一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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何度か見直したから誤字脱字ないはず(希望的願望)



第二十九話:毘天羅

 

 目を開けると、そこは生々しい血の色をした満月が世界を照らしてきた。

 辺り一面は穢れた血の湖、満たされる多くの私の姿。

 体の一部が欠損していたり、胸部に風穴が空いていたり、頭部の半分が抉られて無くなっていたりと様々だ。

 私が、私『達』が歩んできた道、『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』という“個性”を最強にするべく廃棄してきたもの、()の座に至るために築き上げた死臭漂う屍達の世界。

 

「………私は」

 

 死んだのかな。と道端に転がっている蟲の屍を見たような軽さで言葉を紡ぐ。

 

『いいえ、ご主人様はまだ死んではおりません』

 

 否定する声の方へ体を向けると、そこには巨大な蜈蚣の姿。

 大陸そのものを相手をする為に創り出した毘天達の長、大災害級の事象を引き起こす生きた怪物――――前世にて暴走したイリスを止める為、共に出撃した九体(・・)の毘天羅がいた。

 

「懐かしい顔ぶれ、だね。現世では初めてかな」

『……そう、ですね。しかし貴方の目の前にいる我々は本物ではない。『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』に保存させている感情と記憶によって再現された偽りの物です』

 

 分かっているよ。本当の君たちはあの時、私の我儘(わがまま)のためにイリスと猛々しく戦い死んでいった。“個性”で繋がっている故に死んだことは分かっても、私は振り向くことはしなかった。あの時はイリスのことしか頭に無かった。

 

「どうして私はここにいるの?私はあの時……」

 

 『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』を全開にした反動でイリス共々死ぬつもりだった。私たちはこの世界にいてはいけない存在だから、と決意したつもりだったのに………。

 

『思い出しましたか?あの一撃は確かに必殺の威力、が。最後の最後でご主人様はオール・フォー・オーバー様の攻撃を相殺するように出力にセーブをかけました』

「………イリスも殺しきれず、私も死にぞこないか、何も意味も成果もない結果になったと」

『オール・フォー・オーバー様も、ご主人様も普通の人間ならば死んでいるほどの重傷を負いましたがね、今ご主人様の体の中の臓器は7割も損傷しているんですよ?』

 

 ソレは凄い。けど、そうなると出血多量でもうすぐで死ぬよね。

 

『いいえ、毘天達が今必死にご主人様の命を繋ぎ留めています。ヒーロー達も協力してくださっているようで』

 

 見てくださいと毘天羅達が言うと空に鏡のような物が現れて外の様子が映し出される。私のバラバラになった姿を囲うように皆さんが見下ろす姿が見えた。

 

『コノ中デ、小僧ト同ジ血液型ノ奴ハイルカ!?』

「僕の血液型はO型だよ!ほかの人は!?」

「たしか切島が……」「あいつ外だぞ!?」「俺、O型だ」「俺もO型だ!!」

 

 私が見たのは、毘天達の助けを求める声に必死な顔になっている人たちだ。もし万全状態ならば血液型が違っていても体内で抗体を書き換えるが、今の状態では無理だろう。毘天達も私と同じ“個性”を持っているが、私のように扱えるわけではない。

 

 顔色が悪い人がとても多く、嘔吐してしまった人もいるようだ。肢体が吹き飛び贓物が垂れ流れている肉の身体は、私にとって見慣れたものであるが、他の人はそうではない。酷い顔になりながらもO型の人たちが私の体に手を伸ばすと毘天達が互いの尻に噛みつき、糸のようになって手を差し出してくれた人たちに噛みついて吸血を始めた。

 

『毘天達が生命に必要な最低限の傷を覆い血管を繋げています。ご主人様の意識が目覚めれば後はどうにでもなるでしょう。無くなった手足と贓物は脳無の物を移植するつもりでしょう?』

「……よくわかったね」

『十体目の毘天羅――――“ブッシュ”はご主人様の身体から摘出した子宮を使うことを躊躇っているようですから。それに………』

 

 皆を代表するように喋る最初の毘天羅――――“ニミッツ”は、この世界でも輝きが分かるほどの双眸で私を映した。

 

『ご主人様は、今の(・・)お家族を愛していらっしゃいます。なので、ご主人様の母様に産み落とした体は出来るだけ残すように心がけていることも我らは分かります。“ワン・フォー・オール・アンリミテッド”を受け止めた時点で、その特別な思いは』

「――――――」

 

 その言葉に反論することはなかった。ただ、認めたくないことから逃げるように目を泳がせた。

 

『………ご主人様、あなたは』

「喋らないで」

 

 今の幽霊のような体ではなく、肉体があれば私は今頃血が出るほどに両手を握りしめ震わせていただろう。

 

「人間から私は生まれた。けど私は人間なんかじゃない………人としての道徳が欠落した、悍ましい力を持っただけの化物なんだよ、それでいい、それでいいじゃないか………」

 

 今更あんなことをしておいて、人間として生きて、人間として幸福なんていらない。

 私の命は、この世界の人類の明日のために使い捨てられるのが一番、いい。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 突如として周囲が暗くなった。まるで巨大な雲が頭上を通過するように。だけど、空の上から何かの存在を感じた。まさか、と脳内に浮かんだ最悪な予想を遥かに上回るとんでもないことが起きた。

 

『………我は毘天羅、ご主人様の命を繋いでくれたこと、感謝する人間よ』

「「「「「……………………」」」」」

   

 葉隠さんのような姿を消す“個性”を使っていたのだろうか、僕たちの目の前に雲が晴れるように姿が現れになっていく超々巨大な蜈蚣、今は姿形が無くなってしまったUSJすら入りきらないほどの大きさ。目の前の現実を疑う、もしかして今僕たちはUSJ行きのバスのなかで眠っているのかもしれないと思うほどに、脳が理解することを拒むほどの超常の存在が目の前にいた。

 

「(ぶくぶくぶくぶく)」

 

 あ、プレゼントマイクが口から泡を吹いて倒れた。他にも氷の如く固まってしまった人が複数(主に女性)。

 

「あー……あー………こ、言葉通ジルカイ?」

『なぜ片言なのだ、人でなく“個性”を発現した我らの同類よ』

 

 一番最初に言葉を発したのは校長先生だった。

 会話が通じると判断し、教師同士がアイコンタクトを取ると僕たちを守る様に前へと出て、目の前の存在を見上げた。

 

「一応聞いていいかな、君は僕たちの味方かな」

『それを決めるのはお前たちの行動次第、そして我らご主人様が決める事だ。………時間もあまりない、我は早くご主人様を回収してこの場から離れなくてはいけない』

 

 焦るような口ぶりで毘天羅と名乗る蜈蚣が見ているのは『オールフォーワン』だ。今は僕、轟くん、上鳴くん、青山くんが繋がった蜈蚣によって輸血をしている。

 

「時間がない………もしかしてこちらに気を遣ってくれているのかい?」

『当たり前だ。我らの存在はこの世界においてあまりに大きすぎる。ご主人様は我らの存在がこの世界に露見した最悪の場合、私たちの力を求めて世界大戦が起きる可能性もあると仰っていた。貴様たちの目の前の存在は単体で国を相手することを目的とした創られたモノだ』 

 

 まるで怪獣映画に出てくるような存在だ。人智では理解が及ばない次元の違う生き物、人類の長い時間を掛けて作り出したものを移動するだけで破壊する化物、この場に『オールマイト』や『オールフォーワン』がいなければ、心が砕けて発狂していたのかもしれない。

 

「分かったよ毘天羅くん、しかし君たちのご主人様は見ての通り重傷だ。こちらは彼女に大切な生徒達を守ってもらった身だ。今すぐにでも病院に搬送し、相応の処置をしなければ命に係わる」

『それは既に問題はない。むしろ、我らには別の問題がある』

「……僕たちの処遇かい?」

 

 流石だな“ハイスペック”の個性を持つもの。と息を吹く。今まで抑え込んでいたであろう威圧感が溢れてくる。直ぐに息ができなくなる、視線が固定され目が離せなくなる。この場所を襲った赤い翼のヴィランすら超えるほどに絶対的な存在感に僕たちの心は恐怖に染まった。

 

『我はご主人様の望みを叶えた後に自死することが決定している。故に望みが叶うまで死ぬことは許されず、命令として我の姿を見たものを抹殺せよ、という命令に従い続けなければならない』

「しかし、それを躊躇する理由が今の君にあるんだね」

『―――――ご主人様が、お前たちを認めたからだ』

 

 それは少し時間が遡る話、僕たち1-A組が殺し合いをしなければ生きて帰れない悪夢のようなゲームが開始される以前から『オールフォーワン』はUSJに潜んでいた蜈蚣を通して中の映像を見ていたのだ。

 

 恐ろしい理不尽、激痛を伴う現実、逃げ出したくなる恐怖を前にその人物の本性が浮き出る。生き残るためにあらゆることを手を尽くす、それがたとえ他人を蹴落とすことでも、命を奪う結果になろうとも、でも―――――

 

 

 『オールフォーワン』は見たのだ。

 

 1-A組は誰一人として誰かを見捨てる事はしなかった。

 

 その場で蹲る人もいた、泣きだす人もいた。

 

 それでも、誰かの命を奪ってまで自分だけ助かろうとする人はいなかったのだ。

 

 

 それだけでは終わらない。

 

 “個性”を奪われ無個性になっても、気絶した級友を背負ってヴィランにいつ襲われるか分からない中で藻掻いた人がいた。

 

 蜈蚣を怖がりながらも“個性”を通して会話をして「僕は大丈夫だから、小さきもの達よ。他の人を助けてあげて」と願う人もいた。

 

 オールマイトが人質を前に戸惑っているとあんなことがあったばかりなのに仲間と協力して人質を見事な連携で助けたのだ。

 

 

 …………もう十分だ。私がここにきてよかったと思えること、もうたくさん貰えたから―――――安心して命を賭けられる(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

『ご主人様は、お前たちの往く未来が素晴らしいものになると認めたのだ。ご主人様の命令は絶対だが、それを覆すのもご主人様の命令だ。状況を判断するに貴様たちをここで抹殺するのは――――ご主人様の御意思に反すると考える我がいる』

 

 既に僕たちを縛る威圧感は無くなっていた。誰かの、或いは自身の嗚咽が聞こえる。

 色んな感情が胸の中で渦巻いて処理しきれない。体の中から溢れる熱が体中を蹂躙している。どれだけ涙を流そうと、それは決して冷めることは無い。

 

 

 僕たちはその日。

 ヒーローに憧れる子供ではいられないことを。

 ヒーローになる夢を命を賭して守ってもらった事。

 ヒーローである残酷さを、胸に刻んだ。

 

 




ヒーロー目線から行くと百合ちゃんは素晴らしいことをしているように見えて、実は現実を受け止めきれず歪んでその歪みを自身で理解(つもりでいる)して耐え切れずに誰かのために死ねば人類の未来になれる!と頭クルクルパーなのがこの小説の主人公なんです。ほんと誰だこんなキ◯ガイ考えたやつ
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