一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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生存報告、私生きてます。
寒くて寒くて指が……!


第十五話:激闘と帰還

 時刻は夜の九時頃、日の光が落ちた夜の時間。広大な敷地を有し多くの生徒が通い切磋琢磨する熱気あふれる雄英高校も静寂が溶け込んだような沈黙が風と共に流れている。多くの生徒たちは家へと帰り、プライベートの時間を過ごしているだろう、そんな中で雄英高校内の教師専用寮の一角ではヒーロー科1-A組の担任を務める相澤消太(あいざわ しょうた)は今日のヒーロー科実習における屋内での対人戦闘訓練のデータを再生していた。

 

 この授業はあの(・・)オールマイトが考案した物で、それを自身を含めた教師たちが調整して行われたものだ。数多くのヴィランをあらゆる場所でその手で倒してきた、オールマイト故に重要視する一つとして、ヒーロー役とヴィラン役に二人ずつ分かれて屋内で行われる戦闘訓練、限られたスペースでの過度な破壊行動をすれば失格となり、ビル内での制限された空間、会ってまだ数日しか経っていないクラスメイトと連携するコミュニケーション能力、設置された核兵器(という設定)の場所をヴィランの妨害の中で探し出し無力化するための作戦をすぐに考案実行する行動力等々、教師としてもこれから育てなければならない二十人というまだ孵ってすらいないヒーローの卵たちの実力を一人一人調べることができる理に適った内容だ。

 

 全五試合、一つ一つオールマイトが採点したテキストを見ながら拝見する。特に目を引いたのは推薦入試でもトップクラスの実力を発揮した轟焦凍だろう、訓練場のビル全てを凍らせ内部で待ち構えていたヴィランチームは何もできず氷結の波に自由を奪われ、核兵器もそのまま無力化、相対したチームは運が悪かったと思うしかない。すべてに目を通し、緊張感の欠けたもの、想像力が足りないもの等、多くの問題を抱えているが筋は悪くない―――――と個性把握テストでそう思っていたが、思わず頭を抱えてしまいそうな試合が一つあった。

 

 飯田天哉&爆豪勝己VS麗日お茶子&緑谷出久の試合を今一度再生した。

 

 腕からニトロのような汗を出し自在に爆破する個性でマンションの構造の中でも高速で移動することで、マンションに侵入した緑谷チームを奇襲したのは爆豪だった。高熱の爆風が侵入者(ヒーロー)達を襲うが、身体能力強化の個性(ということになっている)の緑谷は予測していたように麗日を抱えて地面を強く蹴ることでそれを回避する。

 入学試験の時から見ていた決して派手な"個性"ではない、その力と速さは本人も完全に扱い切れないほどであり、体を壊すほどの全力時の破壊力はあのオールマイトの"個性"に匹敵するほどだ。

 

 避けられた事に青筋を立てて至近距離で爆破を狙おうと突貫する――――より先に、緑谷は動いた。瞬時に距離を詰める速さに驚愕の顔色を見せたが迎撃のための右手が既に動いた、凄まじい反応速度だったが、その動作を予想していた緑谷が先に伸ばした左手を振るうことで発生した風圧で狙いが外れた、その刹那、懐に潜り込んだ緑谷の右のストレートが爆豪の顔にねじ込まれた。

 

『があぁぁッ!!』

 

 後方に吹き飛んだ爆豪を更に迎撃することも出来る。更に単純に数の差でも勝っているが緑谷が選んだのは爆豪との一対一の勝負だった。困惑する麗日に対して緑谷はこう言った。

 

『かっちゃんの"個性"だとこんな狭い空間で大爆破なんて使われたら二人ともやられる!麗日さんは飯田君をお願い!!』

『それだとデクくん一人やん!大丈夫やの!?』

『……あの地獄の十か月の中で教えてくれたこと、もしかしたら百合はこんな展開を予想していたかもしれない、口では言わなかったけど今なら分かる、何度も喧嘩したから知っているかっちゃんと同じような動きで百合は僕に戦い方を教えてくれた』

『戦い方って……もしかしてデクくんの妹さんって物凄い人なの?』

『うん、世界一自慢できる妹だよ』

『……分かった!武運を祈るぜ!!デクくん!』

 

 麗日は手を振りながらその場から撤退する。

 その間、一度も振り返ることもなく緑谷の視線は壁に叩きつけられても大したダメージではなさそうに平気で立ち上がり般若の表情を見せる爆豪に対する恐怖心で揺らぐことなかった。 

『死なすつもりはないけれど、殺す気で行くから』。と、あの砂浜で肉体的にサンドバッグのように叩き込まれ、殺気と戦意を心底まで焼き付けられた緑谷は、あんなのに比べたらかっちゃんに爆破されたほうがましだと思うほどの暴力を知った。

 

『デク………お前、オマエェェェェ……!!!』

『……もう出来損ないのデクじゃない、今の僕は頑張れって感じのデクだ』

 

 彷徨う幽鬼のように活力を感じられないが、その両手には鍋の中の沸騰した水のように小さな爆破が起きている。まずはと緑谷は走り出した、逃げた麗日とは別の道へ。支給品の一つであるこのマンションの構造を脳内で浮かべながら、少しでも自分に有利な場所へ。

 

『――――俺から逃げるんじゃねぇぞ!!クソナードォォ!!!』

 

 予想通り追いかけてきた。と内なる衝動と少しでも気を抜いてしまえば一気に追いつかれると新兵のような震える足で緑谷はフルカウル状態で走った。速さはほぼ同じだったが徐々に距離を詰められているように感じられた。汗が媒体となる“個性”故に体温が上がり発汗が良くなると、それだけ爆破の威力も増すだろう、更に並外れた反射神経によって急なカーブも速度を極力落とさず対応する。

 

『やっぱりかっちゃんは凄いなぁ……』

 

 だからこそ勝ちたい。小さな声に秘められた大きな決意の意思をマイクは確かに拾った。

 

『―――――面白かったかよ』

 

 対照的に爆豪の心境は荒れ狂っていた。

 ずっと見下ろすだけの存在だった、

 自身と比べるまでもない無個性だった、

 どれだけ突き放しても追いかけてきた、

 情けなく虐められても最後には奴の妹が何もかも解決していった。

 

『蜈蚣女に鍛えられたんだろ!?あいつなら俺の癖ぐらいよく知っているからなぁ!!さんざんぶっ飛ばしてきた俺を倒せば一人前って蜈蚣女に言われたのか!!』

『――――え?』

 

 この言葉に出久の動きが止まった。

 その一瞬の、致命的な隙に爆発の衝撃が襲った。

 殺意を込めた一撃に咄嗟に両手で顔を守った出久は吹き飛ばされ、壁に体を大きく打ち付ける。同時に集中力が必要であるフルカウル状態が解けた。

 

『おらぁ!死ねぇ!!』 

『(右からの大振り……!!)』

 

 鈍器のように横殴りに振るわれる右に意識と視点が集中した。もし、出久がもう少しフルカウル状態を維持し冷静でいたのなら、爆豪全体の動きを見ていただろう。それだが罠であることを予測できていたであろう。

 

『――――がぁッ!!?』

 

 出久の目の前で起きた右の赤と黒の爆発の光に思わず怯み、体が硬直する。両手の爆発を推進力にして、体を器用に回転させながら大鎌のように振るわれた蹴りが煙幕を切り裂いて出久の無防備だった顔面に突き刺さる。吹き飛ばされた出久を爆豪は容赦なく追撃する。

 

『お前をいくらぶっ飛ばしても、昔のように蜈蚣女はここに来ねぇよ!クソナードてめぇはあいつがいないと個性持ちになっても何も変わらねぇデク人形のままだ!!』

 

 爆破、格闘、爆破、格闘の嵐だった。相手に考える時間を許さない猛攻の前に血混じりの吐瀉物を吐きながら、出久は必死に建物の奥へと進む、そこは広いスペースがある窓が多い場所に壁を背にするようにユニフォームの至る所が焼き切れたボロボロな体で出久は千鳥足で立ち上がる。

 

『……そうだよ、僕はずっと…………百合に守ってきてもらった。無個性って理由だけで虐められた時、百合は僕を助けてくれた、無個性でヒーローを諦めろと皆が言っていたのに百合だけはなれると僕を信じてくれた……僕の頼りない体を百合も受験あったのに傍で鍛錬に付き合ってくれた』

『………ッ!!』

 

 ギリッと歯と歯が軋む、それは心のどこかで憧れていた体験だった。

 怒りが溢れる、心の底から黒い感情が沸き上がる。

 どうして自分より弱い奴が、欲しかったものを独り占め出来ているのだと。

 ほとんど見向きすらされない、一方的なライバル視から何も関係が変わらず対等の立場で競い合いたい願いは、叶うことなく別の学科に行ってしまった。

 

『かっちゃんは知らないかもしれないけど、百合は心の中に闇があるんだ。想像もつかない途方もない闇が……僕はそれを照らしてあげたい、守ってあげたい。百合に心の底から安心して笑ってほしい……だから!!』

 

  

 ―――――百合と対等だった君に勝ちたい。

 

 

 その言葉に、爆豪の導火線に火が付いた。

 

『ふざけるなぁぁぁ!!!』

『フルカウルッッッ!!!』

 

 

 ぱたんと相澤はそこでノートパソコンを閉じた。

 

「ガキの喧嘩か?」

 

 そのあとの展開はお互いに広くも狭くもない部屋で爆撃と拳打が響き合った。最後は出久が試合開始から拳しか使っていないことを逆手にとって、意識外からの蹴りの強襲が冷静さを欠いていた爆豪を窓枠ごとビルの外へ吹き飛ばし判定負け。心身ともに消耗しきっていた出久はその場所で気絶。

 残った者同士の飯田天哉&VS麗日お茶子となるが、個性相性は麗日のほうが圧倒的に不利であり健闘虚しく捕まり、ヴィランチーム勝利という呆気ない勝敗だった。

 

「互いに目の前の相手に夢中でチームの話を一切聞いてないし、連携とか皆無に等しい。戦闘能力は評価するが、ヒーローとしての行動は失格っと」

 

 はぁと乱れた髪を掻きながら相澤は妖しく光る月を見ながら今年の問題児をどう教育してやろうかと頭を抱えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 今日は最悪の日だ。どうしてかって?この世で一番ヤバい怪物がまるで我が家に帰ってくるような軽さで突然隣の席に音もなく現れたからだ。

 

「久しぶり弔くん、元気にしてた?」

 

 毒婦のようなおぞましい声が俺を呼ぶ。返事をせず、目も合わせず、目の前の黒霧を睨みながら声を出す。 

 

「…………おい、黒霧、誰がここにいる最悪のイカれ野郎にこの場所を教えた?」

「私は教えていません」

「せっかくこの国に帰ってきたお姉さんにその態度は何かしら?あ、場所は個性で調べたわ、正確には黒霧さんが個性で逃げ帰った時の思考を読んでここに辿り着いたわ」

「………おい」

「死柄木弔……このお方の前では常識なんてありません」

 

 ……チッ、先生と同じ”個性”。いや、それが更に進化した最悪最凶のチート個性の前では俺らのような雑魚(・・)の常識こそ、こいつの前では非常識か。

 

「お父様に聞いたわ、雄英高校襲撃事件、面白そうじゃない。ふふふ、こんなことちゃんと考えるまで成長するなんて姉として嬉しいわ。あ、黒霧一杯頂戴」

 

 金色の中に悍ましく煌めく双眸が愉快な物を想像するように歪む、見なくても分かる。こいつはそういう奴だ、人間を人間と見ていない、雑草を踏むように簡単に殺す。それも一度に大量に、もしこいつが解き放たれたらこの国は終わるだろうな。ヒーローもヴィランもそれ以外も全て平等に。

 

「……来る気か?」

「成長した弔くんの成長が見たくてね、お父様から許可は貰ってきたわよ」

 

 許可が有ってもなくても、こいつは関係なく自分が楽しい方向に行くだろう。先生もこいつの対応には細心の注意を払っている。下手すれば自分の個性、全部持ってかれる可能性があるからな。対平和の象徴怪人でも全く相手にならない。精々数秒持つかもしれない肉壁程度だ。

 

「はい、プレゼント」

「……なんだこの紙束?」

 

 どこからともなく渡された封筒を開けて目を通す。そこにはガキどもが”個性”使って戦っている画面を写真に収めたものだ、それもたくさんの。

 

「……なんだこれ?お前まさかそういう趣味か?」

「いえ、死柄木弔……これはまさか」

「今期入学した雄英高校のヒーロー科の小さな虫達が健気に頑張っている写真よ。明日は別クラスのを用意出来るかもしれないわね」

 

 そう言って黒霧が用意したウィスキーを口に注ぐ。ちょっと待て、まだ雄英高校のスパイから何も情報が来てないのに、どうしてこんな写真をこんなに早く用意している!?

 

「不思議な顔をしているわね、既に私の子機は雄英高校の普通科にいるわよ。私の”個性”で手足のように働いてくれるの、直ぐにばれると思って自爆の用意していたのに、意外に大したことないのね雄英高校とやらは……それを使って襲撃作戦の完成度を更に上げなさい。捨て駒の手下の”個性”もちゃんと把握して、場所決めをして、ちゃんと駆除できるようにね」

 

 まるで遊園地の開場を待つ子供のように、悍ましい殺人鬼が獲物を楽しそうに研ぐように。そいつは無垢な禍々しい笑みを浮かべがら、グラスに入った氷を鳴らした。

 

 

 




今年最後の投稿、感想評価等、本当にありがとうございました。
仕事しながら妄想で原作でのここをどうやって改変してやろうかとずっと考えながら、でも帰ったら疲労困憊で眠ってしまう毎日でしたが何とかこんな形ではありますけれど書けました。良かったら来年も感想評価等よろしくお願いします、よいお年を!!
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