華人小娘と愉快な艦娘たち   作:マッコ

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第34話 紅い月と白銀の隼

    ズドォォン ズドォォン ズダダダダ ズダダダダ

 

 美鈴たちを追う敵航空機に、夕張が高角砲や対空機銃で一斉砲撃を加える。

 

夕張「どーぉ、この攻撃はっ!」

 

 不意に一斉攻撃を受けた敵航空機は、夕張の攻撃を回避することも出来ずに空中で爆散していった。

 

夕張「まぁまぁね、もう少し調整すればもっと良くなると思うわ」

 

 夕張は、両腕に積み上げた艤装の一つ一つを動作確認しながらそう呟いた。

 

美鈴「すっごい! 夕張は艤装をたくさん積める艦娘なんだね!!」

 

明石「でもなんか過積載な感じがしますけど……」

 

 夕張の下に駆け寄ってきた美鈴たちは、口々に夕張に声をかけ、夕張は笑顔で2人の顔を見渡す。

 

夕張「何となくだけど、海上に出ないと艤装の本当の性能を発揮出来ない気がしたし、ぶっつけ本番だから過剰なくらいがちょうど良いかなぁ~って思ってね」

 

明石「確かに、元々艦船である我々艦娘の艤装は海上に出てこそ真の力を発揮出来るものだけど、着任したての夕張は何故その事に気が付いたの?」

 

夕張「何となく艤装を手に取った時にそれぞれの艤装の性能や、使い方が手に取るように分かるというかね、感覚的なものだけど……」

 

 目の前の敵航空機を撃墜していたことで、明石と夕張が安堵している中、美鈴は鎮守府周辺から感じる敵意の様なものを感じ取って上空を見渡す。

 

美鈴「(鎮守府の上空に敵が10機いる……、それ以外にも2つ、いや3つかな『気』を感じる……、この『気』は味方?)」

 

 今朝の空襲時に『気』を爆発させてから、美鈴の体内でゆっくりと『気』の力が回復しているのが実感出来ており、周囲の『気』をざっくりとではあるが感じ取れる様になっていた。

 

美鈴「(3つの『気』のひとつは妖精さんかな? もうひとつは微弱だけどたぶん艦娘だと思うけど…… もうひとつは人間? 何だろうこの人間から感じる『気』は知っているような感じだな……)」

 

 敵航空機と、それを追って龍星鎮守府上空に来ている咲樂やあかぎの『気』を美鈴は感じ取っていた。

 

 

 

 

あかぎ「咲樂さん、鎮守府西側に敵機を確認しました、宿舎らしい建物を爆撃しています!」

 

咲樂「宿舎で待機している艦娘たちがいたら大変ね、妖精さんお願い出来るかしら?」

 

 咲樂は僚機である零戦52型に、あかぎが発見した敵航空機の撃墜を指示する。

 

咲樂「さっき、爆音が聞こえた北側はどう?」

 

あかぎ「北側で敵航空機の爆発を確認しました、おそらく艦娘が敵航空機と交戦して撃墜したものかと思われます!」

 

咲樂「お嬢様が言っていた建造された艦娘かもしれないわね」

 

 周囲をくまなく索敵しているあかぎの報告を受け、咲樂は軽く笑みを見せる。

 

あかぎ「提督室の西側上空に敵機を確認、地上にいる艦娘らしき人が高角砲で応戦しています!」

 

咲樂「敵機の数は?」

 

あかぎ「2機だと思われます、地上の艦娘は苦戦している様子です」

 

咲樂「突破されると提督室のお嬢様が危険ですし、急行するわよ!」

 

あかぎ「む、無茶な旋回はやめて下さいよ、私もいるので……ぎゃぁー!!」

 

 あかぎの願いも虚しく、咲樂は零戦レプリカを空中で一回転させて提督室の西側上空へと転進するのであった。

 

 

 

 

麗美「大淀! 敵はどうなったの、貴女は無事なの!?」

 

 敵航空機の接近を確認し、高角砲を持って迎撃に向かった大淀からの無線が途絶えた事に動揺した麗美は必死に大淀を呼び続ける。

 

麗美「くっ、艦娘とはいえ艤装の用意も間に合っていない大淀では戦闘は厳しいことくらい、よく考えれば分かるはずだったのに……」

 

 空襲に備えて、明石と大淀が対空艤装を用意していたことも知っていたし、いざとなったら地上から敵航空機に立ち向かうという報告も受けていた。

 

 主機となる艤装を装備出来ている艦娘であれば、海上よりも戦力は半減するが人間を遙かに凌駕する戦闘力を発揮出来ることは実証されていたが、主機となる艤装が準備出来ていない大淀や明石では対空艤装の力を本来の性能よりも大きく減少してしまう上、艦娘本体の能力も一流アスリート並みとはいえ人間の域を超えない程度である。

 

麗美「完全に采配ミスだ……、このままでは大淀を死なせてしまうかもしれない……」

 

 麗美は震えながらも提督室のモニターを確認し、各部隊の現状を確認する。

 

麗美「大丈夫、通信は出来なくても大淀も明石もまだ反応はあるし、海上の艦娘たちも被弾している娘はいても大きく損傷した娘はいない……」

 

 麗美は、大淀や明石が提案してきた最終手段としての陸上からの対空砲による迎撃案を、許可してしまった自分の判断に対する後悔に押しつぶされそうになりながらも、必死に最善の策を考えようとしていた。

 

麗美「美鈴が戻るまでは私がここでしっかりしないと……、逃げちゃダメよ……、逃げちゃダメよ……、逃げちゃダメよ!!」

 

 麗美は自分に言い聞かせる様に、念じる様に、あえて自分の意思を言葉にしていた。

 

 

 

 

咲樂「これより敵機との戦闘に入るわ、地上で砲撃を行っている艦娘が誰だか分かるかしら?」

 

 咲樂は最大戦速の零戦レプリカの操縦桿を強く握りながら、後部席のあかぎに声をかける。

 

あかぎ「……」

 

 しかし、あかぎは咲樂の操縦について行くことが出来ずに再び気絶してしまっていた。

 

咲樂「……返事が無い、ただの屍のようだわ」

 

 優秀な索敵員であったあかぎを失った咲樂は、近くにいた敵航空機の背後を素早くとると短く機銃を連射し撃墜する。

 

咲樂「これであと9機、そしてもう一機も墜としますわ」

 

 咲樂に仲間を撃墜された敵航空機は、闇雲に零戦レプリカに突撃してくる。

 

咲樂「そんな攻撃、私には無駄よ!」

 

 咲樂は敵航空機の体当たりの様な突撃に対し、操縦桿を右一杯に切って機体を垂直にしながら回避し、そのまま機体をロールさせながら敵航空機の背後に回り込む。

 

 一瞬にして背後をとられた敵航空機は、完全に咲樂機を見失った様子でかすかに動きが止まる。

 

咲樂「そんな腕じゃ、私の相手にはならないわね……」

 

 そう言うと、咲樂は敵航空機に向けて機銃を連射する。

 

   ドガァァン

 

 咲樂機の機銃が直撃した敵航空機は、大きな音を立てながら爆散していった。

 

 

 

 

 格の違いを見せつけるように、咲樂の零戦レプリカが華麗に敵航空機を撃破する様子を、両手で高角砲を持った地上から一人の艦娘が驚くような表情で眺めていた。

 

大淀「たった1機で、2機の敵航空機を手玉にとるように撃墜するなんて……」

 

 その艦娘は、先ほどまで提督室で麗美の補佐を行っていた大淀であった。

 

咲樂「貴女は確か大淀といったわね、怪我はないかしら?」

 

 周囲に敵航空機がいないことを確認した咲樂は、無線機で大淀に声をかける。

 

大淀「あっ……はい、そうですが、零戦のパイロットの方ですか?」

 

咲樂「そう、私は紅月鎮守府基地航空隊の航空隊長伊在井咲樂、貴女のことはお嬢様……いや、紅月提督からよく聞いているわ」

 

 突然の無線に、困惑した様子で答える大淀に咲樂は少し申し訳なさそうに答える。

 

大淀「はい、紅月准将から白銀の隼と呼ばれるエースだとお聞きしています」

 

咲樂「エースだなんて恐れ多い、私はエースどころかキングでもクイーンでもない、いいとこジャックくらいの者ですわ」

 

大淀「紅月鎮守府の騎士ですか……」

 

 大淀が口にしたエースという言葉を、咲樂は流すように否定しトランプにたとえて答える。

 

大淀「遅れましたが、先ほどは助けていただきありがとうございました」

 

咲樂「ここには、お嬢……いや、紅月提督もいらっしゃるのですから、騎士として敵を討つのは当然のこと……」

 

大淀「それにしても、さっきの旋回は見事でした! 捻り込みの一種ですか?」

 

咲樂「それは、かの一航戦の操縦士たちが得意としていた左捻り込みのことかしら?」

 

大淀「はい、その捻り込みです」

 

咲樂「それはどうかしらね、師がいるわけもないし加賀や龍驤の艦載機のマニューバを参考に、私なりにアレンジしただけですから」

 

大淀「でも、一瞬で敵の背後に回り込むなんて、敵機からしたら急に機体が消えたような錯覚を与えたと思いますよ!」

 

 興奮した様子で語る大淀に、咲樂は冷静な口調で答える。

 

咲樂「敵機とすれ違ったと見せて、素早く急旋回して回り込む、単純なことですわよ」

 

大淀「あの速度から、一気に減速して背後をとられるなんて予想できる動きではないですよ!」

 

咲樂「加賀の艦載機はもっとすごいわ……、まぁ旋回性能に優れた零戦だからこそできる、単純なミスディレクションね」

 

 

 

 

麗美「……よど! 大淀! 聞こえるなら応答して!!」

 

 大淀が咲樂と会話をしていると、雑音交じりではあるが麗美からの無線が入る。

 

大淀「はい、大淀です! 紅月准将ですね」

 

麗美「よかった、無事だったのね……」

 

 大淀の返事を聞いた麗美の声から安堵の感情が感じられた。

 

大淀「敵航空機2機と交戦中でしたが、伊在井少尉が救援に来ていただいたおかげで撃破に成功しました」

 

麗美「咲樂が来てくれたならもう問題ないわね、大淀は提督室に戻って来て」

 

咲樂「お嬢様、遅ればせながら伊在井咲樂推参いたしました!」

 

 麗美の無線に気が付いた咲樂は、改まった感じで麗美に通信を送る。

 

麗美「そんなに畏まらないで、そしてお嬢様は止めてと言っているでしょ」

 

咲樂「はい、申し訳ありません紅月麗美お嬢様!」

 

麗美「またお嬢様って言ってるし……」

 

 麗美と咲樂の会話を聞いていた大淀は、思わずクスッと小さく笑ってしまう。

 

大淀「紅月准将は、名家のご息女なのですか?」

 

麗美「そんなことは無いわ、咲樂が勝手にお嬢様と言ってくるだけよ」

 

咲樂「それでは、姫とお呼びいたしましょうか?」

 

麗美「それはもっとやめて!!」

 

 腹心の部下ともいえる咲樂が来たからか、麗美の言葉には普段の明るさが戻っている様子だった。

 

 

 

 

    どごぉぉぉん

 

 突然、鎮守府内に轟音が響き渡った。

 

麗美「何があったの!?」

 

咲樂「南方向に敵機を複数確認、鎮守府施設に爆撃を行っています!」

 

 咲樂は素早く状況を確認すると、手短に麗美に報告する。

 

大淀「その方向には、入渠施設があります!!」

 

麗美「しまった、金剛が入渠中よ!!」

 

咲樂「入渠中の艦娘が危ないわね、急行しますわ」

 

 大淀の無線を聞いた咲樂は、即座に南方向に機体の向きを変える。

 

麗美「入渠中なら艤装を外しているし、戦艦といえども危ないわ……、頼んだわ! 咲樂!!」

 

 麗美の声を受けながら、咲樂の零戦レプリカは最大戦速で入渠施設へ向かっていった。

 

 

 

 

美鈴「今、何か聞こえたような?」

 

 鎮守府の北側にて敵航空機と交戦していた美鈴たちは、先ほど麗美たち聞いた轟音に気がついた。

 

夕張「鎮守府の南方向に複数の敵航空機が確認できました」

 

明石「南側と言ったら、入渠施設があるところですよ!!」

 

美鈴「入渠施設……、金剛が危ない!!」

 

 入渠施設と聞いた美鈴は、すぐに先ほど入渠させたばかりの金剛のことを思い出す。

 

明石「うわっ、こんな時に!!」

 

 金剛の救出のために入渠施設へ向かおうとした美鈴たちの目の前に、敵航空機が2機現れる。

 

夕張「ここは私たちに任せて、提督は行ってあげて下さい!」

 

明石「そうです、夕張さんがいますしここは私たちがなんとかしますので、提督は金剛さんのところへ!!」

 

 明石と夕張は、高角砲を手に敵航空機に向かっていく。

 

美鈴「夕張もいるし大丈夫だよね、わかった、ここは二人に任せたわよ!」

 

 美鈴は、目の前の敵航空機を明石と夕張に任せて金剛がいる入渠施設へ駆け出す。

 

 すると、美鈴に気がついたのか敵航空機の1機が、美鈴の後を追うような進路を取り始めた。

 

    ドォォォン

 

 その動きに気がついた明石は、素早く高角砲を敵艦載機に向けて放った。

 

明石「提督のところには行かせない、明石だって戦えるんだ……」

 

 明石の表情には、今まで口にしていた戦闘への恐怖心などは無く、その目には強い決意が感じられた。   




昨日(平成31年2月6日)の報道で、海底に眠るの比叡が発見されたと聞き、この作品にも比叡を登場させようと思いましたが、さすがに今回の話にぶち込むことができなかった作者のマッコです(笑)

先月は前話しか投稿できませんでしたが、今月は先月以上に投稿できるように頑張ろうと思います(目標が小さいw)

私の住む北海道は、明日から最大級の寒波が襲来するらしく、最高気温が-10℃とかなかなか寒い時代が来ますが、皆様も風邪など引かぬようお気をつけ下さい。
(私は先週思いっきり風邪ひいてましたがww)

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