一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
『――――もっと、強くなりたい?』
それは雄英高校の受験前の頃、リビングのダイニングテーブルで雄英高校の試験勉強を二人でしていた時の話。
『兄さんが扱える個性の強化状態だと、そこらのチンピラ相手じゃ目で追いつくのがやっとぐらいの速さと、一撃で気絶させるぐらいの力があると思うけど』
不思議そうに百合は器用にボールペンを回しながら首を傾げた。確かに百合がそう言ってくれるならそれが出来るだけの力は確実にあるだろう。でも、個性とは生まれて五歳までに発現しているのが常識だけど、僕は想像もつかない方法で無個性ながら、個性を得る事が出来た。
個性【ワン・フォー・オール】、幾多の人たちが力を培い次世代に託されてきた力の結晶、それを僕は受け継いだ。その力は凄まじく、全力で使えば災害級の力を発揮できるが器として未熟な僕では到底使いこなせるものではない。今でこそ、自分に合った使い方で身体能力を凄まじく向上させれるが、オールマイトと比べると次元が違う、あまりの高い壁に歯を食いしばって登っていく覚悟はある、だけど、思ってしまうことがある今の僕が出せる力を上回るヴィランと対峙したときに僕はいったい何を武器にして戦えばいいだろう、と考えてしまった。
『何を焦っているの?』
百合には人気のないところで個性を使っての実戦形式で相手をしてもらっている。百合のアドバイスで強大すぎる力を体が壊れないように調整しつつ纏う【ワン・フォー・オール・フルカウル】を使っても
百合曰く思考と動作が合ってない、思い描いた機動に体の動きが追い付いていないと言われた。無意識にオールマイトの戦い方に似せようとしても無駄だと言われた。背後からの奇襲が決まったと思った瞬間、振り上げた拳を簡単に抑えられ地面に叩き伏せられた時は精神的に辛い物があった。
『兄さん、オールマイトがこの町に来てから意識が高くなったよね』
百合の言葉に思わず指が止まった。
『無個性だった時、オールマイトのようなヒーローにはなれないけど、自分なりのヒーロー像を色々考えていたよね?だけど個性が発現してから、絶対にヒーローになる!……から、絶対に『最高』のヒーローにならなければならない…って、そんな自分に言い聞かせているように見えるよ』
【ワン・フォー・オール】のことは家族にも話していない。この個性の特性上、もし知られてしまえば危険なことに巻き込んでしまうかもしれないからだ。
『雄英高校に入るだけじゃなくて、そこでトップになるぐらいの気持ちが兄さんにあるよね。それを悪いと言うつもりはない、だけどプロヒーローさんと私との訓練に加え、隠れて自主練までやっているよね………体を壊すつもり?』
物腰柔らかな百合の視線が冷たい視線へと変わっていく。
これは怒っている、と冷や汗が流れてた。
恐ろしいと感じるほどの洞察力だった。
『……はぁぁぁ』
暫しの沈黙の後、百合は大きなため息を吐いて頭を抱えた。
思わずご、ごめんと謝ると半目で僕を見つめる百合。
『…………あるにはある、けれどこれは諸刃の剣、だから教えたくない』
苦虫を嚙み潰したような表情で視線を外しながら百合は言う。
時間は有限だ、既にオールマイトに個性を授かった影響で、オールマイトの弱体化は加速してしまうだろう。その代わりにならないといけない僕は一刻も早く強くならないといけない。他の人よりも何倍も努力しないと僕は誰にも追い付けない、もし仮に雄英高校に合格できたとしても今の僕じゃ誰にも勝てない。
『家族だから、この世でたった一人の私の兄さんだから、自分から傷ついてほしくない。たとえ誰かを助けるためでも、複数の他人と兄さん、どちらしか選べないなら私は迷いなく兄さんを選ぶよ……私の気持ち分かってくれる?』
……………うん。長い沈黙の末、僕は大きな振動を感じた心で小さく頷いた。
ヒーローとは見ず知らずの人々を助ける事、オールマイトのようになりたい一心、僕がなりたい未来、それは結局のところ、僕のエゴで、焦る気持ちから家族にどう見られているのかその時やっと気持ちにブレーキが掛かった。
『それでも、兄さんはヒーローになると言うんでしょ?』
うん、と今度は直ぐに返事ができた。
『もし、雄英高校に落ちたら、その時は教えない。もし受かったら………教える。だけど約束してほしい』
百合は真剣な眼差しで、少し悲しそうな表情で、僕の手を握って祈るように言った。
『―――――元気な姿で、帰ってくること』
これ約束できる?と聞かれて百合が望んでいるように思いを込めて返事をした。
後に、雄英高校に受かって百合が教えてくれたのは【ワン・フォー・オール・フルカウル】の応用と言える運用方法であり、僕にとっての必殺技とも言えるものになった。確かに諸刃の剣でもあり実際に使ってみれば成功率は非常に悪い、だからこそ百合は怪我をすることを心配して黙った。
元気な姿で、この家に帰ってくること、心の中で大事なことを復唱する。
ヒーロー以前に、家族として百合の気持ちに応えるために、約束を心に刻んだ。
◆◇◆
イリスが最初に襲撃したのは緑谷出久という名前の最愛のレギオンの今の家族の一員だ。
子機が遠くから仲睦まじい兄妹を見た時は、なんて羨ましい奴なんだと嫉妬の炎を燃やした。胤翼で少しずつ体を削りながら殺意を持って虐殺してやろうと何度も考えた相手だ。子機の記憶から見る限り、ありふれた増強型の個性でその中でも別に目立つほどの性能ではない。殺してやろう、いやあれはレギオンが家族と認識している相手、気に入らないという理由で殺して悲しませるのは本意ではない――――だけど、アレは
【オール・フォー・オーバー】+【金属操作】+【念動力】
あらゆるものが轟々と燃える火災ゾーンの中で、イリスは手を指揮者のように振るわれると、出久の一番近くに有った建物がガラスが砕かれてたように自壊する、その破片は一斉に降り注がれる。赤熱された鉄骨を操作し、念動で加速させ牢獄のように閉じ込めることで蒸し焼きにしてやろう――――と思ったが。
「…………
イリスは不思議なものを見たように目を丸くした。降り注いだ凶器の流星群を圧倒的な速さで退避することで無傷のままだ。それは子機から得られた情報を遥かに上回る速度で、もしかしてあの時は本気を出していなかった?若しくは使えない状況だったのか?と疑問を抱きながら横目でこちらを見ながら逃げるのを追い始める。
「はぁ、はぁ、………ッ!」
少しでも
『アマリ息ヲスルナ、人間三十秒程度息ヲ止メテイルコトハ出来ルダロウ?』
「そ、そんなこと言っても……って、さっきと声が違う!?」
『アレハ、ゴ主人様ノ声ヲ流シタダケダ、コレハ我ノ意志デアル……受ケ取レ』
先ほどのオールフォーワンとは違い、噛み合わさってない人語を話す蜈蚣は出久の肩に捕まり口から自身の体よりシャボン玉のような大きな泡を膨らませて出久の口へと投げた。
「むぐっ………!?あ、あれ呼吸できる?」
だが、煙火を吸うことを恐れて細く呼吸する必要は無くなかった。
『我ノ保持シテイル個性ノ一ツダ。頑丈ニ作ッテイル。多少激シク動イテモ問題ナイ、少シデモ時間ヲ稼ゲ。アノオ方ガ、オ前ヲ狙ッテイル限リ他ノ奴ラハ狙ワレナイゾ?』
「蜈蚣が個性が持っているなんて聞いたこと『来ルゾ!』ッ!!」
蜈蚣の声と同時に悪魔の視覚に入ってしまったような寒気が体を巡った。
反射的に先ほども使った百合に教えてもらった【ワン・フォー・オール】の新しい使い方が脳裏に過る。
『私が提案するのは【フルカウル】の限定的
『今の兄さんの体だと出力を上げすぎたら直ぐに体を壊してしまう――――だから、壊れる前に動作を終了させる。そうだね、感覚的には0.1秒で今の【フルカウル】の状態を維持しながら特定の部分だけ【フルカウル】を発動させて動作を終えたら解く』
『言っていることが滅茶苦茶?はははは、プルスウルトラでしょ?練習するならリカバリーガール先生の許可を貰って先生の傍でするように……失敗したら筋肉断裂ぐらいはすると思うから』
『怖いことが聞こえた気がする?気にしない気にしない――――え?技の名前ってそういうのは兄さんが考えて………はいはい分かったよ、ケジメってそういう意味に使うの?そうだね、一つの動作のみ限界を超えるから技だから――――』
それは出久にとって、目から鱗の運用方法だった。習得難易度は間違いなく最上、水溜まりの中に波紋が起きないように手を高速で出し入れしろ、なんて言っているのようなものだ。しかし間違いなく足りない物を埋めてくれてる。
「――――【ワンアクション・オーバーリミット
イリスが放ったブーメランのように円を描く火炎の鉄骨は出久を捉える事は出来なかった。電光石火の如き速さで、その場から傍に姿を消していた。凶器と化した回転する鉄骨が何もない空間に振り下ろされ、そのまま建物に衝突、烈火が花のように散り、樹木が倒壊するように建造物は轟音共に消えていく。その中で、炎より濃い赤色の双翼を広げるイリスは再び一気に距離を離している蟲の背中を首を傾けたまま無表情で見つめる。
「………僕はレギオンを家族と思っていますわ。……だから、まぁ、腹立たしくても蟲でも親戚、みたいに思っていますから、せっかく生かして、帰らせて、上げようと……………………………………もう、いいですわ。みんな死ね」
【オール・フォー・オーバー】+【金属操作】+【念動力】
その瞬間、イリスを中心に火災ゾーンの
「…………」
押しつぶされながら、尚生きているヴィラン達が生きながら燃える生々しい悲鳴が合唱のように響く空間の中でイリスは、無表情で燃える全てを眺めていた。前世での最後の光景によく似ている、ただ狂った己がいて、死だけがある世界で、最愛の人は――――
「―――――全てを元に戻させてもらう、オール・フォー・オーバー」
「また僕
あぁ、やっぱり来てくれた。とイリスの瞳に表情に生気が宿っていく。
夜を思わせる黒い外套、僅かに露出している肌には蜈蚣のような動く入れ墨が見え、歴戦を歩んできた戦士の傷跡の凛々しい貌、背中からは常識ではありえない大きさの蜈蚣が四匹生えており、口から火を吹くことで推進力として宙に浮かんでいる。
この時をどれだけ待ったか、前世では20年なんて適当に敵を食い散らかしていれば終わる出来事のように思えたのに。
「あぁ……!!貴女の姿を見るだけで世界に色彩が戻っていく!!20年ぶりの再会ですわ!!!やっと会えた僕の恋しき愛しい人よ!!まずは祝砲を鳴らせましょう!そして性交のように激しくぶつかり合いましょう!!きっと絶頂するぐらいに気持ちいいわ!!!」
【ブラッド・ハザード】+【大気圧縮】+【筋骨発条化】+【瞬発力×6】+【膂力増強×6】×4
その胸から溢れる無限の狂喜の意思は胤翼を山すら削る圧縮された空気の弾丸を放つために風船のような機構を四つ膨らませた。
「あまり変わってないようで、喜んでいいのか、悲しむべきなのか――――とりあえず、私の恋しき愛しき主様、一発……いや千発ぐらい殴った後に、キチンとお話ししましょうか!!!」
【ブラッド・ハザード】+【ゴム化】+【筋肉増強×10】+【鋼鉄化】+【加速×5】+【爆破】
右腕がゴムのように数十メートル後方に薄く伸びた、それを覆うように真っ赤な筋肉繊維が絡んでいき大木のような太さの拳は真っ黒に染まり、手の平からは導火線を焼く火花のような音を発する。
「――――打ち落としますわ!!」
「――――打ち砕く!!」
それは数百年生きた怪物、悪の帝王と呼ばれた男ですら初めて見る。
数多の個性を宿すもの同士の戦争の開始の合図だった。
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