麗美「全員、そろったかしら?」
町井田「点呼は……、とるまでも無いようですね」
龍星鎮守府と紅月鎮守府の艦娘たちは、紅月麗美准将の指示を受けて海岸に集結していた。
天龍「龍星鎮守府所属の艦娘、全6名そろっているぜ!」
そう申告する天龍の下には、金剛、鳳翔、深雪、雪風、白雪が並んでおり、非戦闘艦娘である、大淀と明石を除いた全艦娘がそろっていた。
日向「こちらも、全6名そろっている」
同じく、申告する日向の下には、最上、暁、響、雷、電が並んでいた。
麗美「すでに聞いている者もいるだろうが、現在この海域周辺には多数の深海棲艦艦隊が確認されている」
麗美がそう語ると、大淀と明石がホワイトボードを持ち上げて海岸にやって来た。
明石「はぁはぁ、紅月准将これを持ち運ぶのは重いですよぉ」
大淀「明石、文句はダメよ、私たちは戦闘に出られない分こういう所でお役に立たないと」
重そうにホワイトボードを運ぶ二人のそばに、数人の艦娘たちが駆け寄ってきた。
金剛「二人でこれは大変ネー、ワタシも手伝いマース!」
金剛が、明石の側に近づき手を差し伸べると、天龍、深雪、雪風もホワイトボードを取り囲んでいた。
天龍「ったく、このくらいで音を上げていたら、この鎮守府でやっていけねーぞ!」
深雪「美鈴は、一人で丸太とか担いで運んでるからな」
雪風「しれぇには、重い物の楽な持ち方とか教えてもらいました!」
鎮守府建造時から、美鈴の下にいた天龍たちは美鈴と共に木材や石材の運搬などをやっていた事もあり、ホワイトボードを大淀と明石から奪い取るように受け取って手慣れた手つきで運んで行った。
大淀「あっ、これから戦闘に出るのにこんなことを手伝ってもらって……」
明石「あんな、小さな子たちなのに私たちより力持ちなの?」
金剛「Wow!仕事をとられちゃいましたネー!」
申し訳なさそうな表情の大淀と、驚いた表情の明石を見た金剛は、笑いながら二人に声をかけた。
金剛「自分たちに出来ることをやろうとする気持ちは大事デスが、ワタシたちは仲間ですから、困ったときはいつでも声をかけて欲しいネー」
明石「ありがとうございます、助かります」
金剛「みんな得意不得意はありマース、あの娘たちはきっと、物を運ぶのが得意なFriend'sなんですネー!」
大淀「ふふっ、私たちは、良い友を持ったようですね」
天龍たちが、麗美の隣にホワイトボードを設置すると、麗美は龍星鎮守府周辺に展開している深海棲艦の予想配置位置を黒マジックで凸型の印を描き込んでいった。
麗美「これが、紅月鎮守府で把握した深海棲艦の展開状況よ」
最上「北東に多数、南西にも展開中ってところだね」
天龍「印に大きいのや小さいのがあるけど、意味あるのか?」
麗美「大きいのは正規空母や戦艦クラス、中くらいのが軽空母や巡洋艦クラス、小さいのが駆逐艦クラスと考えてもらえばいいわ」
電「北東に、戦艦や正規空母が10体近くいると言うことですか?」
麗美「そういうことになるわ」
深雪「あのル級クラスが何体もいるって言うのか!?」
暁「そ、そのくらい一人前のレディーな司令官がいれば、へ、へっちゃらだもん」
響「たしかに司令官は、一人前のレディだね」
雷「暁はお子様でも、司令官はレディだわ!」
暁「な、なによ!響たちはル級と戦った事無いからわからないのよ!!」
作戦説明の緊張感の中、第六駆逐隊の掛け合いで艦娘たちの緊張がほぐれたところで、麗美が更に説明を進めた。
天龍「なるほど、紅月艦隊は鎮守府へ帰還するために北東の部隊を叩かなきゃいけないわけで、オレたちは今朝空襲を仕掛けてきた南西の部隊を叩く必要があるってことだな!」
雪風「でも、雪風たちだけで戦艦や正規空母もいる南西の艦隊に勝てるでしょうか?」
深雪「こっちだって、戦艦の金剛さんや軽空母の鳳翔さんもいるから、きっと大丈夫さ!」
白雪「でも、日向さんたちがいくら強くったって、北東の艦隊の数が多すぎるよ」
深雪「暁たちも、まだ訓練中みたいだしヤバいかな……」
天龍「オレたちから援軍を出すか?」
麗美の説明を聞いた天龍たちは、作戦内容について相談していると、麗美が続けて出撃部隊の説明を始めた。
麗美は、ホワイトボードに赤マジックで多数の凸型の印を北東側に向かうように描き込んだ。
麗美「北東は、私たちの紅月鎮守府へ続く航路でもあるし、今後の作戦のために私も帰還しなければならないから、ここにいる紅月艦隊と町井田中尉のミディアで当たるわ」
日向「まぁ、そうなるな」
雷「司令官たちはミディアにいるのね、私が助けるわ!」
電「ちょっとこわいけど、頑張るのです!」
更に、麗美は緑色のマジックで凸型の印を5個、南西側に向かうように描き込んだ。
麗美「南西側の部隊には、金剛たち龍星鎮守府の艦娘たちで対応してもらうわ」
深雪「印は5個しかないけど、ウチは6人出れるはずだよ」
麗美「そうね、でも鳳翔には鎮守府に残ってもらうわ」
白雪「敵には正規空母もいるんですよ?」
麗美「深海棲艦がこれだけ展開しているなら、未発見の部隊も予想されるわ、だから鳳翔には鎮守府の防衛と周辺の索敵をお願いしたいの」
天龍「なるほどな、鳳翔さんもいいか?」
鳳翔「かしこまりました、皆さんの帰る場所は私が守ります」
金剛「頼もしいですネ、ヨロシクオネガイシマース!」
金剛はそう言って元気に鳳翔にお辞儀をし、鳳翔も丁寧にお辞儀を返した。
天龍「しかし、北東側は敵の規模が大きいみたいだけど、そっちの艦隊だけで大丈夫か?」
響「司令官のことだ、きっと手は打っているはずさ」
暁「そ、そうよ!きっと援軍とか呼んでるに違いないわ!!」
町井田「(ビビってるけど、こういう所の勘は鋭いな……)」
暁の発言に対して、麗美は微笑みながら暁の頭を撫でた。
暁「司令官?」
麗美「この状況下で援軍がこれるかどうかわからないけど、私たちはここで敗れる運命では無いと思うわ……、きっとこの状況は乗り越えられるから信じてね」
暁「し、司令官!」
麗美の優しい言葉に感動した暁は、思わず麗美に敬礼をしていた。
麗美たちが、海岸で出撃準備をしている時、龍星鎮守府の医務室で寝ていた美鈴が目を覚ました。
美鈴「うぅ……、ここは?」
美鈴はベッドから立ち上がろうとするが、全身が激しい筋肉痛のような痛みがあり体が動かない。
美鈴「くっ……、ここは鎮守府の医務室?」
美鈴が目覚めた事に気がついた、白衣を着た妖精さんが近寄ってきた。
美鈴「あっ、妖精さん……」
美鈴が、妖精さんに声をかけると、白衣を着た妖精さんは「動いちゃダメですよ」と身振り手振りで伝えてきて、心配そうに美鈴の顔をのぞき込んだ。
美鈴「ん、私どこか怪我でもしているの?」
美鈴が首だけ持ち上げて手や足を確認したが、全身に痛みはあるが怪我をしている感じでは無かった。
美鈴「私はどうしてここにいるんだっけ?」
美鈴は、一人で記憶をたどっていくと、今朝の空襲の記憶が蘇ってきた。
美鈴「そうだ、私はあの時、町井田中尉の輸送艦を守ろうとして……」
美鈴は、自分自身が『気』の力を使って敵航空機と交戦した事を思い出したが、敵航空機に向かって飛び出した後の記憶をどうしても思い出すことが出来なかった。
美鈴「私は、みんなを助けられたのかな?」
ふと、右手に『気』を集中させてみようとすると、微弱ながら『気』を集中出来ている実感があった。
美鈴「『気』を少し使えている?」
美鈴が右手に『気』を溜めていると、少しずつ右手の痛みが消えていき右手の指が動かせる様になった。
美鈴「ふふっ、良い感じだよ」
身動きがとれなかった美鈴が、少しずつ右手を動かしていく様子を見ていた白衣を着た妖精さんは慌てた様子で、美鈴に何かを伝えようとしてきた。
美鈴「えっ?何か言いたいのかな?」
美鈴は、妖精さんの声を聞こうと意識を集中していくと、徐々に頭の中に妖精さんの声が響いてくる感覚があった。
白衣を着た妖精さん『……トク、マダソノチ……ヲ、ツカッチャ……メデス』
何となく、妖精さんの言葉が伝わってくるが、完全では無い。
美鈴「『気』が使えるようになったら、妖精さんの声が聞こえてきた?」
白衣を着た妖精さん『テイトク、マダ……ソノチカラハ、カラ……ニフタンガ……』
途切れ途切れに聞こえてくる、妖精さんの声であったが、慌てる様子と言葉の感じから何となく意味はわかった気がした。
美鈴「『気』を使うと、体に負担がかかるっていうことかな?」
美鈴は、妖精さんに訪ねると、妖精さんは頷きながら心配そうに美鈴に近寄ってくる。
美鈴「わかったよ、きっと『気』を使いすぎて倒れちゃったんだね」
美鈴はそう言いながら、少し動かせるようになった右手で妖精さんの頭を撫でた。
日向「紅月第一艦隊、出撃するぞ!」
町井田「輸送艦ミディア、出航!!」
金剛「龍星艦隊!Follow me!ワタシについて来て下さいネー!」
麗美の作戦計画通りに出航していく艦娘たちと輸送艦ミディアを、見送りながら鳳翔、大淀、明石の3名は海岸でそれぞれ手を振っていた。
出港した艦娘たちが、目視出来なくなる距離に達するころ、岩陰から麗美が姿を現して鳳翔の横に立った。
麗美「皆、出撃したわね」
鳳翔「紅月提督は、見送りしなくて良かったのですか?」
麗美「一応、私はミディアに乗艦していることになっているから……」
麗美は、深海棲艦の狙いがある程度自分にある可能性があることを意識して輸送艦ミディアを囮にしていた。
麗美「このことを知っているのは、あの時に会議室に来てもらったメンバーと、今ここにいる明石くらいなものよ」
大淀「敵をある程度北西方向に集中させて、紅月艦隊と紅月鎮守府からの援軍部隊で殲滅でしたね」
鳳翔「もしも、作戦が見破られた時のために私がここにいるんですよね」
麗美「それもあるし、皆に言ったとおり索敵を継続して欲しいからね」
麗美は、そう言うと鳳翔の右肩を軽く叩く。
麗美「昔のように一航戦が健在なら敵機動部隊なんか脅威にならなかったのだけど……」
鳳翔「一航戦?加賀さんの事でしょうか?」
麗美「加賀には昔、赤城という最高の相棒がいたのよ……」
明石「日本が誇る伝説の一航戦ですか……」
鳳翔「赤城……?」
麗美「2年前、一航戦の活躍で日本は一時的に深海棲艦の艦隊を押し返した時期があったの」
麗美は、鳳翔に説明するように鳳翔の目を見ながら言葉を続けた
麗美「日本海軍は、深海棲艦の機動部隊が集結しているポイントを突き止めて、これを撃退すべく一斉攻撃を仕掛けることになったの」
麗美は、空を見上げながら両手を広げる
麗美「先陣を切ったのは、飛龍と蒼龍の二航戦だったわ、二人の奇襲で敵部隊の大型戦艦を数体撃滅出来たのだけど、狙いの空母部隊は発見出来なかった」
鳳翔「第一次攻撃は失敗したと?」
麗美「もちろん、戦艦は十分に脅威対象であったから、これを撃滅出来たことは十分な戦果だったと思うわ、だけれどこれがきっかけで深海棲艦もこちらの動きに気づいて反撃をしてきたの」
大淀「戦史にのこる、一大決戦ですね」
麗美「過去の大戦の教訓もあり、日本海軍に慢心は無かった……、けど予想以上に敵勢力は手強かったの」
鳳翔「強大な敵……?」
麗美「敵機動部隊を率いていた深海棲艦は、我々が知っていたヲ級とは比べものにならない力を持っていた……、あの圧倒的な力はまさに『鬼』と呼ぶにふさわしいものであったわ……」
鳳翔「鬼……ですか?」
麗美「我々はあの深海棲艦を『空母棲鬼』と呼んだのだけど、この空母棲鬼の力は圧倒的で、日本海軍の機動部隊は次々に撃破されていたの」
明石「まさに鬼……」
麗美「二航戦や五航戦が撤退を余儀なくされ、壊滅した日本海軍の撤退を支援するために、世界最強と呼ばれた一航戦の赤城と加賀が追撃してくる空母棲鬼を必死に食い止めていたのだけど、疲れが見えた加賀の一瞬の隙を突いた空母棲鬼が一撃で加賀を大破炎上させたの」
鳳翔「正規空母を一撃で!?」
麗美「僚友の危機に気づいた赤城は、加賀を仕留めに来た空母棲鬼を止めるべく組み合いになったの」
鳳翔「赤城さんの気持ちは、私にもわかる気がしますね」
麗美「日本海軍ではエース的な存在であった赤城も、圧倒的な力を誇る空母棲鬼の前ではなすすべも無く、赤城の艤装は跡形も無く破壊されて赤城自身も大海原に投げ出されてしまった」
鳳翔「まさか……、轟沈?」
麗美「普通ならそうなっていたでしょうね……」
麗美は、海岸に打ち上げられていた朽ち果てたドラム缶に近づいて言葉を続ける
麗美「しかし、彼女は沈まなかった……、日本海軍の絶対エースである一航戦を打ち破った事で空母棲鬼は深海棲艦を率いて引き上げて行ったのだけど、数日後にその海域を偵察に行った駆逐艦娘がドラム缶にしがみついて漂流していた女性を救助したの」
鳳翔「その女性が!?」
麗美「意識は混濁していたけど、赤城本人だったわ」
麗美は、そう語ると下を向き呟くように言葉を続けた
麗美「でも、赤城は記憶と力を失ってしまっていたの……」
鳳翔「そ、そんな……」
麗美「最近は、少しずつ記憶を取り戻していると聞くし、艦娘として再起出来るように新造中の艤装のテストにも積極的に参加していると聞くけど、我々が知っている一航戦時代の赤城とはほど遠い状態だと聞くわ……」
鳳翔「でも、希望はまだあるのですよね?」
麗美「戦友でもあり、助けてもらった形になるウチの加賀は、熱心に赤城のリハビリに協力しているらしいからよく話は聞くけど、彼女には元気になって欲しいわね」
鳳翔「そうですね……」
その頃、北東の海域に向かっていた、紅月艦隊と町井田は深海棲艦の艦隊を射程に捉えていた。
日向「これより、瑞雲にて敵艦隊に攻撃を仕掛ける!最上、準備は良いか?」
最上「了解だよ!航空巡洋艦最上、出撃するよ!!」
こうして龍星鎮守府周辺海域における決戦が始まるのであった。
本家『艦隊これくしょん』も第二期を迎え、大きくなった画面で綺麗になった艦娘のグラフィックを見ていて新たな魅力を感じている今日この頃です。
第20話で倒れていたとある華人小娘が目を覚ましたり、過去の大戦に破れて力を失った某艦娘の話など出たりしましたが、多分後者の方は今後の伏線かもしれません。
本家における某『敵空母を撃沈せよ!』任務にも関係している彼女は今後一体どうなるのでしょうか?