一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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第四十五話:来るつもりなら

「──―……予想を遥かに超える最悪の展開じゃ」

 

「死んだと思われておった悪の帝王の存命、更に奴の悪意と個性を引き継ぐ娘、オール・フォー・オーバーと名乗る怪物によって今社会は不安を募らせている。絶対的な力を持つ柱であるお前が為すすべなく叩きのめされ、話題沸騰中のヴィジランテでさえ追い詰められ漸く撃退出来たい相手じゃ」

 

「……撃退? そうとも、あのオール・フォー・ワンの娘。俺もUSJの無くなった現場を見た、お前すら超えるパワーの拳圧で殴られた。あの時の残骸がまだ宇宙を彷徨っているとんでもないパワーでだ」

 

「恐らくあんなの喰らって生きている生物なんてこの星にはいない。だがな、お前が腹に風穴を開けられながらぶっ殺したと思っていたあいつがそうであったように、オール・フォー・オーバーも俺たちの常識から外れた超越者だ。必ずどこかで傷を癒しながら潜んでいる」

 

「根津校長にも会って話した、いくら数だけ集めたところで蟻が集まった所で山を崩すことが出来るのか? むしろ養分になるだけとな」

 

「……だからこそ、やる意味があるか。なぁ、オールマイト」

 

「ヒーローってのは、結局のところ水商売と大して変わらねぇ。世間様の嗜好を見ながら、自らの命を資本にして血を吐きながら走り続ける終わらないマラソンだ」

 

「お前の選んだ小僧に会って少し話をした、可能性を感じる面だが、大きな迷いにぶち当たった様子だった。だが、奴が成長してお前のようになるまでどれほどの年月がいる? それまでに悪意はどこまで成長すると思う? そもそもお前に依存してしまったこの社会がどこまで協力してくれる?」

 

「俊典───お前がサーの予言通り死ぬまでに時間内に奴らをもう一度倒せるか? その体で」

 

「…………あぁ、そうだな。お前ならそう言うと思っていた。だからこそお前は『平和の象徴』と呼ばれる男になれた。オール・フォー・ワンもオール・フォー・オーバーもヴィジランテ『オールフォーワン』も全て闇に葬られるべき存在だ」

 

 

 

「お前も感じたかもしれないが……アレは、ヴィランの敵になれても、ヒーローの味方になれない。貴い自己犠牲な精神じゃねぇ、アレは呪いを垂れ流しながら周囲を巻き込みながら破滅していく、オール・フォー・ワンとは違った最低な悪意(・・・・・)の一つだよ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 雄英高校では、普通科に籍を置いている者は時に同情に似た意味深な目で見られることがある。

 数々のトップヒーローを輩出してきたこの学校は、当然ヒーロー科が毎年注目を浴びる。これは差別ではなく、区別という当然の理だ。

 故にだろう。普通科はヒーロー科に落ちたものたちが、いつか返り咲くために在籍している者たちが当然のように多い、むしろ私のような最初から普通科を狙うのは近所に住む同世代や単純にレベルの高い高校を選びたかったという理由くらいのものだ。

 多くの人達からすれば、ヒーローを目指してても、ヒーローになるスタート地点すら立てなかった敗北者のように見えるだろうか。

 

 ミッドナイト先生が言っていた特別措置として、この雄英体育祭を含めた行事や普段の成績で優秀な結果を残せばヒーロー科に転属することが出来るとのことだ。

 勿論、逆な出来事も過去有ったそうだが、それは私には関係ない話なのだが、要はあのUSJ襲撃前から雄英体育祭で優秀な結果を残せるように気合を入れていたクラスメイトがたくさんいたということ。

 

 だが、あの動画が世間に流れてしまって、あれだけやる気を見せていたクラスメイト達が徐々に瞳に不安を映すようになってしまった。

 

『ヴィランってあんなに恐ろしい奴がいるの?』

『噂だけど、あのオールマイトとオールフォーワン相手にしたあのヴィランまだ生きているとか』

『はぁ!? いや、無理無理無理! 殺されちまうって! ヒーローってもっと()()()()()()()()()!?』

 

 そんなクラスメイトの話を聞いたとき、思わずため息が出てしまった。

 確かに訓練された兵士が、武器を持っただけの民兵に負けるはずがない。

 ヒーローは孤高だが孤独ではない、同業者は多いし、警察だって無能じゃない。

 

 そしてヒーロー飽和時代になって、ヴィランの数は減少すると共に質すらも落ちる。

 

 それは、いいことなのだが……同時にヒーローの質すら落としかねない。

 このままだと、あの八つ裂きにしたいくらいに憎らしいオールマイトの身に何かが有ったときに勢力図は一気にひっくり返ることなる。足りないのは……

 

 

 そう──恐怖が足りない、絶望が足りない、失う命が足りない

  凌辱された命の血の味を、腐敗した四肢から産まれる蛆の味を

 

 

「………ふぅ」

 

 割れそうな頭痛、震える手足、内臓がひっくり返ってしまうほどに体の中から出てこようとする(・・・・・・・・)者達を大きく息を吸い込んで呑み込み、気合で押し込まさせる。私が覚えきれないほどの記憶の中に存在する私が表に出ようとしてきたのだ。

 

「百合ちゃん、大丈夫?」

 

 私の冷や汗だらけの顔をハンカチで拭いてきた。直ぐに離れようとしたが、心配そうな目でしてくれる写原さんに無理に離れるのは申し訳ないような気がして、そのまま身を任せた。

 

「百合ちゃんって緊張に弱いタイプだっけ?入学式のときに立派に答辞をみんなの前で読んでいたのに」

「心配かけちゃった。ごめんね」

 

 具合が悪かったら休む?と言われたが断った。

 あの時は忘れていたが、私がこの学校に来たのは、これからの未来を担うヒーロー達を見たかったからだ。せっかくそれを誰よりも近くで見えるんだ。絶対にやる。

 

「うーん、無茶しちゃダメだよ?これから障害物競争なんだし、辛くなったら直ぐに降りてもいいよ。ほら、私達普通科だし」

「……その言い方は、どうかと」

「だってねぇ?あの事件からヒーロー科の人たちは、落ち込むどころかやる気増し増しだけど、ウチのクラスメイトはどこか腰が引けてる人ばかりだよ?心操くんぐらいかな?ガチで勝とうとしている人って」

「心操くんが?」

 

 『ヴィラン相手によって二転三転する程度の都合のいい気持ちで俺はヒーローを目指してねぇんだよ』と一人だけやる気に満ちた心操くんを不思議に思い、写原さんが聞いてみると、そう返事が返ってきたそうだ。

 

「多分、百合ちゃんのおかげじゃないかな」

「どうして??」

「だって、心操くんの個性を褒めちぎっっていたし、よく相談にも乗っていたじゃん」

 

 よく、兄さんと一緒にやってた訓練方法を詳しく聞かされて、初めて会った時と比べると、体が出来上がり始めていたから、心操さんに必要になりそうな技術をちょっと教えたぐらいだけど。 

 

「………あ、百合ちゃんって男をその気にさせる才能があるタイプなんだー、しかも無自覚で」

 

 写原さんが、納得したようにうんうんと頷いている。

 謎だが、本人が納得できたみたいなので良しとしよう。

 

 今年の一年主審であり、私たちクラスの担任でもあるミッドナイト先生の指示で障害物競走のスタート地点に移動していると、心操さんが話しかけてきた。

 

「なぁ、緑谷。お前はこの競技で予選通過を目指すのか?」

「別に私はリザルトは気にせずに体育祭らしく楽しめればいいかなって思ってるよ」

 

 今の私の体の大半は改人脳無だから、身体能力は非常に高い。拒絶反応も完全に克服できたし、フェーズⅠに移行せずとも上位を目指すのは余裕だろう。しかし、こんなところで勝ちに行く理由がない。適度に手を抜いて、予選通過も出来たら嬉しいな、程度の心持だ。

 

「そう、か……」

「何か、あるの?」

 

 私が頭を傾げると、ちらちらと私を見て言いよどんでいる様子だったが直ぐでも障害物競走が始まりそうな雰囲気に心操さんは決心をしたように私を真っすぐ見てきた。

 

「お前のお陰で、俺は少しだけ前を進めた。だから、俺はお前に挑戦してみたい」

 

 ――…………。

 

「お前の全力を俺は見たいんだ。一対一で」

「だから、勝ち上がって来てほしいの?」

 

 あぁ、と力強く頷く心操さん。どうやら彼の中で私の存在は予想以上に大きいものになっているみたいだ。

 自分がどれほど強くなったのかを証明するために、

 相談に乗ってくれた私に強くなった自分を見せるために。

 

「心操さん、気持ち上がりすぎ、ちょっと落ち着いたら?」

「うっ、そ、そうか?」

 

 皮肉を言うことが多い口がへの字に曲がり、恥ずかしそうに心操さんは顔を赤くする。

 

「組み手すらしてきたことない私にそんなこと言われてもちょっと困るし、そんな過大評価しなくても、別に私は心操さんと同じ夢に憧れているわけじゃないんだよ?この障害物競走だって心操さんにとって有利な競技じゃないんだから予選通過できない可能性だって十分にあるし」

「……そう、だな」

 

 ………見れば分かるほどに落ち込んでいる。彼にとってそれほど私と戦うことが楽しみだったのか?彼の性格からして、他人を蹴落としてでも勝利を掴もうとする執念を持つ人だと思っていたのだけど。

 

「でも、俺は……」

 

 困ったな。別に熱に浮かされたつもりでもなかったんだけど。

 “洗脳”という一聴すれば悪いイメージを受ける“個性”を持ちながらも、雄英高校に挑戦してヒーロー科に落ちた。しかし、それでも諦めず普通科に滑り込んでこの時を待った彼の在り方に惹かれている気持ちはある。

 

 

 そんな彼が私に戦いと。

 

 

「ねぇ、心操さん。私って結構―――負けず嫌いなんだ」

 

 このままだと私が勝負すら逃げた臆病者じゃないか。

 それは嫌だな。

 やるなら拳を空に掲げて勝利の雄叫びを響かせたい。

 

 

 

「1-C組委員長 緑谷百合、挑むというのなら全力で来るといいよ」

 

 ただし、私の立つ土俵まで来れたらの話だけど。

 

 

 




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