい加減にしてくれ、早くしないとだな」
「巫山戯てなんかいません私は至って本気です!」
いや、そんな清々しく言われても。
今のめぐみんは危険だ。
さっさとここから離れないと。
「さーて、今日の一番風呂は私が頂きま、す・・・」
如何してこのタイミングでお前は来るんだ!
アクアに見られたとあっては終わったな。
諦めよう。
「えっと、ごめんね。今すぐ出ていくから気にしないでね。でも、こう言う事をする時は、せめて鍵を閉めてからお願いね」
「ち、ちがーう!待って!」
まさかの空気を読んでの退出だった。
いっその事縛られてる方がマシだったかもしれない。
もう嫌だ。
二人に見られた誤解も解かないといけないし、めぐみんからも解放されないといけないとか無理ゲーだろ。
だって、俺よりめぐみんの方がステータス高いし。
最後に神頼みでもしておこう。
エリス様どうかお助けを!
「あれ、今のはアクア?」
おっ、手が離れた。
エリス様ありがとうございます!
今度エリス教会に寄付しに行きます。
「嗚呼、今、ゆんゆんとアクアに一緒に風呂に入っている所を見られてるんだよ」
「・・・」
急に黙り込んだめぐみん。
「カズマ、急ぎましょう。私はゆんゆんの方に行くのでアクアをお願いします」
「分かった。俺はアクアの説得だな。頑張ってみる」
面倒な方を押し付けられたな。
あの沈黙はそういう事だったのか。
俺達は急いで各々の行くべき部屋に向かった。
私は完全に失敗してしまった。
夢だと思ってカズマに甘えていたら、現実だった。
これはどうやって言い訳すべきなのだろうか。
いや、それよりもゆんゆんに説明しなければ。
「ゆんゆん、居ますか?入りますよ」
部屋に入ると憂鬱そうなゆんゆんがいた。
「めぐみん?どうしてここに来たの?カズマさんとその、お楽しみ中だったんじゃ」
お楽しみも何もその時は寝ていたけど。
ゆんゆんが涙ぐんでいるのは何故だろう?
あっ、女として私に負けたと思ったからか。
「さっき見られた事の誤解を解くためですよ。今言った事がまさにそれです」
「誤解ってどういう事?」
納得がいっていないみたいだ。
「ゆんゆんはむっつりな所がありますから、どのような誤解をしているのかは分かりませんが、私とカズマが混浴していたのは、私が動けなかったからカズマに補助をして貰うためだったんです」
「なるほどね。って誰がむっつりよ!」
案外簡単に信じて貰えて助かった。
「誰ってあなたしかいないでしょう?さっきあなたが言ったお楽しみの内容を聞かせて貰いましょうか」
「いや、それは、その・・・」
赤面したまま喋らなくなってしまった。
やはりゆんゆんはむっつりスケベだった。
この後どうしよう。
ゆんゆんには誤魔化せたけど、カズマはそう簡単にはいかないだろうし。
今頃アクアの説得も終わっているだろう。
早く良い案を考えないと。
「どうしたの?顔色悪いわよ。もしかして風邪ひいたんじゃ・・・」
「気分は悪くないですよ。ただアクアがもうギルドに行ってしまったら怖いなと思いまして」
実際にこれも悩み所の一つだ。
まさかこんなしくじりをするとは思ってもみなかった。
問題が山積みだ。
どれから解決すればいいのだろうか。
「ゆんゆん、夕食が出来たのだが、アクア達を知らないか?」
ダクネスに見られなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
これで少しの猶予が出来た。
昼食の間はカズマに聴かれる事はないだろうから。
「アクアさんは知らないですけど、めぐみんはここに居ます。カズマさんはアクアさんを探しに行ってるはずです」
「そうか、所でカズマは何故アクアを探しているのだ?また何かしでかしたのか?」
カズマがアクアを探しているだけで、アクアが容疑者扱いされるのは可哀想だと思う。
日頃の行いの所為なのだけれども。
「私は何もしてないわよ。謝って!ほら、私がやらかしたみたいに言った事を謝って!」
「そうだったのか。疑ってしまって申し訳ない」
この調子だと、カズマの方も上手くいったようだ。
安全が確認されたから、私とゆんゆんは部屋から出ることにした。
「そうだ。夕食が出来たから冷めないうちに食べないか?」
「もう出来てるのか。ダクネスの料理は普通だけど、暖かい方が美味いから早く行こうぜ」
「そうね。料理は出来たてが一番だものね」
アクアとカズマの仲も悪くなっていないみたいで良かった。
「ちょっと待ってくれ。私の料理が普通だと言うのはどういう事なのだ。この前は美味しいと言っていたではないか」
「そうだけど、ダクネスの料理って、普通なのよね。だから、普通に美味しいのよ」
アクアはフォローしているつもりなのだろうが、ダクネスの表情が曇り始めた。
私とゆんゆんに気付いたカズマが近付いて来た。
「めぐみん大丈夫だったか?」
「ええ、そっちも大丈夫でしたか?」
「見ての通り、何とかな」
カズマの疲れ顔から、苦労した事が分かる。
何かお礼をしなければ。
「所でさ、風呂での事なんだけど」
しまったーー!
みんなより少し遅れた所為で、秘密の話をするのに最適な状況が出来てしまった!
「ああいうからかいは今回みたいな事に繋がりかねないから、しないで欲しいんだけど」
こうなったら流れでいくしかない。
「あれは夢だと思ってやったんです」
ちがーう!
本当の事を言ってどうする。
落ち着け私。
「そ、それって・・・」
カズマの顔がみるみる赤くなっていく。
こんな形で告白するなんて絶対に嫌だ!
それに今回はカズマの方からと決めているのに。
「ち、違いますよ。夢だから恥ずかしい悪戯しても、問題ないかなと思っただけですよ」
あれ、これでは肯定している気がする。
「やっぱりか。アクアが来てから急にやめたから、そうなんだろうなって思ってたんだよ。別に変な期待はしてないからな」
納得したようで、少し寂しげにしながら速度を上げて、リビングへとカズマは歩いていった。
・・・私って悪女だと思われているんじゃ?
何度もカズマに魔性のめぐみんを名乗るべきだと言われていたから、気を付けよう。
でも、告白しなくて済んだのは喜ぶべきかもしれない。
サブタイトルが二週連続で四字になりました。
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