深海棲艦による龍星鎮守府による空襲から始まった鎮守府防衛戦。
たまたま訪問していた、日本海軍のトップ提督の一人でもある紅月鎮守府の紅月麗美との共同戦線で何とか敵機動部隊を撃破して窮地を脱したと思った矢先に、主力が出向いていた北方面とは異なる南西方面から突如出現した敵機動部隊の出現に、雪風と榛名の二人だけで対応しなければならない状況に追い込まれていた。
何故か無線機が不通となってしまっているため、榛名が決死の覚悟で敵を食い止めている間に、機動力のある雪風が単艦で龍星鎮守府に向かい無線機が何とか通じるところまで行ったところで、龍星鎮守府の提督である美鈴に援軍要請を求めた。
援軍要請を聞き入れた美鈴は、鎮守府で艤装の修理を終えたばかりの金剛と、北方面に出撃していた艦娘の中で燃料や弾薬の消耗が少なかった夕張の二名に榛名たちの援軍を依頼していた。
しかし、無線や電探が謎の不調で榛名たちが深海棲艦と戦っている詳細な海域が判明せずに困惑していたが、金剛の零式水上偵察機が遠目ではあるが榛名や雪風が戦う戦闘海域を発見し、金剛と夕張は援軍のため急行するのであった……
ドォォォン ドォォォン ドォォォン
軽巡へ級1体と駆逐ロ級2体が、雪風に向かって一斉砲撃をしかけ、複数の砲弾が雪風目掛けて飛んでくる。
雪風「沈むわけにはいきませんっ!!」
雪風は巧みに深海棲艦たちの攻撃を回避しながら、ヘ級に向けて主砲の照準を合わせようとする。
ズダダダダ ズダダダダ
しかし、その雪風に向かってヲ級から発艦していた深海棲艦の艦載機が機銃を斉射してくる。
雪風「くっ、空母も何とかしなきゃいけませんね……」
とっさに敵艦載機からの攻撃を回避する雪風であったが、敵水雷部隊と敵艦載機からの攻撃により反撃の機会を奪われていた。
榛名「は、早く重巡を倒して雪風さんを援護しなければ!!」
重巡リ級と対峙していた榛名も、リ級からの砲撃とヲ級エリートの艦載機からの攻撃にも晒されており、リ級に反撃することが出来ない状態であった。
雪風「思ったよりも、敵空母の対応が早いです……」
榛名「こ、このままでは……」
何とか敵の攻撃を回避している榛名と雪風ではあったが、数的な不利と制空権を喪失している状況でじりじりと追い詰められていた。
金剛「榛名たちが心配デス、まだ戦闘海域には到着しませんカ?」
妖精さん『テキノ カンサイキガ オオクテ コノママジャ チカヅケナイヨ!』
金剛の問いかけに対して、零式水上偵察機を操縦する妖精さんから、制空権を喪失している状況では偵察に向かえないという回答が返ってくる。
金剛「うーん、この距離ではまだ支援砲撃も出来なさそうですシ、ワタシの速度では戦闘海域に着くまでまだ時間がかかりマース……」
金剛の位置からでは、まだ戦闘海域を目視することは出来ず、零式水上偵察機も接近できない状況では、仮に主砲の砲弾が届いたとしても、誤って友軍を攻撃してしまう危険性もあった。
このように、むやみやたらに支援砲撃を仕掛けることも出来ないことから、金剛は頭を悩ませていた。
麗美「零水偵は偵察能力には優れているけど、戦闘能力は無いに等しい機体だから、ヲ級2体分の艦載機が飛び交う戦場にまともに突入することが出来なさそうね」
大淀「金剛さんも困っているようです、ここはなにか指示を送った方が良いかと……」
美鈴「武器も無く敵の大軍に突入……、そんなの妖精さん達に死にに行けというようなものだよ……」
咲樂「私ほどではないですが、鳳翔隊の妖精さんの練度は高いですから何か策があれば偵察は可能なはずですわ」
咲樂の言葉に、美鈴はふと麗美に視線を向ける。
麗美「なにかアドバイスを求めているような顔ね、メーリンには何か考えは無いのかしら?」
美鈴「うっ……、一体どうすれば良いか指示を頂けないかと……」
麗美「ここの提督はメーリンだと言ったはずよ、何でもかんでも私が口出しするわけにはいかないわ」
麗美には何か策がありそうではあったが、あえて口には出さず美鈴に一任するといった表情で美鈴から離れて行き、提督室の窓から戦闘が行われている南西方向を眺め始める。
咲樂「お嬢様は無能な者には大事を任せたりはしないわ、貴女ならきっと出来るはずだと信じているからこそ、この場は口を出さずに見守ろうとしているのですわ」
戸惑う美鈴の肩に手を当てて、咲樂は優しげな表情で美鈴に小声で声をかける。
美鈴「私を見守ってくれている?」
咲樂「貴女はお嬢様に馴れ馴れしいし、いつの間にかお嬢様に気に入られていて少し気に入らないですが、お嬢様の人を見る目に間違いは無いですから、私も貴女のことを信じてみようと思うわ」
美鈴「咲樂さん……」
咲樂「私も貴女のことは何だか他人とは思えないですし、昔からの友人の様な感じすらするくらいですわ」
美鈴「えっ……?」
咲樂「貴女は不思議な人ね、艦娘の艤装を扱えたりすることもそうですが、お嬢様ほどではありませんが人を惹き付ける魅力があるのかもしれませんわ」
美鈴「あ、ありがとうございます……」
咲樂「私やお嬢様もいるのだから、貴女は自分が思うように戦えば良いと思うわ……」
そう美鈴に小声で語りかけると、咲樂は麗美のいる窓際に歩いて行く。
美鈴「私の思うように戦うか……」
あかぎ「紅提督、まもなく夕張も金剛に近づきますが、このまま合流させますか?」
提督室のモニターを見ていたあかぎが、美鈴に南西海域に向かっている金剛と夕張が近づいてきている事を報告する。
美鈴「遠くにいた夕張が金剛に追いついてきたと言うことは、夕張の方が金剛よりも移動速度が速いということか……」
明石「金剛さんの巡航速度は約30ノットに対して、夕張の巡航速度は約35ノットですから夕張の方が足は速いですね」
夕張の話を聞いた美鈴は、何かを思いついたようにモニターに視線を向ける。
美鈴「金剛の飛行機を突入させるのに真正面からじゃダメだったら、フェイントを入れて敵の注意をよそに向けてみたらどうだろう」
大淀「陽動をかけると言うことですか?」
美鈴「夕張には敵の北側に回り込んでもらって、金剛の飛行機には東側から突入してもらえば敵の裏をかけるのではないかな」
明石「良いですね、夕張には暴れてもらって敵の注意を引き付けてもらいましょう!」
咲樂「紅提督は、せっかく揃いつつある戦力を分断するつもりでしょうか?」
麗美「でも、陽動自体は悪くは無いと思うわよ」
咲樂「お嬢様も同じ作戦をお立てになりますか?」
咲樂は、給湯室から運んできた麗美のティーセットを机に並べお茶の準備を始める。
麗美「あら、紅茶は切れていたはずだけど、貴女もウーロン茶をもらってきたのかしら?」
咲樂「ウーロン茶ですか?」
咲樂は麗美に笑みを見せながらティーカップにお茶を注ぐと、その香りに麗美は驚きの表情を見せる。
麗美「このベルガモットの香りは、アールグレイかしら?」
咲樂「出撃の際に、以前お嬢様にお褒めいただいたオリジナルブレンドをお持ちしました」
麗美「ちょうど、持ってきた茶葉が切れていたから助かったわ」
麗美と咲樂は、提督室の片隅で休憩を始めて、以降の艦隊指揮はこの龍星鎮守府の提督である美鈴と艦娘たちに一任する構えであった。
夕張「えっ、金剛さんと合流せずに別行動をとるんですか?」
美鈴「金剛の飛行機が敵艦隊に突入出来るように、夕張は敵の注意を引いて欲しいんだよね」
夕張「金剛さんの飛行機?」
明石「あぁ、提督の説明だけじゃわかりづらいよね……」
大淀「再出撃した金剛さんは、零式水上偵察機を搭載していますが、その零式水上偵察機で敵艦隊や雪風と榛名さんの状況を把握したいのです」
夕張「なるほどぉ、こちらで把握している状況だと、金剛さんも主砲の射程ギリギリのところくらいまで来ているみたいだし、場合によっては援護射撃も可能だもんね!」
大淀「はい、しかし敵には空母ヲ級が2体いるようで、制空権は完全に奪われていますし、金剛さんの零式水上偵察機3機を突入させる事が出来ないのです!」
夕張「敵の注意を引いて、あわよくば敵の艦載機をこっちに引き付けちゃえば零水偵が突入出来て、敵の情報は丸裸に出来ちゃうという訳ね!」
美鈴の指示を大淀が的確に夕張に伝え、夕張の理解力の高さで美鈴が考えていた以上の作戦へと昇華させていく。
美鈴「えっ……、なんか私が考えていた事より凄そうな事になっているけど、どういうことなの?」
あかぎ「金剛さんの現在地は、金剛さんが装備している35.6cm連装砲の射程を考えると、ちょうど榛名さんたちが深海棲艦と戦っている地点に届くか届かないかと言うくらいの距離なのです」
美鈴「おぉ! そんな絶好の位置だったんですね!!」
あかぎ「金剛さんが搭載している零式水上偵察機は、敵部隊を偵察する以外にも艦娘と連携をとることで、艦娘の肉眼では見ることが出来ない距離を詳しく見ることが出来るので、遠距離攻撃の時に艦娘の目の代わりとなって砲撃のずれを確認して、次の砲撃に向けて修正を促すことが出来るのです」
美鈴「よく見えない敵へ攻撃したときに、攻撃が外れても妖精さんが『もう少し前』とか『もう少し右』とか教えてくれるってこと?」
あかぎ「そういうことですね」
美鈴「すごい、それなら戦闘地点に到着する前でも、上手くいけば敵を攻撃することが出来るって事なんですね!!」
あかぎ「そうです、このような偵察機の弾着観測の支援を受けながらの砲撃を、『弾着観測射撃』と言い、紅月提督もよくお使いになる作戦ですね」
美鈴「知らなかったですが、艦娘と妖精さんの連係攻撃みたいで凄そうですね! 勉強になりました!!」
美鈴は解説をしてくれたあかぎに対して、深々とお辞儀をしながらお礼の言葉をかける。
咲樂「わかっていて弾着観測射撃を狙っているのかと思いましたが、ただの偶然の様ですね……」
麗美「メーリン自身は、もっとシンプルに金剛を戦闘海域に突入させるために、夕張に別方向から陽動させようとしたのでしょうけど、金剛ははじめからこれを狙っていたでしょうし、大淀や夕張も美鈴の指示がこれを狙ってのものと勘違いしたのかもしれないわね」
咲樂「紅提督は、人徳はあるみたいですが司令官としては素人の様に見えますけど、私たちが指示を出さずに大丈夫でしょうか?」
艦隊指揮についてはまだまだ素人である美鈴の姿を見て、不安に感じた咲樂とは対照的に、麗美は冷静でありながらもどこか嬉しそうに美鈴たちのやりとりを眺めている。
麗美「咲樂、提督みたいに、人の上に立つ者にとって本当に必要なものは何だかわかるかしら?」
咲樂「的確な状況判断や、優れた統率力でしょうか?」
麗美「たしかに、部隊を指揮するものとしてはその能力は必要だけど、貴女のように優れた参謀がいたらカバーできると思うわ」
咲樂「それでは、人を惹き付けることが出来るようなカリスマ性でしょうか?」
麗美「そうね、たしかに人を惹き付ける様な人物には優秀な人材が集まってくるでしょうし、そんな能力があればその組織をより強大なものにすることが出来るかもしれないわね……」
麗美はそう言うと、一息入れるようにティーカップを手に取り、咲樂が淹れた紅茶を一口飲み、ティーカップをゆっくりとソーサーに戻しながら再び口を開く。
麗美「私が思うには、自分が偉いとふんぞり返って威張ったりせずに、常に思いやりを持って人と接する事が出来ると言うことが、人の上に立つ者が持つべき能力だと考えているわ」
咲樂「そ、そのようなシンプルなものなのでしょうか?」
麗美「確かに、その上で咲樂が言ったような状況判断が出来たり、統率力があったり、カリスマ性があったりすれば良いでしょうけど、人の根底は意外とシンプルなものだと思うわよ」
咲樂「なるほど才能よりも、人に好かれるような者の方が良いと言うことですね……」
麗美「私もそうだけど、貴女だって嫌いな上官に指示されるよりも、好きな上官に指示された方が頑張ろうと思うでしょ?」
咲樂「はい、それは間違いないですね」
麗美「それに、状況判断が抜群で、類い希な統率力があって、カリスマ性が抜群な完璧な人物なんてそうそういないわよね、その上誰からも好かれるような人なんかいるなら私も会ってみたいわ」
麗美は、そう言うと悪戯っぽく笑みを見せる。
咲樂「そ、そうですわね……(私にとってお嬢様は、まさにその完璧な人物ですけどね)」
美鈴の指示を受けた夕張は、大淀が指定したポイントに到着し、指示通りに敵の注意を引くように攻撃を開始し始める。
ドォォォン ドォォォン
夕張「お待たせぇ、夕張さんが着たからにはもう大丈夫なんだからね!!」
夕張は、防戦一方であった榛名や雪風に呼びかけながら、あえて目立つように派手に艦砲射撃を繰り返す。
榛名「夕張? 鎮守府からの援軍が着てくれたんですね!!」
雪風「榛名さんと同じように新たに着任した艦娘さんみたいです、夕張さんが着てくれたと言うことは、他の援軍ももうすぐ来てくれるはずです!!」
敵の注意を引くために行った、派手な艦砲射撃や大声での呼びかけは、深海棲艦の注意を引き付けるのと同時に、深海棲艦の激しい攻勢を受けていた榛名と雪風の心に希望をもたらした。
ヲ級エリート「カンムスノ エングンカ、 オマエハ アノケイジュンヲ タタキオトセ!」
ヲ級エリートの指示を受けたヲ級は、単艦で夕張がいる北方面に移動を開始し、ヲ級が発艦していた艦載機たちも全機夕張の方向に向かっていった。
雪風「夕張さんがヲ級を引き付けてくれたおかげで、敵の艦載機が半減しましたね」
榛名「はい、これならもう一度三式弾を撃つことが出来そうです!」
今まで敵水雷部隊の相手をしながら、執拗に繰り返される敵艦載機の攻撃のため榛名は三式弾による対空射撃を行うことが出来なかったが、敵艦載機が半減した事によって出来た一瞬の隙を突いて、榛名は三式弾を主砲に再装填する。
榛名「金剛お姉様、もう一度榛名に力を!!」
-榛名、準備はOK? 榛名の実力見せてあげるネー!!-
榛名「はいっ! 榛名! 全力で参ります!!」
ドォォォォォン ドォォォォォン
ヲ級エリート「クッ、 マタアノ サクレツダンカ!!」
2度に亘って艦載機に大打撃を与えた三式弾の砲撃を察知したヲ級エリートは、被害を減少させるために素早く自身の艦載機を散開させる。
榛名「逃がしはしません!!」
ドォォォォォン ドォォォォォン
散開する敵艦載機に向けて榛名は、連続で三式弾を撃ち続ける。
ヲ級エリート「シニゾコナイガ…… ヤムヲエン オマエタチハ イッタン サガレ!!」
三式弾を警戒しているヲ級エリートは、艦載機たちを一度南方向に待避させ、水雷部隊に榛名への集中攻撃を命じた。
先月、うちの近所で行われていた街の夏祭り海上で行われていたカラオケ大会で見知らぬ誰かが熱唱していたとある昭和の名曲を聞いて、何故かこの『華人小娘と愉快な艦娘たち』のネタに出来そうだと思いながらも、謎の多忙でなかなか執筆(筆では無くキーボードで書いてますがw)が進まなくてご迷惑おかけしています。