一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
こんなはずじゃなかったのに、もう作り直そうか、それとも最終話だけ書こうか迷い中。
原作も話が暗すぎて、ヒロアカの世界観で輝かしいヒーロー像をどう書いていいか分かんなくなってしまった。
そんな鬱憤した気持ちで書き殴ったから鬱な内容がとにかくぶち込まれています。
もしかしたら、このまま凍結するかもしれません。
こんな作者でごめんなさい。
「まさかお父様が直接会いたい、なんて今日は一体どういう要件かしら?」
《油断するな『私』。僕達が奴に対して殺意を抱いていることは昔から察知されている。ただの会合じゃない》
その日、唐突に憎きお父様から連絡があった。昔から表舞台に立つことは少なく、裏で暗躍することが多いお父様だったが、英雄オールマイトによってやられた傷によって真面に動くことすら出来なくなっていたはずですが。
お父様に殺意を抱いている私達と直接接触することを恐れ、海外研修という名目で私達を国から追い出したことから察するに相当追い詰められていたはず。オールマイトを中心にしたチームによってお父様の組織は崩壊寸前にまで壊されていたことを考えると、当然の流れですわ。
むしろお父様が提案したときにあっさりと乗ってきた私達にびっくりしたかもしれませんが、あの時はいくら弱体化していても、お父様を抹殺して一番欲しいものを手にするほどの力は私達には無かったので、都合よく私達は動いてあげた。
「だとしたら、なにかしら?」
《……最悪のパターンかもしれない》
「つまり、私達はこれから
《…………》
私の言葉に、もう一つの人格である『僕』は黙りました。
お父様との連絡は、常に傍受されない特殊な秘密通信によって行われる。
直接顔を見たのは、もう五年以上前になるかしら?
忌々しい昔のことを思い浮かべながら、日が沈んだ夜の高級市街の中、蟲が多い道路を歩いていく。この周囲に住む富豪層に雇われたヒーローが多く、治安がこの国で一番いいとされている地域に私達を呼ぶとは一体どういう要件なのかしら。
目的地の高層ビルの前に着くと、外で待機していた若い従業員が私に気づいて声をかけてきましたわ。
「イリス様ですね。どうぞ」
「…………はい」
偽名ではなく、本名を呼ばれ一瞬殺そうかと考えたが、周囲の環境を考え、止めましたわ。
周囲を警戒しながら、案内に従い豪華なルームからエレベーターに乗る。
「お客様から、イリス様にレストランに入る前にお召し物を用意されておりますのでまずは更衣室にご案内させていだだきます」
「………いいわ」
「しかし……いえ、失礼しました。このまま最上階のレストランまでご案内させていただきます」
優秀な従業員ね。そこで駄々こねたら感情と記憶を引っこ抜き、そのまま私一人で行くつもりだったのに、不機嫌な雰囲気を即座に察知し、私の一般的な恰好に対して何も言わず、
「受け取りなさい」
「……ありがとうございます」
一応、私の存在を忘れなさいと気持ちを込めて多くチップを握らせて私が従業員を帰させ、予約しても三年ほど待たされることになると評判の高級レストランに入った。既に個性で察知していた通り、そこは厨房にコックの存在が分かるだけで、多くの出入りがあるはずの晩餐の場は伽藍としていましたわ。
しかし、殺風景ではない。この場を支配する悍ましいプレッシャー、ただの蟲なら死を錯覚し、そのまま気絶するか自ら命を絶つほどですが、私にとって春の風程度でしかなく、レストランの中を進むと信じられない人物を見つけた。
《あぁ、最悪だ》
「―――やぁ、私の愛娘。久しぶりだね」
悪の帝王、オール・フォー・ワンが、そこにいましたわ。
いや、そこに問題ない。いることは見なくても分かっていた。
私が驚いたのは―――、
「数日前まで、奇跡なんて陳腐なものを信じるつもりなかったんだけど、
聞いていた怪我なら、一番酷いとされる顔面は顔が無くなるほどだと予想していた。体中に医療器具を繋ぎ合わせて、無理やり生かしているような惨状だとその時の私はざまぁみろと嘲笑を他人に悟られないように必死で我慢していた。
でも、目の前にいる男は―――その
「御覧の通り
「………それは、おめでとうございますわ」
血流を操作して、動悸を抑え込め。
困惑を悟られないように、顔を隠すようにお辞儀して時間を稼げ!
「今日は素晴らしい祝日として君を呼ばせてもらったよ。ささ、席に着きなさい」
「は、い。では失礼させてもらいますわ」
精一杯の作り笑いをして私はお父様の言う通りに席に座りましたわ。
必死に表情を作りながら、頭を回しながら、お父様が海外研修で起きたことを聞いてきましたわ。海外のヒーロー情勢やそれに対するヴィランの動き、とある国が密かに個性について人体実験をしていた研究施設から生み出された哀れな蟲達のことを話しましたわ。
「なるほど……あらゆる個性を他者に移し替えることで超人を生み出す実験か。その話は、時間があるときにドクターに詳細をお願いしていいかい?その情報は脳無に新たな可能性を生み出すかもしれない。優秀な君のことだ、持っているだろ?」
「………なにを、ですか?」
「弔とは違い、君は人を従わせるより、操る術に非常に長けている。君の力と君のお友達となら、
《………喋りすぎだバカ》
テーブル下で震える手をもう一方の手で抑え込みながら、必死に言葉を探しましたが、結局一人もう休ませようとした部下を一人、お父様の元に送ることが決定しましたわ。
「君は、雨に濡れている子犬や子猫を見捨てられない優しい子だからね。だけど、ちゃんと反抗しないように調教もするし、君は本当に優秀な子だね」
いつから、なんて決して口にはしませんでしたわ。
しかし、もうこの話の主導権はお父様が握っていて、何とか話の流れを変えようと四苦八苦するが、このレストランに入った瞬間から、お父様の都合のいいように話を進めるしかないような状況になっていた。
「今日は初めての愛娘との晩餐を心から楽しめた。この幸せを君にも知ってほしいから、僕に
用意された味の分からない料理を無理やり呑み込んで、ここから一刻も早く抜け出したい晩餐が終わろうとしたとき、ワインを楽しむお父様がテーブルに置かれたベルを鳴らす。
「……だれ、ですか」
「そう焦ることはないよ。イリス、さきほど君も会ったばかりじゃないか」
《――――嵌められた。そういうことか!!》
私の頭の中に住む『僕』が最大の警報を鳴らせた。
すぐにこの場から逃げろと。
だけど、彼女が―――好感を抱いた私の案内係だった蟲の姿が現れる。
「どういう、こと……?」
「久しぶりに頑張って変装したよ。気が付かなかったってことはまだ腕は錆びてないってことだよね―――イリス」
顔が変わる、姿が変わる、声が変わる。
私の一番大事な人が、お父様に一番会わせたくなかった人物が、そこにいました。
「僕は君のような娘を造った記憶がない、だけど君は僕と同じ、いや……発展した個性を持つ。それはどうしてだろう?とずっと疑問に思っていたんだけど、この子が全てを話してくれたよ―――確かに君は僕の娘だ。
ユリが、そこに、いた。
お父様の隣で、まるで忠実な部下のように、いた。
「先ほどから我慢していたその動揺が遂に我慢できなくなったね。何度も言うけど奇跡だよ。彼女が偶然見つけたヴィランを捕まえる時に僕の本拠地の近くにいたんだ。前々から彼女に興味があったからね。黒霧にお願いして、通信越しに話しかけると彼女は突然、泣き出して懺悔し始めたからびっくりしたよ」
あぁ、容易にその場面を想像できてしまう。
死んだときに精神を病むほどに、ユリはお父様を本当のお父様のように慕っていた。
悔しかった。死んでも尚、お父様はユリを縛り付けるのか。
呪われた個性を渡してユリがどんな地獄の道も歩けるようにしてしまい、その結果何が起きたのか、お父様はそれを知ってしまった。
「今日は大変いい日だ。オールマイトに負った傷を治療してくれたのは僕にとって姪のような子だなんて、生き別れた家族と再会できたような気分だよ」
「えへへへ、ありがとうございます。私もマスターの傷を治せて本当によかったです」
気持ち悪い、気持ち悪い!!
どうしてユリが私の隣にいないの!?
どうして殺した父様の隣にユリがいるの!?
「……聞かせてほしい、ユリ」
「声の感じが変わった、僕のほうかな」
「そうだよ。いま『私』のほうが混乱しててね、あっさりと主導権を握れたんだ。で、聞きたいんだけど―――君は、緑谷百合として、どうする?」
「勿論、今のまま続行かな。あともう少しで雄英高校に入れるし、一般の生徒として、レギオンとして、活動するつもりだよ。勿論、これはマスターの許可は貰っているよ」
「そっか、君のお兄さんのことだけど」
「珍しいね?貴女が緑谷出久を気にするなんて、あの子はスパイとしても、駒としても、使えないから―――もう、
「……ありがとう、少し安心した。それさえ聞けば僕は特に何も言うことないかな。次はお父様に言いたいことがある」
………やる。
「負けたよ。運命の女神が存在いたら僕は迷いなく、そいつの胸に神殺しの槍を突き刺す。あぁ、畜生、子供が親に勝つのはやっぱり難しいなぁ。色々と策を練っていたのに」
「先ほどまで話していた私と名乗るのほうは嫉妬深いめんどくさい娘だと思っていたのに、君はずいぶん落ち着いているね」
「この展開はこの場所に呼ばれた時点で予想していた。はぁ……疲れた、今日は僕はもう眠るよ」
…して、やる。
「お休み、いい夢が見れるといいね」
「お休み、クソ屑なお父様、痛み目を見ろ」
『私』へ、全権を譲ってやる。
僕たちの生きるべき原点が握られた。
あの時は僕達とお父様は立場が同じだった。
けど今は違う、もう取り返すことは出来ない。
後はただ、お父様に支配されていくだけだ。
それは許せないし、腹が煮えかける思いだ。
だから、最後に好きにやればいい。
底辺なペットのように飼われる前の最後の抵抗だ。
「お下がりください、マスター」
「これは、激しい反抗期になりそうだ」
「マスターは手出し無用です。怪我が治ったとはいえまだ病み上がりなんですから」
「分かったよ。しかし、ここは
「――――貴方の傍に如何なる厄災がこようとも!私がここに居る限り、そのすべてを超えることを証明いたします!!!いくよ
言われなくても!!!
お父様をもう一度!!!
今度はこの手で殺してやる!!!!!!
◆◇◆
私は、失敗した。
僕は、失敗した。
ユリの過去を奪うことは出来なかった。
ユリの未来を奪うことは出来なかった。
お父様は、魔王として再びこの国を支配しました。
ヒーローと名乗っていた者達はメディアや市民によって奴隷のように働かされている。
雄英高校はお父様に都合のいいヒーローを作り出す教育機関となりました。
オールマイトは殺した。緑谷出久を利用することで毒であっさりと殺せた。
この国はもう終わりますわ。お父様はそろそろ国外に手を出そうと計画してます。
毘天羅には流石にドクター共々扱いに困っていた。下手に使えば世界中の組織が手を結んで殺しにくるから未だに使ったのは僕たちを殺す時ぐらい。
「イリス、今日もお父様の任務だから頑張ろう」
私はあの日、
僕はあの日、
――ユリに殺されました。
そしてユリ専用の脳無として生まれ変わった。
感情を抑制されて、個性を制御させて、思考を操作させて。
もう、私と僕が混ざり合って溶け合って、わけわかんなくなって
あぁ、でも。
「愛しているよ、イリス。私の
いま、しあわせだから、べつにいいや。
『僕』が唯一安心したのは、イリスが三度も家族を殺さずに済んだこと。