一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
と言いながら、本編とがっつり関わる内容な模様。
文才、構成力、画力、全部欲しい。
※時間軸はUSJ襲撃事件後、雄英体育祭前になっています。ネタバレご注意!
出会いとは、未知との遭遇だ。
自身の知らない世界を見てきた者から得られる思想、理念、感情は体験したことがない世界を広げてくれる。それは生きる上でとても重要なことだ。友情や親愛は一人では作れない、どんな苦行も誰かと一緒なら乗り越えられる。それは、人類の歴史が証明し続けている。
「……お前か、お前が、あいつの!」
彼は私の存在を知ると殺意をむき出しにする。
普通の人ならば恐怖に震え、その場から動けないかもしれない。
しかし、それは春風を感じるような、むしろ心地いいぐらい。
兄さんたちと過ごす日々も私にとって大事な世界だ。
しかし、殺気と鮮血に濡れた闇の世界で育った私にとってこういう人物と対峙することが普通なのだろう。
私はこの出会いを感謝したい。
たとえ、社会の破滅を願う悪人だろうとも。
「―――初めまして、
これは、親愛なるマスターが選んだ少年とのただの小話だ。
◆◇◆
「ねぇ、レギオン。お父様の後継者候補に会ってみない?」
彼女は突然、思いついたように核爆弾級の破壊力がある台詞を言ってきた。
「……………は?」
「会ってみない?」
もう一度、言われた。
意味が分からない。
あまりの唐突さで力が緩んでお皿を落としそうになるが、背中から生える毘天がキャッチしてくれたお陰で割らずに済んだ。ありがとうと伝えると『ドウイタシマシテ』と返事が返ってきて、私は洗い終わったお皿を乾燥機に入れて、スイッチを押した。
「イリス、それはどういうこと?」
濡れた両手を個性で乾燥させ、振り返りながらエプロンの紐を解いて、指定場所に畳んで置いて彼女のいる場所に体を向けた。
昼飯を食べ終え、ソファでテレビを見ながら寛いでいる悪の帝王の娘―――イリスはトントンと私に隣に座れと言わんばかりにソファを叩いたので、ため息をつきながら彼女に従った。
「前にも言ってかもしれないけど、僕たちは死柄木弔のお世話係
「聞いた、貴女のもう一つの人格が勝手にしたんだよね。路頭に迷っていた彼を拾ったとか……」
「その後に、僕たちはお父様と最悪の再会を果たしたんだけど……まぁ、その話はどうでもいい」
「もう隠さないんだね。この世界のマスターの存在」
私がマスターと呼ぶ存在。オール・フォー・ワンという悪の帝王。
前世での話になってしまうが、私は死にかけた時に彼に拾われ、彼の下であらゆる知識と経験を得て、最後に見殺しにしてしまった親愛なる人だ。
「下手に隠して、貴女から勝手に接触したら僕と『私』の互いの計画は壊れてしまうからね。なら、もう知ってもらい、貴女には接触禁止してもらうほうが都合がいいからね」
「………それは、イリスが決めていい事じゃない」
彼女の言動はあまりに勝手だ。
そもそも、せっかくの休日に毘天達のお世話をしていたら突然連れてこられて、こんな家政婦みたいなことをさせられている。
私はイリスを殺すために生きているようなものなのに、どうして前世の時にお世話していたようなことをしてしまうのだと自己批判の言葉が脳内で次々に浮かぶ。
「僕か『私』が、今ここで死んでと言われたらレギオンはどうする?」
「今勝手に膝に頭を置いた貴女の首を掻っ切って、その後に私も死ぬ」
「そう、ある意味で僕とレギオンの命は繋がっている。けど、この絶対的な繋がりを唯一介入できるのはお父様ただ一人」
「……何が言いたい」
「お父様の命令なら貴女は
――――――そ、れ、は。
「顔色が変わったね。あぁ、そこで即座に否定できないのなら貴女は出来る。そういう風に教育したのはお父様だから、それを受け入れたのはレギオンだから、そしたら今の貴女は
後、貴女を取られたら僕たちもお父様に従うしかなくなる、と。
イリスは最悪の未来を想像して震える私の腕を手に取って、噛んだ。
血が出るほどに、傷跡を残すように、離さないように。
「これは僕のものだ。絶対に奪わせたりしない―――愛してる、愛してる、愛しているよ」
噛む力はどんどん強くなっていき、皮膚を食い破り、血を啜りながら、魔性の美貌は狂気じみた表情で愛の言葉を語り続ける。
それを私は振りほどかない、振りほどけない。
捕食される痛みも狂気の寵愛も当然のように受け入れる。
それは私もイリスを――――
「……あぁ、ごめん、話が脱線していた」
暫くしたいようにさせていると、昏き金色の双眸に理性の光の取り戻したイリスが口元を蛇のような長い舌で綺麗にすると改めて、最初の話に戻った。私は元気になったイリスとは逆に貧血気味になので、自室から毘天を呼んできて傷の治癒と輸血をしてもらいながらイリスの言葉に耳を傾ける。
「まぁ、一言で言えば―――僕は死柄木弔のお世話なんてしたくない」
「めんどくさいんだね」
「そうだね」
そこは即答してほしくなかった。
「前世の話になるけど、部下の教育なんて主に『私』のほうの人格か、レギオンがやっていたし僕の適任じゃない」
「さっき世話役だった、と言っていたからもう辞めたのにどうしてまた?」
「お父様の玩具を紛失した責任をね」
おも……脳無のことか。
「それだったら、『私』のほうの人格に変われば?そろそろ起きて、貴女と支配権の争奪戦しているでしょ」
「渡したら、僕がまたいつ出てこれるか分からないじゃないか。策略なら僕が絶対に負けないが、物理なら僕は『私』に一歩、いや半歩劣るから」
と、悔しそうにイリスは答えた。
仲良くしなよ体を共有しているのだから、と前世の時から言い続けているが、水と油みたいに一向に交わらない。その所為で個性制御も不安定だから、日によって強さの上がり下がりがある。私や組織に危険が及ぶ場合は即座に手を組んで本来の実力を発揮するけど、プライベートになるといつも争っているのはいつになっても変わらないなぁ。
「まぁ、そんな訳で『私』のほうの人格が完全に復帰したら当分は僕が出てこれない。あいつに時間を割く猶予は僕にはない」
「……今ものすごくゆっくりしてるけど」
具体的には、個性で創り出した耳かきで私に耳の掃除をさせるぐらいには。
ここで普通の人間なら即死するような毒物を流し込んでも、あらゆる個性を使って即座に解毒若しくは体を作り変えてくるから無駄だろうな。
「休憩時間だから問題なし、勿論報酬は用意するよ」
「……報酬?」
「レギオンが望むなら、なんでも用意するよ」
なんでも、と言われると少々困る。
何故なら彼女は悪の帝王の娘、私が希望する物はあらゆる手を使って何でも用意するだろう。下手なものを頼めば悲劇が起きてしまう。なんとか穏便に済ます方法を悩んでいるとイリスは幾つか提案をしてきた。
「僕たちが持っている個性でもいいよ。流石にこの前貸した『オール・フォー・ワン』を希望するなら時間が掛かるけど、それ以外なら大体用意できると思うよ」
「うーん……」
いいかもしれないが、私の最終目的であるイリス殺害時に貰った個性は使えないものになる。
イリスからすれば、上げる立場である以上はそれは把握しているものだ。今イリスに対して有効な個性を選んだとしても、簡単に対応されてしまうので意味がなく、タダ働き同然だ。
「他には……お父様から貰ったこのブラックなカードで何でも買ってあげるよ。レギオンだって女の子だしオシャレに興味とかないの?色々買ってあげるよメイド服とかチャイナ服とか婦警服とか」
「ちょっと待って、なんでそんなコスプレ服を推してくるの?」
「プレイが捗る」
真顔でなんてことを言うんだこの娘は。
「因みに
真顔でなんてことを言うんだこの娘達は(震え声)。
「前世ではこういう文化が復帰し始めた頃に全部滅んだからね。アニメ、コミック、ゲーム等など私がこの世界に来て一番驚いたのは間違いなくこれ等だね。心に余裕があるもの達が作り出す娯楽は実に素晴らしい。人狩りや拷問、策略以外に面白いと思えるものに巡り合えるとは!」
ここまで明るい
イリスの二つの人格は、喜怒哀楽を半分にしたもの。
喜び楽しむ『私』と怒りと哀しみの『僕』。
そんな二つが、互いに共感できるとき、その時の主人格は混ざり合ったように人らしい感情を露にする。こんなところを見るのはきっと、私が目の前で傷ついた時ぐらいにしか見せない顔だ。
………イリスはこの世界を私以上に楽しんでいるかもしれない。
そう思うと少し、悲しい気持ちになった。
結局、USJ事件と言いこの頃、無茶続きだった毘天達のために彼らが大好きな高級蜂蜜水をプレゼントすることにした。勿論、毘天羅の分も確保するため、最終的にオリンピックサイズのプールが満杯になるほどの蜂蜜を世界中から取り寄せることになった。毘天達は大変喜んでくれたから良かったものの、イリスはブラックマーケットで買った怪しげな薬片手に官能的な笑みを浮かべていた。……当分、近づかないでおこう。
因みに兄さんと共に迎えた誕生日にどこからかメイド服やチャイナ服、婦警服、ミッドナイト先生のヒーローコスチュームが送られてきたが、無間焦拳で塵も残さないほどの業火で焼き尽くした。
◆◇◆
後日、イリスの依頼を受けた私は指定された場所、街から外れたひっそりと建つ喫茶店で彼と出会った。今日は貸し切りにしているのか客や店員すら姿がない。傷のあるお尋ね者が集まる隠れた会合場所かもしれない。個性で風景を誤魔化しているように見えることも含めて、この近くに人が立ち寄っても本能的に近づいてはいけないと暗示を受ける仕組みだろう。こんな細かい所まで入念に、そして高等な技術力で個性を使うのは間違いなくイリス主導の下、作られた場所だ。
「おい」
「はい」
「ふざけているのか」
「ふざけてないです」
あの時は殺すべきイリスと救うべき1-A組の皆さんに集中していたから、あまり印象には無かったが、全身手のようなパーツをつけている奇抜な姿をしている死柄木弔さんは喉を掻いている。不衛生に伸びた髪の間から覗く鈍い光を双眸は私を射抜かんと輝いている。もし、私が決定的な隙を見せた瞬間、迷いなく殺しに来るだろう。
「なんでお前がこんなところにいるんだよ。……オール・フォー・オーバーと結託して俺を笑いに来たかクソチート野郎」
「笑う?……あぁ、たしかUSJ襲撃自体は貴方の発案だったっけ。今思い出した」
「テメェとオールマイトが来なければ、最高に楽しいショーになるところだったのに邪魔しにきやがって……!」
「…ねぇ」
そう、間に合ったから良かったものの、兄さんが死ぬところだった。
ほとんどをイリスの手で行われたとはいっても、こいつがそもそもふざけた襲撃事件を起こさなければ、皆さんは怖い思いをすることはなかった。私個人の感情でいえば、即座にこいつの首を刎ねてもいい。
痛みすら感じさせずに、確実に殺せる。
けど、イリスからの依頼だから我慢できる。
――――けど
「私の前でオールマイトの名前を口に出すな」
「……ッ!!!」
許せない、許してなるものか!!
私の大事な人を過酷な運命に落とした憎きヒーロー!!
あいつが平和の象徴でなければ、ナンバーワンヒーローでなければ、社会を支える柱でなければ迷いなく殺しに行っていた!!
『…ゴ主人』
「……なに?」
『ゴ主人ノ殺気ニ当テラレテ、コイツ気絶シテルゾ』
……………あ。
早ければ明日続き投稿予定。