チュンチュンチュン
小鳥のさえずりの声で、美鈴は目を覚ます。
美鈴の目の前には、全身怪我だらけのはずだった深雪が、まだ寝息を立てて寝ている。
気のせいか、昨夜と比べて大分傷口がふさがっている気がする。
美鈴「何だろう、一晩寝ただけで深雪ちゃんの怪我が大分良くなっている気がする」
幻想郷でも、人間に比べて美鈴たちのような妖怪と呼ばれる種族は治癒能力が高い。
水上を駆け巡り、弾幕戦のような戦闘をしていた深雪のことだ、きっと普通の人間ではなく妖怪のような存在なのかもしれない。
そう考えると美鈴は、深雪の回復の早さに大した疑問も抱くことはなかった。
紅魔館のように、時計台があるわけではないこの廃虚の中では正確な現在時刻がわからないが、太陽が昇っているので大体朝の6~7時くらいだろう。
美鈴は、昨日の夕食の魚や貝を調達した海岸に行き、再び食料調達することにした。
小一時間、浜辺で貝や魚を採ってきた美鈴は、浜辺に落ちていたバケツをひろうと海水と一緒に深雪が寝ている廃虚に戻ってきた。
近くに落ちている草木を拾い集め、昨夜のように火をおこしてたき火をしながら、廃虚で拾ってきた鍋に海水と貝を入れて簡単な塩ゆでを作り、魚は木の枝に刺してたき火で丸焼きにするだけの代わり映えのない何ともサバイバルな食事だが、とりあえずの空腹からは逃れられそうだ。
魚が焼け、貝がゆで上がるころ、美鈴は寝ている深雪に声をかけ起こすことにした。
美鈴「深雪ちゃん、ご飯だけど起きれるかな?」
美鈴が深雪に声を掛けると、深雪は大きくあくびをしながら目を覚ました。
深雪「ふぁ~あ、もう朝か~、おはよ~」
昨夜は、傷だらけで身体を起こすだけでも痛みを訴えていたのがうそのように立ち上がり、身体を伸ばす深雪を見て美鈴は
美鈴「深雪ちゃん、もう怪我は大丈夫なの?」
と尋ねると、深雪は美鈴が海岸から拾ってきた緑色のバケツを指さして
深雪「やっぱりバケツの効果は抜群だぜ~!」
と言って親指を立ててきた、何だか意味がわからない。
すっかり傷が癒えた深雪に美鈴はいろいろなことを聞くことにした。
美鈴「ここは海があるけど、どこなのかな?珍しいよね」
深雪「ん?珍しいかな」
美鈴「私がいた場所は、近くに海がなかったから」
深雪「そうなんだ、この島は海軍基地があった日本近海の小島だけど、美鈴はこの島の人じゃないの?」
美鈴「う~ん、何というか事故みたいなもので急にここに来ちゃって……」
深雪「遭難?大変だな~」
美鈴「まぁ。遭難みたいなものだね、ははは……」
美鈴は、自分が人間だった頃の記憶で日本を知っていた。
その頃の日本は、明治維新という革命が起きてそれまでの武士の時代が終わり、西洋式の文化を積極的に取り入れていると聞いたことがある。
深雪が来ている洋服も、西洋の国の水夫が着ている服に似ているのは、そういった経緯なのかと納得がいった気がする。
美鈴「ところで、昨日深雪ちゃんが戦っていたあの怪物って何者なの?」
深雪「ん?深海棲艦を知らないのか?」
美鈴「あはは、すごい山奥の田舎にいたものだから……」
何となく、美鈴は幻想郷の話をすることを止めた、どう見てもここは幻想郷の外の世界であるからである。
深雪「今から、5年くらい前に急に現れた存在で、当時最初に接触した日本の艦隊じゃ歯が立たなくて完全に海域を奪われちゃったんだって聞いたよ」
美鈴「そんなことに、なっていたんだ知らなかったよ……」
深雪「ちなみに、昨日のやつは『イ級』と呼んでいて、深海棲艦の中じゃ一番下っ端で、一番数が多いヤツなんだよね~」
美鈴「もっと強いのがいるんだ……」
深雪の話によると、最近では日本の他の国の近海にも出現していて、通常の兵器では歯が立たず、制海権のほとんどが深海棲艦に奪われてしまっているらしい。
更に深雪は、深海棲艦が出現し人類から制海権を奪った頃に存在が確認された、『艦娘』と呼ばれる存在だという。
『艦娘』とは、かつて人類間の戦争があった際に建造され戦争などで沈んだり、役目を終えて解体されたりした軍艦の魂を受け継いだ存在と言われている。
また『艦娘』は、普通の人間よりも身体能力に優れており、艤装と呼ばれる装備を装着することで水上を移動することが可能で、深海棲艦を唯一対抗できる存在であるということであった。
美鈴「ここの瓦れきの中を調べていたら、『鎮守府』って書かれた看板を見つけたんだけど、『鎮守府』って何かの施設なの?」
深雪「確かに山奥には鎮守府はないからな~、鎮守府っていうのはもともとは海軍の司令所だったんだけど、今では深海棲艦と戦う艦娘が集まる基地って感じかな~」
美鈴「それじゃあ、深雪ちゃんもどこかの鎮守府にいるのかな?」
深雪「まだ鎮守府には所属していなくてさ~、一緒に戦ってくれる仲間や司令官を探しているだなよ~」
美鈴「だから、一人で深海棲艦と戦っていたんだね」
深雪「まっ、そうことかな~」
美鈴がわかったこととして、ここは幻想郷ではなく外の世界であるが、美鈴が幻想郷に行く前とは世界の情勢が変わっているということは理解できた。
最後に、美鈴は気になっていた、深雪の高い治癒能力について聞いてみることにした。
美鈴「深雪ちゃんは昨日すごい大怪我をしていたのに、一晩で大分回復したみたいだけど艦娘ってみんなこんなに回復力が高いの?」
深雪「普通の怪我なら人間並みに治るけど、深海棲艦から受けたダメージは入渠するか修復材を使わなきゃ治らないよ」
美鈴「入渠?」
深雪「特別な薬品が入ったお風呂に入るといえば、わかりやすいかな?」
美鈴「人間や動物が、温泉に入って療養する湯治みたいなものかな?」
深雪「そんなところだね、入渠以外にもちょっとした怪我なら治療できる特別な艦娘がいたり、工廠の妖精さんもある程度治療できるらしいけど」
美鈴「深雪ちゃんは、普通に止血して寝てただけなんだけどなぁ……」
深雪「美鈴の横にバケツがあるけど、そのバケツを使ってくれたんじゃないの?」
美鈴「バケツ?」
深雪「そのバケツに入っている『高速修復材』を艦娘の体にかけると怪我がすぐに治るんだよ、普通は入渠のときにお風呂のお湯に混ぜたりして使うことが多いけどね」
美鈴「このバケツって海岸に落ちていたから、魚や貝を持ち帰るのに拾ってきた空のバケツなんだけど……」
深雪「えっ、そうなの?じゃあ何でこんなに回復しているんだ??」
深雪の話では、深海棲艦から受けたダメージは自然回復することがなく、『入渠』するなど治療しなければ治ることはないらしい。
深雪「まぁ、深雪さまだからきっと大丈夫だぜ~」
深雪は細かいことを気にしない性格なのか、やんちゃな少年のように明るく笑っていた。
美鈴と深雪が談笑していると、ふと美鈴は廃虚の中を動き回る小さな気配を感じた。
美鈴「前から何となく気配を感じるんだけど、ウサギとかリスでも近くにいるのかな?」
深雪「ここは鎮守府の跡地みたいだし、妖精さんがすみ着いているじゃないか?」
美鈴がイメージする妖精とは、紅魔館の近くにあった霧の湖に住み着いている氷精や、その友人で緑色の髪をした子というような、人間の児童と同じくらいの大きさのイメージだった。
この周辺に感じる小動物くらいの気配とは異なるのだが、深雪の話を聞く限りここはそもそも幻想郷とは概念が全く異なる世界のようだし、同じ『妖精』と言う名を持っていても姿かたちが異なっているのかもしれない。
深雪「妖精さんがいるなら、入渠ができない深雪さまを、妖精さんが治してくれたのかもな~」
本当なら妖精さんってお医者さんみたいな存在なのだろうか……
美鈴と深雪は、当面の住む場所を確保するため、廃虚の中で使えるのがないかを探し回っていると、たまにパチュリーに会いに来る、アリスという人形遣いが操っていた、人形くらいの大きさで、作業服のような服装をした小人が、美鈴と深雪の前に現れた
深雪「美鈴、この子がさっき話した妖精さんだぜ!」
美鈴「この子がこの世界の妖精なんだね」
美鈴「はじめまして、妖精さん」
美鈴が妖精さんに声を掛けると、妖精さんは軍人の『敬礼』のポーズをとったので、美鈴もつられて妖精さんに敬礼を返す。
美鈴の敬礼に妖精は何だか喜んだ様子で飛び跳ねたりしながら喜んでいる様子である。
美鈴は幻想郷にいた頃から不思議と妖精に抱かれることが多く、この妖精さんも、美鈴をひと目見てなついてくれたのかもしれない。
どうやら妖精さんは人間の言葉を話せないようだが、身振り手振り美鈴に話しかけてくれていることが理解できた。
言葉の通じない犬や猫と人間がコミュニケーションがとれるように、妖精さんと美鈴も少しの時間で大分意思疎通ができるようになった気がする。
妖精さんは美鈴に「ちょっと待ってて」と身振り手振りで伝えた後、鎮守府跡の瓦れきの中に走っていった。
恐らく他にも仲間がいて、美鈴のことを教えに行ってくるといった雰囲気だったので、美鈴は深雪と妖精さんが戻ってくるのを待つことにした。
深雪「美鈴は艦娘じゃないのに妖精さんと仲が良いみたいだね」
美鈴「昔から妖精や子供には好かれていたから」
深雪「山にも妖精さんいるんだ」
美鈴「この辺はどうかわからないけど、私がいたところには近くに妖精が結構いたよ」
深雪「だから美鈴は人間なのに、妖精さん慣れしてるんだね~」
美鈴と深雪が話をしている頃、先ほどの妖精さんは瓦れきの下で生き延びていた他の妖精さんたちに美鈴のことを話していた。
作業服の妖精さん「(みんな、あの赤い髪の人はいい人みたいだよ)」
調理服の妖精さん「(昨日、海岸で深海棲艦と戦っていた人だよね)」
ヘルメットをかぶった妖精さん「(やられそうになった艦娘の深雪を助けた人だよ)」
双眼鏡を持った妖精さん「(深雪が来る前にも一度深海棲艦と戦っていたよ)」
鉢巻きをした妖精さん「(もしかしたら新しい『提督』かな)」
ゴーグルをつけた妖精さん「(でも軍人さんじゃないみたいだよ)」
三つ編みの妖精さん「(優しそうな人だし『提督』になってくれたらうれしいな)」
帽子をかぶった妖精さん「(『提督』だ!『提督』だ!)」
セーラー服の妖精さん「(『提督』になって鎮守府を直してってみんなでお願いしようよ)」
マフラーをつけた妖精さん「(『提督』の帽子は保管していたから持ってこよう)」
鎮守府跡の瓦れきの下で細々と生き延びていた妖精さんたちが次々に集まってきて、美鈴について話をする。
しばらくすると、先ほどの作業服の妖精さんが美鈴のところに戻ってくるとに次々と妖精さんたちが出てきてが整列し始めた。
10人以上の妖精さんが横一列に整列すると、一同に美鈴に『敬礼』をしてくる。
いまいち状況が飲み込めない美鈴に対して、妖精さんたちの意図に気がついた深雪が美鈴に声を掛ける
深雪「もしかしたら、美鈴は妖精さんたちに提督と認められたのかもしれないぜ」
美鈴「提督って?」
深雪「鎮守府のリーダー、艦娘たちの司令官ってところかな?」
美鈴「私が司令官?」
深雪「ここの島は今は鎮守府がないみたいだし、妖精さんたちは美鈴に提督になってほしいんじゃないか~」
美鈴「えぇ……、そんな急に言われても……」
深雪「美鈴が司令官になってくれるなら、深雪さまは大歓迎だぜ!」
美鈴が動揺していると、妖精さんの一人が白い軍帽を持ってきた。
深雪「提督がいないと鎮守府は再建できないし、鎮守府がないと妖精さんたちも安心して暮らせないからな~」
美鈴「でも、私なんかがそんな大役を……」
深雪「イ級にやられて大破したときに守ってくれた恩もあるし、この深雪さまがサポートするからさ~」
深雪「妖精さんたちもこれだけ言ってるんだしさ、提督になってくれよ美鈴!!」
昔から頼まれると無下に断れない美鈴は、深雪や妖精さんたちの願いに答えることにした。
美鈴「私なんかじゃ力不足かもしれないけど……」
美鈴は妖精さんから軍帽を受け取ると自分の帽子を脱いで軍帽をかぶった。
軍帽をかぶった美鈴に対して、深雪と妖精さんたちが一同に敬礼をしてくる
深雪「提督が着任したぜ!これから一緒に頑張ろうな!!」
今ここに新たな提督、紅美鈴提督が着任しました!
今回は戦闘は無く、美鈴が艦これの世界観に慣れていくような回です。
今後深く書くことがありますが、私の独自設定で美鈴は元人間だったという設定です。
以前までの回はちょくちょく誤字や脱字に気がついたら直しているつもりです。
稚拙な文章ですが今後もよろしくお願いします!