一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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注意!!!この話から内容が残酷な描写、鬱展開が多くなりますのでついて行けねぇと思ったらブラウザバックしよう!


第十九話:化け物

  

 アングラ系ヒーロー『イレイザーヘッド』またの名を雄英高校ヒーロー科1-A担任の『相澤消太』は出入口のUSJの施設を見渡せる高台から、広場から黒い霧から溢れるように出現するヴィラン達を見下ろした。

 

 プロヒーローとして、修羅場を何度も経験した途方もない悪意がこちらを見上げる。一見すれば烏合の衆の集団だが、その中で今まで相対してきたヴィランの中でトップに君臨するだろう悍ましいほどの気迫と無限の如き悪意で黄金の瞳を汚した血のようなドレスを纏った美少女がいた。

 

「可笑しいですね、13号とイレイザーヘッドが見えますが先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

 恐らくこの場所に転移してきた黒い霧が人の形をしたヴィランにイレイザーヘッドは悪態をついた。

 不機嫌そうに体中に手のパーツを付けた最初に顔を出したヴィランが汚れた瞳で虚無を見上げる。

 

「ちっ、どこだよ、せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ、オールマイトが、平和の象徴がいないなんて……」

「えぇ、本当に残念ですわ。何か変更が有ったのかしら……でもゲームは既に始まっていますわ、弔くん。計画通り最初は私から行かせていただきますわ」

「……勝手にしろ、だがいきなり皆殺しするなよ。今のお前は俺の駒だ、あとその無駄な威圧感を引っ込めろ、こいつ等がまともに動かねぇ」

「――――Yes、my lord」

 

 まるで水の中に沈みこまれていたような気迫は嘘だったように消滅した。飲み込まれていた生徒たちがようやく動き出すことが出来た。高名な貴族のようにドレスの裾を両手で持ちながら優雅に一礼すると、背からスライムのような粘着性を感じる赤い双翼が強風に吹かれた木々のように揺れた。何か来る、そう経験上の直感が警告する。

 

「気をつけろ!!既にここはあのヴィランにとって攻撃可能な距離かもしれん!!」

 

 首元にマフラーのように巻き付けている炭素に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器を手に掴み、空いた手で黄色のゴーグルをつける、既に何か個性を発動していようとも、それを抹消できる個性は彼にはある。少しだけ安心した生徒たちの内心をあざ笑うかのように天井が地震が起きたように揺れた。

 

「ウソだろ!?相澤先生が見た奴は個性が使えなくなるんじゃなかったのか!!?」

 

 個性【抹消】、見た者の個性を消す。という必然を崩され混乱する生徒達、赤い翼のヴィランは難問を前にしたように顔を歪ませながらイレイザーヘッド含めた全員を覆うように開いた手を向けた

 

「久しぶりの感覚ね、けど……この程度で私は止めることは不可能ですわ」

 

 その瞬間、天井を支えていた鉄柱が折れた。それを皮切りに次々と固定するためのネジやボルトが歪み、空中に放り投げられるように解き放たれる。どんな個性なのか、それともこれは個性と分類されているものなのか、抹消が唯一消せない異形型の個性による現象なのか、その思考を奪うようにこちらに向けられた開いた手が握りしめられた。

 

「―――いますぐ出入口に向かって走れ!!」

 

 ヴィランの目的に気づき叫ぶが、既に遅かった。ドームを支えていた鉄の備品たちは流星群のように生徒たちの背後、出入口を重ね合うように降り注いだ。金属同士が激しくぶつかり合う衝撃と轟音に誰も近づくことが出来ず、出入口は誰も通ることが出来ない鉄屑の山に隠された。

 

「連絡手段を奪い、そして出入口を封鎖する。次は戦力の分散ですわ、行きますわよ黒霧」

「……そうしたいのは山々なんですが、私は貴女のように個性を使えないのですが、どうやって使っているですか?」

「あの蟲の個性は、見た者の個性因子を止めるもの。けど私は個性因子そのものを操ることが出来ますわ……多少(・・)止められた程度では抵抗することは容易ですわ」

 

 無茶苦茶だ。あの集団の中で一番強いであろう女性のヴィランの発言にイレイザーヘッドは奥歯を強く噛んだ。この世の理解できないものを見てしまった恐怖が精神を蝕む。

 

「あ、相澤、先生……外と連絡が……!」

 

 先ほどから13号達を含めた生徒たちが外に連絡を試すが、全て失敗に終わっている。この状況を作ることができる個性を目の前の人の形をしているだけの恐ろしいヴィランによるものか、それとも別のヴィランが隠れて電波を遮断し、侵入者用のセンサーの機能を妨害しているのか、不明。だが、こうやってにらみ合っている間にも施設のあらゆる場所から破壊音が響く、おそらく非常口すら潰しているだろう。

 

「……校舎と離れた隔離空間、そこに小人数が入る時間割、最初に逃げ道を封鎖する、ヒーローの学校に入り込む一見蛮行のように見えて、確実に殺せる連中を集めて用意周到に画策された奇襲だ」

「轟ッ!!冷静に解説するなよ!!オイラ今にも恐怖で頭がどうにかなってしまいそうだよ!!あんな綺麗で怖くていいおっぱいした女の子見たことねぇ!!」

「落ち着け峰田!今ここでパニックになればみんな余計に不安になるだろう!」

 

 轟焦凍が額に汗を流しながらも状況を把握、峰田実は噴水のような涙を流しながら発狂し、それを半泣状態ながらも瀬呂範太が諫めた。他にも生徒達は同じようにヴィラン達を恐れた、完全に戦意が折れてしまっている。そんな中で教師としてヒーローとして、覚悟を決めたイレイザーヘッドは戦闘態勢のまま高台から降りる階段へ足を進めた。

 

「……13号、俺がヴィランの気を引き付ける、その隙にその鉄屑の山をお前の個性で吸い尽くせ、そして生徒達を守りながらここから直ぐに退去しろ」

「ま、待ってください!!先生は!?一人で戦うつもりですか!?」

 

 震えながら声を上げたのは緑谷だ。全員の視線が集まる中でイレイザーヘッドはいつものように低い声で語りだす。

 

「あの数じゃ個性を消しても……そもそもイレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。消せない個性をもったヴィランの前じゃ……!」

「これが最も合理的な判断だ緑谷、お前はまるで俺が嬲り殺しに遭うと予測しているだろうが……一芸だけじゃヒーローは務まらん、13号!後は任せた」

「……ご武運を先輩」

 

 信頼できる後輩と真正面から飛び込むことで生徒たちに安心を与えるためにイレイザーヘッドは一人、ヴィランの集団に突貫した。

 

「は、馬鹿か?個性を消すってチートかもしれねぇが、この数で一気に襲えば問題ッ―――!!」

 

 髑髏のような仮面を被ったヴィランがイレイザーヘッドをあざ笑いながら仲間たちと共に獲物を持って襲い掛かるが、伸ばされた捕縛布に口元を巻きつかれ動揺した瞬間には、別のヴィランへと投擲されていた。

 

「油断するな!あいつはプロヒーローだぞ!!あの布みたいなのをどうにかすれば後は簡単だ!!」

「(ちっ、滅茶苦茶だが対策してやがる)」

 

 それは既に決められていたことだった。イレイザーヘッド、個性【抹消】を分析した結果、誰が個性を消されているか分からない状況が出来上がっている、ならば最初から個性を使わない前提で殴りかかればいい。相手が武器を持っているのなら、それを奪うなり壊してしまえば後は囲んでしまえばいい。―――本来なら彼らはただのチンピラだ、暴力の快楽に酔っている彼らのチームプレイは適当に組まれた故にバラバラの筈だったが。

 

「(見てやがる!あいつが)」

「(あの化け物が俺たちを品定めするような目で!!)」

「(下手な真似したら殺される!!あいつらの様に!!)」

 

 イレイザーヘッドを含め生徒達は知らないだろう。この襲撃のためだけに集められた彼らの命はイリスによって握られていることを。

 ヴィラン達の意思は叩き潰され恐怖に支配されていた、尊厳も自由も未来すらも。参加しているヴィラン達は見せられた、イリスによって恐ろしく殺された同業者を。

 全ての関節が逆に曲がりきって千切れた者。

 逃げ出したものは形を変えた翼に突き刺されてミイラの様に骨と皮だけになった者。

 反発しようとし気骨があっていいと胤翼にミキサーのように切り刻まれながら吸収された者。

 

「こいつら急に動きが……!!」

「さぁ、行きなさい疑似(・・)脳無達」

 

 【ブラッド・ハザード】+【マルチタスク】+【バーサーカー】+【人形遣い】。

 ヴィラン達の動きが徐々に洗練されていく。感情が薄れていきその代わりに強靭な肉体へと改造されていく者、理性を無くした獣のような咆哮を上げながら突撃する者、彼らの自由は既になく、目の前のヒーローを抹殺するだけの人形へとなっていた。

 

「……つくづく、貴女が私たちの敵にならなくて良かったと思いますよ」

「ふふふ、誉め言葉として頂きますわ」

「……外道め」

 

 弔の悪態すら左から右の様子だった。

 イリスにとって他者とは蟲、或いは獣だ。蟲とは脅威にならない者、獣は脅威になる可能性がある者。この場にいる全員で唯一獣と認定されているのは弔と黒霧だけだ。それ以外は人間が何気なく蟻を踏み殺すような感覚のようにイリスにとって視線に入れることすらしない存在でしかない。

 

「くそぉぉ!!」

 

 イレイザーヘッドは自身の手足を延長させたような巧みな布術で次々とヴィランを捕縛していく。【抹消】は確かに効いている。見た者と見ていない者の動きにカメとウサギ並みの差があるのだ。感情が薄くなるにつれて凶暴さが向上していくヴィラン達は何らかの個性を使って操られていることは明白だ。一見、ヴィラン相手に無双しているように見えるだろう、少なくとも高台から心配しながら見下ろしている生徒たちには。しかし痛覚がないのか撒菱(まきびし)を踏んでも顔色一つ変えず、捕縛した同士で頭を衝突させても平気で立ち上がり、一切の恐れを見せず突撃してくる様は、まるで生きている死体(リビングデッド)達と戦っているようだった。

 

「弔くんもアレに交ざってみます?」

「殺すぞテメェ……それに、こんなことしてたらせっかく先生から借りた脳無の出番がねぇだろうが」

「それはオールマイトに使って遊ばせてあげる予定ですわよ。黒霧そろそろ鉄屑の山が抜かれますわ、行けますよね?」

「えぇ、最初はこちらから視線を外さないように必死になっていたヒーローですが、貴女の素晴らしい個性によってこちらを見る余裕すらなくなっています」

「よろしい、では行きましょう。………既にレギオンは動き始めていると思いますから」

 

 黒霧が形を変えて、イリスを包む、その狂喜を隠した小さな囁きは誰にも聞こえることは無かった。

 

◆◇◆   

 

 

 

 正直な話、僕は調子に乗っていたかもしれない。

 かっちゃんに勝って浮かれた気分を百合に注意されても、僕は心のどこかで全能感があった。しかし、それはあの息すら出来ないほどの気迫を発するヴィランを感じた瞬間、折れた。足が震える、喉が急激に乾く、一刻も早くあの化け物を感じる空間から逃げなければならない。

 

「す、すごい!鉄屑の山が一気になくなっていく!」

 

 13号先生の個性は【ブラックホール】吸い込んだものは何でも塵に変えてしまう強力なものだ。出入口を封じていた重ね合うように落とされた鉄屑の塊は見る見る間に形が崩れていき、あともう少しで僕たちが通れるようになる。そう感じた瞬間、13号先生の個性の影響が出ない範囲に黒い霧から現れた二人のヴィラン。

 

「精が出ますわね、蟲たち」

「ッ!ヴィラン!!」

 

 しかも、そのうちの一人は、赤い翼を生やした相澤先生の個性を物ともしない個性を使う反則技を見せたヴィランだ!

 

「初めまして、我々は敵連合(ヴィランれんごう)。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは――――平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 黒い霧が人の形をしたヴィランがとんでもないことを言った。こいつ等オールマイトを狙ってこんなところに来たのか!?

 

「私個人としてはオールマイトのファンになっちゃいそうなぐらいに興味があるわ。彼が死んだあとの社会の未来がどんな風になるのか、それを予想して彼が何を残そうとしているのか、ねぇ?」

 

 ヴィランの言葉に思わず血の気が引く。オールマイトの後継者、【ワン・フォー・オール】を持つ僕に向けての発言の様に聞こえたからだ。13号先生が鉄屑の撤去を中止、無防備に現れたヴィラン二人を吸い込み塵にしようする前に駆けた二人がいた。

 

「オラァッ!!」

「死ねぇぇぇ!!」

 

 切島くんの【硬化】による斬撃とかっちゃんの【爆破】が二人のヴィランを襲ったが、僕たちの目の前で切島くんの姿が消えた。

 

「……この蟲の個性はもういいですわね、同じようなもの幾つか所持しておりますから」

 

 赤い翼がまるで鞭のように変化して、切島くんはその足を巻き付けられて数十メートル上空まで持ち上げられ、消えた。同時に僕たちの隣に体が持ち上がるほどに響く衝撃。叩きつけられた切島くんは地面の中に吐血しながら沈んでいた。

 

「―――ですがそこの蟲の個性は、いいですわね」

「切島ッ!!」

 

 【インビジブル・ハンド】+【オール・フォー・ワン】

 

「がぁっ!?」

「かっちゃん!!?」

 

 爆煙からは無傷のヴィラン達、かっちゃんは見えない何かに首を掴まれたように空中で囚われた。ヤバいと思いながら助けだそうと動き出す僕を13号先生が止めた。

 

「動かないでください!!これ以上被害を大きくするつもりですか!!」

「ふふ、冷静ですわね、それじゃこの蟲はお返ししますわ」

 

 まるでゴミを捨てるように放り投げられた、その落下先には階段があった。すぐさま【ワン・フォー・オール・フルカウル・3%】で落ちる前のかっちゃんを抱きかかえる形で救い出した。

 

「―――離せ、デク!!」

 

 想像はしていたけど、強く首を握りしめられたのか咳をしながら僕を突き飛ばした。

 

「このクソヴィランが……絶対にぶっ殺す!!」

「爆豪!落ち着けって、切島がやられているんだぞ!」

「そんなこと関係ねぇ!!こ―――え?」

 

 かっちゃんの動きが止まった。まるでネジが切れた人形のように。

 初めて見る理解が出来ないと言わんばかりに混乱した表情で自分の両手を見つめた。 

 

「探し物は―――コレですか?」

「皆さん僕の後ろに早く!!」

 

 【ブラッド・ハザード】+【爆破(・・)】。

 双翼が合体して見上げるほどに巨大な手へと変化、もう何度も見てきたバチバチと手の平から火花を上げ、僕たちの目の前は赤一色に染まった。

 

 

 




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