一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
彼らをゲーム会場に転移した後、イリスと黒霧は広場に戻っていた。つい先ほどまで激しい戦闘が行われていたのか、地面には何人ものイリスが操ったヴィラン達が倒れこんでいた。個性を使い、理性を代償に身体能力を向上させ、体のコントロールはイリスが握っている。相対した者の個性が原因で思うように操作は出来なかったが、それでもその拳で掠るだけで皮膚を裂き、直撃すれば骨は粉砕するだろう、そんな疑似脳無化させたヴィランに対して、一歩も引かなかった人物は本物の脳無に両腕を捻じ曲げられ、地面に叩きつけられていた。
「お前ら遅すぎだ、ガキ共と教師一人にどれだけ時間費やしているんだ?」
「想像以上にいい反応をするものですからちょっと味見をしてしまいましたわ」
潤った唇に舌を滑らす悪女は血の凍る微笑みを体中に手のパーツを付けた異様の姿をした弔に送った、顔面に付けた手のパーツによって表情が見えにくいが、それでも分かるほどに露骨に嫌な顔して、視線を外し黒霧のほうへと向ける。
「逃げた奴はいないだろうな?」
「ええ、もし私が一人なら危なかったかもしれませんが、遊ぶようにオール・フォー・オーバーが片付けてくれました」
「こいつがいて間違いが起こることはまず無いだろう、それより予定通りの場所にガキ共を送っただろうな?」
「ええ、これで生徒達の心に傷をつけ、もし生き残ったとしても再起不能になるでしょう、そしてヒーロー達の矜持、信用、ブランド等は粉々になるでしょう」
そうかと満足げに頷き、脳無に取り押さえられ身動き一つできず、また掴まれた頭を地面に叩きつけられる男に目をやる。本来の怪力であれば片手の腕力だけで頭蓋骨を粉砕できるだろうが、それを命じず痛みつける方を選んでいるあたり、私と同じだとイリスはクスクスと笑いながら胤翼に格納していた八百万の顔を胴体だけを出して、その頭を掴む。
「作戦はいい具合に進んでいるな、あとはオールマイトだけか、おいオール・フォー・オーバー……何をやってる?」
「お楽しみですわ」
【ワン・フォー・オール】
僅かなうめき声と共に胤翼に格納された蟲から『創造』が奪われた。体の異変に気が覚めた八百万の瞳に映ったのは、自分が個性を使うように、腕から凶器を『創造』して抜き取った姿だった。
「なるほど、対象の分子構造まで頭にないと創造できないとは頭の悪い者には使いこなせない個性ですわね。あと生物は作れませんか……ふむ」
「あなた、いったい私に何を……!」
「では、こうしてみましょうか」
【オール・フォー・オーバー】+【ブラッド・ハザード】+【創造】。
「――――――」
八百万は常識ではありえない光景に言葉を失った。この個性を宿して十年と少し、出来ないとされた技が目の前に起こった。オール・フォー・オーバーの背中から生える血色の翼の先端から骨が墓場から現れるゾンビの如く現れた。それは瞬く間に神経が駆け巡り、それを覆うように筋肉繊維が紡がれて、黒い肌が塗られるように生成されていく。肉厚のある腕から、次はボディービルダーのような腹が、巨体を支えるための足が地面に立ち、脳味噌がむき出しの頭部が露わになる。
「元なしで作ってみましたが、これは非効率ですわ、血の消費が多すぎます」
「……おいおい、なんだよそれ?ははははは、黒霧お前も見たか!?反則すぎて笑えてくる!
八百万はそこで漸く、オール・フォー・オーバーが作り出した脳無の元になった脳無によって今現在、クラスの担任である相澤が、その両腕を捻じ曲げられている惨状を目のあたりにして顔色を青く染める。
「相、澤……先生……?」
「………の、声は……八百万、か?」
今にも消えそうな声で僅かに目を空けた相澤は状況を確認した。個性を使わずとも人の腕を簡単に骨折させる怪人がいつの間にか増えていた、赤い双翼を生やした魔嬢も黒い霧が体のヴィランも全員揃ってしまっていた。
「あ、い……つ、らは……」
「喜べよイレイザーヘッド、お前たちのカッコいい頑張りは全部生ゴミと同じになったよ」
「ですが、安心しなさい。誰かは証人として生かしてあげます、貴方も条件付きで」
その言葉に怪訝な顔をする弔と黒霧にオール・フォー・オーバーは使用実験ですわと脳無二号に、こう命令した。
「そいつの両目、
その場にいる全員が彼女の指差す方向に視線を動かした。そこにあるのは脳無一号によって身動きを封殺されている相澤の姿だ。
『…………』
それは一号の肉体構造を元に作られた故に感情はなく、人間を改造した成れの果てではないために、魂すらもない。ただ創造主による命令に従うだけの心無き怪人だ。それが足を進ませた。翼によって拘束されている八百万の悲痛な叫びが響くが、うつ伏せに倒され両手を潰した脳無がのしかかっている状態の相澤に逃れる術はない。それを悟られない距離で見つめる毘天達にも、今まさにこちらに駆ける彼女にも為す術がなかった。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴が木霊する。ブチブチブチ、と爪を立てた両手を含む六本の指が相澤の眼軸内に挿入され力任せに引き千切られる。僅かな血とコラーゲンゼリーが脳無二号の手を汚した。己が創造した脳無二号の精密性を調べるためにこのような行為をしたオール・フォー・オーバーは、両目を失い、暗闇の世界に堕ちたとしても、気配は感じるのだろう、血涙を流しながら目なき目で相澤がこちらを睨んでくるのを感じた。それに感心するように胤翼の中で恐怖に支配された体で震える八百万を一瞥し、手を叩いた。
「……評価を改めますわヒーローとやら、この蟲は女々しく涙を流すのに、貴方は表情を歪ませても泣き言一つも言わないなんて、その精神力は称賛に値しますわ」
「お前が、誰かを褒めるなんて珍しいな」
「蟲でも獣でも、立派と思えば褒め称えますし、働き次第では報酬もちゃんと用意いたしますわよ?あぁ、残念ですわね、貴方の内に秘める慈愛と気高さを持ちながら私たち側であれば、《血狂いマスキュラー》のように個性を与えるのも吝かではありませんでしたが、残念ながら私たちが会ったこの場と時間、立場が最悪でしたわね」
脳無二号に指示を出して、両手に収まった眼球はごみを捨てるように無造作に捨てられる――――毘天達が隠れている場所へ。そして、先ほど殺して、まだ死後硬直もしていない脳も死んでいない、蘇生可能な死体である13号が徐々に蟻に運ばれるように僅かに動いているのを視界に捉え、オール・フォー・オーバーは笑みを浮かべる。
「弔君、これは貴方に譲りますわ。流石の私でも個性をコピーすることは出来ません。この創った脳無二号には幾つか増強系の個性を渡してはいますが、一号のように超再生は持ってはいないので気を付けてくださいまし、所詮これは贋作でしかありません、パワーだけなら一号より上回っていますが」
「……やっぱりお前は敵に回したくないヴィランだな、オール・フォー・オーバー……所でガキ共が決着つくまで俺たちいつまで待っている?」
「そうですわね……」
オール・フォー・オーバーは周囲を見渡す、今までの全ての絶望に心が折れてしまったのか人形のように静かに涙を流す八百万、意識は朦朧としているものの未だ戦意を無くしていない相澤、後は疑似脳無化させているチンピラヴィラン達とまだ何もしていないヴィラン達。
『【念話】発動、弔君、黒霧、生かすと決めたヒーローとやらがいる以上、この場で情報漏洩の危険性を防ぐためにこのようなことをさせていただきますわ』
『あぁ?いきなり面倒なことをやるなお前』
『今現在、私の子機が雄英高校にて授業中ですわ。あちら側で変わった様子はなく私たちの動きを知っている連中はいないと想定しますわ』
『子機?貴女が仕込んだスパイのことですか』
『えぇ、個性【念写】と私が幾つかそれに相性のいい個性を渡していますわ。蟲達の個性を調べてくれたのも彼女ですわ。これからの話ですが……』
『平和の象徴、オールマイトを殺す』
弔の強い憎悪の念を感じ、それを心地良い風を受けたようにクスッと笑ってオール・フォー・オーバーは話を続ける。
『分かりましたわ、ではヒーローとやらの連絡端末からオールマイトだけをお呼びいたしましょうか、声は十分に聞きましたので個性を使って同じ声で怪しまれることなくここに誘い込めますわ』
『せっかくだから、この雄英高校の教師全員呼んで殺してやろう、お前ならオールマイト以外の教師を全員相手にしてもやれるだろう?』
『私たちの目的はあくまでヒーローと雄英高校の信頼性の失脚ですわ。そして私ばかり目立ってしまえばせっかくのヴィラン連合の広告が不十分、私はあくまで協力者であって組織に入ってはいませんわ』
『『………いまさら、その心配するか(しますか)?』』
弔と黒霧は呆れたようにため息を吐いた。オール・フォー・オーバーは少しでも彼女を誘い込むだけにちょっとだけ、考えなくやりすぎたのだろうかと今更自身の行動を振り返って恥ずかしくなったのか、頬を赤くした。因みに超がつく極悪人のそんな女の子の反応にその場にいるヴィラン達は鳥肌が立って空気が冷たくなった。
「んんッ、では手はず通りにオール・フォー・オーバーはオールマイトをこちらに誘い込んでくださいます?」
「了解いたし――――あはッ」
胤翼を操作して相澤から連絡を盗ろうしたオール・フォー・オーバーの発する雰囲気が変わった。その場にいる全員が脳髄を侵すような濃密な甘い声に狂喜の笑みを浮かべて、哄笑を響かせた。
「あはははっははははっははっはははっはっははっははっはっははあははっはは!!!!!――――見ーつーけーた」
誰も口を開くことは出来ない。制御が不安定になった胤翼は様々な形に変わっていく混沌を見せた。立ってはいられないほどの暴風が周囲に巻き起こり、チンピラヴィラン達は何が起こっているのか意識することもなく、上空に体が投げられ個性で無事に着陸できないものは死んでいく。人の形をした災禍の権化、魔導に堕ちた偽りの凶王は、呼吸すら困難にさせる絶対的な威圧感を発しながら静止した空間を歩き始める。
「20年ぶりの再会の時ですわよ、
蜃気楼のようにイリスの姿が消える、格納していた八百万を捨てて、意味が分からずどこに行ったのか混乱する黒霧とは対照的に弔に動揺することは無かった。協定で決まっていたことを思い出していた。アレが求めるのはただ一つの事、彼女が唯一、人と認識して異常なまでに執着している人物がこの場に来ているということ。
「黒霧、慌てるな。これは決まっていたことだ」
「何か知っているのですか死柄木弔!?」
「あの化物とは先生と同じくらいの付き合いがあるからな、来たんだろう。先生と同じ名を名乗るヒーロー気取りの同じ化物が」
最悪この襲撃計画は外にバレたな。と弔は結論付けた。イリスの狙いが昔から変わっていないように、こちらもここにきた目的に変化はない。社会の歪みの根源、平和の象徴オールマイトを殺す、それだけだ。
ここまでですね、あとはご主人様が自由気ままにするだけ。
それでは私は授業に集中しようと!