一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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誤字報告いつもありがとうございます。
頭の中では出来ていたのに、なんて思いながら修正させていただいております。何度も見直しているのに……何故だ………。


第四十話:爆豪勝己の再起

 深夜に差し掛かる夜の時間、少年は虚ろな目でその動画を見ていた。あまりの凄惨さ故に直ぐに削除された筈の『真実』だ。この動画には幾つかの段階がある、まずは雄英教師が数の暴力に追い詰められていく隙に生徒ともう一人の教師たちを襲う姿、炎の中でのオールフォーワンと撮影者との激しい戦い、逃げる生徒達を守る様に立ち塞がるオールフォーワンとオールマイト、そして決戦といった流れだ。

 

 その中でも特に凄まじいのは、オールフォーワンと撮影者との戦いだろう。広い敷地内のUSJを凄まじい速度で駆け巡り、あらゆる個性で攻撃する撮影者はオールフォーワンを狙いながら、転移させられていた生徒たちも狙っていた。残虐な撮影者の翼から放ったナイフのように尖った血の雨、巨大な火の玉、幾重にも落ちる爆破の流れ星、不可視の空気の大砲、他にも数えきれないほどの災厄をオールフォーワンは相殺し、出来なければ自分の身体を盾にしてでも、雄英の生徒達を守った。生きているのが不自然と思える程の重傷でも、黄金色の目は死なない。

 

 その後の今までの攻撃が遊戯だと思うほどに激しさを増した撮影者の個性が乱発して地形を変えていく姿に絶望する人たちも多い。巨大な炎の魔剣を相殺するべく片手を犠牲し、限界が来てしまい沈黙するオールフォーワン、それをカバーするようにオールマイトが動くが二体の化物に抑え込められ絶体絶命の時、オールフォーワンが再起動する。血を流していない場所なんてないほどの身体からは悍ましい漆黒の紫電を纏い、化物一人のコントロールを奪いオールマイトを助ける。

 

 そして撮影者とオールフォーワンの最後の一撃、赤くなっていく視界からはUSJ内部が嵐のように破壊の渦を巻きながら極限まで圧縮されていく災禍の球体、オールマイトを下がらせ近くの無機物有機物問わず分解、再構築されていく歪んだ右腕を覆う更なる腕が砲台のように大きくなり、オールフォーワンの身体より大きくなっていく。そして撮影者が動いた瞬間、動画は終わる。

 

「……………」

 

 少年――――爆豪勝己は、昔見下ろしてきた幼馴染と同じ無個性にさせられた無力となった両手を見つめる。ぽっかりと伽藍洞の心でパソコンから目を逸らして、暗いベッドに体を引き摺るように動かそうとして止まる。今夜は晴れていたはず、そしてベッドは日の当たる場所に置いているからだ。

 

「こんばんは」

 

 窓越しに体育座りで空に浮かんで気軽に挨拶をするオールフォーワンの姿に爆豪勝己は目を点にする。

 

「眠れないなら、少し付き合ってくれない?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 私は、爆豪勝己という男が嫌いだ。

 自らの個性と才能に溺れて、鼻が伸びている傲慢な男が嫌いだ。

 一応、近所で親同士が知り合いで幼馴染という関係だが、兄さん虐めておいて仲良く、なんて決してできない。

 

 それにだ、無個性という唯一無二の個性を持ってしまい危ない立ち位置にいる兄さんを虐めるから、周囲にも「こいつは虐めてもいい奴」だと共通認識が学校中に広がり、精神的に幼い子供たちが多い小学校時代は特に大変だった。持ち物を兄さん不在時に隠される事は良くあったし、集団で人気のない場所に誘い込もうとした者たちもいた。こんなことになった原因の全てが爆豪さんの所為だとは言わないが、それでも責任の一部くらいは知ってほしくて、爆豪さんに伝えたことはあったが「無個性のあいつが悪い」と返され、兄さんだけじゃなく母さんも馬鹿にするかコイツ!、と問答無用で殴り飛ばして喧嘩が始まったこともあった。

 

 

 ………嫌いだ。本当に嫌いなんだ。

 でも、山の中で密かに個性を猛特訓している姿を毘天達は見ている。

 入試の時にロボットを爆破して破壊した時に欠片が他の受験者が当たらないように気にしてたし、0ポイントの巨大ロボットを他者に巻き込まないように引き付けることもして救助ポイントも含めて入試一位通過したとスーパーで出会った光己さん(爆豪さんの母親)が嬉しそうに教えてくれたし。

 USJ事件のときも無個性にされたのを知って一番最初に死ぬかもしれないと思っていたのに、気絶している赤い髪の人を背負ってボロボロになりながらも逃げ切って見せた。

 

 今までしてきたことを簡単に許せる訳じゃない。……けど、変わろうとしている姿を見て唾をかけるようなことはしない。百合ではなくオールフォーワンとしてだけど、二人で話をしてみたかった。

 

「はい、温かい物」

 

 もう時間が遅すぎることもあって、周囲の地域を理解しているから近所の公園に私たちは腰を下ろした。百さんの時と同じように近くの自動販売機でお茶を買った。よくよく考えたら夜にカフェオレはダメだよね。私は長い時間を移動するからいいけど、これから寝ようとする人が飲んだら寝にくくなってしまう。

 

「テメェが飲め」

「せっかく買ったのに?」

「動きにキレがねぇ、あの化物の臓器や手足を移植したばかりだろうが、とっとと病院行ってこい」

「あははは辛辣……分かるんだ。さっきまで見てたから?」

「覗き魔かよ」

 

 百さんとは違って爆豪さんには苦手意識があるんだよこっちも、しかも見ていたのイリスが撮影していたもので、私まだ見てなかったから思わず、ね。ともかく、そう言われれば好意と受け取って自分で買ってきたお茶に口をつける。因みにお互いに四人くらい余裕で座れるベンチに座っている。互いに端に座っているけど。

 

「どうして俺に会いに来た」

「私は貴方と同じ個性を使える。そして私は個性を譲渡できる個性を持っている」

 

 そう言うと虚ろな目が活力を宿し、私を見てくる爆豪さん。

 

「どういう目的だ。俺に何か要求するつもりか?」

「別に?毘天羅が言ったと思うけど君達に期待しているから、善いヒーローになれると思っているから――――気にしないで、やりたいこと、しただけだから」

「…………お前、あの蜈蚣女に似ているな」

 

 似ているじゃなくて本人だけですけど。昔の私があの時に言ったことを覚えているかなこの人は。

 

「蜈蚣女って、私みたいに背中からデカい蜈蚣生やして好き勝手にする奴いるの?」

「ちげぇよ……お前みたいに命を賭けることに疑問も葛藤もないキチガイ野郎だ。見ていると気持ち悪い、何も求めない癖に勝手に満ちた顔で逃げるように離れていくンだよ――――明日には死ンでいるから無駄だと言っているようにな」

「……………そう」

 

 その言葉に私は何も言えない。それぐらいに爆豪さんは私の心を見透かしているようだった。もしかして、このまま話していれば彼は私の正体に感づいているじゃないかと思うぐらいに頭が回るかもしれない。だから、話を強引に元に戻した。

 

「それで、その蜈蚣女に似た私が持っている個性を君は受け取ってくれる?無個性のままじゃヒーローにはなれないよ」

「…………」

 

 その言葉に苦虫を嚙み潰したような表情になる爆豪さん。君は、知っているはずだ。無個性のままヒーローになるというバカげた話を、君自身が笑い飛ばした妄言の重さを。

 

「あの赤い翼のヴィランは私が命を賭してなんとかするよ。でも、未来に同じような脅威が生まれない保証はない。その時は今生きている君達がなんとかしないといけない。その最前線に立っているのはきっと未来のヒーローなのだから」

 

 今なら無個性という理由で逃げることが出来る。ヴィランの脅威に震える日々かもしれないけど、戦う日々に身を委ねることはもっと過酷だ。君の才能なら、ヒーローにならなくても別の道は幾らでもある。もっと楽に社会に貢献できる人物になって楽に稼ぐことができる。

 

「……どうすれば個性を得る事ができる?」

「選ぶんだ、そっちを」

「俺は今クソナメクジみたいに弱ェ」

「そうだね」

 

 それは純然たる事実だ。あれだけ下に見ていた兄さんを相手にしても、今の爆豪さんでは相手にもならない。良く見積もって多少の時間稼ぎになるかどうかだ。

 

「力が欲しいンだよ。オールマイト、オールフォーワンも超える力が!デクに二度と負けないぐらいに力が!!俺が弱いせいで何も出来ないのは嫌なンだよォ!!!」

 

 ………そういえば忘れていた。右手が焼かれたのは君たちを庇ったからだったね。私が振り向きながら逃げろと叫んだ時、君は唇を噛みしめながら背を向けて走っていた。その相手に今にも死にそうなほど掠れた声で瞳が屈辱の涙で潤みながら爆豪さんは立ち上がって私に頭を下げた。

 

「俺に、もう一度チャンスを、くれ!!!」

「いいよ」

 

 即答した。ここまで言われて何もしない奴ほど心が枯れた私ではない。下げられた頭に触れて、『オール・フォー・ワン』で個性を爆豪さんに返した。感覚で個性が使える事が分かったのか、爆豪さんの手のひらからバチバチの火花が迸る。

 

「そういえばもうすぐで体育祭があるんだって?そこで見せてよ新しい君の決意の証明を」

「見せてやるよ、デクとあの蜈蚣女をぶっ殺して、二位の奴が霞んで見えるほどの完璧な一位を」

 

 そう言って見慣れた凶悪な笑みを浮かべる爆豪さん、百さんと比べて部屋が滅茶苦茶になっていなかったし、精神的に余裕が幾つかあったみたいだ。………あと兄さん頑張れ、私も頑張ろう、うん。

 

「さてと、私はこれからリハビリ(ヴィラン討伐)に行くから」

「連れていけ」

「は?」

「俺を連れていけ」

「なんで???」

「お前の全部、俺の物にするからだ」

 

 嫌、無理だから、何かあったら君たちの両親に申し訳ないから!!!大体君まだ仮免すら持っていないのに個性使った時点で警察にお世話になるよ!!え、お前が運べばいい?大問題だよ!!!君は雄英生徒、私はただのヴィラン!!一緒に居れば誘拐に勘違いされて事件になったら最悪雄英体育祭中止になっちゃうかもしれないんだよ!?黙って言うこと聞け!?あーもう!!強制的に寝てもらう!!!ってうわ、結構素早い!!

 

 

 

 

 

 

 

………つかれた。

 

 

 




八百万とは違って割とあっさり終わった感。
爆豪もイリスの顔は結構見ているので、顔が似ている事には気づいているが百合自身が語らない以上は何も言わない、気軽に相談するタイプじゃないしね。

いよいよ、体育祭が近づいてきました。
はぁーーー………どうしよ(空白のプロット見ながら)

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