一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
日常と化したヒーロー科での生活は僕にとって驚きと興奮の連続だ。街の一角をそのまま再現した訓練場の中で行われる訓練は、まるで自分が事件の現場にいるような緊張感と焦燥感の中で必死に走り、考える日々。困っている人、傷ついた人を笑顔で守り助けることが出来るようなオールマイトのような最高のヒーローになるために今日も昼のヒーロー授業に不安と期待を膨らませた。
『―――ねェ、兄サん』
振り向くとそこには最愛の妹が不安げな顔で僕を見ている。
『ヒーロー科目の授業ってモチロんプロヒーローが近くで待機してイルんだよね?何人くらイイるの?』
『え?どうしたの突然』
『……ソノ日になってミナいと分かラナい?』
まるで心を読んでいるような問いに僕は頷く。雄英高校は生徒も教師も”自由”だ。その日にやる授業がどのような内容なのか、それは相澤先生がその時間になって初めて伝えられるので、教師側のカリキュラムでも見ないと今日何をするのか分からないよと伝えると百合は静かに目を伏せて頷く。
『気を付ケテ、今日は特二嫌な予感ガスる』
『分かった怪我しないように気を付けるよ』
『……ウン』
ごほごほと咳をしながら小走りで僕から姿を消した。
「……あれ?百合の背って……あんなに小さかったけ?」
いつもは姿を見せない服の中にいる毘天達がちょろちょろと頭を出していたし、百合と話していても目の前の人物は百合じゃないような奇妙な感覚。体調を崩して風邪を引いてしまいマスクをつけた声がいつもと違ったガラガラ声は別の言語を無理やり人の言葉に変換しているようにも感じられた。
「デクくーん」
「おはよう緑谷くん!!」
後ろから同じクラスの友達の声がして僕は振り向く、いつもの表情で手を振るう、その胸に押し切れない不安を抱えながら。
◆◇◆
私は人気のない建物内でひたすらその時を待つことにした。
毘天と私の個性で、毘天達が私の体を模造するのは時間と力を必要とした。本来ならもう少し時間が欲しかったが、一徹ぐらいではあれぐらいが限界だった。今日を無事に乗り切ることが出来たなら、もっと改良を加えよう。
雄英高校には既にプロヒーローが気づかないように毘天達が蟻の巣のような拠点を作り上げている。幾重にも張り巡らされたルートは本校を中心に様々な施設に伸ばしている。雄英高校の広大な敷地内では訓練場に移動する際にバスを用意するほど距離が離れている建物もあるほどだ。
私の中では、昨日の事件でヴィラン側は本校に侵入してカリキュラムを入手しているはずだ。そして、戦力が分断するヒーロー基礎学の時間を狙って建物内のあらゆるセンサーや警報を無力化、出口などを封じて静かに抹殺を開始する。私がヴィラン側だったら考えることだ。
問題は数人のプロヒーローを相手に出来る戦力と実行まで掛かる時間、攻めたところでプロヒーローに返り討ちに合うかもしれない、下手に時間を稼がれたら応援が来る可能性もある。ならば物量で行くとしても数が増えれば増えるほどどうやって奇襲できる距離まで雄英高校内に侵入しているか、見方を変えれば敵の本拠地を狙う博打である以上、相応のリスクを伴うのだ。だが、イリスがヴィラン側にいるとなればあらゆる問題は解決する。
イリスの個性の前にはあらゆる常識は無に還す。
マスターと自身と私の個性を複合することで深化した個性特異点と呼ばれるようになる災厄の個性【オール・フォー・オーバー】。
「数日前の私ならどうしようもなかったけど
マスターから最後に渡された個性、それを数百年の間に繰り返して力をストックし続けて強化した結果、星すら動かすと言われた最悪の個性【ワン・フォー・オール・アンリミテッド】の微かな灯を受け入れることが出来た。まだ人間の体を捨てていないためスペックが足りず、先ほどから体中が引き裂かれるような激痛に襲われる、少しでも気を抜いた瞬間、私の四肢は爆散してしまうだろう、最悪は
『……ゴ主人、質問ヲヨロシイデショウカ?』
「(な、なに……?)」
喋ることすら肉体的に辛く、激痛を抑え込むように震えながら深呼吸をしながら毘天達を見つめる。
『ゴ主人ガソコマデ命ヲ賭ケルホド、奴ラニ可能性ハアリマスカ?』
「(分からない。けど期待は出来るよ)」
『オ言葉デスガ我々ノ前世ニオイテ、アノ程度ノ実力者ハ奴ラヨリ幼イ子デモ腐ルホドイマシタガ……』
「強い、だけじゃ……正しくない」
悪環境に適応して、家族を失っても鼻で笑うような奴らが、
戦って勝って奪い犯すのは正義じゃない、正しい道理なんて認められない。
欲望と自由に生き、他者に憐憫して共感できない霊長類に未来なんて存在しない。
「前にも、言ったでしょ――――この世界は美しい、それだけで十分」
毘天は、喋ってはいけないことを思いついてしまったのか黙ってしまった。
私の代わりに雄英高校の生徒として、授業を受けている毘天達の集合体に幾つかの指令を出し、外では移動を開始するヒーロー科の人たちの後を追いながら、その時まで体を休ませようと目を閉じる。
『……自身ノ身ヲ軽視シナイデクダサイ』
分かっているさ、私の命の終わり方はもう決めている、だからそこにたどり着くまでは終わらない。
◆◇◆
『昨夜にもオールフォーワンが登場!ついにその秘密のベールが解かれる!!』
「お、緑谷そのニュースって俺にも見せてくれ」
「いいよ。……それにしてもオールフォーワンの素顔ってこんなのなんだ」
隣席に座っていた
「若い顔つきだけど、歴戦の猛者って感じで凄みがあるわね」
「あ、それウチも今見ているけど顔にこれだけ傷だらけって事は体はもっとすごいことになっていそう」
僕のもう片方の隣席から画面を覗いたのは
SNSでヴィランに襲われ助けられた被害者がオールフォーワンに頼んで肩を並べた写真が投稿されてその容姿が鮮明に分かる。裂傷や火傷だらけの二十歳ぐらいの顔、可憐や美しいといった言葉は合わずどちらかと言えば女性だと分かるがイケメンだと感じる一方、まるで月と夜をイメージさせる双眸は冬の寒さを感じるほどに冷たく感じた。
「本人が直々に雄英高校とは関わりがないって言ってるし、やっぱりこの前の落書きはヴィランが適当なこと書いたんだな」
『……ね、ねぇ、君何歳?もう日付変わるぐらいの夜だよ?両親とか心配している早く帰ったほうがいいよ。ほら私今、ヴィラン捕まえたから警察署とか交番に届けないと』
『私は貴女のファンなんです!!どうか!どうか!!そんな細かいことよりこの運命を永遠に私は保存したいのです!!』
『こ、細かいことって……あーもう!少しだけだからね!夜道は危ないんだから』
下手に断れば永遠に付いてきそうな追ってきそうな気迫に負けたのか、ため息を一つ、渋々とした様子でオールフォーワンは質問に答えていく。
『どうして非合法なヒーロー活動をするのか』
『別にヒーローを気取るつもりでこんなことやってないよ目的のため』
『目的とは?』
『とあるヴィランをこの手で殺す、殺し合いせずに済むかもしれないけれど、まずは再会してからだね。あ、このヴィランについては黙秘するよ』
『むー気になる『絶対ダメ、だからね』ちぇ……あ、どうして顔を見せてくれたんですか?いままでずっと隠していたんですよね?』
『別に深い理由ってものはないよ。ただ、こうした方が戦いやすかった部分があっただけで、だけどこの前私が雄英高校に入学しているってデマを流された以上は顔出してはっきりと違うと言わないと。私はヴィランだけど、ヒーローには敬意を払っているから、迷惑にはなりたくない』
『ふむふむ、なるほど……次は恋人とかいますか!?」
『こ、恋人!?あー…………秘密で』
『その沈黙と考える余地があるということは特別に親しい人が居るということですね!?』
『勘弁してください……』
写原さんのマシンガントークに疲れた様子で最終的には子供はもう寝なさい、と強引に話を切ってオールフォーワンは気絶させたヴィランを抱えた状態で夜の闇に溶け込むように消えた所で動画は終わった。
「なんていうか……善悪まるごと飲み込んだような人ね」
蛙吹さんの言葉に僕たちは頷く。ずっと投稿者の安否を気にしたり、色沙汰の話となると顔を赤くして動揺したり、ヒーローに関しては敬意を払っている言動の重みは真実と感じられ、オールフォーワンが殺し合いになるかもしれないと言ったセリフも同じように冷徹の決意が感じた。
「俺、爆豪みたいに死ねぇ!って感じのキャラをイメージしてたわ」
「逆に俺は轟みたいなクールキャラな感じだと思ってた」
「てめぇ、俺がヴィランの一員みたいなこと言ってんじゃねぇよ殺すぞ!!」
「……………そうか」
かっちゃんは獣のように歯をむき出して敵意を露わにして、轟くんは何を考えているのか分からない、ただ表情を変えず頷いた。
「もう着くぞ、いい加減にしておけ」
「「「ハイ!!」」
相澤先生の声にみんなが答える。
「………ちっ!」
背中を刺すかっちゃんの睨み、あのみんなから実戦というより喧嘩と言われたこの前のかっちゃんとの戦いに勝利した僕は目をつけられている。あのかっちゃんに勝ったと喜ぶ僕に百合は淡々と言った。「それで満足してはいけないよ」と。確かに、僕はオールマイトの個性を引き継いだ最高のヒーローにならないといけないと一つ気を引き締めてもらった。(尚その日の晩御飯は僕の大好きな大盛りのカツ丼だった)
初めて入るドーム状の施設に入ると、そこは周囲全てを見渡せる高台だった。水難事故、土砂災害、火事などあらゆる事故や災害を想定して僕たちを待っていたプロヒーロー『13号』考案の演習場、その名を
「私、好きなの13号!」
僕の隣で歓喜の声を上げたのは麗日さんだ。好きなヒーローに会えて、喜びを隠しきれない様子だった。13号先生と相澤先生は二人で僕たちに聞こえない声で何か話し始める。何か合ったのかな?と思ったけど直ぐに終わり、13号先生が僕たちの前に立って話し始める。
「えー、始める前にお小言を一つ二つ三つ……」
「「「「(増える……)」」」」
もしかして長い話になるんじゃないかなと思ったけど13号先生の話はとても大事な話だ。【ブラックホール】という、どんなものでも吸い込んで塵にしてしまう、その個性を使って災害救助の現場でめざましい活躍をしているが、それは決してただ便利というものではなく、簡単に人を殺せる力でもある。
超人社会と言わる現代、個性の使用を資格制にして厳しく規制することで、一見成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人を殺せる
『――――あら?お父様を倒した御伽噺の
――――息をすることさえ出来なかった。
ただ声だけが聞こえただけで、どんな存在が来たかもわからない。
しかし、その魔嬢の囁きだけで僕らの本能がこう叫ぶ。
逃げろ、さもなくば死ぬ。と
「ちっ!くそ、お前ら動けるか!!奴の気迫に取り込まれるな!!」
相澤先生の声に僕らは答えることは出来なかった。ただ震え、泣き、恐怖するだけだった。その日、僕は知ることになる。どうしようもない絶対的な絶望というものを。
『残念ですが、いいですわ。では皆さん、とても楽しいゲームを開始しましょう』
それは赤い液状の双翼を震わせ、月と夜を連想させる双眸を細くて、悪魔のような笑みを浮かべた。
個性紹介
個性【オール・フォー・オ-バー】
二つの【オール・フォー・ワン】と【ブラッド・ハザード】との複合個性。
個性を使う、というより個性因子そのものを操ることで、奪った個性の本来できない事を可能にする。それを与えることは出来るが大半は制御できず死ぬ(例えば触れる必要のある個性を触れなくても発動できるようになる)
他者からの個性を奪い続け、体に内包できない個性因子は体外に自らの血肉と混ぜた胤翼と呼ばれる器官を生み出し、【ブラッド・ハザード】を併用することで個性を使用する為の部品へと変化させることが可能であり、尚且つあくまで胤翼とは言わば出力機器であり、本人はリモコンのような役割であるため制御が難しく自己破滅する可能性があるほどの超多重同時発動の個性による体への反動はゼロである。勿論、胤翼の大きさや薄さ、頑丈さは奪った個性を使うことで自由自在であり、体の一部であるためこれに取り込まれると個性を奪われる所か、体中をバラバラにされ翼の一部とされる。全てを超える者に相応しい史上最悪の個性である。