今日も太陽が心地よい。
こんな陽気だと、ついつい眠気が差すのも仕方のないことだと私は思う。
私、紅美鈴(ホン・メイリン)が番をする紅魔館の正門は今日も平和だ……
両手を上げて体を伸ばし、門柱にもたれ掛かると不思議と意識が遠のく……
美鈴「サボってなんかいませんよぅ……」
両目を閉じてそうつぶやくと、なぜか意識が遠のいていく……
まるで、眠りに落ちるように……
美鈴「zzz……」
いつものお昼寝の時間、昼食後の至福のひとときを迎えるはずだった……
恐らく数刻の時間が経過したころ、肌に感じる空気が変わり、目を覚ますと何だか見慣れぬ景色が見える。
誰かのいたずらなのだろうか、私が居眠りしている間に知らない場所に連れて来られたのかもしれない。
幻想郷ではよくあることだ……
美鈴「ここは、どこなのだろう……」
私は、紅魔館の門番としてふだんはお屋敷から離れることはない。
最近は、幻想郷にもいろいろな能力をもった妖怪や仙人、神様や鬼なんてゴロゴロいるらしい。
よくお屋敷の図書館に侵入しようとしてくる自称魔法使いの人間や、新聞を押し付けてくる烏天狗なんかから良くそういう話を聞くから、そういった話は門の前にいても意外と入ってくる。
恐らく、誰かがお昼休み中の私にいたずらをして、幻想郷のどこかに私を連れてきたか、転移したのだろう。
私は、一応眠っていても誰かが近づいてきたら、気配で目を覚ませるつもりだったけれど、全然気が付かなかった。
恐らく、そこらへんの妖精ではなく、ある程度以上の実力を持った者のいたずらだろうと思う。
門に私がいないことが、メイド長の咲夜さんにバレたとしたら、多分今日の夕食を抜きにされてしまう。
そうなると、私の胃袋の大ピンチだ。
早くお屋敷に帰ろうといつものように空を飛ぼうとした。
美鈴「あれっ?」
いつもなら自然と空を飛べるはずが、全く宙に浮けない。
美鈴「何だか、気が使えない……」
空の飛び方は、人それぞれかもしれないが私の場合は身体に宿る『気』の力で空を飛ぶ舞空術という方法で空を飛んでいる。
しかし、なぜだか全く気を練ることができない。
それに、いつもならすぐに探知できるはずの他人の気を探ることもできない。
美鈴「いつもなら、遠くにいてもレミリアお嬢様たちの気を感じることが、できるはずなのに……」
強大な力を持つ紅魔館当主レミリア・スカーレットや、その妹様のフランドール・スカーレットの巨大な気は、幻想郷の中にいるなら容易に探知できるはずだった。
しかし、今はそういった気を感じ取ることができない。
自分の身に何かが起きているのか、幻想郷の外に出てしまっているのか、理由はよくわからないが恐らくただ事ではなさそうだ。
とりあえず、今の状況を確認しようと周りを見回すと、私がもたれかかっていた、紅魔館の門柱の代わりにレンガ造りの大きな建物の壁がある。
一見すると立派な建物だが所々壊れていたり、崩れていたりしており廃虚とも思う有様だった。
美鈴「前にお嬢様たちが大げんかしたとき、お屋敷の壁がこんな感じになってたなぁ……」
『レミリア』と『フランドール』
幻想郷内においても破格の力を持つ吸血鬼同士の大げんか。
自分には、どうすることもできずに、メイド長の十六夜咲夜と一緒にお屋敷に務める妖精メイドたちを避難させるのが精一杯だった。
お屋敷内にある大図書館の管理人、大魔法使いパチュリーの説得によって、私のプリンを仲良く姉妹で分けて食べるという大英断(今思うと私だけ損してないか?)で終結することができた、後に
『スカーレット紛争』
と呼ばれた、吸血鬼姉妹の大げんかのときの惨状に似ていたが、あのときの紅魔館と違い、魔力による破壊というよりも硝煙の匂いが漂う殺伐とした雰囲気が感じられた。
美鈴「私が幻想郷に行く前に経験した、人間同士の戦争に似ているなぁ……」
私は、建物の周りを確認してみたが、人がいる様子はなく、もう少し建物から離れてみることにした。
よく耳を澄ませると、それほど離れた場所でないところから、幻想郷に来る前に聞いたことがある波の音が聞こえ、潮風の香りを感じた。
美鈴「もしかして、近くに海があるのかもしれない」
幻想郷にはないはずの海……
とにかく私は波の音が聞こえる方向へ足を進めた……