一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
毘天羅、私の身に何か有った時の為に個性と遺伝子を保存しておくための特別個体、その唯一の生き残りで“ワン・フォー・オール・アンリミデッド”をその身に宿す程ことができる今の私にとって最後の切り札と言える存在、その大きさは山を七巻き半するほどの超巨大であり、その一撃は一瞬にして地図を書き換える必要が出る程の災害級の破壊力。だけど、その体はあの戦いの傷が未だに癒えていない状態だ。
私の個性“ブラッド・ハザード”を使えば、ある程度の治癒は出来るが、これは対象にそれを治すだけの生体エネルギーがないと出来ない。更に
長年大きな悩みの種だった毘天羅の体調を少しでも良くするための餌(海の中にいるので主に魚類)は、その大きさ故に量が膨大、お腹を満たそうとしたらこの辺りの海域の生物がいなくなってしまうので、世界中を巡ってもらい悟られないレベルで餌を確保してもらった。前世では“個性”を使って異常な速度で作物を育てたり、餌を巨大化させて食べさせていたので、特に問題に感じたことは無かったが、ここまで維持が大変だったとは。
「個性“光合成”のお蔭でなんとか大丈夫になったけど……」
暗い帰り道、私は考え事をしながら家へ帰っていた。あの毘天羅は性格が紳士だからなにも言わないけど、その眼は“たまには腹いっぱい食べたいです、ゴ〇ブリ食べたい”と語っている。毘天用の餌として繁殖させているレッドローチとかデュビアはあまりに小さすぎるし、自身を巨大化させる“個性”はあっても、相手を巨大化させるものはない。というか、あの毘天羅が満足するぐらいの量と大きさを用意できても、捕食しようとしたら目立つ絶対に。
私が思うのも変だが、毘天羅を相手にするなら某怪獣王とか某光の巨人を呼んで来いってレベルだ。
転生した影響で前世で持っていた“個性”をほぼ全て無くし、あの毘天羅は”ワンフォーオール・アンリミデッド”だけを保有する為の個体だ。“個性”の収拾と調整、毘天羅と毘天達の世話、学校生活、オールフォーワンとしての活動、何もかも一人でやらなければならない、家族は隣にいない、寧ろ殺してでも止めないといけない強敵になっている可能性の方が大だ。
「さて、雄英高校の生活はどうなることやら」
数々のプロヒーローを輩出してきた名門校、それを狙うヴィランも必ずいる筈だ。ただの鉄砲玉ではない、闇の中でひたすら時を待つ狡猾な奴らが、その中にきっといる筈だから。
「おい」
考え事をしていると唐突に街角から出てきた影から手を掴まれた。周囲に配置している毘天から送られてくる情報で既に誰かは分かっていた爆豪さんだ。
「……なに、どうしたの?強姦?」
「寝言は寝て死ね」
どうしたのだろう?いつもなら手から火花を散らしながら威嚇してくるが、今日は随分と大人しい、その瞳は遠く感傷に浸っていたのだろう。
「こんなところで、なにしているの?今日か明日は合格発表の通知が来るんでしょ」
「合格した」
「おめでとう……って爆豪さんの場合は只の通過点か、トップヒーロー目指しているんだものね」
ということは既に兄さんにも結果が来ているな、私は合格している自信あるから特に心配はしてないけど、気になるな。
「当たり前だ、俺はオールマイトを超えるヒーローになる」
「そう、頑張ってね。学科は違うけれど応援しているよ。でも、せっかくの祝日なのにこんな場所にいるの?」
「それは俺のセリフだ……受かったのか?」
「珍しいね、爆豪さんが他人の結果を気にするなんて……ううん、まだ結果は見ていないけど合格している自信はあるよ」
「………けっ」
凄く嫌な顔された、落ちてほしかったんだろう。
「史上初!唯一の雄英進学者、お前の所為で俺の将来設計が早速ズタボロだよ!!」
「そんなこと一々気にする?トップになればそんな細かいことは関係ないと思うんだけど……後、お前じゃないから、きっと
「!?あのクソナード、“無個性”のあいつが受かるわけねぇだろうが!」
「“個性”なら発現したよ、ちょっと前にね、凄いパワーだったよ」
もし100%の力を完全にものにしたら、トップヒーローも夢じゃない。無茶しそうで怖いんだけどね。それにしても、爆豪さんが呆然と口を開いて驚愕する様は久しいな、昔危ない場所に子分達と行って落ちた所を助けた時だったっけ。
「嘘だろ、個性の発現は通常四歳までだぞ……!?」
「そうなんだけどね、奇跡ってありえるんだね」
まるでコミックの王道的展開だ。……まぁ、兄さんの反応見るに裏がありそうだから調べないといけないけど。誰がワンフォーオールを兄さんに渡したのかを。
「もう兄さんは道端の小石じゃない、爆豪さんの背中を今も追っている。気を付けないと超されるかもよ」
「ッ!!テメェ……!!」
握る手が強くなる。その視線に怒りが込められる。
「……そこ手術した所だから、あまり力込められると痛いんだけど」
「!!!」
毛虫でも触れてしまった様な反応速度で爆豪さんは私から離れ、複雑な表情をする。……まるで自分の所為だと罪悪感に沈んだような、兄さんと同じような反応だ。
「別に気しなくてもいいよ、この怪我は自業自得、無茶無謀をやった当然の末路だから」
「~~~~!!!」
下唇噛んだ状態で何か言葉を発しているように見えたが、爆豪さんの言葉は残念ながら私には解読不可能だ。
「それじゃあね」
そう言い残して駆け足で私は家へと帰る。爆豪さんがどれほど思いを心に抱いているのか知らないまま。
「「百合ぃぃぃぃっぃぃぃぃ!!!!!!!」」
因みに家に帰ると私を迎えたのは二人の涙と鼻水でぐしゃぐしゃな兄さんと母さんだった。結論から言えば私たちは雄英高校に合格していた。
◇◆◇
あいつとの出会いは、親同士が近所で仲良かったそれだけだった。
いつもおどおどして何も出来ない兄と、物静かでなんでもできる妹。
幼稚園児の頃からの幼馴染で、俺と妹の方にはいつも人が集まっていた。
俺の個性“爆破”を褒め称える事しかしない奴等と勝手に群れてついてくる奴等。
妹の方は俺より何でも知っていて、どんなことにも答え、仲間外れだった園児もいつの間にか自分のグループに引き込んでいてクラスメイトや先生にも一番頼られる存在だった。
気に入らなかった。俺より何でもできる奴が。
体力勝負や“個性”は俺の方がはるかに上だった。
なのに喧嘩では“個性”を使っても勝てない。
どれだけ裏で努力しても届かない。それどころか勝っていた筈の体力勝負が徐々に追いつかれそうになった。
大事なモノが崩れそうになる焦燥感、あいつの兄も何も出来ないくせに俺を他の奴と同じように扱う、徐々に俺の後ろに付いてくる奴らがいなくなる、嫌だ止めろ、俺を一人に……!!
『ばくごうってたいしたことないんだね』
ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!
焦って焦って、むかついてむかついて。
あいつを見下ろすことが出来るぐらいの、絶対的な功績があれば、誰も出来ない事をやれば俺はまた一位になれる、元に戻れる。そして俺は子分を引き連れて、入ってはダメだと言われた暑い夏空の下、山の中に適当な理由をつけて入って、雑草に隠れた穴にみんな落ちた。
怪我をして立てない奴がいた、家族の名前を泣き叫ぶ奴がいた。
状況が分からずどうしたらいいか分からない奴がいた。
俺は助けを呼ぶ為に必死に穴から登ろうとして何度も落ちた。
大丈夫、きっと誰かが助けに来てくれるから落ち着こうと言うデクの言葉を無視して、汗が滝のように流れ、体が熱くなって、頭がガンガン痛んでも無視して――――気づけば俺は動けなくなっていた。
俺以外の奴ももう泣き叫ぶ体力すら無く、もうダメだと思ったら。
『だいじょうぶ、わたしがいる』
朦朧とした意識の中で一番嫌いな声が聞こえた。
目が覚めるとそこは病院だった。
クソババアから思いっきり拳骨を喰らって、どんなことが起きたのか聞かされた。
デクの心配をした蜈蚣女が、こっそりと後を付いて行ったらしい。一度見失うが俺達の声で落ちたことに気付くと、炎天下の中を急ぎ走り帰って大人達を呼んで俺達が落ちた場所まで案内した。そして、大人に交ざって俺達を助ける為に色々やって終わった瞬間、俺と同じ症状で倒れた。後から聞いたが熱中症といって一歩間違えたら俺達は死んでいたかもしれない、と聞いて背筋が冷えた、俺がどれだけバカなことをしたかクソババアと普段温厚なクソジジイも怒鳴りつけてきた。
『きにしないでやりたいこと、しただけだから』
蜈蚣女はいつものように責めるわけでもなく、咎める事もせず、こんなこともあるさと軽く受け流した。俺がしたことで更に周囲に人が減っていった。危ない奴だと周囲から爪弾きにされた。でも、デクも蜈蚣女も俺に対する態度は一度も変わらなかった。
それが更にムカついて、蜈蚣女に喧嘩を仕掛けた。結果は
あいつが俺より本当は強かった事に気づいたのは、中学校に進学した頃だ。下着泥棒のヴィランを蜈蚣女が一人で倒した。相手は刃物を持っていたにも関わらず、蜈蚣女はそんなこと気にもかけず捕らえた。その事は大きく取り上げられ、多くのモブ達に囲まれて褒め称えられた。昔のように、しかし蜈蚣女は昔のように変わらず、それに付け上がる事もなかった、あんな“没個性”どころか誰からも嫌われそうな個性なのに、何時の間にか蜈蚣女の周りにはモブ達が集まっていた。
相変わらず俺の道をうろうろするデクが鬱陶しくて、なによりあの時勝たせてもらった事にやっと気付いてムカついて、思わずデクを殴った。その瞬間、俺はその様子を見た蜈蚣女に全く反応が出来ない速度で殴られた。
『……いつまでクソガキのままでいるの、貴方が一番見下ろしている兄さんより貴方の方がクソガキだ』
その時、蜈蚣女と互いに全力で喧嘩をした。あっちは火傷多数でボロボロ、俺は両肩外されて、他の奴らは引き分けだと言ったが俺は完全に負けていた。あの血の凍るような表情に勝てない、殺されると恐怖を抱かされた。それから俺達は互いに顔を合わせる事がほとんどなくなった、昔はデクと同じように“かっちゃん”と勝手に呼んできたが、“爆豪さん”と他人行儀になった。
漸く俺は気づいた。
俺はあいつのことライバルだと思っていて。
だからこそ、俺はあいつに一番認めてほしくて。
だけどあいつがいつも見ているのは俺より遥かに弱いデクで。
なのに、俺が危なくなるといつの間にか現れて勝手に助けて、感謝される事じゃないと直ぐに遠くに行ってしまう。
「クソが……クソ、が………」
どうして俺があのクソナードに
本当は雄英高校の話を書きたかったけど、そういえば爆豪について話し書かないと、短く済むやろ……と思ったらこの様です。
爆豪のキャラっていざ書こうとすると難しい。これが敵ならフルスロットルで書けるんだけど、一応ヒーロー側だからと考えると一々指が止まってしまう。
あと勝手に動き始める百合ちゃんよ、ちょっとお前無神経すぎない?
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