一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

45 / 51
あれは数週間前でしょうか、熱が上がったり下がったりを繰り返し世界を騒がせているコロナかと何度も病院に行き、結局コロナでは無かったですが肝臓が悪くて入院しておりました。更新お待たせしました


第四十二話:しっかり準備をしよう

 あのUSJ消滅事件から世間の流れが変わった。

 平和の象徴と呼ばれたオールマイトは長年のヒーロー活動により弱体化していると噂が流れた。存在するだけでヴィランの抑止力になるというブランドは深い傷跡が刻まれた。元より教師になったことでヒーロー活動が大きく制限になったことも影響されているだろう。

 

 ………オールマイトだけが素晴らしいヒーローという訳ではない。それ以外にも素晴らしい信念を抱いているヒーロー達は今日も平和のために、誰かのために戦っている。ただ、オールマイトが実力もカリスマ性も存在感も、他のヒーローと次元が違う存在で彼という柱に社会そのものが依存してしまった結果だと思っている。しかも、本気でオールマイトを超えようとするものは少ない、知ってる中でも爆豪さんとエンデヴァーくらいだ。

 

「………僕、頑張るよ。今よりもっと」

 

 数日前では考えられないオールマイトという存在について懐疑的な意見を述べる内容のニュースを見た兄さんは思い詰めた表情を崩しながら笑みを作っていた。それが痛々しいものだが、私は黙って胸の奥に押し込んだ。オールマイトの大大大ファンにとって、そしてヒーローを志した原点がオールマイトにある兄さんにとってこれ以上に辛いことはないだろう。……無論、それだけではないことは分かっている。

 

「………そっか」

 

 しかし、私は深く問い詰めることはなかった。

 ヒーローになることを決意したのは兄さんだ。

 ヒーローになることを選んだのは兄さん自身だ。

 

 どんなピンチも、痛みも、それを飲み込みながらも歩み続ける強い精神が必要だ。家族として、もし兄さんが未来に不安を抱いて相談してきたのならその時は出来る限りのことはする。しかし、兄さんが踏み出してこない限りは私は何もしない。私がいなくなった時に私のことを引き摺ったままの弱い者になってはいけない。

 

「ねぇ、百合」

「どうしたの?」

「今から組手、お願いしていい?」

 

 今は体を動かし嫌な気分を汗と一緒に流したいのだろうか。

 晩御飯が食べ終わり、時刻はもう夜の8時だ。お母さんは今はお風呂に入っているので家から出る事は容易だ。風邪と偽った体の調子も既に問題ないレベルに戻ったので喜んで付き合える。

 

「いいよ。お母さんに見つかった止めるから、こっそりとね」

「ありがとう、百合………ご」

 

 言い終わる前に人差し指で兄さんの下唇を突いて微笑んだ。

 

Plus ultra(プルス ウルトラ)!でしょ?……準備するよ」

 

 兄さん達と同じ場所にいられる時間は少ないけど、今はまだ大丈夫。

 私は、雄英学校を卒業するまで身が持たない(・・・・・・・・・・・・)けど、今できる事は精一杯やるよ。部屋に戻って直ぐに動きやすい服装に着替えて、兄さんより一足早くマンションから出た。

 

「………今日は早いね」

 

 夜の冷たい風より冷たい声が耳に届く。最近私達が住んでいるマンションと同じ階に引っ越してきてという始柄紀(しがらき) (れい)―――――イリスが夜空より深い昏い長髪を抑えながら立っていた。もう普通に歩くことが出来るが、半身不随という設定なので松葉杖を持ったままだ。

 

「貴女の所為でこれからヴィランは活発になるよ。その者たちを集めて組織を大きくする計画?」

「……お見通しか。そして君は社会に認められるヒーローになっていく」

「この血だらけの手でヒーローなんて、今ヒーローとして活動している人達を冒涜する行為だよ」

「君の主張なんて社会は気にも留めない。オールマイトという古い物から新しい別のものを探し出す。まずは分かりやすくオールマイトが敵わなかったヴィランを撃退した君という強き存在を」

 

 …………この頃、私――――オールフォーワンの見方が世間で変わった。少し前までは、凄まじい力を持ちながらあらゆることが不明であることから不審な目で見られる事が多かったが、この頃は私が現れただけでその場に居るヒーローを無視した喝采が起きたり、サインとか写真とか強請られることが多くなった。写原さん曰くあの事件以後オールフォーワンのファンクラブ(非公式)の入会者が爆上がりで、ファンクラブが独自に作り出した私のフィギュアが高額で取引されていると知った時は……死にたくなった。

 

「………そういえば気にしないね。僕が君の正体とか住所を知っていたこと」

「先生を拉致するようにヴィランを雇ったのはイリス……貴女でしょ?そして手下か貴女が遠い場所で追跡でもしたでしょ。映像越しでも、イリスなら見られただけで私の正体は看破できるだろうし、後は保険のためにあんなゴロツキを用意して確実性を得たと」

「ふふ、そうだね。あぁ――――これだけは安心していい、僕も『私』もユリの家族にはこちらからは手を出さないよ」

「………既に兄さんに襲ったのにそれを信じろと?」

 

 出来るなら今ここでイリスを殺しにいきたい。しかし、USJという隔離された空間なので被害は最小限に留める事ができたが、ここは人口密集地帯で、もし私達が戦闘をした場合、大規模の自然災害を局地的に起こしたような惨状になる。簡単に計算しても、まず周囲の地図は作り替えないといけなくなる。そして救える命は今度は両手で数えれる程度、毘天羅を呼んだ場合はこの県が無くなる。

 あちらも目的のために今は死ぬつもりはないから下手に私を刺激することは抑えたいはずだ。私も家族を人質に取られているような状況故に動けない。私の中にいるO(ワン・)F(フォー・)A(オール・)O(アンリミテッド)は殺意を燃え滾らせ、頭が痛くなるほどに殺人を求めてくる私達を歯を噛みしめて抑え込む。

 

「手加減したさ。酷くてもヒーローなんて報われない存在になれない体にする程度……ユリも別にあれがヒーローとやらになることを心の底から賛成しているわけじゃないだろう?名声や収入という甘い言葉に隠された危険性をよく理解しているだろう?」

「…………」

 

 痛いところをついてきた。私は兄さんには必ずヒーローになってほしい訳ではない。これからの時代は決して安定しているとは言えない。超常黎明期と同じような状況を作り出して社会のリセットを図り支配者になろうとする組織が闇の中に潜んでいる可能性もある。今のままだとその混沌の中に真っ先に兄さんが駆けつけてしまうことを考えてしまった。ヒーローという仕事は家族としても誇りに思う、だけど、だけど…………。

 

「百合?……と、貴女は?」

 

 頭痛の種である兄さんが動きやすい服装で外に出てきた。目を白黒してイリスを見つめる。 

 

「こんばんは、ユリのおにーさん。今日はいい夜ですね」

「あ、こ、こんばんは。始柄紀、さん?」

 

 コミュニケーション力にちょっと難がある(特に女性)兄さんだけど、真面目で夢に向かって只管、努力できる才能がある。別にヒーローにならなくても、もっと安定できる生き方は沢山ある。

 

「はい、最近引っ越してきた始柄紀です。貴方の妹にはいつもお世話になっています」

「あ、あ、はい。百合は僕もいつもお世話になっています。ほんと何でも自慢の妹なんですけど、ちょっと厭世的な暗いと「兄 さ ん ?」ど、どうしたの?あ、体を引き摺らないで!」

 

 突然何を言おうとしているんだ。と私は、兄さんの手を掴んで無理やりその場から離れる。

 振り向くとイリスは舐めるような熱意の込めた双眸を輝かせ、口元は妖艶に微笑みながら手を振ってその口はモゴモゴと動いており、声なき声は

 

『イツモ見テイル。イツモ聞イテイル。永遠ニ愛シテイル―――――』

 

 そう語っていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 人は生まれながらに平等じゃない。それと同じようにどんなに積み重ねた素晴らしい功績も一つの失態で崩れ落ちて始めてしまう。勿論、これぐらいのことオールマイトなら気にもせずにあの輝く笑顔で大丈夫!と言って、きっと世間の疑惑の視線なんて簡単に取っ払ってくれる。

 

『―――――緑谷少年、突然の電話すまないね。実は明日の放課後の時間をくれないかい?二人だけで話したいんだ』

 

 昨日、百合にお願いして夜中に夢中で組み手をした後、帰ると母さんのお説教を二人で受けた後に気づいたオールマイトが残した留守電話を聞いて、僕は慌ててオールマイトに電話をしようともしたが既に時刻は深夜帯だったのもあって逆に迷惑になると思い電話することを止めた。

 

 ――――次の日、朝から雄英学校の校門前に集まったマスコミ達をなんとか掻い潜り、教室に入ると一番最初に目が合ったのはUSJ消滅事件で最も重傷な一人として数えられていた飯田くんだ。もうすぐで開催される体育祭に出られるか不安だったけど、先生から問題ないと診断されたと嬉しそうに語っていたことは記憶に新しい。

 

「おはよう!緑谷くん!!」

「おはよう飯田君。足は大丈夫?」

「病院のお医者さんも仰天していたが、いくら走っても違和感も痛みもない、傷跡は残ってしまっているが、気にするほどでもないさ………心配かけたね」

 

 飯田君の思い出すような遠い目に、僕もあの時の恐ろしい現場が脳裏に蘇る。初めて、人が斬られるところを見てしまった。溢れ出す流血、痛みによる慟哭、体から切り離された両足が目の前で吊るされていた日常では決して見ることは無い惨状を。

 

「色々、考えたよ。………俺はオールフォーワンを危険な存在だと思っている。あれほどの力を公的に認められないまま無作為に使うのは間違いなくヴィランと呼ばれるものだ。だからこそ、謎なんだ。どうしてあれほど立派な正義感と高潔な心を持っているのに、ヒーローとしての道を選ばないのか」

「この前、インタビュー動画を見返したけどある人物を殺す……なんて言ってたし、それが要因やない?」

 

 僕と飯田の間に突然声が掛かる。この学校を通い、積極的に声をかけてくれる初めての異性の友人の麗日さんだ。

 

「飯田君はあの時気絶してたけど、あの赤い翼のヴィランとオールフォーワンの間にただならぬ雰囲気を感じたんよ。もしかしたら、因縁の敵同士かもしれん」

「そうだったのか?」

「うん、普通な感じではなかったよ」

 

 ずっとあのヴィランはオールフォーワンを見ていた。あの場で最も脅威になるオールマイトが現れても眼中になかった。悪いと思いながらも探し出した無修正版の『真実』の動画を見るとそれが良く分かった。オールマイトの対策をしていたのもあるかもしれないけど、相対してから一度たりとも視界からオールフォーワンを外していなかった。

 

「……話してみたいな。オールフォーワンと」

「私達のこと期待しているみたいやし、もしかしたらどこかで見ているかも」

「いや、もしかしたらこの学校にいるかもしれないよ」

 

 突然会話に介入してきたのは、あまり話したことがない青山くんだった。

 あまりの唐突な登場に僕達は、顔を合わせて止まってしまうがそんな様子を気にも留めず嬉しいことがあったように弾んだ声で、一方的なトークが始まった。

 

「あの事件の前にヴィランが雄英バリアーが崩壊された後に残された落書き!あれが宣戦布告だったことは知っているよね!」

「あー……でも、あれってオールフォーワン自身が否定したって報道されていたけど」

「アレはマンソンジュ()さ!彼女は体を改造する個性を持っているんだ、体も声も、僕達がみた彼女と本当の姿は違うものだと思っているよ」

「オールフォーワンの個性は、体を改造する個性なのか?」

 

 飯田君の質問に青山くんは、今日調べたであろう情報を見せてくれた。(青山くんの携帯電話は豪華な色だった) 

 元々オールフォーワンと対峙したヴィランはいつの間にか個性をコピーされていたと多くの情報が流れていた。そしてUSJ消滅事件後に出現した時に新たに確認された時に青山くんの『ネビルレーザー』と轟くんの『半冷半熱』を使用していた。本来『ネビルレーザー』は腹部でしか放つことが出来ないが、体を改造する類の個性によって蜈蚣の口から放出するものへと変化していて、武器を持ったヴィランの武器をレーザーで素早く打ち抜き無力化していたと記事に書かれていた。

 

「僕たちは彼女にサン()を送った。その結果、彼女は僕たちの個性を使い、更に僕には一生解決できないネビルレーザーの放出口を操作することさえ可能にした!これはすさまじい事さ!!もしかしたら僕の個性が広まって誰よりも僕がプロヒーローになってしまうかもね!!!」

 

 あ、だからテンションが上がりっぱなしだったのか。

 

「なるほど、オールフォーワンは個性をコピーすることにも加えて体の一部を改造することで、個性そのものデメリット緩和することが出来るのか……改めて敵でなくてよかったよ」

「……見て見て!ただでさえチートな轟くんの個性も使ってる写真ある」

 

 麗日さんが見つけたのは轟くんの『半冷半熱』も使用した写真だった。元より氷と炎を使うというチート性能の個性だが、オールフォーワンはその先を行った。炎を高圧縮することで、まるでレーザーのように放つエンデヴァーの必殺の赫灼熱拳シリーズと全く同じ技(・・・・・)に加えて、同じように冷気を超圧縮した技でヴィランのあらゆる攻撃を触れずに塵にしたと目撃者による恐ろしいコメントが残されていた。

 

「……………」

 

 その時は分からなかったけど、峰田くん曰く轟くんがこちらを絶対零度の目線をしながら無表情で見たとか。

 

「おいお前等、席につけ」

 

 両腕が粉砕骨折によりギプスを巻いている相澤先生が来たところで僕たちは熱中していた会話を止めて、席に急いでついた。

 1-A組は今日も全員出席できていた。一時は個性が奪われていたかっちゃんと八百万さんが退学するか別の科に編入するかもと僕たちの間で不安が過ったが、直ぐにオールフォーワンによって個性を譲渡されたとか、そんな個性を所持しているのかとオールフォーワンのファンクラブに加入したと嬉しそうに八百万さんが語ってくれた。

 

「朝のホームルームを前に……分かっていると思うが、週末に雄英体育際が開催予定している。正直なところ、俺は反対だったんだが、そこは策があると校長に説得された」

 

 如何にも気分が悪いオーラ全開で相澤先生が藁人形に釘を押し付けような冷たい声で言葉を続ける。

 

「今、ヒーローという立場は危機にある。誰もが頼りっぱなしだった無敵のヒーローをぶっ飛ばすような史上最悪のヴィランの出現と同時に悪趣味な動画が垂れ流れ、社会は不安定な状態だ。だからこそ、今はヒーローが、お前達が歪むことないようにしないといけない。………まぁ、いつの間にか今を時めくオールフォーワンが期待しているのがお前達だ。失望されるような無様な結果を残すなよ。以上だ」

 

 ――――Plus ultra(プルス ウルトラ)。きっとみんな心の中で呟いた。

 二度と忘れられないほどに情熱と狂乱を呼ぶ僕たちの雄英体育祭が、もうすぐ始まろうとしている。




※百合は刀語の鑢七実の能力『見稽古』に似たことが出来る。

次回からは遂に体育祭編です。
一応プロットは出来たけど……これ通りに書けるかな(遠い目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。