-TSUTAWARANUOMOI-
私を誤って縛った事でカズマが落ち込んでいた為、気まずい朝食になった。
その雰囲気に耐えられなかったゆんゆんとダクネスは朝食が終わって、少し経つと出て行った。
私としてはあまり気にしていないから、普通に接して欲しい。
でも、今のカズマは気を遣って、逆に私から距離を置いていた。
「ねえねえ。朝からカズマはあんな調子だけど喧嘩でもしたの?」
「そうではないのですが、・・・いや、ある意味そうかもしれません」
私もカズマがあそこまで意気消沈となっている理由は分からない。
たださっきの騒動が原因なのは明白。
カズマと言い合いをしていたと言う点では、アクアの言う通りだと思う。
「ふーん。よく分からないけど、今のカズマは、精神的にちょっと危ないから、気を付けた方がいいわよ」
「分かりました。なるべくカズマから離れないようにしておきます」
「うん、それがいいと思うわ。私はギルドに行くけど、何かあったら呼んでね」
そう言ってアクアは出て行った。
こうして屋敷には、私とカズマだけになった。
カズマの様子を見に行くと蹲り、何かぶつぶつ言っていた。
「なあ、俺はどうすればいいと思う?めぐみんはああ言ってくれたけど、やっぱり俺は許されない事をしたんだ」
まるで誰かと話しているかの様に、自問しているカズマ。
私はそんなカズマに声を掛けようとも考えたが、アクアの言っていた気を付けるというのが引っ掛かり行動に移せなかった。
「めぐみんが嘘で言ってないのも分かってる。でも、これ以上あいつの優しさに甘えてちゃだめなんだ。だから俺は、・・・・・・」
カズマはそこで話すのを止め、まるでそこに誰かが居るかの様に頷きながら一点を見ていた。
アクアの言ってたのはこの事?
それから少し経ち、カズマが俯いた。
「そうだよな。これじゃ、逃げてるだけだ」
言い切るとカズマは顔を上げて、言った。
「ありがとう、気付かせてくれて」
カズマは辺りをキョロキョロ見て、何かを探しているようだった。
でも、直ぐに諦めたのか、自分の部屋へと向かって行った。
なんだったんだろう?
謎の現象が起こってから数分。
カズマが私の部屋に来て、デートに誘ってきた。
まだ顔を見て話そうとはしないが、少しはマシになっていた。
「今日は何処に行きますか?この街のお店は殆ど回りましたし」
ここ数日でデートスポットは全部回ってしまった。
だから残りのデートをする五日間は、何をするか決まっていない。
「そうだな・・・二人で適当なクエスト受けるのはどうだ?普段行かないコースを散歩出来るし、デートっぽい事できるだろ」
悪い手ではないけど、この時期にそんな楽なクエストがあっただろうか?
「取り敢えずギルドに行こうぜ」
特に案が思いつかなかった私はカズマに従った。
ギルドに着き依頼を見てみたもののろくなクエストがなかった。
「どれも依頼達成には、みんなが居て、やっと出来るかどうかだな」
「一度、受付で聞いてみましょう」
依頼はなくても、賞金の出るモンスター討伐も偶にはあるから、望みは薄いけどそれに期待する。
「すいません。俺ら二人で出来るクエストありますか?」
「お二人でですか?少々お待ちください」
受付のお姉さんが調べに行った。
ギルドに着いてから視線を感じる。
カズマも落ち着かない様だ。
「お待たせしました。こちらの雪精五匹討伐のクエストが、お勧めです。どうでしょうか?」
「・・・それでお願いします」
カズマは死んだ事を思い出し、嫌そうにしていた。
討伐数が決まっているのは、前回カズマが死んだ事でギルド側が安全策として作ったものだ。
単に雪精討伐だと、全て討伐し切ろうとするが、討伐数が決まっているとその数に達すれば帰って来るだろうと言う考えだ。
「カズマ、無理しなくてもいいんですよ」
「大丈夫だ。それより雪景色を見に行こう」
みんな、私達を見ながら何かひそひそ話している。
目が合うと黙り込んでしまう。
これを繰り返していた。
カズマは視線を集めている方が嫌なようだった。
討伐依頼の現場に着いた。
辺り一面に雪が振り積もっていて、私達の足跡以外何も後が着いていない。
白い絨毯が広がっていた。
「こうして見てみると綺麗だな」
「そうですね。何かして遊びませんか?」
「雪だるま作るか」
こうして雪だるま作りが始まったと思った矢先。
「ひゃあああああ!」
「カズマどうかしましたか!」
心配して声を掛けたが。
ぶるぶる震えながらカズマがこっちを睨み付けてきた。
「どうかしたじゃないだろ!背中に雪入れただろ!死ぬかと思ったぞ!」
「入れてませんよ。変な言いがかりはやめてくだひゃあああああ!」
「隙あり!これでお相子だな。さてと雪だるま作りはじ、痛っ!」
不意打ちしてきたカズマに雪玉を投げる。
「カズマがその気なら考えがありますよ!」
「やったな!こっちだって考えがある。おらあ!」
足元の雪を豪快に持ち上げて投げてきた。
近くの木の裏に瞬時に隠れた。
「はっ、そんな技効きません!さあ、くらうがいい!てい!」
「よっと。こっちだってそんなもんくらうか!」
二人共、臨戦態勢に入る。
どちらが先に出るかの駆け引きが続く。
すると雪精が飛んで来て、カズマの首元に向かって進んでいく。
「カズマ後ろに雪精が居ますよ」
「そんな見え見えな嘘に俺が騙されるわきゃあああああ!」
女の子みたいに高い声で叫ぶカズマ。
さっきカズマが背中に雪がと言っていたのはあれかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「・・・もしかして雪精が背中に入ってったのか?」
ティンダーで近くの木に火を付けて、暖をとるカズマ。
相当冷たかったのだろう。
「雪精がこんな事するとは知らなかったですが、精霊が人に悪戯する事も有ると聞いた事が有るので、多分それかと」
「そうか。冒険者カードに雪精二体討伐って出てるし、初めのも雪精だったのか。めぐみん悪かった」
カズマがまた暗い感じになってきた。
「別にいいですよ。楽しかったですから。それより雪合戦どうしますか?」
横槍が入ったけど、雪合戦はこれはこれで楽しいものだ。
やめるのも勿体ない。
「続けようぜ。これが終わったら雪だるま作るって事で」
「分かりました。・・・先手必勝!」
「ちょっ!それはぶはっ!」
油断していたカズマの顔に雪玉が命中した。
その後、激戦が何度か中断されつつも繰り広げられた。
中断の理由は雪精の乱入と偶に出現するモンスターから身を隠すため。
私も雪精に二度程やられたけど、カズマの方が明らかに多くやられていた。
これは後から知った話しだが、カズマは精霊に好かれる体質らしい。
こんな感じで気付けば、討伐はしてないのに七匹の雪精を討伐していた。
「戦わなくても、遊んでるだけで討伐って楽過ぎるな。冬将軍も出てこないし。・・・・・・俺が死んだのってなんだったんだろう」
「・・・」
虚ろな目で雪だるまを作るカズマに掛ける言葉もなかった。
因みに今はカズマが体を作って、私が頭を作っている。
始めは楽しくやっていたけど、途中から作業になり始めた。
そこから飽きてきて、適当に話をしていたのだが、今日の雪精のクエストが終わっている話になってからこの調子だ。
「あっ、出来たぞ。めぐみん頭持って来てくれ」
「はい、カズマ行きますよ。いっせーのーで!」
こうして私達の雪だるまが完成した。
中々の出来だと思う。
そこにカズマが何処から持ってきたのか木の実と枝を付けて顔作っていた。
今から探そうとしていたのに、気付いたら出来ていた。
「よし、完成だな。爆裂魔法撃って帰るか」
「そうですね。このまま溶けるのも癪ですから、今日の的はこの雪だるまにしてもいいですか?」
「構わないぞ。それじゃあ移動するか」
「『エクスプロージョン』ッ!あっ、カズマ雪精二体倒せましたよ!」
「本当か!そうだな。今日のは寒さを吹き飛ばす暖かい風が気持ちよかったし、音圧も悪くない。威力も雪崩が起こらないように抑えられてたし、雪精討伐にプラス三点して、九十七点だ!残りの三点は見栄えだな。美しくなかった」
やっぱりカズマの採点は正確で、明日に繋げる事が出来る。
「ありがとうございます!ありがとうございます!百点が取れるよう芸術面も精進します!」
「頑張れよ。ナイス爆裂!」
今のカズマには朝の沈鬱な所はなく、元気に笑っていた。
「ナイス爆裂!」
屋敷に帰る前にカズマはお酒を買っていた。
昨日の買い出しで買い忘れたと言っていたが、そのお酒はリストに入ってなかったと思う。
買った物は誰かが好きなお酒と言う訳でもなく、見た事のない銘柄だった。
屋敷に着くと何処かに行って、戻って来た時には、酒瓶は持っていなかった。
私達の部屋とは全く別の方向で、物置部屋しかない方向だった。
カズマにその事を尋ねても、あれは寝かしとく酒だと言って、はぐらかされた。
「所で、デートの期間が終わったら爆裂散歩どうするんだ?」
「カズマがずっとしたいのなら、この関係を続けてもいいですよ」
私としてはこのままの方がいい。
「恥ずかしいからもう勘弁してくれ。今日のギルドでの視線が続くのは嫌だろ?」
やはりあれは堪えたのだろう。
ちょっと寂しくなるけど仕方ない。
「確かにそうですね。では今まで通り、前日に決めてその時間に行きましょう」
「分かった。でも楽しかったな。彼女とかいた事ないから、いい経験出来たよ」
凄い良い笑顔のカズマ。
こっちのカズマはツンがなくて直球のデレだから、免疫がなくて困る。
「めぐみんと付き合う奴は絶対幸せだと思う」
これは新手の告白だろうか?
静まれ私の鼓動。
「ありがとうございます。カズマも付き合う相手が居たら、その人は幸せだと思いますよ」
現に私は幸せだった。
また、カズマとお付き合い出来るように頑張らなければ。
「そ、そんな訳ないだろ。一緒にデート行ってる子を縛り上げたり、相手の気持ち考えずに傷付けたりするような奴だぞ俺は」
照れながら自虐的な事を言うカズマに私は言った。
「カズマはちゃんと謝ってくれました。それに私が許してるのにそれでも自分を責めていました。そんな事が出来る人が悪人じゃないのはわかります。カズマは優しい人ですよ。自分を悪く言うのは止めてください」
「・・・セクハラするような奴でもか?」
「今はしてないじゃないですか。そう言えば、何故しなくなったんですか?」
ある日突然なくなった、帰り道のセクハラ。
原因は分かってるけど、どうしてかは分からない。
「えっと、それは単純に心を入れ替えてな。べ、別に何かあったとかそういうんじゃないぞ」
怪しい。
絶対何かある。
えっと、の所なんて声が裏返っていた。
カズマの心変わりが起こった理由が、何となく不純なモノが原因に思えてきた。
「話が脱線するので、そう言う事にしといてあげます。兎に角、カズマは自分の事を責め過ぎです。アクアみたいに成れとは言いませんが、相手が許している事を何時までも、悩むのは止めるべきです」
「嗚呼、分かった」
この後、カズマが過剰に自分を責める事は少なくなった。
そして今日の出来事でまだ解決していない事が二つある。
一つ目は、カズマが誰と話していたのか。
二つ目は、あのお酒は一体何だったのか。
この二つの謎は多分、カズマに聴いても教えてくれないだろう。
また、機会があったら調べてみよう。
何と次もシリアス展開が待ってます。
何故か浮かぶのがシリアス系ばかりなんです。
謝罪文消す事が出来ました。
この文も数日後には消えているでしょう。
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