深海棲艦の爆撃でやられてしまい、もう会うことが出来ないと思い込んでいた金剛との再会を果たした美鈴であったが、突然の出来事に状況を整理することが出来ずにいた。
美鈴「いったい、何がどうなっているの?」
美鈴が素朴な疑問を投げかけると、金剛は涙目のまま答える。
金剛「入渠の前に提督は、私をハグしてくれましたよね」
美鈴「ハグ? あぁ、確かに回復の『気』を送ったなぁ……」
金剛「提督のBurningなLoveが、私の体の傷を癒やしてくれたのデース!」
美鈴「血が止まったくらいにしか見えなかったけど、結構回復していたのかな?」
金剛と話をしながら、美鈴は金剛が帰投した際に金剛の疲労を少しでも和らげようと、『気』を送った時の状況を思い出していく。
金剛「中破して帰ってきたはずなのに、入渠したら傷がほとんど治っていて、小破くらいの傷しか無かったので、お風呂は汗や体の汚れを落とすくらいで大丈夫だったのデース!」
明石「たしかに、負傷した金剛さんや疲労困憊になった鳳翔さんは、提督が抱きしめたら元気になっていましたね……」
美鈴と金剛の会話を聞いた明石は、思い出したかのようにニヤニヤした表情で会話に加わる。
あかぎ「は、破廉恥な……」
明石の話を聞いたあかぎは、両手で自分の口を隠しながら顔を真っ赤にしていた。
美鈴「えっ? 私なにか変なことした!?」
邪な気持ちは一切無く、『気』で鳳翔や金剛を回復させようとしていただけの美鈴は、明石やあかぎがどう言う考えでこのような事を言っているのかが理解できずにいた。
金剛「提督ぅー、そういうことは時間と場所をわきまえなきゃ、Noなんだからネ!」
金剛は、美鈴に邪心は無く、自分や鳳翔を癒やしたり元気づけたりするために抱きつき『気』を送ってくれたと言うことを理解した上で悪戯っぽく美鈴に語りかけた。
暁「暗い、何も見えない……」
那珂と五月雨がヲ級を戦えるようにル級2体を引きつけていた暁は、援軍に現れた川内と神通にル級との戦闘を任せて那珂たちとの合流を目指していた。
しかし、周囲は真夜中のように漆黒の闇に包まれており移動はまさに手探りといったところであった。
暁「探照灯も壊れちゃったし、怪我もしちゃって足も痛い……」
暁は、周囲に誰もいないと知った上で普段はあまり口にしない弱気な言葉を口にしていた。
暁「鎮守府ではドジばかりの五月雨が……、同じ駆逐艦の五月雨が私なんかよりもあんなに強くて、立派なレディーなのに暁なんて戦場ではみんなの足を引っ張ってばかり……」
初めて一緒に戦ったことで、五月雨の実力を知り、暁に対しても的確なアドバイスを送ってくれた五月雨と、同じ駆逐艦である自分自身の実力不足を思い知らされた暁は、怪我をしてしまった事と、未だに那珂や五月雨と合流出来ないで1人になってしまっている状況から、心が弱気な気持ちに支配されつつあった。
ドォォォン ドォォォン
暗闇の中、周囲からは砲撃音や爆発音が聞こえてくる。
暁「後ろから聞こえてくる爆発音は、神通さんたちがル級を倒した音かな?」
振り返ると、激しい爆発の炎と沈んで行くル級と思われる巨大な影が見える。
暁「怖いところもあるけど、神通さんはレディーだから負けたりなんかしないわよね」
紅月鎮守府の水雷戦隊でも群を抜いて神通の訓練が厳しく、神通の訓練に恐怖を抱くこともあったが、暁が訓練で怪我をしてしまった時に神通がすぐに暁の様子に気がついて、優しく手当てをしてくれた事があり、それ以来、暁は神通のことをレディーと認めて尊敬していたのである。
暁「神通さんが暁を助けてくれたように、暁も仲間を助けられるようなレディーになるんだ!!」
うつむきがちであった暁が、意思を新たに顔を上げると、前方に那珂が打ち上げていた照明弾の光がうっすらと見え始めた。
暁「あの光、あそこに五月雨たちがいるはずだわ……」
照明弾の光を見て、そこに那珂や五月雨がいるはずだと確信した暁は、足の痛みに耐えながらも速力を上げ始める。
暁「みんなと一緒にヲ級たちを倒して、空襲を食い止めてみせるわ!!」
暁は、響や雷、電の顔を思い浮かべながら、那珂たちが交戦している海域に向けて加速していくのであった。
シュダダダダダ シュダダダダダ
フラッグシップ化したヲ級から発艦された球体型の艦載機は、ヲ級と同じく金色のオーラを放ちながら那珂に攻撃を仕掛けてくる。
那珂「なんでっ!? きゃあぁぁぁ!!」
夜戦中であることから、空母は艦載機を発艦できないと思い込んでいた那珂は不意を突かれてしまい回避をすることも、防御をすることも出来ずに艦載機の猛烈な攻撃にさらされてしまう。
五月雨「那珂さん!!」
艦載機の攻撃を受け続けてしまっている那珂を救うため、五月雨が那珂に近づこうとするが瞬く間にヲ級の艦載機が五月雨の周囲を取り囲んでいた。
五月雨「そ、そんな……」
五月雨は瞬時に危険を察知して一旦後退して、自分を取り囲んでいる艦載機を確認する。
五月雨「敵機は10機……、しかも動きも早さも今までの敵機とは桁違いです……」
シュダダダダダァ シュダダダダダァ
五月雨を取り囲んでいた敵艦載機が一斉に攻撃を仕掛けてくるが、危険を察知していた五月雨は紙一重で攻撃を回避する。
五月雨「は、早い……」
なんとか敵艦載機の攻撃を回避している五月雨は、どうにかして那珂を救出して一度後退する方法が無いかを必死に考えていた。
ズダダダダダ ズダダダダダ
那珂「こんなになっても、那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだから!」
その時、中破してしまっている那珂が急に大きな声を出しながら五月雨を狙う敵艦載機に機銃を撃って来た。
五月雨「な、那珂さん!」
那珂「敵の艦載機は那珂ちゃんが全部引き受けるから、五月雨ちゃんはヲ級をやっつけて!!」
敵艦載機に囲まれ集中攻撃を受けていた那珂は、何とか体勢を立て直しながら自身の危険を覚悟で敵艦載機を引きつけようとする。
五月雨「そんな、このままじゃ那珂さんが……」
那珂「アイドルはファンのみんなの応援があるかぎり、絶対に負けたりしないの……」
敵艦載機の攻撃を受けてボロボロになりながらも、那珂は五月雨にとびきりのスマイルを見せる。
那珂「五月雨ちゃんはいつも那珂ちゃんのライブを見てくれていたよね……、応援してくれてる気持ちは届いていたから!」
那珂は右足を軽く上下させながらリズムを刻み始めると、だんだんと体全身を動かし始める。
シュダダダダダァ シュダダダダダァ
敵艦載機は攻撃の手を止めずに那珂に攻撃をし続けるが、那珂はダンスを踊るように敵艦載機の攻撃を回避し始める。
シュダダダダダァ シュダダダダダァ
五月雨を攻撃していた敵艦載機たちも那珂に向かって行き、攻撃を那珂に集中し始めるが、リズムを取り戻した那珂は五月雨にウインクしながら華麗に回避していく。
ヲ級フラッグシップ「アイドル ダト……、フザケルナ……、アノ ケイジュンカラ、サキニ、シズメルンダ」
深手を負ったはずの那珂が、急に艦載機の攻撃を回避始めた事に腹を立てたヲ級は、発艦させていた艦載機を全て那珂に差し向けて、那珂を撃墜するように命令する。
那珂「きゃは、ヲ級ちゃんも那珂ちゃんのファンになっちゃったかな?」
数十機の艦載機からの一斉攻撃に晒されている那珂は、徐々に被弾が増えていくが艦載機に攻撃命令を続けるヲ級に手を振ったり、ウインクしたりなどファンサービスの様な行動を繰り返す。
ヲ級フラッグシップ「ケイジュン フゼイガ、チョウシニ ノルナ!!」
那珂の行動にヲ級は怒りをあらわにしており、五月雨のことを忘れた様子であった。
五月雨「(那珂さんは、決死の覚悟でヲ級の注意を引いてくれているみたいです……)」
五月雨に攻撃するチャンスを与えるために、那珂がヲ級の注意を引いていると判断した五月雨は、ヲ級の背後に回り込んで攻撃をするための機会を狙っている。
五月雨「魚雷の残りは4本です、この一撃に全てを賭けます!!」
五月雨は酸素魚雷を全弾装填すると、ヲ級に気がつかれないように背後に回り込むために静かに移動を開始する。
ヲ級フラッグシップ「ケイジュンメ、オチロ! オチロォォォ!!」
頭に血が上ったヲ級の視界には、仲間であるヲ級エリートを撃墜した那珂の姿しか映っておらず、五月雨を警戒している様子は全く無かった。
那珂「貴女の攻撃、凄い気迫を感じるよ……、那珂ちゃんもアイドルとして全力で行くからね!!」
那珂は、次々と襲いかかってくるヲ級の艦載機の攻撃を回避しつつ、機銃で迎撃して確実に数を減らしていくが、数十機の艦載機からの攻撃を全て回避することは出来ておらず、ダメージは徐々に増えている状況であった。
五月雨は、ムキになって那珂への攻撃を続けているヲ級の隙を突いて背後へ回り込むと、連装砲と魚雷の発射管をヲ級に向けて攻撃の準備を整える。
五月雨「これで勝負を決めます……、全弾発射! たぁーっ!!」
ドォォォン ドゴォォォォォォン
五月雨の放った連装砲の砲撃や酸素魚雷はヲ級に全弾命中し、不意を突かれたヲ級は激しい爆発と共に炎上する。
ヲ級フラッグシップ「グヲヲ……、マダ……ダ、マダ……」
五月雨の攻撃を受けたヲ級は、大破炎上しながらも鋭い眼光で五月雨を睨み付ける。
五月雨「そ、そんな……、全弾直撃したはずなのに……」
フラッグシップ化したヲ級は、五月雨の残弾全てをかけた猛攻撃にも耐え、ふらつきながらもすでに発艦している艦載機を操り那珂への攻撃を続行する。
ヲ級フラッグシップ「ケイジュン……、キサマダケデモ……」
シュダダダダダァ シュダダダダダァ
ヲ級の艦載機による攻撃は苛烈さを増しており、必死に回避・迎撃を行っていた那珂ではあったが損害が大きくなり、ついには艤装が大破して炎上を始めてしまう。
那珂「うっ……、みんなが待っているのに、もう動けないの?」
自身も艤装も満身創痍となった那珂は、だんだんと身動きがとれなくなってしまう。
五月雨「このままじゃ、那珂さんが……」
完全に弾薬を撃ち尽くしてしまった五月雨は、那珂の救出に向かおうとするがヲ級の艦載機の一部が五月雨を妨害してきて進むことが出来なくなってしまう。
その時、那珂を攻撃する艦載機に向かって一筋の光が照らされる。
五月雨「この光は、探照灯?」
ヲ級フラッグシップ「カンムスカ!?」
暗闇の中で突然探照灯の照らされた艦載機たちは、目をくらまされる形となって一瞬ではあったが動きが止まる。
ドガッ ズガァン
その一瞬の隙を突いて、何者かが艦載機数機を叩き落として那珂の前に飛び込んで来た。
那珂「えっ? あ、あぁ……」
那珂の前に飛び込んできた者の顔を見た瞬間、轟沈を覚悟していた那珂は思わず目に涙を浮かべる。
川内「変わり者だとは思うけど、これでも大事な妹だからね、やらせはしないよ!」
那珂の前に飛び込んできた川内は、素手や蹴りで動きが止まっていた艦載機を叩き落としながらも、身動きがとれなくなっていた那珂の救出するために、瞬時に那珂の左腕を肩で支えながら曳航を始める。
ヲ級フラッグシップ「ケイジュン、ニガサンゾ……」
ヲ級は混乱し動きが止まっていた艦載機たちに、川内と那珂への攻撃を行うように再度指示を出す。
シュバッ ズガァン
ヲ級の命令を受けた艦載機たちが、川内と那珂に攻撃を仕掛けようとしたその時、探照灯を照射していた艦娘が、川内たちと艦載機の間に飛び込みながら腰の軍刀を抜刀して艦載機を切り伏せる。
神通「次に日向さんからお借りしたこの刀の錆となりたいのは誰ですか?」
神通は引き抜いた軍刀を構えながら、ヲ級の艦載機を威圧する。
五月雨「川内さん! 神通さん!!」
川内「まぁ、私たちも弾切れだけどさぁ、神通を怒らせると怖いよー」
神通「あれがフラッグシップ化したヲ級ですか……、那珂ちゃんがお世話になったみたいですね……」
丁寧な言葉遣いとは裏腹に、神通は鋭い眼光でヲ級を見据える。
ヲ級フラッグシップ「タマギレノ カンムスナド、モノノカズデハナイ!」
神通「この日向さんの特別な大業物『瑞雲』の切れ味と、日本のサムライの恐ろしさを貴女の体に刻み込んであげましょう……」
体勢を低く構えた神通は、両手で持った刀の切っ先を向けてヲ級に向かって真っ直ぐに駆け出す。
ヲ級フラッグシップ「コシャクナ……、キサマカラ、タタキツブス!!」
ヲ級は発艦済みの全艦載機に対して神通を攻撃するように命じ、数十機の艦載機が一斉に神通に向かってきて次々と攻撃を仕掛けて行く。
神通は迫り来る艦載機を刀で切り払いながらも、左足に装備している探照灯をヲ級の顔に向けて照射する。
ヲ級フラッグシップ「ウッ、ナニヲ……」
ヲ級は突然顔に照射された探照灯の光に、軽く目をくらまされながらも神通を睨み付ける。
神通「ふっ、かかりましたね……」
川内「援軍は私たちだけじゃ無いのさ!」
ドォォォン ドォォォン
神通と正対していたヲ級の側方から、突然砲撃が行われる。
ヲ級フラッグシップ「ナ、ナンダト……」
ヲ級は砲弾が飛んできた方向に顔を向けると、小柄な艦娘が真っ直ぐに向かってきていることに気がつく。
暁「ここで敵を倒して、司令官やみんなを守るんだから! やぁー!!」
ル級との戦闘で負傷した足の痛みに耐えながら、暁が必死な形相でヲ級に突撃を仕掛けてきていたのであった。
ヲ級フラッグシップ「クチクカンガ、マダイタノカ!」
ヲ級は暁に魚雷の残弾があることに気がつくと、艦載機たちに暁を撃破するように命令を出す。
しかし、ヲ級の艦載機は1機も暁に向かって行くことは無かった。
ヲ級フラッグシップ「ナニヲ……シテイル!」
ヲ級は艦載機たちがいるはずの方向に視線を移すと、鋭い刀裁きを見せる神通、舞うような体術を見せる川内、手当たり次第に撃墜された艦載機の残骸を投げつけて応戦している五月雨、この3人の艦娘たちの抵抗を受けていて、ヲ級の艦載機たちは暁の撃退に向かうことが出来ない状態であった。
ヲ級フラッグシップ「ナ……、バカナ……」
弾薬が切れて戦闘を継続できなくなっているはずの艦娘たちが、精鋭であるはずの艦載機たちを足止めしているという考えられない状況に、ヲ級は混乱状態に陥る。
暁「この距離なら、暁だって外さないんだから!!」
ヲ級フラッグシップ「コンナ、ガキニ……」
暁「お子様言うなぁ!!」
ヲ級の至近距離まで接近して来た暁は、魚雷と連装砲をヲ級に向けて一斉発射する。
ドゴォォォォン ドゴォォォォォォン
暁の攻撃はヲ級に直撃し、ヲ級は激しく爆発を繰り返して体全身が巨大な炎に包まれていく。
ヲ級フラッグシップ「……ワタシモ、シズムノカ……」
自身が力尽き沈んで行く状況を理解しながら、ヲ級は周りを見渡していた。
自分にとどめの一撃を加えた暁と、自分に大打撃を加えた五月雨は抱き合いながら互いの無事を喜んでいる。
突如現れて、自分の艦載機を次々と切り落としていった神通と、同じく徒手空拳で艦載機を落としていった川内は、自分が倒された事で行動不能となり海面に墜落した艦載機たちを神妙な表情で眺めている。
そして、自分の仲間であるヲ級エリートを自分の目の前で沈めた憎き軽巡である那珂は、悲しげな表情で沈んで行く自分を見つめている。
那珂「さようなら……、今度生まれ変わったら友達に……、一緒にアイドルになれたらいいな……」
友の敵であるはずの那珂に看取られながら、友の力を受け継ぎフラッグシップにまで進化したヲ級は力尽き、ゆっくりと暗い海に沈んで行った。
お待たせしました、新年号の『令和』初の投稿となります!
令和元年と省略表記で書くと『R1』となり、明治乳業の某ヨーグルトや、スパロボの某リュウセイの愛機を思い出す今日この頃ですが……
『明治』と『リュウセイ』……
美鈴のテーマ曲の一つでもある『明治十七年の上海アリス』と、この物語での美鈴の鎮守府である『龍星鎮守府』につながってくるぞ!!
……などと自分に都合の良い連想を繰り返す今日この頃なのです(笑)