一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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久しぶりです。
色々あって小説から目を背けていましたが、やっぱり面白いものを書いてみたい欲求が日々強くなったので再開します。更新は不安定ですが、どうかよろしくお願いします。


第四十四話:始まる体育祭の前に

 その日、その時間、数千人規模の観客が満ちたスタジアムは今まで視線を釘付ける激しく派手なバトルによって滾らされていた熱狂が嘘のように静まり返っていた。ステージにいたのは見たことがない体術で圧倒された出久の姿だった。空中に蹴り上げられ、そこから放たれる必殺の連撃により内臓を損傷したのか口から吐血をしながら倒れており、その瞳の光は今すぐにでも消えてしまいそうになりながら、眼前を見下ろす最愛の妹に向けられていた。

 

「……兄さん、私はあなたにヒーローになってほしくない」

 

 目が合っただけで死を連想させるほどの殺意、満足に呼吸すら出来ないほどの威圧感、体の震えが止まらないほどの存在感によって騒ぎ立つ観客席は最初から誰もここにいないよう、シャッターの多くの光の点滅もなく、彼女の発する悍ましい気に当てられ気絶したものさえいる。

 

「ど、どうし、て……」

 

 強さは知っている。出久は個性を使っても妹に勝ったことがないから。

 あの日、あの夢を見た以降、同級生から別人のように強くなったと賞賛されるようになった出久は腹部を潰されたような激痛に耐えながら必死に体に力を入れようとする。

 多くの人から見ても、重症と言える姿に審査員のヒーローが止めるはずだった。だが、動こうとした瞬間、首と胴体が引き千切られる幻覚が脳裏に浮かぶほどの濃密な殺気をぶつけられ足が震えて動かない。

 

「家族だもの、危ないことをしようとする家族を傍観することは出来ないから」

 

 優し気に聞こえるだけの声、火山から流れるドロドロのマグマのような秘められた感情、この場でヒーローという夢を潰してでも(・・・・・)彼女は最愛の兄を守ろうとしていた。

 

 この平和な社会の柱を打ち壊せる悪夢のような悪魔はその存在を証明されている。それに立ち向かわなければならない可能性があるというのなら、理不尽に奪われる命を守るために彼女は喜んで悪魔(奴と同じ存在)となる。

 

 どうか今だけでもいいから、目を閉じてほしい。

 これから生まれる希望と悪意は、必然の如く生まれる。

 それでも、自分たちと同じような存在が産まれるのは、遠い未来の筈だから。

 

 

 お願い、止まって、諦めて、何もしないで。

 私達が兄さんを殺す前に(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 その日、大事な体育祭、当日に不幸を告げるかのように、僕の携帯に電話がきた。

 場面には非通知の文字が表示されていた。怪しいとは思っていたが、まるで電話を取ることを望んでいるかのような視線を感じた。この場所は体育祭会場の1-A組の控室なので、勿論この場にはみんながいる。各々貴重品をロッカーに入れたり、不安を拭うように雑談をしたり、一人精神集中する人もいる中で僕を見ている人はいないのに関わらずだ。

 

 その僕の行動を期待するかのような、眼差しは壁からした。いや、壁のはるか向こうかもしれない。この頃、訓練で個性を使えば使うほど神経が研ぎ澄まされたり、感覚が鋭くなっていくような感覚の所為かもしれない。だから僕は皆から控室からこっそりと抜け出し、廊下で僅かに震える手で電話に応じた。

 

『―――あぁ、良かった。今日がどんな日なのかは知っていますが、非通知の電話なんて取ってくれるか不安でしたわ。声で分かっているとは思いますが、オール・フォー・オーバー、私のほうですわ』

 

「………ッ」

 

 その声を聴くだけで、恐怖が体を震わせた。

 あの事件で味わった絶望が鮮明に思い出される。

 

『もしかして私はもう死んでいたと思ってます?。そんな甘い考えをしているから私達(ヴィラン)に勝手に好き放題されるのですわ』

 

「一体、何の、用事だ」

 

 カラカラに乾いてしまった声を振り絞って出た言葉はあまりに陳腐だった。

 

『あら、ごめんなさい。貴方の言葉がなければこのまま弄り倒す所でしたわ。単刀直入に言いましょう。貴方、()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 蕩けるような妖艶の声から悍ましい内容の話だった。

 

『ほかの二人は適応する体質でもないから彼女達の声は届かないし、聞こえない。しかし、同じ個性同士で同じ体質に近い、貴方とレギオンは繋がってしまった。既に彼方から干渉(・・)を受けたと思いますわ』

 

「………凄い数の人と、凄く大きい蜈蚣が出てきて話しかけられた」

 

『ニミッツ達と、会話ができた?それは凄い、私達すらそこまで出来なかったのに余程気に入られたのでしょう。レギオン達にそしてニミッツ達に……それにしても懐かしいですわ』

 

 あのオール・フォー・オーバーの声から発せられる雰囲気が突然変わった。もう会えない知人を思い出して憂うような、哀愁を帯びた柔らやかな声に硬直していた体が和らいだ。

 

「……君の知っていることを教えてほしい」

 

 今度はこちらの質問の番だと強めの声で問い質すが、耳に届いていないのか、しばらくの沈黙後に焦った声が返ってきた。

 

今の私(・・・)が表にいられる時間も少ないから貴方の状況は説明できないわ。『僕』のほうは貴方に対して知っていても言わない、事が起きた後の傷心したレギオンの方が付け入りやすいでしょうし』

 

「僕の体になにかよくないことが起きているの?」

 

『―――今、貴方の体に呪いが蝕んでいますわ。その正体はワン・フォー・オール・アンリミテッド』

 

 心臓を掴まれたような不快感に体に力が入り、まるで金縛りでも起きたようにそこから瞬きすら出来ない。ただ、聞きたくもない甘い声だけが耳元で囁かれる。

 

『この個性は持ち主が生きてさえいれば半永久的に個性を記録する(・・・・)不滅性を持ちますわ。貴方がまだ出来ないのか、それとも知らないのか議論はするつもりはないですが、個性因子そのものがその個性を使えるように体の規格を()()()()()()()()()()()。それがワン・フォー・オールという恐るべき特異性』

 

 初っ端から理解が追い付かないほどの情報に頭が混乱する。

 だが、彼女はこちらの意図を無視して、話を続ける。

 

『私達が協力することによって奪ってきた数多の個性を肉体改造によりあの娘は体に無理やり収め続けた。それをワン・フォー・オールは限りなく(・・・・)記録し続けた。その個体が持っていた感情も力も含め』

 

 忌々しいことを思い出したように電話の先で歯軋りが聞こえた。

 

『記録された感情と力、更にそれを完璧に扱えるようにする肉体改造によって無類の強さを得ることが出来た。私達のように個性を奪ってもそれを完全に扱えるようになるには時間が必要ですが、そんな当たり前は彼女には通用しない。しかし、そのための代償はとても耐え切れるものではありませんわ』

 

 ワン・フォー・オールがただの身体能力を蓄積したものじゃない。

 個性に感情が乗る、なんて聞いたことがない。

 個性に合わせて体を改造するなんて正気の沙汰じゃない。

 

 ……いや、それ以前にオールマイトが言っていたじゃないか。

 

 

 ―――あれほどの力を発揮できるために数十、数百回の譲渡が必要になるかもしれない。 

 

 

「………ッッ!」

 

 どこから始まったのか分からない。

 ただ、理解できてしまった。

 ワン・フォー・オールという個性を持ち、力の渇望によって見境なく起こした行動によって、あれほどの代償を払うようになってしまった。

 

『貴方のワン・フォー・オールは慎重に譲渡先を選んだわね。だからこそ、勝手に暴れることもなければ、過去の自身が体を支配しようとする、なんてことはしないでしょうね。けど、貴方のワン・フォー・オールとレギオンのワン・フォー・オール・アンリミテッドの源流は叔父様だわ。だからこそ、繋がってしまった』

 

「……これから、どうなる?」

 

『…………』

 

 一番重要なところで彼女の言葉は止まってしまった。

 電波状況が悪い場所に行ってしまったのか、どうしようと悩んでいると。

 

 

 

 

 

『全く、『私』には困ったものだ。主人格様とはいえ、あんなに復活したばかりの弱った状態で僕を乗っ取ってくるなんて、これも愛の力かな』

 

 声だけで屈服しそうになるほどの悍ましい気配がする声が耳から流れて、体中に行き渡る。このタイミングで人格が変わった!?

 

『託す望みはあまりに博打すぎる。レギオンを救えるのはどんな世界でも僕だけだというのに……あぁ、小蟲。君は自由にするといい、力を行使する自由は侵害されてはいけない。法と秩序は常に破滅と再生の円環の理の中、その中で一体いくつも命が尽きようとも、それは誰もが受ける可能性がある必然なのだから』

 

「オール・フォー・オーバー………君は一体彼女をどうする気なんだ?」

 

 分かりにくいがオールフォーワンのことを彼女はレギオンと呼ぶ。どうしてそう呼ぶのか、分からない。ただどちらもどこか唇を尖らす不服そうな感情を感じた。

 

『全身全霊で愛しながら、殺すよ。彼女の全てを手に入れて永遠に一つになる。誰かのためにある彼女がこれ以上、誰かのために傷つかないように』

 

 クスクスと不快感を煽るように笑う。

 ……どうしてだろう、いつも彼女たちに抱いていた恐怖が徐々に無くなっていくのを。

 少なからず憎たらしいと思っている。何故なら彼女は僕の友達を傷つけたから。

 

 電話が切れる。彼方がもう話す意味もないのだと言うように。

 そこで、僕は初めて爆発しそうなるほど激しく鼓動する心臓と全身の冷や汗を感じて、まるで先ほどまで死んでいたかと思うほどだ。

 

「……時間、は…まだ大丈夫かな」

 

 大事な日なのに、呑み込めないほどの重大な話の所為で頭が混乱している。彼女が言うように、この頃体の調子が自分でも心配になるほどいい。今なら、一度も勝ったことがない百合に組み手で一本取れるんじゃないかと思うほどに。

 

 だけど、これは僕の体と個性は関係ない。“ワン・フォー・オール・アンリミテッド”、限りない力の渇望によって呪われてしまった禁忌の力が僕に干渉してきている。これからどうするのか、頭を冷やしたくなったので体育祭が始まるまでもう少しだけ余裕があると確認して急いで近くのトイレで顔を洗うことにした。

 

 そこでヒーローコスチュームを着たボケているお爺さんと出会うなんて、想像もせずに。

 

 

 

 




因みに百合が産まれて、数年オール・フォー・オーバーの存在に気が付いてなければ彼女は自殺してました。逆の場合も同じ結果。
つまり、緑谷家に闇がある程度で多分、出久も世界も原作通りに進む。
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