一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
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目が覚めると、僕は濃い黒い霧が全てを包むような不思議な世界にいた。
「――――――」
思わず声が出そうになるが、声は出ない。
僕の身体は黒い霧に覆われて、体そのものがない。
ただ、視界と歩くという機能だけが残っていた。
「(いったいここは?)」
夢―――にしては、意識がはっきりとしている。
周囲を確認してみるが、濃い霧の所為で前がほとんど見えない。唯一分かったことは今僕が立っている場所は凸凹がある荒野らしき大地がある、そして僕のことを見つめてくる視線だけだ。どうして僕がこんな場所にいるのか分からないけど、見つめてくる視線の相手はこの霧の中でもしっかりと見えているようだ。
「(……誘われている?)」
その謎の視線に向かって体を進めると移動速度と同じ速さで僕から離れていく。
試しに僕から離れていくと視線の主は僕に近づていく。
「(行くしかないか)」
僕はそれしかないと決めて視線の主に導かれるように黒い霧の中を進んでいく。
その間に眠る前のことを思い出す。
あの恐ろしいヴィランと対峙したオールフォーワンとオールマイトの激闘の末にUSJは消滅した。僕は妙な焦燥感に襲われ、危ないと分かっていても瓦礫の山と化したUSJの中を走って、命を賭して僕たちを守ろうとしたオールフォーワンのあまりに残酷な姿を目撃した。最初は、もう息を引き取っていると思っていたけど、彼女と共に戦った蜈蚣達によると両手足がなく、臓器も七割ほど吹き飛んでいるが、それでも生命活動を行う最低限の回復が出来ると言うことで、それに必要な血――――O型の血液型を欲した。
「(それであれが出てきた)」
空想から出てきた思うほどの超常の存在、山すら巻き付くことができるほどの巨体、“個性”を使って姿を現す蜈蚣の形をした怪物。それは自身を『毘天羅』と名乗り、主人――――オールフォーワンを助けてくれた感謝の言葉と自身の存在の危険性を警告し、その場所から一刻も早い撤退を求めた。
本来なら、自身の存在は徹底的に隠蔽されるものであり、もし知るものが現れた場合は、消滅させよとオールフォーワンに命令されており、本来ならば僕たちも消すつもりだったが、今回の襲撃事件を見ていたオールフォーワンは僕たちの可能性を信じ、未来に必要な人として残すと決めるであろうと、それを育てる先生たちも含め何もしないことを決め、互いに見ていないということを僕たちの代表である校長先生が決めた。
『…………い…』
その後、『毘天羅』は蜈蚣とオールフォーワン、怪人を回収して姿を消した後に直ぐに警察や救急隊、他のプロヒーロー達が駆けつけた。
両足を切り落とされた飯田くん、両目を抉り取られた相澤先生、背中から急所を貫かれた13号先生はオールフォーワンと蜈蚣によって回復、或いは蘇生してもらっていて、他には地面に叩きつけられた切島くん、他にもボロボロ姿のオールマイトや強制的にバラバラにワープされた時にヴィランと対峙して戦闘した結果、体に傷を負って同級生達は大丈夫な様子だが、救急車に乗せられた人もいた。
『……め……………い』
僕も、体の至る所に軽度の火傷と足の捻挫程度だったが救急車に乗せられて病院で入念に検査を受けた結果、問題なしとなった。そこから警察の人と簡単な事情聴取後に学校の連絡で母さんが迎えに来てくれて、そのまま帰宅となった。家には百合の姿はなく、母さん曰く「昼休み時間帯に仲良くなった友達とお泊りする」とメッセージを送られて以後、電話に出ないらしい。心配にはなったが、今日のことで疲労が積もった僕は気づくと寝てしまった。
そして、今に至ると。
「(……それにしても)」
『ご………さ……』
進めば進むほど、何者かの声が聞こえる。
なんて言っているのか聞き取れないが、同じ言葉を何度も言っているようだ。
「(……あれ?)」
ぴちゃ、と足音が変わった。黒い霧の荒野を越えて、僕は赤い空と湖のような場所に来ていた。
気づくと僕を見つめてくる視線は、まるで消えたように感じない。見渡しが良くなった景色の周辺を探索して分ったことがある。
「(………これ、血!?)」
ただの水にしては粘着性があると思い、この夢(仮)の中では腰を下ろすことも腕を動かすことが出来ないため、それが何であったのか分かるまで少し時間か掛かった。
『ごめ………さ…い』
血の湖だけじゃない、進んでいくほどわかる土を踏む感覚でなく生々しい硬さ――――人の身体だ!
ここ一帯を満たす血は全て、人の身体が流れたもので出来ている!
進めば進むほど、屍の山が周囲に積まれてそこから生々しい血が途切れることなく流れていく!
「(な、なんなんだ!!ここは……!!!)」
ここは地獄だ。僕は地獄に来てしまった!
引き返そうとして初めて気が付いた。この場所に足を踏み入れた時点でまるで見えない壁が僕の一歩後から形成されていくことに!完全に閉じ込められた!!
『ごめ…な……い』
何度も聞こえるその言葉に込められる感情がはっきりと伝わってくる。
絶望、痛み、悲愴、憎悪この世のありとあらゆる負を込めた言葉が僕の身体にうち込められていく。
「(………き、君は)」
進むことを強制された僕は、呪いのように何度も呟かれるその言葉の中心地に足を進めていく。
生々しい赤の世界、屍山の墓場、鮮血のような赤い空の下で僕は見た。
後ろ姿だったけど、その声は、その背中は忘れようがないオールフォーワンの姿だ。
『ごめんなさい』
喉が潰れたような掠れた声で、彼女はひたすらに謝り続けていた。
贖罪を欲すように。
『子供を見捨ててごめんなさい命を粗末にしてごめんさい殺してごめなんない生かしてごめんなさい見捨ててごめんなさい生きていてごめんなさい家族を得てごめんなさい幸せになってごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
悍ましいほどの狂気がこもった呪いの言葉を前に、僕は恐怖した。
何もできず、後ろに道が無いことを理解しているはずなのに、何度も後ずさりをしていく。逃げたい、ここから早く逃げたい!!ダ、ダレカ、タ、タスケテ……
『このままだと不味いのではないのか?』
『二つの異なるワン・フォー・オールが繋がっている異例の出来事だ。こっちは異常であっちは正常だろうがな』
『あっちに吹き飛ばすことぐらい出来るだろう。それよりもこいつをここに呼んだのは誰だ?ご丁寧に逃げ道も封じて』
『歴代のご主人様の内の誰か?それとも………』
『検索はあとだ、ご主人様でも精神汚染を引き起こす程の数百年の蟲毒の間に煮込まれた劇烈の呪詛をこいつが受けていては精神が砕けるぞ』
『『『『……そうだな』』』』
バラバラ、二、ナル、ナ、ナニモ、カモ……。
『聞こえるか、ワン・フォー・オール継承者よ。自身の名前を思い出し、自我を保て』
黒く染まっていく意識、まるでこの世界に食べられているような感覚だった。それでも僕は歯を食いしばり、足に力を込め、拳を握りしめ、僕が願望をこの地獄のような世界に響かせた。
『………!』
『……なに?』
『彼女を……助けたい!!』
オールフォーワンに笑っていて欲しいと心から思った。
『ぷ、ぷはははっは!!!あいつといいワン・フォー・オール継承者は凄いな!!あの救いようのないぐらいに自ら堕ちていくご主人様を!!?助けたい!??これは傑作だな!!!』
『……笑ってやるな』
『そうだぞ、オール・フォー・オーバー様にも失礼だ。あれはどちらも別々の道を見ながら命を賭してでもご主人様を救おうとしているのだから。まぁ、それ以外は悲惨なことになるが』
『あぁ、すまんすまん、けど気持ちぐらい分かってくれ。ここまで嬉しい気持ちは初めてだ……そうか、凄いな。直ぐに諦めて同じ地獄に堕ちると決めた我等より』
『『『『やめてくれそのセリフは我に効く』』』』
八つの巨大な影、見たことがある。
たしか、今日も会った……。
『いいだろう、お前がご主人様とオール・フォー・オーバー様を救う鍵となりえるか』
『そこに絶対的な力は不要だ。必要なのは闇を溶かすような暖かな曙光』
『しかしお前が知るのは世界を背負う闇、艱難辛苦の険しい道、赤い記憶』
『愚かで愛しいご主人様の選んだ道、全てを
『―――――傷跡を辿れ、そこに真実がある』
僕を見下ろす八体の『毘天羅』の姿。
優しく体が浮くような感覚、離れていくオールフォーワンの姿を脳裏に焼き付けながら、僕は――――緑谷出久は誓った。
「絶対に――――助けるから、ここから出してみせるから!!」
急激に景色が変わっていく。この手を伸ばして掴んでみせると、巨大な八つの影に宣言して意識が暗転する。
最後に見たのは、暗く輝く二つの黄金の瞳をした女性だった。