一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
死柄木弔は、意味が分からない奴と出会った。
目付け役の黒霧はドクターに呼び出され、先生も用事がなければこちらに連絡を入れてくることもない。つまり、今日は誰にも縛られず自由に出来る日だと、廃人レベルでプレイしているPCゲームをするために椅子に深く座り込んだ瞬間。
『会わせたい人がいる。話してみるといい、きっといい刺激になる』
昔から聞いてきた耳障りな言葉と共に意識が暗転。
そして、目の前にいたのは世間が最も注目しているオールフォーワン。
プロヒーローが立ち往生している現場に突如として現れ、瞬時にヴィランを制圧、火災に見舞われた建物から要救助者と共に脱出、その実力はトップヒーローレベルだと言われ、USJ襲撃事件を終えてオールマイトですら一方的に追い詰められたヴィラン相手に勝ったと世間では思われており、“次世代のオールマイト”と称えるものがいるほどだ。
そんな時の人となっている
「ごめんなさい」
混乱する中で、頭を下げたままのオールフォーワン。
何らかのリアクションを取らない限り、頭を上げないだろう。
しかし、この体勢でも一切の隙が感じられない。
死柄木弔の個性は“崩壊”彼の五本指で触れたものをバラバラにする人を簡単に殺し、その遺体すら残さない恐るべき力だが、もし今ここで彼女に触れることが出来たとしてもバラバラに出来る前に自身が殺されると直感が訴えている。故に、死柄木弔は遠い目で壁に吊られた時計を見て無意識に呟いた。
「………あーあ、おなかすいた」
「! ちょっと待ってて何か作ってくる!!」
と言い残し、キッチンへと向かった。
驚いたことに、幾つもテーブルが並ぶこの空間を音もなく、消えるような速さで移動する技術と速さに抵抗する意思すら失せる。
「…マジで、何なんだあいつ」
死柄木弔の中ではオールフォーワンは自身の敵であるヒーロー側の人物だと思っていた。本来なら嫌悪される暴力を振るいながら、多く人を魅了し、認められる弱き者の味方だと。
噂ではヒーロー資格試験に落ちて、夢を諦めきれずヴィジランテになったと言われているが、そういう風には見えないと死柄木弔は感じていた。
呑気で穏やかな口調と態度は“オールマイト”の言葉を聞いた瞬間、豹変した。
「(あの気迫……)」
それに当てられただけで、死柄木弔は意識を失った。
一瞬だけ感じられた尋常ではない殺気と存在感は、先生と同等かそれ以上、まるで本性を別次元に閉じ込めているかのようで、能ある鷹は爪を隠すという言葉があるが、あれは悍ましい怪物が人の肉体に無理やり入り込んでいるかのような恐ろしさがあった。
一刻も早くこの場所から離れたかったが、外に出ようとすると体が
『まだだよ』
「……あの、くそ女」
俺の体になにか仕込みやがったな、と悪態をつく。
出来ないことを探すほうが大変な
先生すら扱いに困っているほどに実力も高く、USJ襲撃事件の時もオールフォーワンの介入がなければ二体の脳無とオール・フォー・オーバーによって確実に葬れたほどだ。
「お待たせ、お昼から少し時間が経っているしホットケーキ焼いてきたよ。何を載せる?王道のバターとメープル?それともクリーム?口直しにコーヒーもあるけど、もしかして紅茶派?」
「お前ほんと何なんだよ」
傷だらけの顔がきょとんとして傾げる。
死柄木弔は、頭を抱えたくなった。瞬きする間にまるでマジシャンの軽業のようにテーブルに置かれる。食欲を誘う綺麗に焼けたホットケーキにトッピングする用のフルーツやシロップ、ナイフとフォーク。
「…私は、ただのヴィランだよ」
「ただのヴィランが『次世代のヒーロー』なんて呼ばれると思うか?」
「法によって個性の無断使用は禁止されている。それを破っている私がそんなこと言われても……困る」
「お前変わってるな」
死柄木弔と向き合うように席に座ったオールフォーワンは視線が僅かに下に向き、両手を組むようにしていた。
「…変わっているか、そうだね。私は普通じゃない、普通の人がすることがないようなことをしようとして、その経過で色んなことをしていたら何時の間にか、世間からヒーローのような扱いを受けている」
「不満なのか?」
「……殺人を犯そうするヴィランが、まるで正義の味方のように評価されているんだよ?こんなバカな話があってたまるか」
本来、オールフォーワンは事件を解決すれば、そこから直ぐに離れる。それ故、その発言がテレビやネットを通して出ることは少ないが、その中でもはっきりと本人が口に出しているのは、彼女の目的が、とあるヴィランの殺害であること。
しかし、それを含めて彼女は世間から見れば受け入れられている。
オールフォーワンの積んできた実績が並のプロヒーローでは到底出来ないほど、周囲の被害を最小限にしようとする姿勢、複数の個性を同時に使用する派手さは一種のカリスマ的な魅力があり、本人の温厚さも合わさって、陰ではオールフォーワンが殺害しようとしているヴィランはこの世に生きてはいけない人外のような存在だと思われている。そう、あの数の有利を得ていたとしてもオールマイトを一方的に無力化した恐ろしいヴィランのように。
人が人を殺すことは、嫌悪を覚える人が多いだろう。
しかし、それが化物であるのなら納得してしまう人もいる。
オールフォーワンが勇者なら、奴の倒すべき存在は悪の化物。
善良な存在が殺すべきだと認識している相手なのだから。
なら、それはいい事なのだと。
今、オールフォーワンは歪な信頼を得ていた。
そのことに彼女は複雑な感情を見せていた。
「お前、もっと楽な生き方あるのに何故それをしようとしない」
死柄木弔は、彼女を哀れだと思った。
見えない糸に体中を縛られ、好きなことを好きなように出来ない不自由な存在。だが、それから脱却するのは強大な力を持つ彼女なら容易の筈だ。しかし、今の彼女は動かない誰かのためにいいようにされているのに、それを受け入れている。
オールマイトに向ける殺意があるのなら、直ぐにそれを解放すればいい。公式の場で否定はしたが、オールフォーワンが雄英高校の学生である真実は、オール・フォー・オーバーの口から死柄木弔は知っている。
「楽な、生き方か……」
重々しく呟かれる言葉、まるで考えたこともないように。
「そんな力を持っているんだ。ムカつく奴をぶっ殺したりさ、むしゃくしゃするときに目障りなもの全部ぶっ壊したくなった時とかあるだろう?我慢し続けたら毒だぜ?」
「…………私さ、もう長くないんだ」
「はっ?」
唐突な言葉に死柄木弔は目を丸くした。
「オール・フォー・オーバー……イリスを殺すだけに私の意味はある。だから体を弄繰り回して、寿命を一気に燃やし尽くすように使って、力を無理やり跳ね上げている。もって二年、早ければ一年くらいかな。電源が落ちるみたいに私は死ぬの」
日向の光を浴びて気持ちよさそうに目を細め、最後を楽しむように彼女は微笑んだ。
「―――私は、私の人生は、
誰かを生かせて、誰かを助けて、誰かを笑顔にして。
そうして、最後に自身が
あぁ、それが私に相応しいと、彼女はそう言うのだ。
「………く、ははは」
それに対して死柄木弔は
「はははははははっはははは!!!!」
世界最高のショーを見たように笑った。
「頭の可笑しい奴だと思っていたが、これは予想外すぎる!間違いない!!お前は
人を惹きつけ、人から頼られ、人から期待される。
そんな彼女はそれを受け入れながら、周囲を巻き込む自己破滅主義なんだと死柄木弔は理解した。
「分かってくれた?」
「あぁ、よーく分かったよ!!で、なんだ?オールマイトを憎む理由はもしかして、お前が数少ない残したいものを傷つけたとかそんなところか?」
「…そうだね。彼は人として最低のことをした」
みんなを助け、守るヒーローとしての手段と考えれば、最悪の手段ではない。次に託そうとすることは間違えではない。だが―――
大切なものが
大切なものが
あまりに残酷だった。
「上手いな。お前の焼いたホットケーキ」
「…いきなり気分が良くなったね。ずっと私を殺そうとしてたのに」
「あぁ、お前は確かに俺たちの敵だが、脅威じゃない。待っていればお前は、バカみたいに死ぬ。出来ればオールマイト殺して死んでくれれば嬉しいがな!」
「それは、難しいかな。もし、私が死ぬときに元気で、オールマイトが平和の象徴でなくなってたら殺そうかな」
「へぇ、お前に興味が沸いた、話をもっと聞かせろよ」
それからすっかりと気が合う友人を見つけたように上機嫌となった死柄木弔は日が沈むまでオールフォーワンと様々なことを話した。
オールフォーワンの不安の一つ、オールマイトが築き上げたこの平和を
死柄木弔はそれに興味深く聞きながら、時に何度も質問を投げかけそれにオールフォーワンは分かりやすく答える。
「なぁ、オールフォーワン。俺に足りないものは何だと思う」
「それはあなた自身が探さないといけない。だって、それは私があなたを見て感じたことを言葉にしたのであって、あなたが自分で見つけた答えじゃないから、原点は常に自分しか分からないよ」
「お前、先生と似たようなことを言うな」
「………ふふ、もっとホットケーキ焼いてあげようか?」
「マジか、頼むぜ」
「あぁ、そうだ。死柄木さん」
「なんだ、オールフォーワン」
「ヒントぐらい出してあげる」
―――天才も学歴も報わない時はあるが、執念と覚悟があれば無敵になれる。
個人的に百合は自身にとっての『悪』を表現しようとしたキャラでもあります。
彼女は自身が近く死ぬと決めているので、未来に起きる問題に対して分かっていても、どうしようもしません。ヒーローに対しても信じているが頼ってない、誰かに託すことをしないので、結局何もしない。なのに実力は高いし、目の前の問題に対しては真摯に向き合うので人の信頼を得やすいので頼られる存在という、こうやって書き綴っても酷いなこの主人公。
……頑張れデク!