一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
お昼が過ぎ、教師と生徒たちは午後の授業をしている二時頃に休憩室でやせ細った男が、疲労の色を濃くした表情で深いため息を吐いた。この男こそ存在するだけで深刻化したヴィラン達の存在を抑止する平和の象徴オールマイトだ。今でも絶大なる人気により不動のナンバーワンヒーローとして人々の笑顔を守るために戦っているのだが、数年前の怨敵との決戦により治療不可の後遺症を負ってしまった上個性を後継者に譲ってしまい、今は筋骨隆々の肉体を維持する時間は更に短くなってしまっている。それでも、オールマイトは事件と聞けば東西南北どこでも駆けつけるため、今日は一時間で三つもヴィランによる事件を解決した。そして、雄英高校の教師として戻ったが、咳き込む毎に吐血する消耗しきった体では皆が知るオールマイトとしてヒーロー科の午後の授業に出られる時間はあまりに短い。
それでも、教職に就いた身として出なければならない。ヒーローとしては後輩だが、教師として先輩の相澤と13号と連絡が繋がらないことに不信を抱きながら立ち上がるとドアが開き、そこにはネズミをそのまま人間にしたような生き物が、人間の正装を着ていた。彼こそは人間以外で個性を発現させた大変珍しい珍妙な雄英高校のトップ、根津校長だ。
根津校長はオールマイトに教職としての心得を身に付けてほしいと言った。雄英高校の教師のほとんどは現役で活躍するプロヒーローであるが教師でもある、その立場である以上、ヒーローとしての活動することは少ないが、それは仕方のないことだ。未来のヒーロー達を育てるために、自身のヒーローとしての時間を削るのは、この道を選んだ時点で理解しなければならない。しかし、オールマイトはまだそこの所を受け止め切れていない部分もあり、教師とヒーロー、どちらを優先するかと考えてしまうとき、街には何人ものプロヒーローがいるにも関わらずヒーローとしての活動を選んでしまう。
それ自体を悪く言うつもりは微塵もないが、少しだけ立ち止まって他のヒーローのことを信じ頼ってほしい善意で、オールマイトの足を止めたのだ。
「(話が、長いなぁ)」
その気遣いもオールマイトは理解している。しかし、それでも、と動いてしまうのが自身の本能と言ってもいい衝動だ。根津校長の話を真摯に聞きながらも、ちょっと喉が渇いたなと淹れてくれたお茶を一口つけた時、ふと校門に視線が動いた―――――何かいる。
「―――であるからして……どうしたんだいオールマイト?私の話はそれほど退屈かい?」
「いえ、そうでは………ムムム?」
黒い校門の壁に張り付いている、汚れにしては綺麗な形をしすぎている。なにより
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
「―――見えたかい?」
「えぇ、アレは………」
並の人ならその速度は影としか捉えれないだが、オールマイトは見えた、そしてその存在を知っている、あの黒いコートを、背中から生えた四匹の蜈蚣を、既にいないと思っている因縁の怨敵と同じ通り名を名乗っている人々を救うヴィランの存在を。
「校長先生はプロヒーロー達を集めてください。嫌な予感がします」
「そうだね、オールフォーワンがこんな行動することは初めてだ。なにより問題は彼女がいるということは――――」
オールフォーワン、彼女が現れたときは決まってヴィランが現れたときだけだ。オールマイトはオールフォーワンがどちらに走って行ったか根津校長に伝えると、そのまま窓から見上げるほどはあろう高さから躊躇なく跳んだ。嵐のように過ぎ去ったオールマイトの背を見届け、直ぐに連絡端末で何者が侵入してきたのか、そしてオールフォーワンが移動した方向からして、直ぐにどこを目指しているのか予測を立て在中している全ヒーローに連絡を入れた。
「……これは大事になりそうだ」
USJ、その場所が恐らく戦場になると根津校長は走り出した。
◆◇◆
「………ここは」
あの黒霧と呼ばれたヴィランによって僕たちはバラバラに転送された。目の前にあったのは轟々と建物たちが燃え広がるUSJのステージの一つ火災ゾーンだ。かっちゃんとの戦いでボロボロになったコスチュームは修復をお願いしているので、今の僕は雄英高校のただの体操服だ。防炎機能なんてない、肌を焼くような暑さから立ち上がり、茫然と先ほど聞かされた悪魔のようなゲームの内容が思い浮かんだ。
『この会場には六つのゾーンがありますわ、今から貴方達
息をすることが辛い。
『中央ゾーンに最初にたどり着いたものを勝者としますわ、但し二番目三番目と脱出者が現れた場合はその場で生き残りを賭けて殺し合ってもらいますわ、それを拒否してもよろしいですが、その場合は私が一人を選んでそのゾーンの脱出者を
動くことが辛い。
『勿論貴方達が協力してヒーローとやらが来るまで持久戦をしてもよろしいですが、応援が来たと私が判断したら三人にまで
何もできない。
『怪我人はどうすると?関係ありません、
望みもないに等しい。
『目的?そうですわね、貴方達には広告塔―――生き証人になっていただきたいのですわ』
ここにヒーローはいない。
『絶望、地獄、狂気をこれから貴方達に心の底から味わっていただきますわ。そして見事に生還して、私達の組織の恐ろしさ強さを世間に社会に知らしめてほしいのですわ。ああ、何も語らずと良いですわよ?蟲や獣は知らないことになると強欲になりますから、自分勝手な妄想で補っていただけますから』
希望はない。
『あぁ、19人というのは私が個人的に最初から選んだ生還者がいるからですわ、創造持ちの彼女は私が既にいただいております。どうしてと?八百万グループなんて聞いたことありませんの?結構な社会的に上納者ですから―――――人質として大変価値がありますから、色々と酷いことをしたら、可愛い一人娘がこんな目に遭った責任はいったい何処に矛先が向くと考えられますか?……と、このぐらい私がわざわざ言わなくても直ぐに想像できるかと思われますが、これが将来私の敵となるかもしれない人材とは……とても悲しくなりますわ』
もし、僕が生き残るために行動して生き残ってしまえば僕はヒーローになると一生言うことはなくなる。
もし、僕がこのゾーンで生き残りを集めても、あのヴィランに勝つことも逃げる事も不可能だ。
もし、僕が何もしないことを選択すれば――――嫌だ。
「百合に道を示してもらって、オールマイトに認められて、やっと……やっとここまで来れたのにクソ………クソォォォォ!!!」
煙火の中で僕は叫んだ、ヴィランが来るかもしれないと考えることなく。
目の前で人が死んだ、目の前で友達の足が切り落とされた、目の前に倒すべき悪がいたのに。
「――――無力、だ」
なにもできなかった。
オールマイトの個性を授かっておきながら、案山子のようにただそこにいることしか出来なかった。
『それデも、ドウしたい?』
「――――え?」
声が聞こえた、幻聴かな?あのヴィランの個性の一つかもしれない。
『望ミハ絶たれタカモしれなイ、一寸先は闇しかナイかもしレナい』
『そレデも、貴方の心二、何ガ、ある?』
目の前には炎しかない。けど、脳裏に過るものがある。
あの時の色も風景も場所も違う。
けど、どうしてだろうか、あの夕焼けの空を思い出した。
『―――君はヒーローになれる』
『―――なら兄さんはヒーローになれるよ』
僕の蛮勇を笑わず称賛してくれた憧れの人がいた。
僕の夢を笑わず背中を押してくれた大事な妹がいた。
「―――僕はヒーローになる。みんなを助けたい」
『……分カッた』
喜び混じりの笑ったような声がした。……所でこれってどこから声が発せられているんだ?今日も似たような声を聴いたことあったような。
『下だヨ、下』
「下?――――む、蜈蚣……!!?」
燃え盛る場所で絶対いないであろう生き物に仰天しながら、一度真っ白になった頭が一気に回転したような気がした、もしかして………もしかして!!
『もう大丈夫、私がいるッテネ』
「オールフォーワン!?」
ど、どうしてこんなところに!?つい先ほど動画を見たので声だけでオールフォーワンだということは直ぐに分かった。しかし彼女の活動は週末と祝日以外は夜しか活動しなかったはずなのに!?驚きを隠せない僕にオールフォーワン(蜈蚣)がどこからか声を発した。
『静カニ、あと一分グライでソッチニにたどり着く』
「だ、ダメだ!!オール・フォー・オーバーってヴィランが言っていたんだ、増援が来た時点で僕たちを――――選んだ者以外、皆殺し、するって」
『………ソウか、ってあ、ヤバいヤバいヤバい!最悪!!イや最高二なるノか!?目ガ合った!!』
…………え?
『何が目的だ!!オールフォーワン!!!』
『「オールマイト!!」』
一寸先は闇に光が見えたような気がした。
『チっ、に………誰か知らないけど実ハ、コれ確認デキている全員二私の従者が渡っテイる。今、ゾーンの至ル所でヴィラン達を混乱サセテいる所!!』
『その声は緑谷少年か!?オールフォーワンがいる時点で嫌な予感がしたが、大丈夫か!!!』
『事情説明するから、ちょッと静かにオールマイト!!最初二言ってオク、其方の状態は把握シテいるツモリだ、そして――――全員だ、私は君たちを助けるために来た』
僕は周囲を警戒しながら移動を開始する、既にあのヴィランが動いているかもしれない、既にクラスメイトが何人か殺されているかもしれない、という恐怖を抱きながら。
『頼む!あとゴメン!!10秒、1秒でもイイから生き残れ!!私たちが現場にたどり着ク少しダケの猶予を作って!!!』
そんなこと―――無理、に。
『不可能を可能にする男は言った!更にその先へ―――
どこからか大きな振動を感じた、戦いと呼べない戦いが始まってしまっているのか。怖い、けどそれより冷めしてしまったと思っていた心に熱が蘇った。
『もう一度言うよ――――大丈夫、私がいる!!!』
「―――見つけましたわ」
聞きたくもない声に振り向くと赤い翼で宙を浮かぶ最悪のヴィランがいた。到着まで残り約30秒ほど、僅かな時間だったけど、僕にとってこれはこれ以上にないぐらいに長い時間の始まりだった。
二人目、しかし不味いことになった。