一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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第三十三話:そこは私にとって

 

 

 雷撃が体を貫くような痛みが走った。

 

『……ゴ主人』

 

 心配そうな声で私を取り囲む毘天達の視線を感じる。

 大丈夫、と声が出なくても口を動かした。

 今日は至る所で怨嗟、狂喜の激しい音が戦争の始まりを告げる号砲となり響き渡る。あるものは勝者に対して嫉妬の血涙を流し、あるものは敗者に対して勝者は陰で笑い。誰が先に尚且つ濃い記憶を刻み付けるのか、策略するもの、裏切りもの、地獄の底のような熱意と氷檻より冷たい意志を胸に混沌の日は来たり。

 

 毘天達と協力しながら肉や骨の余計な部分を調整、元の戦える体へ、元の私の姿に戻していく―――――あれ?どうして元の姿に戻す必要があると『私』は判断している。余計な作業だ、これをしなけば既に私は立ち上がれているはずだ、きっと生きているイリスを殺すための体に、緑谷百合としての姿は必要なのか?

 

 そもそも、『私』は帰るつもりなのか。

 あの優しい陽光があたる暖かな家に。

 イリスが既に活動を再開している可能性すらある。

 なのに、あんな家族ごっこに付き合う必要があるのか?

 きっと、母さんも父さんも――――兄さんも悲しむだろう。

 だからどうした、ありふれた家族だ。数億人が住まうこの星の上に生きているたった三人だ。

 イリスを止めなければ、ありふれた多くの人々が危険に晒される、なら今することは分かっている筈だろう?

 

『……ゴ主人』

 

 思考が乱れる中、毘天が態々家から持ってきたのだろう私の携帯電話を持っていた。………暗闇の中、生物的体内の肉が照らされ、映し出される場面には母さんからの何通もの着信記録があった。

 

『イカガナサイマスカ?』

 

 捨ててしまえ――――私の中にいるワン・フォー・オール・アンリミテッド(私達)が答えた。もう緑谷百合()は必要はなく、目的を果たすために溶け合うことを優先するべきだと。そもそもあの時にどうしてイリスを殺そうとしなかった、たとえあの一撃により雄英高校が吹き飛んで多くの死者が出たとしても、イリスを放置しておくことによる被害の方が多くなるのにと、語り掛けてくる。

 

『……百合?聞こえる!?』

 

 母さんの声が聞こえた。毘天が勝手に留守電話を再生させ始めたのだ。

 

『テレビで見たけど凄いことになっているじゃない!学校の先生から電話がきて、今日は集団下校と聞いたけど帰ってみたら貴方まだ帰ってないの!?一体どこにいるの?母さん今から出久を迎えに行かなきゃならないから家にいないけど、寄り道しちゃだめよ!今日具合悪そうだったし、明日は一緒に病院行きましょう?もう有休も取ってたし、お願いだから――――ちゃんと、帰ってきて姿を見せて』

 

 ………………毘天。

 

『ハイ』

 

 あれからどれくらい時間がたった?

 

『12時間ホドデス』

 

 ヒーロー実習が昼過ぎだから、今は外は真っ暗な深夜。……心配させちゃったね。

 さっき、体をくっつけたばかりだから、指一つも動かない、濃密な血の臭いもなんとかして帰らないと。―――待ってくれている人がいるなら。身体を治すために個性制御のために意識を再度集中し始めるとまた私の中にいるワン・フォー・オール・アンリミテッド(私達)が語り掛けてくる。

 

 私達は、数億人の人々をたった一人のために見捨てた。 

 私達が、自身を満たすために行動することは許されない。

 

 非難の声が騒ぎ出して頭痛が激しくなる。

 確かにその通りだ。そう言われると何も言えない。

 事実と分かっていても、理解していたとしても、帰っていい場所を求めてしまう。

 

 

 

 

【もう、私達は人間らしく幸せになる(・・・・・・・・・・)資格なんてないんだよ】

 

 私達の中で諦めの感情込めて、静観するような口調で語り掛けてくる言葉に私は背を向けるように瞳を閉じた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 次の日、起きるとあの赤い夢、のような出来事を思い出す。巨大な蜈蚣の毘天羅のこと、僕の託された個性とオールフォーワンの個性が同じものだということ、あまりに痛々しい背中を救いと思った事。そのどれもが、先ほどあったのように鮮明に脳裏に焼き付いている。ただの夢ではなく、現実で起きたような確信があった。

 

「傷跡を辿れ、そこに真実があるか……」

 

 毘天羅達の言葉を信じるなら、オールフォーワンの個性は僕と同じということになる。オールマイトはこの個性を聖火の如く受け継いできたと言っていた、その言い方だと『ワン・フォー・オール』を受け継ぐことが出来るのは一人しかいない。様々なヒーローを研究してきた僕は個性についても自分なりに考察することが多い、だからこそ『ワン・フォー・オール』のような特殊な個性は存在するかしないかぐらいのレアだ。毘天羅達が言っていた異なる(・・・)『ワン・フォー・オール』というキーワードも気になる。まるで、同じ物でも生まれのルーツが違うような言い方だ。

 

「……僕は『ワン・フォー・オール』について知らない事が多すぎる」

 

 一番知っていそうな人物――――オールマイトに聞こうとしたが思い返せば、昨日のヴィラン襲撃によって決して軽くはない怪我をしていたし、教師という立場上、今は大変忙しい時間の筈だ。とりあえず、時間があれば『ワン・フォー・オール』について詳しく教えてくださいとメールを送り、リビングに行くと鼻孔を刺激する強烈な臭いがした。

 

「あ、出久、起きたの?」

「母さん、何このキッツイ臭い……」

 

 足を進めるとソファに真っ赤な顔でぐったりとしている百合がいた。その表情は険しく、呼吸は荒々しい、額には凄い量の汗が流れていた。

 

「百合!?どうしたの?」

「今日泊まった友達の家から帰る途中に変な人たちに絡まれたそうよ。かなりきつい香水を体に吹き付けていたみたい……全く心配させて、あともう少し遅かったら警察に電話するところよ」

 

 病院に行く前に着替えさせるから少し待ってもらえる?とテキパキと着替えの服を用意するお母さん、兄妹でも異性の下着姿を見るようなことはないので、僕は直ぐに自室に戻った

 

「百合が病気なんて珍しい……」

 

 思い返せば小学、中学と百合が具合を崩したところなんて初めて見た。いつも百合を頼りにしている母さんも初めての百合の不調に看護するやる気が凄く、いつもの三倍速く動いている気がする。時間を見ると学校に遅刻だ、と思ったが母さんが大きな声で今日は休校で自宅待機と言ってきた。

 

「確かに、昨日あんなことが起きればそうなるかな…」

 

 あの巨大な施設であるUSJがまるまる吹き飛んだんだ。携帯でニュースサイトを見ると、どこも僕たちが通う雄英高校でのヴィラン襲撃事件が取り上げられていた。しかも、前回の雄英バリアー崩壊の時から周囲をうろうろしていたフリー記者が、偶然にも雄英高校の塀を飛び越えるオールフォーワンの姿を激写していたのも話題に上がっている。

 

「…………力は不要って言ってたけど、僕にいったい何がいるんだ?」

 

「出久ー!今から百合連れて病院に行くわ!朝食は用意しているから、今日はゆっくりしていなさい!」

 

 母さんの声にはーいと返事をする。とは言っても、多分今日も警察関係者から事情調書を受けることになるから、あっちからの電話を待ってるんだけど。やる気に燃えているお母さんを邪魔しちゃ悪いから、もう少し時間が経ったらメールを送ろうと。

 

「……兄さ、ん」

「百合!?」

 

 今にも消えそうな声でドアが開いて、百合が顔を出した。

 

「今は動いちゃダメだって少しでもゆっくりとして体力を回復しなきゃ」

「き、昨日の事、だい、じょうぶ…?」

 

 ―――――思わず声が詰まった。今の僕より百合の方が大変なのに、それでも僕のことを心配してくれることに驚き、申し訳がないと思った。僕が強かったら、冷静な判断が出来れば飯田君が足を切り落とされるなんて怪我せずに済んだかもしれないし、13号先生も救えたかもしれない。思い返すだけで悔しいことが一杯だ、だけどここで暗い顔をすれば百合の優しさを無駄にしたくなかった。

 

「大丈夫だよ、百合」

 

 だから僕は頑張って笑った。

 

「…………う、ん。良かっ、た」

 

 それを見て、百合も辛そうな顔をしながらも微笑んでくれた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 白い部屋――――と見て思い出したのは、前世で初めてイリスに出会ったあの頃。

 殺風景な部屋、薬の臭い、そこにいた名前すら付けらなかった無垢な少女。

 運命に出会ったと言えば陳腐だが、全てを賭けて守るべき未来の私の身体(・・・・)だとマスターが紹介してくれた。視線が合い、その美しい宝石のような黄金の双眸に魂から魅了された。

 

「…………(少し意識が落ちてた)」

 

 ツバサ病院(・・・・・)の一室、名前を呼ばれた百合は体を引きずる様に動かした。今現在、百合の身体は完全ではない。骨や筋肉、神経を通して体を動かしているものではなく『ブラッドハザード』を使用して、血を動かすことで無理やり体を動かしているのだ。母親の温かな手を握りしめながら、ゆっくりとくっつけた臓器と四肢が外れないように慎重に動いている。

 

「ほう、懐かしい顔じゃな」

「先生お久しぶりです。あの時はお世話になりました」

「いやいや、ワシもあの時はお子様にきつい言葉をかけてしまって申し訳ない」

 

 ()()()()()()()()をした老人の医者が深く息をしながら腰をついた。

 健康な身体であることを個性で作ってきた百合にとって馴染みのない人物ながら、僅かな既知感によって薄っすらと記憶が蘇る。

 

「…あ、あな、た……は」

「久しぶりじゃな百合くん」

 

 確か、出久を無個性を言い放った医者だと思い出し、小さく頭を下げる。

 

「さて、診察に入ろうかの熱は39.5度、見たらわかるほどの倦怠感……どこか痛いところあるかの?」

「……頭が、痛い、で、す」

 

 本当は全身が痛いが、それとなく百合は頭を抑えながら呟く。

 

「ふむ……季節外れのインフルエンザ、という訳でもないなさそうじゃ、何か体の中に入ったウィルスが悪さをしているかもしれないから採血するぞ」

 

 百合は、何故か悪寒を感じて腕を出すことを躊躇う。今の百合の身体は既に半分以上が脳無と言っても差し支えなく、記録している緑谷百合としての身体にほど遠い状態だ。血液を採られて、入念に調べたら――――――

 

「ん?もしかして注射が怖いかの?」

「いえそんなのことは……百合、どうしたの?」

 

 この状況では百合の選択肢は最初から無かった。

 ドクターの言う通り、右袖を捲って差し出した。

 

「………ほほう、実はワシはヘドロ事件のことで百合くんを知っておるんじゃよ」

「そう、なんですか?本当にこの子は誇らしい優しい子なんですよ」

「手術後の傷がどれほど残っているか不安じゃったが、何もなかったように綺麗(・・・・・・・・・・・)なものじゃ若い者はいいの」

 

 ―――――不味い。ちくっと右腕に注射が刺された痛みで、百合の表情は一気に険しくなった。あの腕はもうなく、今の右腕は元の大きさに調整した脳無の腕、改造されたと思われる傷は見られても不穏に思われるように消してしまっている。そう、今の百合の右腕はヘドロのヴィランに捻じ曲げられたは傷跡ない。

 

「おっと、痛かったかの?」

「い、いえ………」

「すまんの……よし、これから検査をするから結果が出たら呼ぶから待ってていなさい」

「ありがとうございます先生」

「……あり、がとう、ございま、す」

 

 刺した後の傷の上に消毒液で浸したコットンを押し付けシールで固定、ソレを更に指で押さえながら百合は不安げな表情を隠しきれない様子で母親と共に病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くくく、耐えるんじゃわし、小学生じゃあるまいし喜びの衝動を抑えるやり方は知っておろう?いや、しかし………オール・フォー・オーバーよ。確か条約はわし等からの接触はダメじゃが、あちらからなら問題はあるまい?脳無の身体を移植しながらも、あの程度で済んでいるということは………この血の中にはわしの想像を絶する神秘が隠されておるわ。楽しみじゃ、ああ早く調べ尽くしたい………!!!」

 

 

 




新年あけましておめでどうございます。これからもこの小説をお楽しみにしていただければ幸いです。(一月末)

さて引子お母さん、手のかからない娘を助けられるとやる気が燃え上がっております。
ただしダイス結果はファンブルです。

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