一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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第四十三話:その瞳の奥に

 放課後、何時もなら仲のいい飯田君や麗日さんとヒーロー科で受けた授業内容と雑談とを交えながら帰ることが多いが、今日は違った。重い事態を抱えていることが窺えるほどに深刻な表情をしたオールマイトが放課後に仮眠室に来てくれと言ってきたのだ。

 

 その内容がオールマイトから託された『ワン・フォー・オール』と同じような名前で、同じような個性を持つオールフォーワンに関わる内容になると確信していたので、百合にも今日は遅くなるかもしれないと伝えてた。

 

 そして、僕はオールマイトの言ったとおりに一人で仮眠室の扉の前でノックする。

 

「ヒーロー科1-A組、緑谷出久です」

『入ってくれ』

 

 中にいるオールマイトの了承の声に部屋へと僕は入った。中は僕の部屋の倍はある広い空間、新品同然に綺麗で清潔な部屋の中でソファに前かがみの姿勢で腕を組んでいるトゥルーフォームのオールマイトだ。皮膚と骨しかないような体でも、平和の象徴としての意志の強く輝く双眸は一切の穢れはない。ただ、今日はどこか疲れているような印象を受けた。

 

「掛けたまえ」

「失礼します」

 

 いつもと雰囲気が違うことに息を呑みながら、僕は質素なテーブルの向こうに用意された席へと座りオールマイトと対面になる。

 

「USJの件、私の不甲斐なさの所為で、怖い思いをさせてすまかった」

「そんな…オールマイトが謝ることでは」

 

 むしろ、あの黒い霧が人型になっているヴィランによって分散され、恐ろしいゲームが強制的にスタートされてすぐにオールマイトとオールフォーワンが駆けつけてくれた。二人の助けがなければ、僕たちは全滅していたかもしれない、もし生き残っていたとしても二度とヒーローを夢見ることがないような心に深い傷を負うことになっていた。命を賭して僕たちを守ってくれた二人には僕もみんなも深く感謝している。

 

「あの、話って」

「………色々だ。すまない話は長くなる」

「大丈夫です。家族には遅くなると言ってますから」

「緑谷少女に、かい?」

 

 はいと頷くと瞳を閉じて、しばらくして決意を固めた瞳が開かれた。

 

「君にも色々と聞きたい内容があると思うが、まずは前提として聞いてくれ―――――ワン・フォー・オールという個性の原点(オリジン)を」

 

 それはまだ個性が個性と呼ばれず、人類に突如として超常現象を起こせる病気が流行し、世界のバランスが崩れ、混沌に満ちていた百年以上前の『超常黎明期』の話から始まった。それまでの社会情勢では対応できない急激な人類への変化によって、法は意味を失い、文明が足を止めた荒廃の時代に一早く人々をまとめ上げた人物がいた。

 

 彼は自身の個性で、個性を奪い(・・・・・)圧倒的な力を蓄え、個性を与える(・・・・・)ことで他者を信頼あるいは屈服させていった。個性を与えられた人の中にはその負荷に耐え切れず糸が切れた木偶人形のようになったものも多く、その話を聞くとオール・フォー・オーバーが動画内で従えていた怪人(脳無と呼ぶとのこと)が思い浮かんだ。因みに与えられた個性と元から持っていた個性が混ざり合うケースもあったそうだ。

 

 彼には無個性の弟がいた。体も小さくひ弱だったが、正義感の強い男性だったらしく兄の所業に心を痛め抗い続ける男だった。そんな弟に兄は“力をストックする”という個性を無理やり与えた。なぜ、そんなことをしたのか、それを知るものは最早本人しか知るものはいないだろう。

 

 しかし、その行為がワン・フォー・オールという個性の始まりだった。

 

 それはきっと弟も兄も、誰もが気付きようのない“個性を与える”だけという意味のない個性が“力をストックする”個性と混ざり合った。これがワン・フォー・オールのオリジン。

 

 

「皮肉な話さ、正義はいつも悪より生まれ出ずる」

 

 それが一つの区切りであったようにオールマイトは愚痴をこぼした。 

 

「あの、その内容は……」

「あぁ、破綻している」

 

 ワン・フォー・オールは言わば一子相伝の個性。与えたいという意志がなければ渡されず、逆に無理やり渡すことができるその性質上―――――二つ同じものがあることはありえない。

 

「だが、私も君もあのオールフォーワンの蜈蚣達の言葉を聞いたはずだ。ワン・フォー・オール・アンリミテッドという個性の名を」

「悪いと思いながら、あの動画を見ました。調整に失敗して体を壊したときと同じような傷の付き方でした。まさかとは思っていましたが……一番近くで見たオールマイトからしても、あれはワン・フォー・オールだったんですか?」

「あれは確かに私が授けられ、私が君に授けたワン・フォー・オールで間違いないよ。しかし……」

 

 重々しく信じられない現実に動揺を隠せないように口が開かれる。 

 

「込められたものが違う。あの本質にあるのは―――……蛆が泳ぐほどに腐った血の臭いと汚毒が蔓延するように周囲を侵食する意思だ」

 

 この人の教え子として短くない時間を共にした。その中で、ワン・フォー・オールという救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶という神聖を汚されたものを憤慨するように、それを扱う者のあまりの過酷さを嘆くような複雑な表情を浮かべた。

 

「机上の空論ですけど過去に一つの個性を二つにするような個性によって分裂された可能性は…?」

「ない、とは言い切れない。しかし、そうなるとその片割れはどうしてこの時代まで何もしてこなかったという話になる。あれほどの力を発揮できるために数十、いや数百回以上の譲渡が必要になるかもしれない。そもそも、彼女は君の――――」

 

 何かを言いかけて、オールマイトは慌てて口を閉じた。

 

「どうしたんですか?何か思いつきました?」

「………なんでもないよ。ほかにも重要な問題はあるんだ」

 

 それは僕たちを恐怖と絶望を深淵に叩き込んだ史上最悪最凶のヴィランのことだ。かっちゃんと八百万さんの個性を奪い、脳無を個性で生み出し、オールマイトを相手にしても一切の怯みもなく、むしろ必殺の攻撃を簡単に弾き返し、二体の脳無を操り絶体絶命のピンチに追い込んだオール・フォー・オーバーの存在だ。

 

「あれは私の代で倒したオール・フォー・ワンの実子の可能性が非常に高い。そして彼女の言動から先ほど倒したと言ったオール・フォー・ワンが実は生き延びていることが判明してしまった」

「………それは」

 

 映像越しでは分かりづらいが、個性を奪い、個性を与えることが出来る常識外れの存在が二人もいて、両方ともオールマイト級の強さを持っているかもしれない。その規則外の存在が、今も闇の中で悪行を計画しているかもしれない。いや、すでに僕たちの知らないところで既に動き始めている。

 

「私はとんでもないことをしてしまった。今この時代なら猶予がある(・・・・・)と思っていた。裏の支配者がいない間に君を……後継を育てる時間が」

 

 しかし、現実は違った。もっと想像を超えるほどに最悪の展開だった。

 

「―――――私の無力が君に修羅の道を選ばせてしまった。私の代で解決できなかった大問題を君に渡してしまう形になってしまった。すまない」

 

 僕の憧れの人は、そう言って申し訳ないと深く頭を下げた。

 こんな後悔と罪悪感に満ちた声も、まるですべて自身の責任だと語るオールマイトは見たくなかった。とても、腸が煮え切らない感情が湧いてきた。

 

「僕は、貴方のファン、です」

 

 それは、昔も今も未来永劫、変わらない。

 

「けど、僕はオールマイトが選んでくれた後継者です。そんなに責任を感じないで、頼ってください。今は泣き虫で弱くても、僕はあなたのような立派なヒーローになってみせますから」

 

 少しぐらい貴方が背負っているものを背負わせてくださいよナンバーワン。

 

「す、……ありがとう。私の後継者」

 

 そう言ってオールマイトは顔を上げた。心なしか表情の暗さが無くなっていた。

 

「……それにしても、体も心も強くなった緑谷少年!感激だぜ!」

「僕もみんなも、USJの出来事は良くも悪くも糧になりましたから」

 

 相沢先生も事件後最初の言葉が『今なら誰も責めない、辞めるなら今だぞ』だった。

 その後、みんなと色々話して暗い雰囲気になったけど峰田くんが『ここで下りたら、一生女の子にモテる男になれねぇ!』と恐怖を押し殺した声に普段変な目で見られがちの耳郎さん達に拍手を送られたり、それぞれ自身と向き合いそれでもヒーローになることから目を逸らした人はいなかった。

 

「見ていてくださいよ。今週の体育祭―――僕が、僕たちが来た!ってところ世の中に知らしめてみせますよ!!」

 

 きっと、それが僕たちのために命を賭してくれたオールフォーワンに対してできる最大限の感謝だ。

 

「それは楽しみだ!そこまで啖呵を切ったならば、トップ目指して頑張れよ!!次世代のヒーローの卵!!」

 

 心の底から嬉しそうにオールマイトはそう応援してくれた。

 窓際に一匹の蜈蚣がずっといたことも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、が、オールマイ、トの後継」

 

 

 

「オールマイトが、この世界のワン・フォー・オール継承者……?」

 

 

 

「何故どうして今更(・・)そんな話をする?」

 

 

 

「何故そんな大事なこと(・・・・・)をどうして?」

 

 

 

「何故そんなことを最初から知らされていない(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

「都合が悪くなったタイミングで、問題を提示する……?」

 

 

 

「オールマイト」

「お前は都合のいい生贄を探していたのか」

「真面な説明もせずに兄さんに渡したのか」

「ふざけるな」

 

 




初めてフォント使ってみました。
怒っている感じが表現できて気に入りました。
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