一度死んだ私のヒーローアカデミア~Centipede Queen~ 作:燐2
私と兄さんの仲はそこまで悪くはない……と思う。
私個人として兄さんはそこまで嫌いじゃない、私と同じ緑色混じりの黒髪をした縮毛(私は癖のないロング)で顔のそばかすが特徴(私にはない)で真剣な眼差しでヒーローについて研究している横顔は、いい男の子の顔つきだ。ただ私の無神経な一言が兄さんを傷付け、中学年に上がった頃からお互いに挨拶ぐらいしかしないようになってしまった。明らかに避けられるようになった。
はぁ、と放課後の学校の廊下を歩きながらため息が出た。私はあまり目立ちたくなかったが、
もう一度溜息、私が悪い、と言う意味を含めて。
「おい蜈蚣女」
……うわぁ。
「なんなんだよ!その嫌な奴を見たと言わん限りの顔はよぉ!?喧嘩売ってんのか!!」
「……察してくれてるなら話しかけてくれないでくれる?なに?またウチの兄さん虐めたから相手してほしいとか?」
「俺は何もしてねぇよ!!」
この髪型も性格も爆発しているようにぶっ飛んでいるのは
「…用件はなに?私貴方のために時間を割くほど暇、ないよ?」
「こ、この
いつの間にか周囲に人はいない。私と彼が会えばいつもこんな剣呑な雰囲気になるから巻き込まれたくないのであろう。彼の戦いの中で成長する才能は凄まじいが、こっちも数百年も生きてきた中で培った戦闘経験があり、全盛期と比べれば指先一つで抹殺されるレベルだが、それでも簡単には負けてあげない。
爆豪さんの両手から小規模の爆発がおき、私の服の中に潜んでいた蜈蚣達があらゆる場所から這い出る。中・遠距離からずっと爆撃されたら敵わないけど、私に有利な接近戦を好むんだよなこの人。
「お前のその眼が気に入らねェ……没個性のくせに!!」
「その没個性に一時はトラウマ抱いたのは、どこのどいつでしょうか?―――――今度噛むときは痛い痛い毒入りにするよ?」
一触即発とはこういうことだろう。既に学校の壁で徘徊している毘天達は窓の隙間から侵入して爆豪さんに飛び掛かる準備はできたが、爆豪さんは腕を下ろした。私も毘天達の目に映る情報によって背後からこちらに歩いてくる先生の姿を確認した。
「……潔癖な学生生活でここ卒業したいんでしょ?それでもやる?」
「……テメェはいつか俺が潰す」
そう言い残して帰って行く爆豪さんを確認し、私は後ろに振り向いてため息を零す先生にお礼を言う。
「緑谷妹、校内で個性発動は原則禁止だ。あと爆豪をいつも弄るな」
「別に弄るつもりはありませんよ。彼は自分が一位じゃないと気が済まないから勝手に突っかかってくるだけですよ。というか先生なら爆豪さんの性格どうにかしてくださいよ。周囲の環境の所為ですよあれ」
「耳が痛い事を言うな……」
幼稚園の時から周囲から凄い凄いと褒められ、持ち上げられて、自らの上の存在となる者はいなく、自身の実力を過信したまま、プライド高い意識が形成されていくのを近くで見ていた。一度も折れる事を知らずに才能だけで勝ってきてしまった。それは不幸と言えるかもしれない。
そんな中でみんなとは違う見方で接するから兄さんも嫌われ、特に自身の自尊心を揺るがす私も非常に嫌われている。
「とにかく、ことあるごとに俺を蜈蚣で呼ぶなよ。緑谷妹」
「はーい、因みに兄さんは?」
今は少なくなったが爆豪さんは兄さんを虐めていた、
「緑谷兄か?見ていないが……どうした?」
「どうも上級生に目を付けられているみたいで……無個性だから」
自己主張しない小心者だから、ターゲットにされやすいかもしれない。母さんのお願いもあるし、暴力沙汰になりそうなら、そうなるまえに止めに入るのだけど、今日はまだ校門を通っていないみたいだから。ちょっと不安になった。
「……そうか、大変だな」
「一番大変なのは私ではなく兄さんですよ」
毘天達が兄さんの教室を確認、通学に使うバッグがあるのに近くにいないってことは誰かに呼ばれてその場を離れたということで、一応男子トイレの中も毘天が調べてくれたがそれらしき影もなし。ちょっと不味いな。
「どうした?何かあったのか?」
私の不安げな表情に後でもう一仕事お願いしますと先生に伝えて、その場を直ぐに離れる。私の“個性”は【蜈蚣を引き寄せる】ものだと周囲は認知させているが本当は違う。
私の本当の個性は【ブラッド・ハザード】。他者に血を与えることで対象を操ったり、体を別の物に改造することができる
そして毘天と呼んでいる蜈蚣達は、あっちでもこっちでも唯一の存在と言ってもいい個性【同化】をもった蜈蚣だ。このことは誰にも話していない、余計な災いを引き寄せるかもしれないし、何より私達の個性を使えば相手のDNA情報を手に入れてしまえば相手の個性を複数コピーすることだって可能だ。一人一つの“個性”が当たり前の世界では、私という存在は
毘天たちとコミュニケーションを取ったり、毘天たちが見ている物を私が見える様にコピーした“個性”をうまく使っている。この学園内に徘徊させている毘天たちによってあらゆる場所に監視カメラがあると同じ故。
「――――見つけた」
誰も立ち寄らない体育倉庫の中なんてベタだなぁと思いながら。廊下を走りながら体内に格納している毘天達の指示を飛ばす。【ブラッド・ハザード】は私自身にも使用して肉体を強化することが出来る、更に体の中の蜈蚣達が個性【同化】を利用して骨や筋肉を補助し、体中に蜈蚣が這うような生々しい黒い刺青が浮かび上がる。
エクシードレギオン・フェーズⅠ。
これが今の私の姿だ。
◆◇◆
「無個性君、実は俺達“ヒーロー”を目指したんだよ」
「今年の受験であの300倍という狂った倍率の雄英のヒーロー科を受けてさ、落ちたんだよ」
「ふざけた試験だったぜ、あんなの誰が受かれるってんだ」
僕は今、体育倉庫内で名前も顔も知らない上級生たちに囲まれていた。帰ろうとしたら突然、肩を掴まれここまで連れてこまれた。突然の出来事で何も分からない、ただ笑顔を見せる先輩達の表情が鳥肌が立つほど恐ろしかった。
「……ヒーローになれば“個性”使い放題で金やら名声やらも簡単に手に入るだろう!?」
「最高の職業じゃねェか!ヴィランさえ倒せれば有名人なんだぜ」
ヒーローを語る先輩達は目が汚れていた。
「誰もが俺を賞賛してさ、上から見る景色は最高なんだなと思ってたんだ。けどさ、落ちたんだ」
「必死に俺達頑張ったんだぜ?三年になってから一緒にヒーローになろうって三人で頑張って頑張っても!!みんな俺達より先に行っちまうんだ」
「「「ふざけんなって話だよな?」」」
体が震える、息が詰まる、後ろに下がろうとしても壁で逃げる場所なんて先輩達の背後にある扉しかない。
「不公平だ」
「理不尽だ」
「こんなの認められていいはずがねぇ!!」
一人は腕がハンマーのように変わった。一人は指先がナイフのように鋭く伸びた。一人は口を開くと狼のような牙を鈍い光を見せた。恐ろしかった、無個性だと馬鹿にされた理不尽な目に合いそうなときは、いつの間にか百合がやってきて助けてくれたけど、僕の傍に百合はいない。
「認めようとしない奴等、全員ぶっ殺してやる。けど俺達個性あまり使い慣れてないんだわ。だから――――サンドバッグ、なれよ」
血走った怖い目でじりじりと距離を詰められる。無個性な僕では何もできない、ただ怖い怖いと震え、誰か助けてと叫びそうになったその時。
「大丈夫――――私がいる」
聞きなれた声と共に
「なぁ!?」
「ぎゃっ!?」
先輩達二人はそれに巻き込まれ、壊された扉の下敷きとなった。煙が立ち込める中で先輩達の比にならないほどの圧力を感じた、思わず気絶しなかったのは僕が良く知る妹で、見たことがない血の凍るほどに冷たい表情でいたからだ。
「て、てめぇは……!!」
「申し訳ないけど、少しだけ話を聞かせてもらった」
体に付いたであろう埃を手で掃いながら百合は淡々としゃべり出す。
「そもそも今まで特に何も努力してこなかった奴がいきなり三年生になって頑張っても雄英に受かるほど世の中甘くないよ」
「あと動機、金が欲しいから名声が欲しいからヒーローになりたい?論外だよ」
「見ず知らずの誰かの為に、真っ先に手を差し伸べるのがヒーローだ。お前達みたいに勝手に枠組み作って努力した頑張ったって吼え散らして挫折してやってることは弱い者虐め、アホか」
その一言が心に響いた。僕はヒーローになることを夢見て様々なヒーローのことを調べた、調べて、調べて――――そしてなにをしてきた?
「勝手なこと言いやがって!!俺達のこと何も知らないくせに!!」
「知らないとも。だけどねこれだけははっきりと言える――――本気でやろうとしている人の目は善悪関係なく輝いて見える。貴方達は違う、ただ自分のできない理由を自身の所為にせずに周囲にぶつけているだけだ、鏡でも見たら?薄汚れたヴィランの中でも最低の部類に入る目をしているよ」
「お、おまえぇぇぇぇぇ!!!」
簡単に肉を引き千切るように鋭牙を全て見せる様に大口を開き逃がさないと両手を大きく広げ飛び掛かる先輩に対して百合の手が消えたように見えた。と、同時にぱんっ!と弾けるような音と共に先輩の頭部を中心に後方に倒れ込んだ。恐る恐る見てみると白目を向いていた、瞬殺だった。
「怪我はない?ごめんね、直ぐに来れなくて」
「あ、う、うん……ありがとう」
まるで少しだけ遅れて青信号の時に渡れなかったような軽さで百合は手を差し伸べ、僕はその手を握って立ち上がらせてもらい埃っぽい体育倉庫から外に出してくれた。日は沈みかけたオレンジ色の空と少し冷たい風が激しく鼓動していた心を落ち着かせてくれた。
「先生に伝えて乗り込んだから、直ぐに来ると思うよ。兄さん、事情をしっかり先生達に伝えてね」
「わ、分かった」
用意周到な妹に感服していると同時にいくつもの疑問が浮かび上がった。
「こんな時だけど、幾つか聞いてもいい?」
「……兄さんが私に質問だなんて珍しいね。はい、なんでしょうか?」
後ろに目を逸らすと意識を失った先輩達を見た。僕はヒーローに憧れる者として彼らと同じではないと言い切りたかった。けど心のどこかで引っ掛かる部分もあった。
「どうして僕をいつも助けてくれたの、その僕達そこまで仲がいいわけじゃないし」
「家族だから、理由はそれだけで十分でしょ?」
「さっき先輩を殴り飛ばしたのは全然見えなかったけど新しい個性?」
「可笑しなこと言うね……純粋な体術だよ。顎を殴って脳を揺らした、それだけ」
「なんでそんなに体を鍛えているの?ヒーローになるつもり、ないんだよね」
「…………」
その質問に即答せず、妹は少し考える素振りを見せて空を見ながら答える。
「世間は
そう、一人或いはみんなを助ける事こそ“ヒーロー”の仕事、当然な事だ。
ただ百合が普通という言葉を酷く重たそうに言ったのが気になった。
「私はね。百人の見知らぬ人と兄さんただ一人、どっちを選ぶと聞かれたら迷いなく兄さんを選ぶ」
「見知らぬ誰かの為に命なんて賭けられない、そんなことより友達や家族を守りたい、それが私のやり方」
「
まるで“ヒーロー”を志しているかのように鍛練を重ねてきた百合が、どうして“ヒーロー”にならないかの理由が衝撃的だったと同時に納得が出来た。“ヒーロー”の中にも地元専門として遠征にいかない者達がいる、百合の場合はその範囲が更に狭いのだ。でも、百合の言葉は自分のことなのに傍観しているようで違和感を感じた。
「兄さんの質問は終わりかな?そろそろ先生来ちゃうけど今度は私からいいかな」
「うん、いいよ」
僕と同じ色の双眸で百合の迷いない眼差しは、心の底まで見えてしまいそうだった。
「兄さんがヒーローになりたいのはただの憧れ?それとも別の理由?」
「憧れだよ。オールマイトのような、みんなを笑顔にできて、みんなを助けられる……カッコイイヒーローになりたい」
だけど、そうなるために今まで僕がしてきたことを振り返って果たして本気でそうなりたいのかと自分に疑問を持ち始めた。百合のように本気で体を鍛える事なんてしたことない、学校の授業で体を動かす程度で家に帰れば色んなヒーローの情報を集めるそんな日々。僕がしてきたことは間違えてはいないはずだ、ただ………
「……今、兄さんはそれが出来ると思う?力の有無は関係なく、心でそれが出来ると思う?」
「それは……」
“個性”があれば、力さえあれば。
心のどこかで、自身にないものさえあれば、なりたいものになれるとそう思っていた。
だけど、例え“個性”がなくても強くなれる手段はあると、目の前の百合が証明した。僕の太っても痩せてもない、けれど鍛えていない平凡な身体でいったい何が出来るって言うだ。
「分からない」
「そうだね、それが普通の答え」
「……でも」
それでも、憧れ続いているあの背中を負いたい。
「どんなときも笑って、助けられるヒーローになるって夢を僕は諦めれない」
「………そう」
少しだけ悲しそうな声、でも嬉しそうな顔で百合は僕の前に立って、今一度手を伸ばした。
「困っている人を助けられる?今を絶望する子供にここが終わりじゃないと温かい毛布を被せてあげられる?自分という一つを全ての為に使える事が出来る?どれだけ努力しても無個性である兄さんは天地がひっくり返ってもオールマイトのようになれない。それでも……やれる?」
「うん、やるよ。僕は絶対に諦めず前に進める」
「なら兄さんはヒーローになれるよ」
この後、僕はただのヒーローを追いかけるオタクじゃなくて、本気でヒーローになるために走り出すことになる。
それは本来の僕にとって少しだけ早かった決意の表明、夕焼けの誓いだ。
緑谷百合の個性紹介
“ブラッド・ハザード”
他者に血液を飲ますことで、対象の体を操作、果ては細胞レベルで改造することが出来る。(自身も可)
操作又は改造する対象は成人男性ならば一合(180ml)、子供程度ならばその半分程度で可能であり発動条件さえ揃えてしまえば無敵に等しき個性だが、発動までに自身が貧血、最悪失血死の可能性があるので使い所が重要。