一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
キャラ崩壊はお友達。
誤字脱字は恋人。
イメージソングは米津玄師様の「ピースサイン」。
プロローグ:すれ違い
今から数百年前、中国の軽慶市で
ここまでは一緒だった。
違ったのは世間の流れだ。
前の世界ではヒーローは
この世界ではヒーローは
世の中を安定させようと努力する人が少なかったのか、それともそうなることを望む人たちが多すぎたのか、“個性”によって引き起こされる混乱は収まらず、犯罪はこれまで以上に複雑化し、多くの罪なき人々が亡くなり、その憎しみや怒りは国同士の戦争へと発展した。悪意と憤怒が作り出した激流を変える事は最早人間には不可能であった。総人口の三割は死に絶え、空は灰色へと変わり、綺麗な青空は指で数える程しか見たことない、僅かな食料を巡って殺し合うなんて日常茶飯事だった。強い“
この世界では問題視されている個性婚は、私の世界ではそれは当たり前の事だった。子供を産み育てるのに愛なんて必要ない、自分たちの生活を楽にする為の便利な道具を造る感覚。一応、国家という基盤も生きてはいたが、弱者を助けることはせず強者に縋ることしか能が無い連中ばかりだった。
私には前世の記憶がある。そう、この世界と限りなく似たよう形、けれど異なる道に進んだ“
これは日記、私が私を忘れないようにする為に残す物だ。
この世界はとても平和だけど、未来に何があるか分からないから、もしもの事態を想定してここに記しておく。前の私が『レギオン』という名だったことを、ヴィラン連合の
この世界の私の名前は
残酷な事にあっちの世界もこっちの世界も、生まれた瞬間から“個性”という呪いを刻まれてしまうどうしようもない世界だけど、いつか私の前に現れる運命に真っ直ぐに向き合う為に、今日も明日も前に進み続けよう。
◆◇◆
僕―――
母さんとよく似た馴染みやすい微笑や、小さい時から常に堂々とした姿勢で、それは例えヴィランを目の前にしても崩れない。性格も温厚で他人に優しく気が付けばクラスメイトの中心にいて先先にも頼りにされる存在、暇さえあれば体を鍛えていて服から見えないけど全体的に引き締まって、アスリート選手のような体格で、その俊足の前では“個性”無しという条件はあるものの負けた所を見たことは無い。唯一自信もある勉強も僕よりできて全国模試で五本指に入るレベル。何より妹には僕と違って――――“個性”がある。
母のちょっとした物を引き寄せる“個性”が特異変質した蜈蚣を引き寄せる“個性”だ。
そう、あの、毒もある多足類の節足動物だ。妹に失礼だが気持ち悪い、或いは怖いと一般常識で言われるであろうあの生き物を好きと聞かれ、頷く人は間違いなく妹ぐらいしかいないだろう。そんな蜈蚣を妹はまるで家族のように接する、毎日ご飯を上げて、
一見するとただの恐ろしい“個性”(見た目)だが、妹はどうやら蜈蚣とコミニケーションが取れるようで、妹が蜈蚣に噛まれた事なんてないし、噛んだらいけない者、噛んでいい者と識別させることができる。昔、下着泥棒のヴィランと偶然鉢合わせた時なんて、凶器を持っていたにも関わらず突貫、自分より一回りも二回りも大きい男を放り投げて接触時に服の下に潜ませていた蜈蚣がヴィランの体に這って体中に噛みついて、ヒーローが来るまで取り押さえたこともあるほどだ。
蜈蚣はあの足の数で高速で動く事ができるので接近戦で精神肉体合わせて相手に大きなダメージを与える事が出来るだろう。実際僕達の幼馴染である、
蜈蚣に対する愛は家族内でもちょっとおかしいと思っているが、逆にそれを除けば絵に描いたような完璧超人だ。
そして、僕達兄妹の仲は……ちょっと気まずい。
と、言うのは主に僕が原因だ。
クラスメイト(妹とは別クラスだが)、同級生や先生から昔から僕と妹は比べられる。
『このテスト、百合は100点満点だったぞー兄貴ならもうちょっと頑張れよ』
『かわいそうだな出久、妹に才能を全部取られたんじゃねー?』
『妹の足引っ張れないように頑張れよー』
周囲からそんなことを言われ続け、何時の間にか僕は妹が苦手になっていた。
見返すために努力しても、一度も妹に勝てないままで、周囲に反論する事も出来ず更にそれを受け入れようとする僕自身も嫌いになった。
―――――将来はまだ決めていませんが、ヒーローにはなりません。
決定的な小学年六年の頃、母さんと三人の晩御飯を食べている時に将来を聞かれた時に百合はそう言ったんだ。
劣等感、嫉妬、色んな感情が一気に混ざって僕は持っていた皿をテーブルに叩きつける様に置いて、びっくりした二人を置いて自室に引き込まった。
「最悪だ……
ベッドの潜り込んで呟く。
幼い頃から憧れたナンバーワンヒーロー、オールマイトのグッズで彩られた夢の部屋だ。
今でも一日に一回以上は絶対に見ているオールマイトのデビュー映像、大災害が起きた場所で笑顔を絶やさず、たった10分で100人も救う姿を心と記憶に焼き付いた。
手を伸ばして、暗くてもはっきりと覚えている本棚から取り出したのは『将来の為のヒーロー分析』と書かれたノートだ。その名の通りいつか、いつかはと“個性”が発現することを夢見て、色んなヒーローについて自分なりに考察、研究したデータを書き綴った物、唯一妹に胸張って勝てると言えるヒーローの知識、もし検定があったとしたら一級は確実に取れる自信がある。
「こんなもので勝ってもどうしようもないよな…」
こんなものを自慢して誰が僕の事を認めてくれるんだ。
ヒーローになりたいという夢を笑わないんだ。
母さんには夢については言わない。きっと泣いてしまうから。
四歳のころ母さんと共に病院に行って、とても珍しい無個性と医学的に証明されて、帰宅後習慣のようになったオールマイトの動画を見ていたら、ごめんと何度も繰り返して謝ってきたのは今でも忘れない。あの自身を責める様な泣き顔はもう見たくない。
「……兄さん」
扉の前で百合の声がした。
「ご飯まだ残ってるからここに置いておくね……ごめん、無神経だった」
料理が乗っているであろうお盆を置く音がしたあと、百合は消える様に立ち去った。
「……百合が謝る必要なんてないよ」
完全に気配が無くなった後で漸く出た言葉はあまりに遅すぎた。
結局小学校生活で、百合との間に在った溝が埋まる事は無かった。
しかし、中学生二年生の三学期目、そろそろ高校受験のことを考え始めようとしたとき起きた事件を切っ掛けに僕らの距離は一気に近づくことになる。
◆◇◆
“個性”というのは有利な社会的地位を築くための一種のステータスだ。この世界では一般人は許可なく“個性”を使ってはいけないという法律があり、一般人とヴィランを分ける境界が出来ている。“個性”というのは体の一部、手足と同じだ。それを抑制されれば鬱憤は溜まる為、解放できる公共の場所もあるし、個性を行使されてもそれが人や社会に被害が及ばなければ黙止される傾向がある。
私達が通う学校も日常で生徒も先生もちょっと使っても、咎める者は居てもほとんど建前上で言っているだけ。“個性”を使って誰かを怪我させた、虐めて傷付けたという事件も全国的に見ればそんなに珍しいものでもなく、ヴィランや無垢な子供に、荒んだ或いは幼稚な心に武器は危険と言う訳だ。
『こんなこと言うのもおかしいけれど、出久をお願い。学校の先生にも伝えているけど、“個性”がない理由で虐められるかもしれないから守ってあげて』
幼稚園を通っていた時から母さん―――緑谷インコは兄さんの見えないところで私の手を握って、苦しそうな顔で願いを伝えている。ずっと兄さんが無個性なのは産んだ自分の責任だと思い込んでいる部分があるだろう、私達を産んだ時はモデル女優のように痩せていたが、歳を経るごとに太っていく母さんの姿にいつもこう伝える。
『分かったけど、何もかも助けたら兄さんのためにはならないから
助ける時と助けない時を。
泣き虫で小心者で本当に何もできないと全て諦めていたら、全てに手を貸そう家族だから。しかし、無個性であっても誰かの為にあの
『ヒーロー目指している兄さんが、ヒーロー目指していない私に助けられ続けるって屈辱的だと思うよ』
『…………出久はヒーローにはなれないわ』
母さんは兄さんの前では絶対に言わない言葉を吐いた。私もそれには頷く。
『夢を実現するなら相応の代償を払わなければならない。ただヒーローの活躍を喜び、ヒーローの知識を深める今の兄さんの現状じゃ、何も救えはしない、誰も笑顔にすることはできない。その事をまず受け止める始まりすら、兄さんはできていない』
兄さんは知るべきだ。誰かを救けられる立場の重みと責任を。ただ憧れだけでヒーローができるほど現実は甘くはない。