華人小娘と愉快な艦娘たち   作:マッコ

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第37話 レディーになるために

榛名「燃えている……、鎮守府が……」

 

 未だ火の手が上がっている鎮守府を見つめながら、榛名はうわごとのように呟いていた。

 

雪風「榛名さん、正気に戻って下さい! 榛名さん!!」

 

 雪風は、トラウマにより自我を失っている榛名に声をかけ続けるが、榛名は生気を失った瞳で呆然と空を見上げている。

 

榛名「爆撃機が迫って来ます……、迎撃を……」

 

 榛名は何も無い方角を見上げて、虚空に手を上げる。

 

榛名「もう動くことは出来ませんか……、燃料が尽きてしまって……」

 

 榛名は、艦船時代の最期の戦いである呉軍港空襲での戦いの様子が脳裏に写っており、現状と過去の記憶が入り交じり錯乱に近い状況であった。

 

雪風「榛名さん! 榛名さん! 目を覚まして下さい!!」

 

 雪風は榛名を呼び続け、目を覚まさせようとするが、榛名の瞳は光を失っており生気を失っていた。

 

雪風「このままじゃ、榛名さんは戦闘どころじゃ無いです……」

 

 雪風は周囲を見回し、深海棲艦や敵航空機が接近してきていないか確認する。

 

雪風「今はまだ大丈夫……?」

 

 海上で頭を抱えながらうずくまる榛名の表情を、雪風は心配そうにのぞき込む。

 

榛名「爆撃機を……、早く……」

 

 トラウマに苦しむ榛名を見ながら、雪風は自分に言い聞かせるよう決意を口にし始める。

 

雪風「今、敵の攻撃を受けたら榛名さんを守れるのは雪風だけです……」

 

雪風「もう仲間を沈めさせないと、艦娘として生まれ変わってから雪風は決めました……」

 

雪風「あの戦争の時は、雪風もきっとつらく悲しい思いもいっぱいしたと思います……」

 

雪風「美鈴しれぇも深雪たちも、雪風にとって大事な仲間です……」

 

雪風「榛名さんとはまだ出会ったばかりですが、雪風にとって大事な仲間です……」

 

 雪風は何かを感じ取ったかのように、自分たちが後にしてきた南西方面を険しい目で見つめながら立ち上がった。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の北方面の海域では、那珂、暁、五月雨の3人が深海棲艦の機動部隊に向けて必死の進撃を続けていた。

 

暁「なによ、一体敵はどれだけいるのよ!」

 

五月雨「那珂さんがいるから大丈夫って思っていましたが、こんなに護衛の水雷部隊がいるとは想定外でしたね」

 

 死に物狂いの暁に比べて、同じ駆逐艦であるはずの五月雨は汗一つかかずに涼しい表情で次々と深海棲艦の駆逐艦や巡洋艦を撃墜していく。

 

那珂「ヲ級ちゃんたちが、どんどん艦載機を発艦しちゃってるから、こっちもペース上げて行くよぉ~」

 

五月雨「はい、前衛はお任せ下さい!」

 

 暁が1体のイ級をやっとの思いで撃墜すると、すでに5体以上の駆逐艦級や巡洋艦級の深海棲艦を撃墜しているという那珂と五月雨の戦闘を見て、暁は二人との練度の差を強く実感させられた。

 

暁「那珂さんは軽巡だから仕方ないけど、五月雨は同じ駆逐艦だからレディーとして負けるわけにはいかないわ!」

 

 普段はお茶汲みをしたら転んでしまったり、書類をもって歩いていたら何かにぶつかって落としてしまったりなど、ドジっ子なイメージの強い五月雨の思わぬ活躍に暁は対抗心を燃やす。

 

暁「やぁ、やぁ!」

 

 暁は手当たり次第に12.7cm連装砲を目の前の駆逐艦ロ級に向けて連射するが、ロ級は軽快に暁の攻撃を回避する。

 

暁「ぐぬぅぅ、避けるんじゃ無いわよ!」

 

 攻撃を回避するロ級に対して暁が怒りをあらわにしていると、五月雨が暁に近寄ってきてそっと声をかけてくる。

 

五月雨「暁ちゃん、もっと肩の力を抜いて敵の動きをよく見て」

 

暁「敵の動き?」

 

五月雨「あのロ級は攻撃を避けるときに、右に回避するクセがあるみたいですよ」

 

暁「えっ?」

 

 五月雨に言われたとおり、交戦中のロ級は攻撃の多くを右方向に回避していることに暁は気がつく。

 

暁「ホントだ、右に避けると言うことは……」

 

 暁は再び連装砲を構えてロ級に向けて砲撃した後、続けざまにロ級の右方向に砲撃を行ってみた。

 

   ドォォォン

 

 すると、暁の初弾を回避したロ級に、暁の二射目の砲撃が直撃しクリティカルヒットとなった。

 

五月雨「わぁい、暁ちゃん凄いですね!」

 

暁「えっ、あぁ……」

 

 五月雨の助言を受けて試してみた砲撃でロ級を仕留めた暁のことを、大喜びしながら褒め称えてくる五月雨に対して暁は一瞬言葉が詰まる。

 

五月雨「敵の動きを読んで一撃で直撃させちゃうなんて、さすが暁型のみんなのお姉さんですね!」

 

暁「そ、そうね、レディーとしては当然よ!」

 

五月雨「私も暁ちゃんに負けないように、一生懸命がんばりますね!」

 

 そう言うと、五月雨は敵陣に突入して敵水雷戦隊と交戦を始める。

 

暁「敵の動きをよく見るか……、敵のクセなんて全然気がつかなかったわ……」

 

 暁は素直に五月雨の的確なアドバイスを振り返りながら、五月雨の戦いぶりを見る。

 

暁「那珂さんの様な派手さは無いけど、しっかりと敵の攻撃を避けて自分の攻撃を当ててる……、あれが麗美司令官の初期艦の実力なのね……」

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 敵航空機に咲樂が操縦する零戦レプリカの機銃が命中し、敵航空機が爆散する。

 

あかぎ「お見事、星一つですね!」

 

咲樂「まだよ、まだ3機いるわ!」

 

 敵機撃墜に喜ぶあかぎと対照的に、咲樂は冷静に戦況を確認している。

 

咲樂「『紅き龍』の支援射撃があるとはいえ、もうこの機体の燃料や弾薬は残り少ない……」

 

あかぎ「えっ!?」

 

咲樂「気絶してばかりのお荷物を乗せてたから、燃料が足りませんわ……」

 

あかぎ「す、すみません! 私の責任ですよね……」

 

咲樂「冗談よ、まぁ、ピンチなのは本当ですが……」

 

 咲樂の機体は燃料弾薬不足もあるが、訓練用の機体にも関わらず激しい戦闘機動を続けてきたため、機体の強度が限界を迎えている状況であった。

 

咲樂「敵機の殲滅が先か、この機体の限界が先か、どのみち未来は明るくないわね……」

 

あかぎ「ふふっ、しかし天はまだ私たちを見捨ててはいないみたいですよ」

 

 咲樂の自虐を含ませた言葉に、あかぎは笑顔で答える。

 

    ザザッ…… トゥトゥートゥ トゥトゥトゥー ガガ……

 

 突然、咲樂機の無線機から雑音混じりの電子音が聞こえてくる。

 

咲樂「モールス信号!?」

 

 咲樂は、その電子音がモールス信号であることに気がつくと、今度は先ほどと同じ電子音が鮮明に聞こえてきた。

 

   『タイチョウ コレヨリ エンゴニ ハイリマス』

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ 

 

 鎮守府上空西方向から、敵航空機めがけて機銃が斉射される。

 

咲樂「零戦52型か!」

 

 咲樂から、龍星鎮守府の宿舎を爆撃していた敵航空機の撃墜の指示を受けていた零戦52型が、敵機の撃墜に成功して咲樂の援護に駆けつけたのであった。

 

あかぎ「こちらに気がついて、急行してくれたみたいですね」

 

    『アトハ マカセテ サガッテ クダサイ』

 

咲樂「こちらの機体の限界に気がついているのか?」

 

あかぎ「妖精さんは優秀ですから……、貴女は妖精さんに好かれているのですね」

 

 妖精さんの零戦52型は、咲樂ほどではないが軽快な動きを見せて3機いる敵航空機と互角に対峙する。

 

咲樂「下がれと言ってくれるのはありがたいが、この機体の限界も近いですし目の前の敵機を排除してから空き地に不時着しましょう」

 

あかぎ「着陸できそうな場所は、こちらで探しておきますね」

 

咲樂「また気を失ってしまわないようにお願いしますね」

 

 不時着可能な場所の選定をあかぎに任せた咲樂は、操縦桿を握る力を更に強めて機体を加速させる。

 

咲樂「さっさと掃除を終わらせて、お嬢様のところに行かせてもらいますわ」

 

    ズダダダ

 

 咲樂は零戦レプリカの機体を軋ませながら的確に機銃を放ち、敵航空機に命中させる。

 

咲樂「さぁ、これで2対2……、一気に決める! 私についてきなさい!!」

 

 咲樂は自身も機体も限界を超えた状態であるにも関わらず、機体を加速させ敵航空機に向かっていく。

 

 

 

 

美鈴「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 『気』を込めながら機銃の艤装を連射していた美鈴は、激しい疲労に襲われていた。

 

美鈴「『気』を使いすぎてしまったか、まだ十分な力は戻っていないんだなぁ……」

 

 疲労により体はふらつき、強い目眩を感じた美鈴は再び気を失ってしまわないように攻撃の手を止める。

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 咲樂の零戦レプリカと、零戦52型が敵航空機を追い込んで行く様子を見ながら、美鈴は地面に座り込む。

 

美鈴「金剛の仇は、咲夜さんがとってくれそうだ……」

 

 敵航空機の1機を追い詰め撃墜すると、最後の1機となった敵航空機は鎮守府の北方向へ逃走を図る。

 

美鈴「くっ、あいつらは金剛の仇だ……、逃がすわけにはいかないんだ……」

 

 美鈴は拳を再び強く握り、立ち上がろうとするがすでに体力が底をついてしまっており、立ち上がるための力が入らない。

 

美鈴「うっ、力が残っていないなんて、そんなの言い訳にして諦めるなんて嫌だ!」

 

 両足を震わせながら、美鈴は気力だけで立ち上がる。

 

    ドサァッ

 

 しかし、美鈴はそのまま前のめりに倒れ込んでしまう。

 

美鈴「ぐっ、くそぉ……」

 

 逃走を図る敵航空機を追うため、立ち上がろうとするが体力が底をつき倒れ込む美鈴は、悔しさから目に涙を浮かべている。

 

美鈴「仲間を守ることも、仇を討つことも出来ないなんて……」

 

 

 

 

那珂「どっかぁーん!」

 

 重巡リ級を撃破した那珂が、右手を大きく突き上げてポーズを決める。

 

五月雨「さすが那珂さん、綺麗に決めましたね!」

 

那珂「きゃは、あとは向こうにいる空母部隊だけだね!」

 

 那珂は、ポーズを決めながら視線を北方にいる正規空母ヲ級3体、軽空母ヌ級1体と護衛の駆逐艦ロ級2体の艦隊に視線を向ける。

 

五月雨「はい! 前衛はお任せください!!」

 

暁「(二人の早さについて行けない、本当に同じ艦娘なの?)」

 

 まだまだ修行中の暁と違い、紅月鎮守府において最高練度を誇る五月雨と、改二となっており高練度の那珂の戦闘に暁は圧倒されていた。

 

 那珂と五月雨は、そのままの勢いで敵陣に突入しヌ級を撃退する。

 

暁「は、早い……、でも響たちや司令官のためにも暁も行くわ!」

 

 暁は、先行している那珂たちの後を追って敵陣に突入しようとすると、周辺の海域がどんどんと暗くなっていることに気がついた。

 

暁「なに? どうなっているの!?」

 

 時刻的にはまだ昼過ぎであるにも関わらず、周囲が夜のように暗くなっていくことに動揺する暁に那珂と五月雨が近づいてきた。

 

五月雨「夜になる前に、敵の駆逐艦を倒しましょう!」

 

暁「よ、夜?」

 

那珂「暁ちゃんは夜戦は初めて? 後で説明してあげるから魚雷を構えてね」

 

暁「えっ、あ、はい……」

 

那珂「よーっし、深海棲艦のみんなに魚雷のファンサービスだよっ!」

 

 那珂の合図で、3人は一斉に敵艦隊に魚雷を発射し、放たれた魚雷が敵艦隊に向かっていく。

 

 深海棲艦側もロ級2体が那珂に向けて魚雷を撃ってきていたが、那珂は軽やかに魚雷を回避する。

 

那珂「握手や写真はいいけどぉ、贈り物は鎮守府を通してね♪」

 

 那珂たちが放った魚雷はロ級1体とヲ級1体に直撃し、それぞれ海に沈んでいった。

 

 

 

 

暁「あ、当たった、初めて魚雷が敵に当たった……」

 

 ロ級に直撃した魚雷は、那珂が単独で放ったものであったが、ヲ級を沈めた魚雷は五月雨と暁が同時に放ったものであり、二人で正規空母のヲ級を撃墜した形であった。

 

五月雨「わぁ、暁ちゃんの魚雷がヲ級を沈めましたね、大戦果ですよ!」

 

暁「えっ?」

 

那珂「うん、五月雨ちゃんの魚雷で大破したところに、暁ちゃんの魚雷が当たったから撃墜スコアは暁ちゃんのものだよ」

 

 暁は魚雷の扱いが苦手で、訓練でもまともに的に当てた事が無く、当然実践でも敵艦に魚雷を命中させたことは無かった。

 

暁「暁が空母を倒したの?」

 

五月雨「そうです、暁ちゃんは大型深海棲艦をやっつけたんですよ」

 

那珂「那珂ちゃんも、新人時代に大型艦を倒したこと無いのに、暁ちゃんはトップアイドルの素質あるかもしれないなぁ、未来のライバルになるかもね」 

 

 那珂と五月雨のべた褒めに、暁は若干動揺しながらも更に周囲が暗くなっていくことに気がつく。

 

暁「どんどん暗くなってくるわ、本当の夜みたいに」

 

五月雨「原理はまだ解明されていないのですが、深海棲艦は戦闘中に周囲を闇に覆うことが出来るみたいなんです」

 

暁「闇に覆う?」

 

五月雨「こちらに奇襲を仕掛けるためや、逃走の手段としてかはわかりませんが、何かの目的があるとは思います」

 

那珂「まるで夜みたいになっちゃうから、みんな夜って言ってるよね」

 

五月雨「夜になると、深海棲艦たちは戦闘能力が上がるから注意が必要です」

 

 五月雨の言葉に暁は大きく息をのみ、表情に緊張感が増してくる。

 

五月雨「でも、艦娘も夜間になると敵の不意をつく事も出来るので、夜戦が得意な人も多いですよ」

 

那珂「那珂ちゃんも、ナイトライブは大好きだよ!」

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 動揺する暁に、五月雨が色々と説明をしていると、突然巨大な砲撃の音が聞こえてきた。

 

暁「この砲撃音は!!」

 

五月雨「ル級が2体……、深海棲艦の増援みたいです」

 

那珂「みんな那珂ちゃんのナイトライブが見たいからって、ちょっと数が多くなっちゃった……」




3月中にもう1話と思っていましたが、気がついたらもう4月。

野球界の世界的スーパースターのイチローが引退したり、新年号が『令和』と発表されたりいろいろなビッグニュースが続いた、激動の数週間でしたね。

この第19話から続いている一連のお話も気がつけばもう20話になりそうな感じですが、もう少し美鈴たちの戦いが続くと思います。
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