一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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やっつけだぜ。
あ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


第十六話:見つけた

 これは簡単な話だった。冴えない中学教師を攫って殺すだけ、ただし直ぐに殺すのではなく数日だけ生かしてから、と。彼自身も含めたヴィラン達は高額の依頼金を前に悠々と受けた。ヒーローやその身内、政治家などではない一般人の誘拐はとても簡単なもので、夜道の人気がない場所を歩いた瞬間、誘拐した。簡単すぎて何人かが裏があるんじゃないかと疑ったが、既に遅すぎた。

 

 ――――蜈蚣(・・)に見られた。

 ヴィランと繋がりがあるホテルに誘拐した男と共にチェックインして依頼達成の金が来るまで夜まで待機していると誰かが罵倒と共に蜈蚣を踏み殺した。ヴィラン達がその様を笑っている、蜈蚣を殺して顔を青くしながらヴィランが言う。「こいつはオールフォーワンの手先だ」と。その言葉と共に部屋の電気が消える――――同時に悲鳴がホテルに響いた。

 

 

 携帯端末で誰かが悲鳴の元を照らす、そこには壁と同化(・・)されたヴィランの姿があった。

 

 

 ――――悪夢のようだった。

 電源が切られていたはずだが、エアコンが勝手に(・・・)動き始めた。空気に味が感じられた瞬間、毒だと気づき部屋から出ようと”個性”でドアを破壊、逃走を開始する。逃がさないと訴えるように暗闇の廊下の至る所から次々と蜈蚣が現れる。ある者は噛まれた瞬間白目を剥き口から泡を吹きだしながら倒れ、曲がり角に仕掛けられた蜘蛛の巣のように広げられた糸に捕まり、蜈蚣達を振り払おうとするが体の中に次々と侵入されていき発狂する者もいた。

 その中で彼は、集められたヴィラン達の中では一番の実力者、溶接された窓ごと膂力で破壊して外に飛び出すことができた。そして、まるでここに来ることが計算されていたように漆黒のコートで身を隠されている話題の善性ヴィラン――――オールフォーワンがそこにいた。

 始まった戦いは、大人と児童の差のように明白だった。自慢の膂力は真っ向から受け止められ、更にそのまま拳を砕かれた(・・・・)

 

「この誘拐は貴方たちの意思?それとも誰かに頼まれた?後者なら誰がこんな下らないことを頼んだのか教えて」

「ぐ、あ、ぁぁ……」

「話して」

 

 また体が空に浮かぶ。その口調は穏やかだが、その内には確かな怒りが込められていた。

 

「ごほっ……マジか、よ……」

「……よく見たら《血狂いマスキュラー》か。そうなると後者か、貴方は群れるタイプじゃない、力で動かされたか、金で動いたか、……」

「――――最高じゃねぇか」

 

 オールフォーワンは背中から蜈蚣はない大きさの蜈蚣を四匹生やして距離を空ける。

 

「他のやつらは金、金、金だったが……俺は違う。依頼者さんは親切に俺の見えない左目の代わり(・・・・・・・・・・・・)をくれたばかりか、欲求を晴らしてくれる場所を用意してくれると言ったんだ。はははっは!!マジで強いなお前!!」

 

 無残に拳を潰された手が肉の繊維に覆われた。彼の纏っていた雰囲気が変わり体中を纏う肉の質が更に濃密に、更に体中にポンプのような器官(・・・・・・・・・・・・)が現れ、血流を加速させていき、流れる汗が蒸発するほどの熱が距離をとっているはずなのに感じられ、その左目は蠅のような多眼(・・・・・・・)だった。

 

「――――――お褒めの言葉として受け取らせてもらうよ《血狂いマスキュラー》」

「行儀がいいねぇ、その目の奥でどんな化け物を飼っているんだ?」

「あなたに見せるまでもない」

「そう言われてるとますます見たくなるねぇ」

 

 オールフォーワンは待機させていた毘天たちを通して近隣の住民の避難を促す。―――それは、今まで戦ってきたヴィランとレベルが違い、周囲の環境を気にしている余裕はないという判断だ。

 

「お好きな手段でどうぞ?抵抗はさせてもらうよ」

「俺好みの返しだな。それじゃ――――血を見せろ!!オールフォーワン!!!」

 

 その日、折寺市の隣の奈部市の内にある冴えないホテルの近くにて二人のヴィランが衝突することになる。二人の衝突に駆けつけたヒーロー達は、手足を完全に破壊(・・・・・・・・)された状態で病院に運ばれる《血狂いマスキュラー》と流星群でも降り注いだような惨状を見ながらマスコミに対して「私達が見てきたオールフォーワンは今まで手加減をしていた、あれはもう人間じゃない化物の類だ」と恐怖に押し殺した声で答えた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 《血狂いマスキュラー》が逮捕された!と昨日の……いや、ギリギリ日付は変わっていたかな。朝からニュースキャスターが現地入りして生放送をしていた。もし奴自身の”個性”のみなら、何時ものように一撃でなんとか出来たかもしれないが、元々の”個性”を強化する”個性”を与えられていた。もしオールマイトなら数発で済んでいたかもしれないが、速さはともかく、あれほどの破壊力を出す方法がなく。それでも奴の貰ったらしき”個性”である【ポンプ】と【多眼】を使いこなしていたら、もっと手強い存在になっていた。

 倒した後、周囲の惨状を直すことになる人たちに心の中で謝罪しながら、誘拐された先生(毘天を通じて解毒剤注入した)を助けられたし、捕まえるときに乱暴されたようだが、それ以降拷問めいたことはされていないようで良かったと思いながら駆けつけたヒーロー達に渡して私は大急ぎで逃げた。どうして急いだかと言うと、私が去った十秒後にオールマイトがやってきたからだ。危なかった。

 

「あ、指切った」

「百合っ!?」

 

 大丈夫大丈夫と母さんに言いながら、浅く切ってしまった指を口の中に入れてキッチンから出ると直ぐに兄さんが救急箱から絆創膏を出して渡してくれた。

 

「ありがとう兄さん」

「どういたしまして……初めてじゃない?百合がこんなことするなんて」

「そうよ、何か思い耽った顔だったし、やっぱり雄英高校の生活じゃない?中学校と違って勉強速度とか全然違うでしょ?」

 

 心配する声にもう一度大丈夫だってと言い返す。どうもこの頃兄さん母さん二人とも「相談事あるなら何でも聞くよ!」って圧が凄い。気持ちは非常にありがたいが、この問題は私の前世での話で、そんなこと言っても信じてくれるとは思ってないし、大事な家族に命の危機に繋がるような内容を話せるわけない。これは私だけの問題なのだから。

 

「大変だったら毎日お弁当作らなくてもいいのよ?雄英高校の食堂って格安なんでしょ」

「なんでそんな話になるの?私はいつものように元気よ」

 

 絆創膏を切ってしまった指に巻く。二人の眼差しは一向に変わらない。

 

「……そんなに私無理してるように見える?」

「「見える」」

 

 自己鍛錬に家事の手伝い、毘天のお世話に勉強にオールフォーワンとしての活動を含めても毎日二、三時間()眠れているし、そんなに気を張っているように見えてしまうのだろうか?原因と言えば、遂に私の問題の原因が動き出したかもしれないということだ。前世なら何が起きても冷静で居られたのに精神は随分幼くなってしまったと実感する。

 

「―――善処、するよ」

 

 ため息交じりに答えると目を輝かせる。私をダメにしたいのかこの二人は。

 

「あ、今日のお昼時間ちょっと時間いい?」

「大丈夫だけど……どうしたの?」

「紹介したい人がいるんだ、あの人は百合のこと知っているみたいだけど」

 

 分かったと頷く兄さんの頼みなら断る理由はない。よくお昼ご飯を一緒に食べる写原さんには悪いけど今日は他の人と食べてもらおう。

 

 

◇◆◇

 

 

「初めまして私は1-A組ヒーロー科の八百万 百(やおよろず もも)ですわ!」

「1-C組普通科の緑谷 百合です。……えっと、どこかでお会いになりましたか?」

 

 昼休み食堂で、兄さんが紹介している人に会ってみるとやっぱり初対面の人だった。一応毘天を通して一方的に見たことはあるけど、私自身初めて会う人だった。しかし、本人は目を輝かせて、まるで旧友と出会ったような様子だ。

 

「それは仕方ありませんわ、私も貴女に出会ったのは初めてですから」

「………???」

 

 あっちも初めて出会うのに私を知っている?どういう意味?

 気品を感じる言葉使いと姿勢、お嬢様な立場の人に出会ったことないけど。

 オールフォーワンとしての活動時、誘拐監禁された御曹司とか助けたこともあったけど、記憶にない。

 

「……ずっと貴女のこと私はライバルと思っていたのに」

 

 待てよ、互いに会ったことないということなら、名前は知っている過程で考えていこう。八百万 百(やおよろず もも)さんという名前を聞いたとき既知感は有った……あ。

 

「小、中全国模試で常にベストスリー入っていた人……で合ってる?」

「正解ですわ!」

 

 向日葵のような笑みを浮かべて私の両手を掴む八百万さん、確かにお互いに会ったことはないけれど競い合ってはいた、テストの点数で今度は勝った、今度は負けたと思い出してみれば、確かに私は彼女を競う相手として意識している人だった。

 

「……すっっごい偶然、確かに同世代だとは思ったけど雄英に来てたんだ。兄さんから受験内容、聞いたけど大変だったでしょ?」

「私、一般受験ではなくて推薦ですわ」

 

 尚さら凄い、確か推薦席はヒーロー科は四人だったはず。その中で選ばれたエリートの中でのエリートだ。そんな人に私はライバルと思われていたのか、少し嬉しいな。

 

「えっと積もる話もあるから席に着こうか、どうぞこちらへ」

 

 ふと前世で突然イリスが、お嬢様プレイしたいとか、ちょっと頭大丈夫かなと思いながら付き合ったことあったなと思い出しながら、案内しようとすると八百万さんは目を丸くして、微笑んだ。

 

「どうしたの?」

「ごめんなさい、まるで我が家の執事のことを思い出して……」

 

 あ、やっぱりお嬢さまだったんだ。

 それから、ちょうど窓際の二人席が空いていたので案内して、私はお弁当だからその場でバッグを置いて、八百万さんは明らかに一人前じゃない量の料理をトレーに持ってやってきた。今度はこちらが目を丸くしてしまった。

 

「た、食べるんだね」

「ええ、私の”個性”は【創造】と言って、脂肪を別の原子に変更して体から取り出すことが出来ますわ」

「……凄い個性、やれることたくさんがある」

 

 素直に言葉が出る。同時に私が前世で使っていた”個性”の一つだった。色んな場面で役に立ったことがある。取り出す部分を調整すれば至近距離の奇襲になり、異物を植え付けられた時も体を傷つけず体外に排出することができる。これは彼女だけしかできないが本来なら生命は作ることが出来ないのを可能にして、多くの”個性”を併用して一夜で大軍を作り出したこともあった。

 

「似てますわね緑谷さんに」

「兄さんと私のこと?あ、私は百合でいいよ兄さんとどっちか分からなくなるから」

「では私のことは百と呼んでください、百合さんと緑谷さんは”個性”を自己解釈してその応用を考えているときの目がそっくりですわ」

 

 そ、それはちょっと恥ずかしい。でも、そうなんだ兄さんと似ているんだ。

 

「ふふ、その表情を見れば分かりますわ。本当に仲がいい兄妹ですのね」

「うっ……あの兄さんが何かご迷惑をかけていませんか?」

「まだ同じクラスになって日は浅いので彼のことはまだ良く知りませんわ。ですが、強い個性を活かすために辛い鍛錬を積んできたのは、この前の実習で肌で感じられましたわ」

 

 実習、というと昨日爆豪さんと戦った時の。

 一瞬爆豪さんの様子が気になったが、気にしない。幼馴染だけど私は兄さんのように彼をよく思っていないから。

 百さんは色々食事しながら、雑談を楽しむ。今日は学級委員長を決める日で副委員長になったけど本当は委員長になりたかったとか、私は委員長になったことを言うと悔しがったり、兄さんはクラス全員の前で僕の妹は世界一と唱えたり、いろんなことを話してくれた――――だが、

 

『(ゴ主人、緊急事態デス)』

 

「(どうした?)」

『(コノ学園二侵入者、校門ヲ崩壊サレタ)』

 

 毘天の声と共に立ち上がる。その瞬間、けたたましい警報が響き渡った。

 

「な、なんですの!?」

『セキュリティ3が突破されました生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

 放送が流れた。百さんも立ち上がり、突然慌ただしく食堂内に目を向けた。

 

「セキュリティ3って……」

「確か校舎内に誰かが侵入してきた案件ですわ」

 

 学生手帳にそんな内容書いてあったようなと思い出しながら毘天たちが送ってくる情報に意識を向けた。侵入者は朝にもいた多くのマスコミ達だった。既に何人かはカメラを持って食堂の窓からシャッターを押している。迅速に行動する多すぎる生徒たちは出口へと走りこむ為にパニック状態へとなってしまった。私は百さんの手を掴んで直ぐにマスコミ達を指差しながら状況を説明する。

 

「侵入者はマスコミ、では雄英バリアーはどうなっているのでしょうか?」

「分からない」

 

 この学校を回るように敷かれた校門は最新鋭の技術で作り上げられており、生半端な”個性”で破壊されるような物ではない。だが、毘天は崩壊されたと報告してきた。ということは今侵入してきているマスコミの中にいるのか、或いはこの状況を作り出すことで学校側の人員を校門に集中させて、本命は既に校舎内にいる可能性がある。

 

「……場の空気に流されてはいけない。俯瞰して冷静に自分に何ができるかを考えよう」

「………ええ、ありがとうございます。落ち着きました」

 

 それから私達は近くにいた生徒たちにマスコミ達の姿を指差しながらあれが侵入者だから、問題ないと落ち着かせて他の人にも同じように伝えるようにお願いして回った。その後、兄さんとよく一緒にいるのを見る飯田 天哉さんの活躍のおかげで場は落ち着いた。

 

「なんかごめん、こんなことになって」

「百合さんが謝ることなんてありませんわ。こちらこそごめんなさい、直ぐに取り乱してしまって……もしよかったらまたこうやって一緒に食事をしませんか?百合さんとのお話とても楽しかったですわ」

「……うん、私も百さんと話せてまた世界が広がった気がしたよ、私こそ良ければまた」

「……はい!」

 

 そうお互いに握手をしてお昼時間が終わった。確か兄さんとよく一緒にいるもう一人の麗日 お茶子さんの”個性”によって飯田さんを浮かべて”個性”による加速で一気に出口の上に到達、そのままパイプを掴んで姿勢を固定して端的に必要な情報だけ流して場を一気に治めるその光景を見ながら胸が熱くなった。あれが未来のヒーロー、楽しみだ。オールマイトだけじゃないけどこの学園の教師(プロヒーロー)にどう鍛えられて素晴らしいヒーローになるのか、どんな未来を作り出すのか楽………ん?

 

「……マスコミ達の様子が可笑しい」

 

 警察が到着しているが、しつこくマスコミは帰らず()をカメラで撮っている様子だ。何か雄英高校に対する悪評でも書かれていたのか?

 

『(ゴ主人!!緊急事態デス!!!)』

「(どうした?)」

 

 脳内に送られる情報は、先ほどとは違って感情が乗るほどの切羽詰まった様子、もしかして雄英バリアーを崩壊させたとかいうマスコミかヴィランが居たのか?

 

『(……お伝えします)』

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(雄英高校入学おめでとう、オールフォーワン。あなたの愛しい人より)』

 

 ―――――ああ、イリス。

 貴女はいつも私より先に行ってしまう。

 

 

 

 




やっとここまでこれたぁぁぁ!!

個性紹介
個性【ポンプ】
体の至る所にポンプのような機関があり、血流速度を加速させることで身体能力を向上させる個性。《血狂いマスキュラー》自身の個性と組み合わせた結果、オールマイト程ではない一歩劣る程の怪力と速さでオールフォーワンを翻弄したが、知ってる個性故に至近距離の殴り合い時にポンプ部分に毘天達を侵入され【ブラッド・ハザード】により暴走、そのまま制御出来ずに手足を暴発させた。

個性【多眼】
左目を負傷した《血狂いマスキュラー》に新たに植え付けた個性。蝿や蜻蛉の如き量の眼で並みの人間ではありえないほどの視点の広さが特徴。ただ、オールフォーワンとの戦いでは直ぐに特性を理解され徹底的に右側を取られており性能を活かしきることは出来なかった。



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