一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~   作:燐2

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|ω・)っ コトッ
|彡サッ


設定帳という名のお墓 ストーリー編 その2

『一つの体に二つの心、見据えるのたった一人の全て』

 

前世名:イリス

現世名:始柄紀(しがらき) (れい)※尚偽名として使うことが多い

イメージCV:悠木碧

誕生日:???(不明)

身長:170cm

血液型:O型

性格:人倫に反しているが義理堅い

 

 

 

 

 

 

 

“個性”:オール・フォー・オーバー

二つの【オール・フォー・ワン】と【ブラッド・ハザード】による複合個性。

個性を使う、というより個性因子そのものを書き換えたり、奪った個性の本来できない事を可能にする(例えば触れる必要のある個性を触れなくても発動できるようになる)。

他者から個性を奪い続け、体内に発現しきれない個性因子は体外に血肉を混ぜた胤翼と呼ばれる器官を造りだし、【ブラッド・ハザード】を併用することで個性を使用する為の最適な部品へと変化させることが可能。胤翼とは出力機器であり、本人はコンピューターのような役割であるため制御が難しく自己破滅する可能性があるほどの超多重同時発動の個性による体への反動は無いが、限界を超える個性を操作する際の処理によって体に負担がかかる。

 胤翼の大きさや薄さ、頑丈さは奪ってきた個性により自由自在であり、これに取り込まれると個性を奪われる所か、体中を分解され翼の一部とされる。数百の個性を自在に操り攻撃面、防御面、機動性、索敵力、精神性、全てが高水準に個性が使えるように調整と鍛錬に時間を費やし、全てを超える者に相応しい史上最悪の個性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリスの人なり

他者全てを自身の下の存在として嘲笑っている。それだけの力もあり、知恵もある。

とある出来事によって二つの人格を持つようになり、普段は“私”だが精神的に不安定になると“僕”に切り替わる。二人の仲は非常に悪く常に自身が本当のイリスになるべきだと主張し、いつかどちらかを屈服させるために策を講じている。“私”のほうが戦闘では爆発力があり、“僕”のほうが安定性がある。

前世では血縁関係であったオール・フォー・ワンにただならぬ確執があり彼を深く憎んでいるが、同時に一定の畏怖と尊敬を抱いている。数百年という時の中で、実力的にもカリスマ的にも超えられた(・・・・・)という瞬間を味わったことがなく、過去の覆しようにもない惨劇の結果、自信の喪失となっているため他人に酷く嫌悪するか、依存する二面性がある。

世界を巡り様々な人物から奪ってきた個性による圧倒的な力とそれに合わせた悪魔的なカリスマ性を持ち合わせているため本人の意思関係なく人を惑わす人さらし、前世の失敗で組織運営はもう懲り懲りと思っており出来るだけ関係を持つようなことはしたくないと思っているが、簡単に切り捨てる様なことはせず使える有能&無能なら、何かしらの出来事に使えるのではないかと本人なりに気遣った影響で人脈を形成させていき、何だかんだ面倒見が良い所がある。

父親(OFA)とは違い、これといった『夢』もなく、死柄木弔のような『歪み』もない。

しかし、人が動物を家畜化するように、何気なく蟲を踏み潰す子供のように、人理に反する行為に一切の罪悪感を持ち合わせていない。前世での過酷な環境を日常としていてためこの世界の常識を知りながらも馴染もうとはしない。世捨て人になれるほど無関心というわけでもなく、人類社会を嫌悪するほど情熱もないが、超越者と名乗れるだけの力を以て問題に対応するため何かしらの形で多くの混沌を生み出す。

オール・フォー・ワン曰く『間違いで堕ちてきた宇宙人が我が物顔でいるようなもの』と評している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章:光に焦がれた者達(オリジナル編)

 

 

 

 

 

 今年も多方面から話題に上がった雄英体育祭から数日後、深夜の時間帯にオールマイトは一人で砂浜を重々しい動作で足を運んでいた。あの事件により、更に堅牢に強化されたセキュリティを何かしらの手段を用いてオールマイトの事務机の上に紙媒体で悪の帝王の娘とされている血の翼を生やした魔嬢から指定された場所に行くためだった。

 その目的は不明で、罠の可能性も十分に考えられ、実力の高いヒーローを招集するべきだという声もあったが個性を無効化する個性すら通用せず、むしろ他者の個性を奪い強化されこちらの戦力を削られることも含めて、最終的に近場にヒーロー達を待機して、オールマイト一人で彼女と立ち会うことが決定された。

 目的地に到着すると、月の輝きを反射する砂浜の休憩室に座る人の影の見つけたオールマイトは彼女の元に戦闘態勢のまま近づく、こちらに視線を一度として向けないまま『世界中の色んな場所で月を見上げましたが……えぇ、この国が一番好み』その言葉にオール・フォー・ワンとの戦いで最後まで一度も見なかったのは、海外にいたのかと考察しながら、どうしてここに呼んだのかと一瞬でも怪しい動きを見せた瞬間、必殺の一撃を叩き込むと意気込むオールマイトに対面に座るような眼差しでイリスは答えた。

 

『ここは、海が目の前で元々人気のない広い場所で、彼との会談には都合のいい場所の一つ』と告げると海面が大きく持ち上がり、USJ消滅事件で一生忘れないだろうインパクトを残した超弩級サイズの毘天羅が顔だけ現れた。驚愕を露にするオールマイトに毘天羅は説明を開始する。自身は中立の存在で、もし二人の会談に衝動的ないざこざが起こりそうになった時、止めるために介入するとのこと、この会合はあくまで二人だけという条件により隠れて監視していたヒーロー並びにオールマイトが服につけていた盗聴器などを機材は無効化させていただいた、として更にもちろん肉体的にも精神的にも一切の損傷行為はしていない、後遺症になるようなことはしていないと主の顔に泥をかけることはしていないと丁寧な口調で語りかけてきた。

 

 その様子に何かいいだけな感情を飲み込み、代わりにため息を吐くイリスに、毘天羅は釘を刺すような口調で告げた。

 

『言いたいことがあるだろうが、我はあくまでご主人の物だ、今現在不敬を働いているが、それでもだ』

『貴方が協力してくれるなら、こんなことしなくていいのに、どうして拒むのかな?彼女とは違って僕の目的は世界にとっても平和だと思うのだがね』

『貴様達の描く未来は、ご主人様の最善の未来とは思えない。だから、我は協力はしない。身を清めたいなら自身の手で慰めでもしたらどうだ?頭の中にいる者同士でな』

『なんて下品な物言い、これを聞けばレギオンは教育を間違えたと嘆き悲しむでしょうね?』

 

 突然、二人?の嫌みの言い合いにオールマイトは目を白黒させるとため息を一つイリスがつくと、初めてこちらに目を合わせ、王族のお姫様のような気品のある挨拶を見せた。そこで初めてオールマイトは、彼女の名前がイリスで二重人格者であることを知る。

 相手が相手ではあるが、挨拶には挨拶で返し、座る場所に何も仕掛けがないことを確認すると着席する。

 まだ昨日のように思い出せる宿敵の面影を残しつつ、一つ一つの動作に引き込まれそうになるほどの妖艶さを醸し出す目の前の魔嬢は魂から酔いしれるような微笑みの裏から、理を超えた怪物の濃密な死臭にオールマイトは背筋を凍らせた。

 

『では、我はこれより沈黙する。二度目だがお互いにどっちか手が出そうになった瞬間、我が止めるぞ』

 

 その言葉を最後に巨大な蜈蚣は海にその姿を沈めた。

 夜の冷たい風が本来相容れない二人の間を抜けていく。

 まず口開いたのはイリスだった。今度こそオール・フォー・ワンを殺害してほしい、その報酬は貴方の体の全快と貴方に相応しい個性の譲渡。そのことに仮にも君の父親ではないのかと驚くが、イリスにとって家族とはヴィジランテのオールフォーワンだけ(彼女の名前はレギオンだということ)であり、そもそもこの世界では血の繋がりもない、奴が生きていること自体が自身の安寧を歪ませる一番の要因となるためと答え、この世界(・・・・)というワードに意味を問うと信じるか否かは任せると前置きを入れて前世についてオールマイトに話す。

 

 ヒーローが産まれなかった世界線、それは確かに一度は思いつくようなIFの世界、超常黎明期の混沌として時代に悪意に侵されたヴィランと善意を捨てなかったヒーロー。あれから百年以上の時が過ぎても、未だその混乱は世界に深く傷として刻まれていることをオールマイトは知っている、だからこそ何かが違っていたら、たった一つの履き違えが、混乱渦巻いていた時代の先に憎しみの戦火が世界中に燃え広がる最悪の時代を想像した。

 

『……その反応“僕”の話、信じるのかい?』

 

 意外だと言うように目を丸くするイリス。

 平和の象徴として、平和を創り出したものとして、平和から最も遠い場所を見たものとして、オールマイトはイリスの語る異なる世界を否定することは出来なかった。

 

『世界を巡っからこそ分かる、この国は間違いなく平和でこの国に生まれたものは間違いなく幸福だ。だけど、それはオールマイトがいるからこそ』

 

 それは感服しているのか、皮肉を言っているのか判断に困るような声音だった。

 

『……心の底から凄いと思ってるさ。お父様を一度は倒した、傷を負いながらも生きている。これは凄いという言葉以外“僕”は見つからない『私』もそこは珍しく同意見さ。しかも、そのワン・フォー・オールで』

 

 その言葉にあの時の違和感を思い出す。USJ消滅事件にて恐怖の魔嬢(イリス)蜈蚣の王女(レギオン)の激突。瞬く間に景色が変わっていくほどの戦闘の中で、お互いに個性を同時発動させることで、より威力と広範囲を増していた。だが、あの時、レギオンが『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』を使った瞬間、触れることなく、視界にいれただけで黒焦げの死体を分解、再構築することで無くなった腕を再生させる御業、続けて放った人智を超えた怪物のような破壊を振るった剛腕を。

 武器を振るうように個性を使うレギオンが、今まで使ってこなかったのが可笑しいくらいの個性がまるで内側からあふれ出してきたように。

 まるで『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』事態が多種多様の複合された個性であったかのように。

 

『歴代継承者の極まった身体能力を受け継がせていくのがワン・フォー・オール?その認識は確かに間違っていない。そういう機能もあるだけ』

 

 だとすれば、他にも疑問が浮かぶ。

 なぜ自分が『ワン・フォー・オール』を持っていた時に同じように使えなかったのか。

 同じ無個性の後継者と多種多様の個性をレギオンの共通点を考えても、納得のいく答えをすぐに出てこない。

 

『それじゃ、ここで僕と契約しよう。オール・フォー・ワンを殺すと誓うのなら……言い切る前に断るのかい?』

 

 言い切る前にオールマイトは当然のことだ言わん限り息を吐いた。

 ヒーローは人を救う存在で、ヴィランを倒す存在ではない。

 母親のように慕っていた師匠を殺した憎しみは、オールマイトの心の中に今でも存在している。

 それでも、今救わなければならない人がいるのならオール・フォー・ワンを逃がしてしまうかもしれない。勿論、選べるのなら命を賭しでもオールマイトは悪を砕く拳と救いの手を両方に伸ばすだろう。

 そして、もう一つ――――

 

『もし命を奪うことがあるのなら、それは誰でもない自分の意志で、ね……』

 

 目の前の、人ではない、ヒーローという生き物は何かを思い出すように、感情を飲み込むように囁き、残念そうに目を細めた。

 

『やれやれ、とりつく間もない。貴方とは協力できるところがあると思ったが、どうやら僕の勘違いだったようだ』

 

 震える(・・・)右手で時間を確認するイリスにオールマイトは時間を気にするほどもうないのかい?と聞く。

 

『もう懲り懲りだと吐き捨てた組織運営に結局関わっていてね。人類全体があなたのように心も体も強くなれるわけもなく、自らの物語という主役舞台上なのに他者の脚本を心待ちにしている愚者たちも大勢いるわけだ』

 

 ケラケラと嘲るようにイリスに対して青筋を立てたオールマイトは、あの男と同じようにそうやって他者を壊し、奪いつけ入り、支配するようなことをするのかと声を上げながら立ち上がるが、空虚な夢語りをする活動家を見るような冷酷な眼差しで見上げられる。

 

『ならば問うよ、個性という病によって性癖、見た目、衝動がそれぞれ抱く特異体質が蔓延するこの社会にすら傷つけられ、罵られ、爪弾きされた者たちを救う叡智を君は彼らに授けることが出来るかい?誰よりも力を振るい、誰よりも前にいた平和の象徴(オールマイト)?』

 

 今まさに振るわれとする力を振るうことをオールマイトは出来なかった。

 

『ま、社会全体からすれば小規模の慟哭でしかなく、それを救うのにも資材や富が必要で、それらを援助する側は救う者に対する選択の自由があるのは当然の話。気にしないほうが気が楽だ。問題があるとすれば個性という力は小規模でも社会に対する致命傷になりえる、だけ』

 

 ……煽られたと思えば、フォローされた。オールマイトは彼女の背後に宿敵の影を見ていたが、それはもしや虚像だったのではないかと訝しんだ。

 それほどまでにあの男と彼女は違うと感じてしまった。確かに、USJ消滅事件で初めて見たときを思い出してみれば、表情や雰囲気はよく似ていたがこうやって話を交わすと、同じ力を持ちながら、似たようなことをしながら、実は全く別の道を見ている怪物という印象へと変わっていく。

 

 だからこそ、持ち上げた拳と腰を下ろして、オールマイトは彼女に問いかけた。

 

 

『君は……社会に何を望んでいる?』

なにもないよ(・・・・・・)

 

 それはイリスという人物を体現するような言葉だった。

 

 だからこそ、オールマイトは知りたくなった。

 目の前の怪物が、何を望み何を為そうとしているのかを。

 言葉通りに彼女は社会に対して、変革や支配を目論んでいる様子は一切ないと感じた。

 だからこそ、世間に対して望みも訴えも執着もない、ただ彼女という個人の目的を―――原点(オリジン)を。

 

『残念ながら、そこにたどり着くのはあなたではなく、緑谷出久になる』

 

 話す気はないように、驚愕の言葉と人物の名にオールマイトは狼狽した。

 

『僕は関与する気はないけれど、“私”が目的のために緑谷出久を呪われたオール・フォー・ワンに刻まれた歴史を知ることになる』

 

 勢いよく体を再び持ち上げ、彼女のもう一つの人格について迫るが、いま彼女は無茶をして睡眠中だと震える右手で答えられた。

 

『狙っているというより、託そうとしていると言ってもいい。あれにそれだけの強さがあるのか疑問だけど』

 

 少なくてもこの問答で、今会話をしている“僕”という人格の目的は個人で遂行しようとしていること、逆に“私”は目的の遂行に緑谷出久を必要としていること、その過程で彼女たちの目的はハッキリと分かることだ。

 オールマイトが更なる質問を投げようとした時、空気を振動する音が互いの耳を揺らした。

 

『失礼……はぁ、なるほど。“私”が仕損じた、か』

 

 素早く左手でイリスは携帯機を取り出し、送られてきたであろう情報に目を泳がすとため息をついた。

 

『一方的で申し訳ないが、会合はここまでだ』

 

 オール・フォー・ワンの情報は大したものは持ってないし、提示すればおおよそ僕たちが関与したと疑われて僕たちの安寧を邪魔してくるから渡せないや、人のエゴで生み出された怪物(・・)がこの国に襲撃する可能性がある。“私”が撒いた種だから僕は関与しないけど、ヒーローを名乗る者達に警告ぐらいはしたほうがいいかもね、お父様を殺害してくれたら報酬はいつでも支払うから等、きっと今日最低限にも伝えるべきだったであろう情報を早口にオールマイトに伝えると、瞬間移動系の個性を使ったのか全く間に消えた。

 オールマイトは彼女の人なりを理解しようと頭の中で整理していくと、もしかしてこれってただ愚痴を聞いてほしかっただけでは……と思ったときに海面が浮かび上がり、毘天羅がこの巨体を露わにして、消えたイリスのいた場所を静かに見つめた。

 

『それは我もご主人も聞いてない……緊急案件か?しかし、人のエゴとは……』

『何か知っているのか!?』

『―――いや、検討がありすぎて分からん。しかもイリス様のことだ、貴公に誠意を見せるためか個性で作り出した分身や影ではなく本物だが、ご本人がすぐ動かねばならないと判断して行動にしているのを見るに、かなり重大な案件のはずだ。これは不味いことになっているかもしれん』

 

 元より人の形しているだけの怪物のような存在の口から怪物と評されるような存在が、この国を襲う可能性を考えただけで全身が氷海に沈むような感覚に襲われる。

 

『直ぐにこの情報はご主人に伝えるが……オールマイトよ』

 

 言いにくそうに毘天羅は、言葉を詰まらせた。

 まさか、あの戦いでの傷が癒えていないのか、雄英体育祭ではあれほど個性を制限した状態でプロヒーロー達が舌を巻くほどの活躍をしていたのに。

 

『……レギオン、ご主人の正体は既に知っているだろう?物的証拠はなくとも察するだけの情報をそちらは有しているはずだ』

 

 その言葉に思わず息を呑む。

 暫しの沈黙後、重々しく毘天羅は責め立てるわけでもなく、非難するわけでもなく、ただ静かに彼女の今の事実を語った。

 

『貴公がなぜそこまでヒーローという人の生き方ではない道を進み続けれる原動力には少し理解はある。その決断の先に、両手では数えきれないほどの他者の幸福を支え続けられたであろう。……だが、貴公の素晴らしき未来を願う清き思いは、ご主人にとって最も大切な人を呪いものになった』

『……君はワン・フォー・オールを呪いと見ているのかい?』

『貴公が選んでしまった後継者は、貴公のようになるために命と心を燃やし続けるだろう。それを他者によって温かいものかもしれないが……だが生きながらも燃え続ける家族、それを見て本当に栄誉や誇りと思えるだろうか?少なくても、ご主人は違った、どうして兄さんが選ばれなければならないのか、その身勝手のような、純粋のような、或いは普通の人間のような願いは、善意によって打ち砕かれた――――もう、戻れない』

 

 彼にとっての超人染みた、或いは狂人的な思考ではその言葉を素直に受け止めるまで暫しの時間が必要であった。

 どこまでも自身の熱狂的なファンであり、重圧を乗せてしまった罪悪感とそれでも心強い姿勢で日々を励む後継者の姿が浮かび、同時に理不尽に選ばれた命が失われた家族の嘆きの様が脳裏に沸々と浮かび上がっていき、独りぼっちの砂浜で血を吐くような声でオールマイトは呟いた。

 

『それでも、私は成さないといけない。平和の象徴として』

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後、雄英高校は休日であっても百合は昼時ながらいつものように活動をしていた。オールフォーワンとしての服装である黒い外套は体内に内蔵して、一般人に混じりつつ街中を歩いている。いつも見回っている所より更に街一つ、二つ、遠い場所で。数日前にイリスから、毘天羅を通じてとあるヴィランの情報が流された。

 

 その詳細は、とあるテロリストによる非人道的な実験場を偶然発見、興味本位で調査したところ、個性因子を他者に移植することで元々所持している個性にプラスして、別の個性を発現させる研究がされていたが、被験者が暴走して、そこで働ていた研究職員は全員死亡していた。

 そこでイリスが発見したのが、様々な異形型の個性を発現させられた唯一の成功例だった。しかし、出会った時は体内の個性因子同士が拒絶反応を起こし死にかけていたが、何を思ったのかその子を救い、しばらく旅を共に巡ったそうだ。

 しかし、研究室に残されたデータを調べている内に分かったことで実験の影響か、それとも過酷な環境故か、共食い(・・・)をしており、イリスの血の影響で飢餓状態になることはなくなっても、好んで人肉を好み、子供じみた凶悪性で周囲を破壊尽くすことに快感を覚えた、足がつくことを危惧して注意もしたが、結局治らず最終的に見捨てようとしたが、逆上し襲われ返り討ち、四肢を切り捨て、燃えながら海に落ちて、もう生きていないだろうと結論を出した―――だが、奇跡のような生還を果たしイリスを探しているという情報が外国の手下から報告され、イリスもそのヴィランを探して、今度こそ始末をつけるために今国中を捜索中とのこと。

 

『(厄介ナコトニナリマシタナ)』

『(厄介なことになった)』

『なになに?どうしたの?百合ちゃん!?』

 

 なんでここにいるの?と毘天は困惑し、百合は頬を引き攣らせながら肩を並べて歩いているクラスメイトである写原念音の存在に出そうになっているため息を呑み込んだ。オールフォーワンとして出会い、その時は深夜だったので家まで送ったので彼女の家がどこにあるのか分かっている。そして、ここはそこから電車なら一時間以上かかる場所だ。

 

『念音さん、どうしてここに?』

『んー?私?聞いちゃう?聞いちゃう???』

 

 いや、面倒な雰囲気を感じたので辞めておきますとキラキラに目を輝かせ活気の満ちる鼻息が肌に分かるほどに急接近してきた念音に思わず一歩引く百合、一歩進む念々。

 

『まぁまぁ聞いてよ!!まさかこんなところで友達に会えるなんて思ってもなかったし!!』

 

 いや、私、忙しいし。報告にあった凶悪なヴィランを探さないといけないし、とは一般人としての姿のため言えず、ならば適当な理由をつけてこの場から去ろうとする百合の手を掴んで、効果音が聞こえそうなキラキラな瞳で見上げる念音がいた。

 

『(ゴ主人、休憩ヲ提案スル。我、甘イ物食ベタイ)』

「……どこか適当なファミレスで話、聞こうか?」

「なら、丁度いい所があるよ!行こ!すぐに!!」

 

 そう言って、百合を目的地へと引っ張る。これが普通の学生の生活なのかなとこれほど強引に近づいてくる同世代の人は初めてと内心呟き念音に流されるように足を進める。

 念音の連れてこられたのは、メルヘンチックな喫茶店だった。聞いたことも、見たこともない鮮やかな場所に唖然とする百合に流れるように店員と話している予約していたであろう席に案内される。

 

「そういえば言ってなかったけど、実は私最近売れてる配信者なんだ。顔は隠しているけどね」

 

 聞くところ動画配信サービスを利用して、ゲーム実況から料理まで幅広くを活動していた。最近までは三桁程度小さなチャンネル登録者しかなかったが今話題沸騰中の『オールフォーワン』の独占インタビューに成功した結果、登録数がうなぎ登りになり、あともう少しで収益化できる層に食い込めると熱弁する念々に百合の指は、いつの間にか彼女のチャンネルの登録ボタンを押していた。

 

「ありがとう!」

 

 弾けるような笑顔にそういえば結果的に一度はコラボ(というの事故)した渋くていい声と可愛らしい声の義賊コンビは元気だろうかとふと思い出す。彼の個性は将来性のある強力なもので、まだ逮捕された話を聞いたことないということはまだ夢に向かって頑張っているのだろう。……個人的に放置していて大丈夫なんだろうかと心配もしたがある意味、人としてラインを超えるほどの惨事は起こさないと判断して何もせず別れたが。

 

「百合ちゃんはとても穴が見えないくらい懐が大きそうだからね。ウチのクラス、ヒーロー目指して落ちて、滑り込んできた人が結構いるからなんていうかほんと空気が悪かったんだよねー。そのメンタルケアをしたのが我らクラスの王女様で委員長の百合ちゃん」

 

 あの時はヒーロー科を希望し、落ちた生徒達の鬱憤がクラスの中に充満していた。最後の学生生活でこんな空気は嫌だと、色んな生徒にメンタルケアをしたことを思い出して少し遠い目する百合、浮かれていたのだと内心呟いた。そういえば、と念々が言葉をこぼし脳裏に過った疑問を投げてきた。

 

「百合のお兄ちゃん、緑谷出久くんだっけ。……どう?関係修復できてる?」

 

 その一言に百合は、テーブルに頭を突っ伏した。

 

「……ご、ごめんね。ほら、試合って言っても、あれだけ口論しながら殴り合っていたら。その後、大丈夫かなって」

 

 あのとき、互いに思いをぶつけ合った結果、出久()は勝ち、百合()は負けた。

 しかし、勝敗が決しても、問題が解決したわけではない。

 オールマイトの秘密主義が百合とって最悪の地雷を踏みぬいたことも。

 『ワン・フォー・オール・アンリミテッド』の呪われた深淵を出久が見てしまったことも。

 百合は先短いこの人生に何かを残すことを拒否し、出久は救いたい思いを抱き始めた人が近くにいること知らないことを。

 

 

 こうなったのはオールマイトが原因だと、勝手な怒りな沸き立たせる自身の矮小さも。

 

 

「百合ちゃんは本当に家族が好きなんだね」

「……そう、だね」

 

 砂漠を彷徨う放浪者がやっと得た水で喉を潤したような声が自然と出た。

 

「私には、それしか残ってないから」

 

 地獄の業火すら生温い罪科を負うはずの自身を温めてくれた光達。

 毎日、顔を合わせてあいさつをして食べて安全なものを心配なく口に運んで、何気ない事に会話に花を咲かせて。

 明日誰かが殺されるかもしれない、明日自分が死ぬかもしれない、明日世界が終わるかもしれない。

 恐怖の未来を前に抗い続けた日々とは無縁の―――健全な生活に溺れてしまった。

 でも、ダメだ。そう心が温かくなる日にふと鏡に映る自身を見て、考えを改める。

 今まで、自分が何をしてきたのかを、自分がいったいどんな存在で、どんな血に濡れた道を歩んできたのかを。

 

「なら、うん……友達としてのアドバイス!ちゃんと話しなさい!!話せないことがあっても!めちゃくちゃでもいいから思いだけでも伝えること!!もう会えなくなって後悔するよりよっぽどいいから!!!」

「……そうかな、いや、そうだよね。ありがとう念々さん」

 

 百合は深々と感謝の言葉と共に頭を下げた。故にその様子を見ていた念々が、声を殺して胸の傷を抑えるような仕草を見ることはなかった。

 そんな会話をしていると運ばれてきた甘い匂いがするお菓子の数々に動画撮影に協力していた時に―――事件は起こった。

 

 念々にとって、それは一瞬の出来事だった。

 対面していた百合が窓越しに目を向けた瞬間、強い衝撃と共に意識が暗転した。

 

 まどろみの中で声が聞こえた。

 全てを焼き尽くす紅蓮の炎の中を守ってくれた両親の姿(・・・・)が。

 両親が声を上げなら救いの手を伸ばした炎の壁の先にいた背を向けたヒーロー(・・・・・・・・・)が。

 体が燃えながら両親は(念々)を火の手の中から見つけた毛布に包んで窓から投げた―――最後の光景(・・・・・・)が。

 

 

「念々さんッ!!」

「―――――あ」

 

 パラパラと砕け散った建物の欠片とピカピカする灰色の空気とゴウゴウと聞こえる獣のような声。

 身の丈を超える建物の一部から守るように倒れた念々に覆いかぶさった百合の顔が。

 

「怪我はないッ!?」

 

 感情をあまり表に出さないミステリアスは何処へやら、決死に迫る表情と声に反射的に体が無事なのを確認して。

 

「……か」

「か!?」

「か、カメラ、こ、壊れて、ない?」

 

 けれども覚醒しきってない意識から絞り込んで出た言葉に、百合は目を白黒させたあと。

 

「配信者にとってカメラって命とは聞くけど、本当みたいね」

 

 ちょっと呆れたような、けれど優しい声で。

 

「大丈夫、今もちゃんと念々さんの手の中にあるよ。見た感じ壊れてない」

 

 力が入りだした手でカメラ兼携帯機の状態を確認する。よかった壊れていない。

 安心するように、両手で包み胸に置く姿に百合は微笑みを浮かべるが、何かを感じた素振りを見せた瞬間、景色が変わった。

 

「匂いがするゥ!!あのお方の匂いがァァ!!」

 

 最初に意識できたのは耳をつんざく轟音だった。そこから視界だけが一瞬取り残されたような速さで横に動き、地面に倒れていた態勢は百合が背中と足を手で支える形になっていた。

 

「「「ヴィランだぁぁ!!!」」」

 

 大多数の悲鳴が響く中、百合が睨む視線の先、地面を抉るように突き立てていた拳が、ゆっくりと引き抜いた。

 その姿をはっきりと目視して、相対する存在もこちらを認識された瞬間、念々は凝縮された恐怖の声なき声が喉から絞り出された。

 それは確かに人の形をしていた。

 しかし、体のあらゆるパーツが別々の動物の特徴を表した混沌を具現した輪郭から、空間を支配するように濁流の黒い瘴気を纏う怪物が、ゆっくりと顔を上げた。

 その動きだけで、空気が軋む。見えない圧が波紋のように広がり、全身を凍らせて、闇が呼吸を始めたかのように濃度を増し、視界の端から色が奪われていく。何かを語るまでもなく、全ての生物が本能で理解してしまうほどの圧倒的な存在感。

 

「―――だ、誰だおまえェ。どうじて、お前から、あのお方の匂い、がする?」

「念々さん、しっかり捕まって、舌も噛まないでね。一緒に動くから」

「あ、あの、ど、どうし……て」

「ぁぁ、分かっだ。分かったぞ。お゛前が……」

 

 空間の主である巨体の影が揺らいだ。

 

「――――お゛前がァァア゛ァァア゛ァ!!!!??」

 

 先ほど賑やかな街並みは一瞬にして、瘴気を纏うたった一回の拳によって陥落した。建物も車も、人が築いてきた全ては災厄の余波(・・)によって巨大なクレーターと共に更地と化す。

 ただ、周囲の人々と共に(・・・・・・・・)重力が反転したように空に向かって落ちる奇妙な体験に思わず悲鳴を上げながら百合を全力で抱きしめる。

 

 大勢の人々と共にあの巨体の主が建物が見えない場所に着地する。地に戻った瞬間、あたりには一瞬の静寂が訪れた。微かな漏れる誰かの嗚咽に状況の一旦を理解した誰かが息を呑み、誰かが名も知らぬ誰かの名を呼び始める。その中で、百合だけが冷静にこの状況の整理と解決策を脳裏に描く。

 

「攻撃の瞬間、地面をセメント操作してタール状にしてあの破壊力……パワー、スピード共にオールマイト級に更に複合された異形個性もち」

『主人、間違イナク例ノヴィランカト。何時モノヨウニ行動シテモ、並ミノヒーローデハ相手二ナリマセン』

「最低限は“念動”で持ってきて、無理そうなのは“弾性”置いて壁にしてきた。あいつの狙いは私みたいだし、見境なく攻撃するタイプでもなきゃ嬲り殺される必要はないと思いたいけど……」

 

 その時、服を引っ張られた。視線を下に降ろすと、今にも大粒の涙をこぼしそうな子供がいた。

 

「おかあさん、どこにも、いないの…」

「―――大丈夫だよ。私がいる」

 

 その声には、混乱する人々すら立ち止まらせるほどの覚悟と義憤が込められていた。

 

「念々さん、この子をお願い」

「い、行くのッ!?正気!?なんであんなバカみたい強そうなヴィランがいるとか!!なんで勝手に自分が狙われている言い出したのか!!ヒーローじゃないのに!!」

 

 百合は子供の頭を撫でると念々のほうに誘導する。

 

「ヒーローじゃなくても」

 

 その声が静かに、しかし揺るぎなく響いた瞬間、体内に格納していた黒い外套を刀のように取り出し、身に纏う。背中の皮膚が裂けると、四体の蜈蚣が顔を覗かせ、強固な虫の甲殻を思わせる変貌を遂げる。

 誰かが囁いた。時代遅れのヴィジランテから始まり、複数のプロヒーローですら殺害するヴィラン達を単独で捕縛し、オールマイトに匹敵するほどの力を秘めた新時代のヒーロー『オールフォーワン』の名を。

 

「人を助けに行かない理由はないよ。……お願い、私の友人」

 

 誰もが理解する――今、ここに立つ存在は、確かに希望そのもの(・・・・・・)なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

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