海岸で倒れた美鈴を、深雪が鎮守府(仮)まで背負って帰ると妖精さん達がすぐに集まって来た。
深雪「くっそー、深雪さまがいながらこんなことに……」
妖精さんが用意してくれた布団に、深雪が美鈴を静かに寝かせる。
深雪「深海棲艦をやっつけたら、急に美鈴が倒れたんだ」
深雪「目立った怪我はしてないみたいだけど、返事もしてくれないんだ」
深雪が言うように、美鈴は多少の擦り傷等はあるが大きな負傷などは無かったが、意識を完全に失っていた。
深雪「息はあるみたいだし、良くなるよな?」
深雪は特に医療知識があるわけでもなく、何故美鈴が倒れて意識を失っているのかもわからず、突然のことで混乱している様子であった。
白衣を着た妖精さんが、心配そうに美鈴の様子を窺っている。
この妖精さんは、これまでも戦闘で負傷した深雪を治療してくれたりしており、多少の医術の知識があるようなので深雪は美鈴の様子を尋ねた。
深雪「美鈴は大丈夫なのか?死んじゃったりしないよな?」
青ざめた顔をしながら白衣の妖精さんを覗き込む深雪の言葉を理解している様子で、白衣の妖精さんが美鈴の呼吸や脈を確認し終わると身振り手振りで説明を始めた。
深雪「……つまり、美鈴は日頃の働きすぎや、戦闘で無理をしすぎて疲労がピークに達していたんだな」
美鈴は毎日一人で木こり作業や運搬作業をしたり、みんなのために朝から夜遅くまで3食分の食事を用意したりなどしており、艦娘的に言うと赤疲労状態が続いていたにもかかわらず、深海棲艦との戦闘で苦戦している深雪のために自ら囮を買って出るなどの無理が続いていたのだ。
深雪が深海棲艦を仕留めた時に、美鈴の精神的な緊張の糸が切れ、溜まっていた疲労が一気に出てしまい気を失ってしまったという訳であった。
深雪「とにかく、しばらく安静にしていれば美鈴は元気になるんだよな?」
深雪が白衣の妖精さんに尋ねると、白衣の妖精さんは大きく頷いてくれた。
深雪「美鈴の負担を減らすのにもっと頑張らなきゃなー」
深雪がそう呟くと、白衣の妖精さんが大きく身振り手振りで語りかけてくる。
深雪「一人で頑張りすぎるなって?」
深雪「……そうか、あまり頑張りすぎると美鈴と同じくなっちゃうってことだね」
白衣の妖精さんは、深雪が責任を感じて無茶をしないように釘を刺してくれたようだった。
~翌日の朝~
美鈴が目を覚ますと、深雪や妖精さんが覗き込んでいる顔が見えた。
深雪「おっ、やっと目を覚ましたな」
美鈴「どうしたの、みんな?」
美鈴は身体を起こそうとすると、頭に少し痛みを感じた。
美鈴「痛っ」
美鈴が頭を押さえると、深雪が笑顔で語りかけて来る。
深雪「美鈴は疲れすぎて昨日からずっと寝てたんだ、もう少し休んでな」
美鈴「そういえば、海岸で深海棲艦を倒したところまでは覚えているけど……」
深雪「そこで疲れすぎて倒れちゃったんだ」
美鈴「そうか、かっこ悪いなぁ」
美鈴が恥ずかしそうに頭を掻くと、妖精さん達が料理を運んできた。
深雪「美鈴が起きたら食べてもらおうとみんなで作ったんだ」
美鈴は妖精さん達が運んできてくれたスープを見ると、お腹が鳴った事に気がついた。
美鈴「ありがとう、いただきます」
こんなに食事が美味しく感じたのは久しぶりな気がする
美鈴が食事を終えると、深雪が美鈴に対して美鈴が倒れた理由について話をしてきた。
深雪「美鈴が倒れた原因は働きすぎなんだ」
美鈴「そんな無理をしていたとは……」
美鈴が否定しようとした時、この世界に来てから自分の能力が低下していた事を思い出す。
美鈴「(そうか、今の私は幻想郷にいたときと違ってただの人間だったんだ)」
妖怪として人間とは比較にならないくらいの体力の持ち主であった頃と違い、今の自分は幻想郷に行く前と同じ普通の人間なのだと美鈴は自覚した。
美鈴「いや、みんなが頑張ってくれているのを見て、自分も頑張らなきゃって無茶しちゃってたかな?」
深雪「そうだぞ、美鈴は艦娘じゃないし、いくら運動神経が良くて、力持ちで、スタイルが良くて、料理が上手でもただの人間なんだから無茶はだめだ」
美鈴「そうだね、もう無茶はしないよ(すごく褒められてた気がするけど)」
深雪「ここまで運んでくるのも大変だったし、もう倒れるのは勘弁な~」
美鈴「でも、そうなるともう少し人手が欲しいなぁ」
深雪「確かに、深海棲艦ももっと本格的に来たら、いくら深雪さまでも厳しいなぁ~」
今の修繕中の鎮守府は、提督の美鈴のほか、艦娘は深雪のみと10数名の妖精さんがいるのみで、鎮守府を再建するにも、深海棲艦と戦うにも人手が圧倒的に足りていなかった。
『人手不足を解決したい』
そう考えた美鈴は、深雪と共に島内を確認してまわると、数件の朽ち果てた民家らしき建物を見つけた。
しかし、人が住んでいる様子は無く、せいぜい数匹の野良猫を見つけるのみであった。
深雪の話によると、この島は確かに過去に鎮守府があった様ではあるが、深海棲艦との戦いで破壊されており鎮守府としての機能を果たせていない状態であった。
深海棲艦の活動が始まってから、艦娘が深海棲艦を撃退しきれている地域以外では制海権を深海棲艦に奪われているため、人間が海の近くで生活出来ない状態であるとのことであった。
ましてや、この島のように本土から隣接していない島だと、制海権や制空権が深海棲艦に奪われてしまうと本土からの補給を受けることも出来ないため、鎮守府が壊滅する前後にこの島で暮らしていた人たちも日本本土に避難したのでは無いかということであった。
美鈴「せめて、農家のおじいちゃんやおばあちゃんが残っていてくれれば、美味しい野菜をわけてもらえると思っていたんだけどなぁ~」
深雪「どうしておじいちゃん、おばあちゃん限定なの?」
美鈴「何となく、気前よく色々なものをくれそうなイメージがあったから……」
深雪「ずいぶん偏ったイメージだね」
美鈴「そういえば、深雪はどうしてこの島にいたの?」
深雪「こっちもどうして美鈴がこの島にいたのかが気になるところだけど……」
美鈴「私は、気がついたらこの島にいたという事しか自分でもわからないけど……」
深雪「そういえば何かの事故で急にここに来ていたって言ってたね」
美鈴「(さすがに気がついたら違う世界に来てたと言っても、訳がわからないよね……)」
深雪「私は、まだ鎮守府に配属が決まっていない状態だったんだけど、海に出てたらこの島を見つけて、休憩しようと思って立ち寄ろうとしたら深海棲艦に出くわして、その時に美鈴にも出会ったという訳さ」
美鈴「たった一人で海に出てたの?」
深雪「せっかく艦娘として生まれてきたんだ、みんなを守るために深海棲艦をさっさとやっつけたいだろ~」
美鈴「勇敢というか、無謀というか……」
深雪「生身の人間なのに深海棲艦と戦うあんたが言うなよ」
美鈴「ははは……、それもそうね」
美鈴と深雪は談笑しながら鎮守府(仮)に戻ることにした。
まだ日が暮れる前に美鈴達が鎮守府(仮)へ到着すると、数名の妖精さん達が美鈴達に駆け寄って来た。
美鈴「なに?ちょっと来てって言ってるみたいだけど」
深雪「何か見つけたか、作ったのかな?」
妖精さん達は「はやく、はやく」と言わんばかりに以前鎮守府があった跡地へと駆け出して行く。
深雪「とにかく言ってみようぜー」
深雪が妖精さんたちを追いかけて行くので美鈴も後を追って行った。
妖精さんたちを追って、以前鎮守府があった跡地に到着すると、妖精さん達が懸命に瓦礫の撤去を行った。
深雪が妖精さん達を手伝い瓦礫を撤去しながら妖精さん達と共に瓦礫の奥に進んでいく。
瓦礫の隙間は狭く、小柄な深雪は入っていくことが出来たが、美鈴は入ることが出来ずに残っていた数名の妖精さんと懸命に瓦礫を避ける作業を進めていた。
深雪が妖精さんと瓦礫の山の奥に入って行くと、物置を少し大きくしたようなレンガ造りの工場のような小さな建物が見えてきた。
深雪「まさか、これって!?」
深雪が思わず声を上げると、瓦礫の外から美鈴が
美鈴「どうしたの、何があるの~?」
と声をかけてくる。
深雪「美鈴、大発見だ!早く来てよ!!」
美鈴「狭くて入っていけないよ~」
深雪「あぁ、そうか美鈴は色々大きいからねぇ……」
美鈴「ふ、太ってなんか無いよ!」
深雪「この前、美鈴をおぶった時に大きくて柔らかいモノが……」
美鈴「な、何を言っているのっ!!」
深雪「良いじゃん、女同士だしさ」
美鈴「まぁ、それはいいとして狭くて中に入れないから、深雪も瓦礫を除けるの手伝って~」
深雪「はーい」
深雪は一旦瓦礫の外へ出て、美鈴や妖精さんと一緒に瓦礫を撤去するとしていった。
日が落ちかけたころ、ようやく美鈴は深雪が見たレンガ造りの建物の前にたどり着いた。
美鈴「なんだろう、この建物だけ無事だったみたいだけど」
深雪「これは、おそらく工廠だね」
美鈴「こしょう?調味料の貯蔵庫?」
深雪「工廠だよ、こ・う・しょ・う!」
美鈴「こうしょう?」
深雪「必要な資材を妖精さんに渡すと妖精さんが艦娘を生み出してくれるんだ!」
美鈴「えぇ!艦娘って妖精さんが作ってるの!?」
深雪「妖精さんが作ってるのか、どっかから連れてくるのか、魔法で召喚しているのか詳しくはわからないけどとにかくこれで仲間が増やせるんだよ!!」
美鈴「す、すごいね!! (よくパチュリー様が魔法陣でなんか変なものを召喚していたし、そんな感じなのかなぁ……)」
美鈴「それにしても、ほかの建物はほとんど壊されているのに、これだけよく無事だったねぇ」
深雪「すっごいラッキーだったな!」
美鈴が工廠の中を確認しようとすると、急に工廠の扉が光りだした。
美鈴「うわっ、なに?」
深雪「まさか、建造されていた艦娘が取り残されていたのか?」
美鈴「そうなの?」
深雪「この感じ、多分そうだと思うよ!」
美鈴「でもどうして急に?」
深雪「建造された艦娘は、工廠に提督が迎えに来て初めて目を覚ますんだ!きっと美鈴が扉の前に来たからようやく目をさますことが出来たんだ」
工廠の扉が光がおさまると、工廠の内側から扉が開き中から栗色のショートヘアの少女が出て来た。
少女は美鈴に気がつくと、元気よく敬礼をして
少女「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!」
と大きな声で挨拶してきたので、美鈴もすかさず返事をする。
美鈴「はじめまして、雪風ちゃんね。私は紅美鈴、一応ここの今の提督だよ」
雪風「どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」
『雪風』と名乗る、とても元気で明るい艦娘が美鈴の眼の前に現れたのであった。
美鈴の鎮守府(名前はまだない)にもそろそろ仲間が必要な時期だと思いました。
まだ、鎮守府言っても美鈴達が寝泊まりする小屋があるくらいで、鎮守府は再建中なので表記は『鎮守府(仮)』です。
呼び方としては、『チンジュフカッコカリ』です。
そろそろ真面目に文章の勉強をしようかと考える今日このごろです。
プロローグ編の動画作成にあたって、作品全体の文章構成を少し見直して一新しました。