一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
『オールフォーワンが雄英学園に入学したという噂は本当ですが!?』
『えー調査中です』
『オールフォーワンの危険性について雄英学園側はどのような認識でしょうか、対策は既にしてあるのですか!?』
『えー機密事項です』
『オールフォーワンという存在に個人的にどうお考えなのでしょうか!?』
『ただのヴィランです。それ以上に言うことはありません』
「……なんだかすごいことになったわね」
母さんがテレビを見ながら茫洋な声音で呟いた。
「相澤先生、大変だなぁ……」
「あの人が兄さんたちのクラスの担任なんだ?」
そうだよと頷きながら味噌汁を啜る兄さん。少し調べなきゃ分からなかったけど確かヒーロー名は『イレイザーヘッド』。見る者の個性を消す【抹消】という強力な個性を持つ。個性に依存しているヴィランからすれば天敵だ。
「母さんあまりオールフォーワンについて深く知らないけど、凄い人なの?」
その素朴な疑問に対して兄さんは、少しの沈黙の後に語り始めた。
「まずオールフォーワンが活動を開始したのは今から三年前と言われているよ。その時は蜈蚣を纏い街中を飛ぶ悪趣味なヴィランという認識だったけど、ヴィランを倒すより先に周辺の住民を避難させることを優先する、ヒーローが戦闘を行っている場合は助力はせずにこれも住民の避難を先に行う。もしヒーローがピンチになったら初めて戦闘に加入する。因みにその実力は基本一撃で終わらせるためとんでもない強さだと噂されているよ。個性は不明、だけど個性をコピーできるみたいで体格を自由に変えていて正体はいまだ謎のまま……と言った具合かな?」
「……まるでヒーローを見守るヒーローみたいね」
母さんの無自覚な呟きに内心否定する。それは、世間を敵にしたくないだけ。見つけられて、即通報なんかされたらオールフォーワンとしての活動が困難になってしまうから。それに彼らがしていることは国に認められた合法的な仕事だ、もし私が何もかも解決してしまったら彼らが信用がなくなり、廃業になってしまうかもしれない。未来の可能性という花を摘むような非道なことは絶対にしない、したくない
「うん、それは僕も思ったことある。非合法だけど、やっていることは確かに人を助け守っている、そしてヒーロー達に敬意を払っているような姿勢も感じるよ」
「そんな人が雄英高校に入学しているのかしら、本当なら今は出久と同じ歳でオールフォーワンとしての活動は……中学校に入学したぐらいじゃない」
前世だと来る前に
「だから僕はヴィランが雄英高校を混乱させるためにデマだと思っているよ。確かに正体不明でも僕らと同じ歳と考えると現実味が無さすぎだよ。最初から一人でヴィランを退治できるぐらいに強くて今は更に強くなってきているのに、雄英高校に入学する理由が思いつかないよ………百合?」
「静かと思ったら手を付けてないじゃない、今日はおなか減ってないの?」
「―――――ううん!今日も母さん料理がおいしそうで何から手を付けらたいいものかと、ははは」
「変な子、これぐらい毎日作っているのに、百合もこれぐらい作れるでしょ?」
「母さんの味はまだ出せないよ。いただきまーす」
「……………」
横から向けられる。兄さんの神妙な顔と視線から逃げるように私は急いで母さんの手料理を胃の中に送り込んだ―――――私自身驚いてしまった、雄英高校に入学しようとした理由、それを胸を張って言うことが出来ないなんて。
◆◇◆
モヤモヤした感情を抱いたまま私は、何時ものように寝たふりをしながら深夜の時間まで待って、毘天の個性【同化】を利用して部屋から外に出た。
「よし、行こうか」
『了解、ゴ主人』
周辺の人影は一切ないことを毘天を通して入念に確認して、【脚力増加】と昨日手に入れた【ポンプ】を併用して一気に跳躍、景色が変わりフェーズⅠからⅡへと段階を進め背中から生やした四対の毘天が後方に向き口から火を吹くことで加速――――さぁ、ヴィラン退治の始まりだ。
「ううーー!!!」
「むーーむーー!!」
「……大丈夫、私がいる」
今夜は、まず二人組の強姦魔を捕まえた。あともう少し遅かったらと想像すると前世の痛い記憶が蘇りそうになるので頭を振って考えないようにする、まずは目の前の被害者だ、服を一部引き千切られた震える女性に手を出す。
「あ、ありがとうございます。オールフォーワン!」
「どういたしまして」
差し出した手を握ってくれた女性を立てさせようと少し力を込めて引っ張るがうまく立ち上がれない、女性は私に謝罪の言葉の口にした。
「ご、ごめんなさい腰が抜けちゃって……」
「分かった、こいつら引き連れて交番まで行くけどいい?」
大丈夫だと返してきたのでコートを脱いで女性に被せた。オールフォーワンとしての活動時は私に繋がるようなものは持ち込まないし、女性が抵抗した際に落ちたバッグから飛び出した携帯端末に触れると電源が付かないので、これしかない。
「え……あの、素顔……見えちゃってますけど」
「ん?別に意図的に隠しているわけじゃないよこれ、こうした方が集団戦の時に誰を狙っている分かりづらく出来るから」
それに顔を見られても問題ないように、【ブラッド・ハザード】で私の顔は前世の私の二十歳ぐらいの顔へと改造している。何億人も救い導いておいて、最後に一人のために全てを見殺した大罪人の金色の闇の双眸が、傷だらけの顔が見えているだろう。
「……女の人!?」
「さぁ、どうでしょうか?」
クスクスと場を和ませるために笑ってみる。中性的な顔つきなので、男か女かは分かりづらいが、この人からすれば同性のように見えたようだ。
「では失礼します。お嬢様」
「あ、あう……」
可愛らしい顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。私のコートで首から下が見えなくなった女性を足と背中に手を回して持ち上げる。所謂お姫様抱っこという奴だ、二人のヴィランは【粘着糸】でグルグル巻きにしている状態で背中の毘天で巻いて持ち上げた。
「行くよ、舌を噛まないようにね」
とんっ、と人気のない路地の壁と壁を蹴りながら生ゴミと煙草臭かった空間から抜け出した私は、建物の屋上を足場にしながら近くの交番を目指す。
「あ、あの……あれって本当のことですか?」
「あれ?」
「貴女が雄英高校に入学したって噂が……」
あぁ、あれねと大袈裟に呆れたため息を吐きながら答える。
「全く誰だよ、あんな的外れたこと書いた馬鹿なヴィラン」
「あははは、やっぱり違うんですか」
当たり前だ。決まった時間に毎日行っているオールフォーワンとしての活動をここで休止したら、本当に関係者と思われる。こういう時こそ、迷惑そうにしながらいつもと変わらない活動をするほうがいい、名も知れぬヴィランの落書きと私自身の言葉、どっちを信じるのか考えなくても分かる簡単なことだ。しかし、私が私だと思われるために顔を見せるという行いは必要なこと。
「もし貴女にメディアの知り合いがいれば言ってくれませんか?あれは間違いだって……私の顔を見てくださいよ、これが青春の十五から十六歳に見えますか?」
「……見えないです」
良かった、良かった。一人誤解が解けた。あとは交番に送り届けて態とらしく建物内に監視カメラとかに私の顔を記録してもらえばいい、個性を使わない規則がある警察側がいきなり個性使ってでも私を捕まえようとはしないはずだ……してきても即逃げられるように心構えはしておくけど。……それにしても明らかに残念そうだなこの人。
「どうしてヒーローになる道を選ばないんですか?貴女のような人がヒーローになればもっと世の中が安心できます!」
「………ヒーローになるってことはヒーローに縛られ続けるということ、それが私には出来ない」
この顔を見ろ、この血に染まった手を見てみろ。
「ごめん、私は――――きっとまた同じことを繰り返す」
みんなを選び続け、最後に一人を選んだ。
そのことに罪悪感はあっても、後悔はない。
そう思ってしまう私自身が一番恐ろしい。
もうあんな気持ちになるぐらいなら最初から一つを決めてしまおう。
…………私はもう私に諦めてしまったのだ。
次回からいよいよUSJ襲撃編!
原作とかなり別にする予定(果てしてうまいこと書ききることが出来るだろうか……)