華人小娘と愉快な艦娘たち   作:マッコ

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第49話 かもめが翔んだ

夕張「~っ。やっぱ、ちょっといろいろ積みすぎたのかなぁ……」

 

 敵部隊と交戦中の榛名と雪風からヲ級を引き離すため、単艦で陽動を行っていた夕張であったが、ヲ級の艦載機による波状攻撃による損傷が積み重なってしまい、中破状態となってしまっていた。

 

夕張「でも、私が時間を稼いでいれば金剛さんの零式水上偵察機も突入出来るだろうし、北方面に行っていた天龍さんたちも援軍に駆けつけてくれるはずよね……」

 

 口元の出血を右手で拭いながらヲ級を見据える夕張の目は、悲壮さを感じさせるものは微塵も無かった。

 

夕張「この鎮守府じゃ私は新参者だし、鎮守府で会った明石や輸送艦で会った鳳翔さんと白雪以外の艦娘とは面識も無いけど、この3人や提督を見ているとここの仲間は信用できるって気持ちになっちゃうんだよねぇ」

 

 夕張は味方の援軍を信じながら、少しでもみんなの為になるようにと自身を奮い立たせ、ヲ級と対峙していたが、突然ヲ級が北西方面の上空に目を向けて動揺を見せ始める。

 

夕張「ん、ヲ級が何かを気にし始めている?」

 

 ヲ級の動揺を悟った夕張は、ヲ級が気にしている北西方面の上空に目を向けると、航空機の機影とも海鳥の群れともとれる影がうっすらと見えてきた。

 

夕張「(鳳翔さんの艦載機? いや、それにしては数が多すぎるし、提督からも町井田中尉からも特に連絡は来ていない……、ただの海鳥の可能性も……)」

 

 夕張は、上空の影が海鳥の群れの可能性が高いと判断していたが、ヲ級が動揺している様子を見ながら一つの策を思いついた。

 

夕張「どーぉ、ようやく本隊が到着したみたいよぉ! 無敵の一航戦の艦載機100機が貴女や仲間たちを一気にやっつけちゃうんだからっ!!」

 

 夕張は動揺しているヲ級にたたみかける様に、自信満々に宣言したのであった。

 

夕張「(あの影は多分海鳥のものだろうけど、相手が動揺している今なら信じ込ませることも出来ちゃうかも)」

 

 

 

 

ヲ級エリート「アラワレタ ゾウエンハ、アノ イッコウセンダト!?」

 

 夕張の口車に乗せられたヲ級からの報告を受けた、ヲ級エリートは体中から汗を吹き出しながら動揺し始める。

 

ヲ級エリート「アノ テイサツキヲ ウチオトスコトハ タヤスイガ、ゾウエンガ イッコウセン ダトイウノデアレバ、スグニデモ オウセンシナケレバ ゼンメツシテシマウ……」

 

 明らかに冷静さを欠き始めたヲ級エリートは、自身の艦載機全機に対して北西方面から近づいてくるという一航戦の艦載機を迎撃する様に命令を始める。

 

 

榛名「どういうことでしょう、深海棲艦の艦載機が北西方面に向かっていきます」

 

雪風「夕張さんが引き付けてくれたヲ級の艦載機も、北西方面に向かっているみたいです!」

 

 深海棲艦の水雷部隊と交戦しながらも、榛名と雪風は深海棲艦の艦載機の動きが異常であることに気がつき始めた。

 

夕張「榛名さん、雪風、こちら夕張よ聞こえるかしら?」

 

 その時、夕張からの無線が2人に入ってきた。

 

雪風「雪風です、夕張さんの声はしっかり聞こえています!」

 

榛名「はい、榛名も聞こえています!」

 

夕張「今、北西方面から海鳥の群れみたいなものが近づいてきたから、一航戦が助けに来たって言ってみたら、まんまと騙されてくれたみたいなの」

 

雪風「深海棲艦に嘘をついたんですか?」

 

夕張「最初から向こうが動揺してくれていたから、少しだけ大口を叩いてみたら本気にしちゃったんだけどね」

 

榛名「き、機転を利かせて下さったのですね……」

 

 

ヲ級エリート「イッコウセン……、アノ アカギハ ニネンマエ、クウボセイキサマガ シトメタハズダガ……」

 

 ヲ級エリートは狼狽えながらも、空母棲鬼によって日本海軍の空母機動部隊が大敗を喫した2年前の海戦の事を口にしていた。

 

ヲ級エリート「ソウナルト、アノ カガカ!?」

 

 一航戦として、赤城と共に深海棲艦たちにもその武名を轟かせていた加賀が増援に現れたと判断したヲ級エリートは、血の気が引く感覚を抱きながらも打開策が無いか思案を巡らせるが、動揺している状況では思考が働かない自身に怒りすら感じていた。

 

ヲ級エリート「クソッ! デキタテノ ジャクショウ チンジュフヲ ツブスダケノ、サクセン ダッタハズナノニ!!」

 

 夕張が思いつきで言った、一航戦が増援に来たと言う偽報は想像以上の効果を発揮し、深海棲艦艦隊を大混乱に陥れていた。

 

 

 

 

妖精さん『コンゴウ! テキノ カンサイキハ ナゼカ ミンナ イナクナッタヨ!!』

 

金剛「Why? でもこれはChanceデース! 一気に攻め込むネ!!」

 

 混乱したヲ級エリートは、全ての艦載機を夕張の偽報によって北方面に向けたため、護衛の艦載機すらなくなり、妖精さんたちの零式水上偵察機は一気にヲ級エリート率いる艦隊の上空に突入することが出来た。

 

妖精さん『コンゴウ! テキマデノキョリト、ハイチヲオクルヨ!!』

 

 偵察に成功した妖精さん達は、金剛から敵艦隊までの詳細な距離と、敵艦隊と榛名と雪風の位置などの詳細な情報を次々に送っていく。

 

金剛「Oh! これなら榛名たちを避けて敵に一斉砲撃が出来るネー!!」

 

 敵艦隊が、自分の36.5cm連装砲の射程圏内にあることを確認した金剛は、妖精さんたちと連携をとりながら主砲の照準を定める。

 

金剛「榛名、雪風、待たせてしまったネ……、今、助けに行くデース!!」

 

 

榛名「!! 金剛お姉様!?」

 

 声が聞こえた訳では無いが、榛名は直感的に金剛の気配を感じ取った。

 

雪風「上空に零式水上偵察機が見えます、きっと金剛さんが来てくれたんです!!」

 

 深海棲艦の水雷部隊を相手にしながら、雪風も金剛が来ている事を実感していた。

 

榛名「はい、これで形勢逆転出来ます!!」

 

 金剛の気配を感じ取り、榛名の士気は大きく上昇していたが、雪風には一抹の不安があった。

 

雪風「(まだ、深海棲艦の水雷戦隊がいますが、雪風の艤装の燃料がもう少しで無くなっちゃいます……)」

 

 戦闘機会が少なかったため、弾薬にはまだ余裕がある雪風ではあったが、天龍や深雪と共に長距離・長時間航行していたため艤装の燃料が底を尽きそうであった。

 

雪風「(金剛さんが来てくれれば、きっと深海棲艦を押し返すことが出来るのに、このままじゃ雪風がみんなの足を引っ張ることになっちゃいます……)」

 

 

 

 

金剛「あれが敵のBossデスネー! さぁ狙いはOKネ!!」

 

 金剛の2基4門の36.5cm連装砲は、ヲ級エリートに向けてその照準を合わせる。

 

金剛「全砲門!Fire!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 妖精さんたちが乗る零式水上偵察機からの観測情報により、目視よりも遙かに詳細な情報を得ていた金剛の正確な砲撃は、的確にヲ級エリートに向かって放物線を描いていた。

 

 

ヲ級エリート「!! コ、コノ ゴウオンハ、カンムスカラノ ホウゲキカ!?」

 

 金剛の36.5cm連装砲の砲撃音に気がついたヲ級エリートは、とっさに金剛が放った砲撃の方向に目を向ける。

 

ヲ級エリート「コレハ、センカンノ ホウゲキ!? マダ センカンノ カンムスガ イタノカ!!」

 

 混乱しているとはいえ、優秀な能力を持つヲ級エリートは予想だにしていなかった金剛の砲撃に対して瞬時に反応し、防御態勢をとる。

 

妖精さん『ダイイチゲキハ、テキニ フセガレタ ミタイダ!』

 

金剛「当たっているなら、たたみかけるデース!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 金剛は、砲撃を続けながら、速力を上げて戦闘海域に突入をかける。

 

ヲ級エリート「クッ! センカンガ クルノカ……」

 

 

榛名「金剛お姉様が来てくれました! 私たちも攻勢に出ましょう!!」

 

 金剛の接近を察知した榛名は、雪風に攻勢に出る様に声をかける。

 

雪風「は、はい!(燃料が無くなる前に、敵の水雷部隊を倒さないと……)」

 

 力強く返事をする雪風であったが、雪風の燃料は尽きる寸前であった。

 

 

 

 

夕張「ははは……、まさかこんなに敵が混乱してくれるとは……」

 

 思いつきで言ったデタラメによって、大混乱に陥ったヲ級見ている夕張は、中破状態であることから、慎重にヲ級との距離をとろうとしていた。

 

夕張「あの機影に見える影が、海鳥の群れだと気づかれないうちに、何とか次の手を打たないと……」

 

 夕張と対峙していたヲ級は、すっかり夕張のデタラメにより混乱しており、中破状態となった夕張のことを目にもとめていなかった。

 

夕張「……ん、もしかしてヲ級は私が目の前にいることを忘れちゃっている?」

 

 ジリジリと後退していた夕張であったが、自分に全く目をくれなくなったヲ級を見てとある考えが脳裏に浮かんだ。

 

夕張「(ダメージを受けているけど、まだ主砲も魚雷もあるわよね、今ならヲ級の艦載機もいないし攻撃できちゃうんじゃ?)」

 

 夕張は、ニヤリと口元に笑みを浮かべて主砲を構える。

 

 すると、夕張の気配に気がついたヲ級が思い出したかの様に夕張に目を向ける。

 

夕張「気づかれちゃった? でも反撃は出来ないわよね!!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 夕張は主砲をヲ級に放つと、ヲ級は慌てふためいた様子で回避行動をとるが、1発の砲撃が直撃する。

 

ヲ級「ヲヲォ!?」

 

 しかし、深海棲艦の中では耐久力のあるヲ級に対して、中破して火力が低下している夕張の砲撃1発では大したダメージを与えることは出来ず、ヲ級を小破させることも出来ないほど微々たるダメージを与えることしか出来なかった。

 

夕張「あっ、夕張さんピンチかも……」

 

 

 

 

 その頃、天龍、深雪、白雪の3名は、カモ吉率いるかもめの群れに誘導されながら、榛名や雪風たちがいる戦闘海域へと向かっていた。

 

天龍「なんかドンパチの音が聞こえてきたし、戦場はもうすぐだな!」

 

白雪「早く、皆さんと合流しないとですね」

 

 武装を全く装備せず、両手で燃料や弾薬の入った2本のドラム缶を牽引しながら追従してくる白雪に対して、深雪は心配そうな目を向けていた。

 

深雪「白雪姉さんは、武器を一つも持っていないんだから、一旦引き返した方が良いんじゃないか?」

 

白雪「大丈夫、雪風や榛名さんもそろそろ補給が必要でしょうし、深雪ちゃんたちみたいに動けなくなっていたら大変でしょ」

 

 深雪の心配をよそに白雪は、そろそろ補給が必要であろう雪風たちの為に補給物資を届けたいと言う意思を深雪に語る。

 

深雪「でも、敵には空母もいるみたいだし、艦載機の攻撃を受けたら避けきれないんじゃ無いかな?」

 

天龍「そうなったら、オレと深雪で片付ければいいじゃないか、オレは白雪が雪風たちに補給物資を運ぶという意見に賛成だぜ!」

 

深雪「天龍さんがそう言うなら、深雪は良いけど……」

 

    くー くあー くあー

 

 深雪たちが話をしていると、かもめの群れの数匹が何かに気がついた様に鳴き出した。

 

白雪「正面から敵航空部隊と思われる機影を確認!!」

 

天龍「敵もこっちに気づいたか、深雪!行くぞ!!」

 

 敵機の接近を確認した天龍は、深雪に迎撃の号令をかける。

 

カモ吉「くあー くあー」

 

 その時、群れを率いていたカモ吉が群れを大げさに散開させながら単独で敵機方向へ飛び出して行った。

 

深雪「カモ吉!そっちは危ない、逃げるんだ!!」

 

 深雪の叫び声に気がついたのか、カモ吉は大丈夫だとでも言うかの様に宙返りをして見せてスピードを上げていく。

 

カモ吉「くあー くあー」

 

 カモ吉は、大きな声で鳴きながら単独でヲ級の艦載機部隊に突入していった。

 

深雪「カモ吉……?」

 

白雪「もしかして、カモ吉は深海棲艦がかもめの群れを航空部隊だと勘違いする様に見せて、敵を陽動してくれていたんじゃ……」

 

天龍「そして、接近してきたところで、間違って仲間が撃たれない様に敵に自分たちはかもめだと気づかせて撤退させるつもりなのか?」

 

白雪「深雪ちゃんよりもずっと頭が良さそうね……」

 

深雪「カモ吉……」

 

 

 

 

ヲ級エリート「ナンダト、テキコウクウブタイノ ゾウエンハ カモメノ ミマチガイ ダッタダト……」

 

 カモ吉がヲ級の艦載機たちにあえて正体を明かした事により、一航戦の増援だと信じていたヲ級から誤報であった事の報告を受けたヲ級エリートは、自分たちの艦載機全機が戦闘海域外にいるという事実に気がつく。

 

ヲ級エリート「シマッタ、コレコソガ カンムスタチノ サクセン ダッタノカ!?」

 

 かもめの群れに気づいていた夕張の偽報に踊らされていたヲ級と、そのヲ級からの報告によって冷静な判断力を失っていたヲ級エリートは、自分たちの主戦力である艦載機が手元に無い状態で艦娘たちと対峙しなければならない状況であることに気がつき戦慄していた。

 

 

金剛「妖精さんたち、了解ネ! 一気に仕留めるデース、Fire!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 零式水上偵察機の妖精さんから、ヲ級エリートの詳細な位置の報告を受けた金剛は、現在位置で一度停止し、妖精さんたちと連携しながら弾着ポイントを確認したうえで、主砲による一斉砲撃を仕掛ける。

 

ヲ級エリート「ナッ……、グァァァ!!」

 

 妖精さんと連携している金剛の弾着観測射撃が直撃したヲ級エリートは、激しく炎上しながら大破する。

 

 榛名たちと交戦していた深海棲艦の水雷部隊は、指揮艦であるヲ級エリートの窮地に気付いて重巡リ級を残してヲ級エリートに駆け寄って行く。

 

雪風「敵の注意が逸れた、今がチャンスです!!」

 

 その一瞬の隙に気がついた雪風は、軽巡ヘ級を追撃しようとしていた。

 

    ぷすぷす しゅぅぅぅぅ

 

 しかしその時、艤装の燃料が尽きてしまい、雪風は身動きがとれなくなってしまう。

 

雪風「しまった……」

 

 ヲ級エリートは、ダメージを負いながらも雪風の異変に気がつき、駆逐ロ級2体に素早く指示を出す。

 

ヲ級エリート「クチクカンノ ウゴキガ トマッタ、ヤツヲ トラエロ!!」

 

 ヲ級エリートの指示に反応したロ級2体は、素早く踵を返して雪風を攻撃するために突撃していく。

 

榛名「くっ、雪風さん!!」

 

 雪風の異変に気がついた榛名は、雪風に駆け寄ろうとするが、リ級が素早く進路を塞いで妨害してきた。

 

 

 

 

金剛「さぁ、敵の旗艦を叩くChanceネー、一気に行きマース!!」

 

 弾着観測射撃が成功した金剛は、気を良くしてそのまま遠距離砲撃を続けようとしたが、零式水上偵察機の妖精さんから報告が入る。

 

妖精さん『コンゴウ、ユキカゼガ ネンリョウギレデ ウゴケナク ナッテイル! コノママジャ テキニ カコマレル!!』

 

金剛「Shit! ここからじゃ旗艦以外の敵を狙い撃てないネ、こうなったら突っ込むしか無いデース!!」

 

 妖精さんから雪風が窮地に陥っている事を聞いた金剛は、瞬時に弾着観測による遠距離砲撃を取りやめ、戦闘海域に突入して仲間の救援に向かう決断をする。

 

妖精さん『ハルナモ テキニ ジャマサレテ、ユキカゼノトコロニ イケナイミタイ』

 

金剛「提督も、きっとこういうときは、仲間を助けに向かうはずデース! みんな、今すぐ向かうネ!!」

 

妖精さん『ワカッタ、コッチモ ナントカ ジカンヲ カセイデ オクカラ!!』

 

金剛「お願いしマース!!」

 

 金剛は、妖精さんとの交信を終えると、榛名や雪風がいる戦闘海域に向けて、最大戦速で航行を始めた。

 

 

 

 

夕張「敵の艦載機が引き返して来ちゃった、このままじゃ……」

 

 不意を突いて起死回生を狙った攻撃で、ヲ級に微々たるダメージしか与えられなかった夕張は、速力が低下している状況であり、撤退することもかなわない状態であった。

 

ヲ級「ヲヲォ……」

 

 目の前のヲ級は、『よくも騙したな!!』とでも言う様な感じで、夕張を睨み付けて怒りをあらわにしている。

 

夕張「あぁ、すごく怒ってるぅ……」

 

 夕張は、ヲ級の気迫に圧倒されてしまい、艦載機が戻って来たら確実に沈められてしまうと本能的に感じていた。

 

夕張「うぅ、でも時間を稼ぐことは出来たはずよね、私なりに頑張ったわよね……」

 

 夕張は、まもなく来るであろう猛攻から逃れる手段が無いことを悟りながら、美鈴や明石の顔を思い浮かべる。

 

夕張「提督、着任したばかりだったけど、もうお別れみたいです……」

 

    バサバサッ

 

 夕張は目に涙を浮かべながら、自分を沈めるであろうヲ級に視線を向けたとき、突然北方向から強い風が吹いて来て、何か大きな物がヲ級の顔に覆い被さってきた。

 

ヲ級「ヲ、ヲヲヲッ!!」

 

 ヲ級は、突然黒く大きな布の様なもので視界を塞がれたうえ、急に首や頭部に大きな衝撃を受け、首を捻った痛みと急に視界を失ったことで混乱している。

 

夕張「あれは何? 誰かの外套? それともハンモック!?」

 

 その大きな布の正体は、夕張が思わず口にしたハンモック、先ほど突風にあおられて飛ばされてしまっていた天龍のハンモックであった。

 

 

 

 

 カモ吉が敵の艦載機を引き付けている間に、天龍たちは夕張の戦闘海域付近まで来ていた。

 

深雪「天龍さん、あそこで誰か戦っているぞ!!」

 

白雪「あれは、新しく着任した夕張さんだわ!」

 

天龍「確か、雪風や榛名さんの救援に向かってくれていたって艦娘だな!」

 

深雪「でも、ダメージを受けているみたいだ!!」

 

白雪「敵と交戦して損傷しているようです、助けに行きましょう!!」

 

 深雪や白雪の言葉を受けた天龍は、すかさず左手で腰の刀を引き抜き突撃準備をとる。

 

天龍「ここにはまだ、雪風や榛名さんはいないか、深雪と白雪は先に進め!」

 

深雪「えっ!?」

 

 天龍の言葉に、深雪は疑問の声を上げる。

 

白雪「敵は1体だけのようだし、天龍さんは1人で夕張さんの救援に行くと言っているのよ!」

 

天龍「白雪の言う通りだ、きっとこの先で雪風たちが戦っているはずだから、お前たちは先に行くんだ!!」

 

深雪「わ、わかった!!」

 

 力強く返事をする深雪に対して、天龍は右手で拳を作って深雪の前にゆっくりと突き出す。

 

天龍「オレ様も、さっさと敵を倒して追いかけるが、雪風たちのことは、お前たちに任せたぜ!」

 

深雪「わかった、雪風たちの事は深雪たちに任せて!」

 

 深雪は、天龍に答える様に自身の右手の拳を突き返し、天龍の右手の拳にぶつけた。

 

 

 

 

榛名「くぅ、何とかして雪風さんに近づかないと……」

 

 榛名は、身動きがとれなくなった雪風を救助する為に駆け寄ろうとするが、重巡リ級が執拗に妨害してきて近づくことが出来ずにいた。

 

雪風「榛名さん、雪風のことは気にせず、リ級を倒して下さい!!」

 

榛名「雪風さん……」

 

 雪風の言葉を受け、榛名は一対一でリ級と交戦し、打ち破った上で雪風の救助に向かった方が良いのか考えたが、一度ヲ級エリートの方に向かっていた駆逐ロ級2体が戻って来た事に気がつき頭を悩ませる。

 

榛名「たしかに、榛名がすぐにこのリ級を倒せれば……、でもさっきから戦ってますが、今の榛名にはリ級を圧倒できる力も無いし……」

 

 榛名は、今まで雪風が軽巡ヘ級と駆逐ロ級2体の3体を引き付けて、自分がリ級と一対一で戦える様にしていてくれたにも関わらず、リ級に打ち勝つことが出来なかったと思い込み、焦りを感じていた。

 

榛名「ここにいるのが榛名じゃ無くて、金剛お姉様ならきっとこんな事態にはなっていないのに、榛名は……榛名は……」

 

 榛名は、リ級と交戦しながらも自分の力不足を責め、悔やみ、思い詰めていた。

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 その時、東方向から36.5cm連装砲の砲撃音が聞こえ、2発の砲弾がリ級に直撃する。

 

榛名「えっ、この砲撃は!?」

 

 榛名と雪風が東方向に顔を向けると、そこには白い士官服を着た長髪の女性の姿があった。

 

雪風「しれぇ!?」

 

榛名「いえ、あれは金剛お姉様!?」

 

 美鈴から借りた士官服姿の金剛を見て、雪風と榛名が驚きの声を上げている事に気がついたか、金剛は大きく手を振り、2人に声をかけてくる。

 

金剛「ヘーイ、遅くなってSorryネ、助けに来たヨー!!」

 

    ぐっ ぐぉぉぉぉ

 

 金剛の砲撃を受けた、リ級は大破しながらも立ち上がってきた。

 

金剛「今デース! 榛名その重巡をやっつけるネ!!」

 

榛名「はっ、はい! 榛名は大丈夫です!!」

 

 焦りや不安から心が折れかけていた榛名であったが、金剛の出現に再び瞳に光が戻り、榛名は力強く金剛の声かけに答える。

 

 

 

 

深雪「遠くから砲撃音が聞こえるけど、雪風たちがいる海域はこっちでいいのか?」

 

白雪「まだ距離があって、はっきり分からないけど、とにかく音のする方に向かいましょう」

 

 天龍と別れて、雪風たちがいる海域に向かう深雪と白雪は、南方向から聞こえてくる砲撃音を頼りに進んでいた。

 

    くあー くあー くー くあー

 

 その時、上空から一羽のかもめの声が聞こえて来た。

 

深雪「カモ吉、無事だったんだね!」

 

 遭遇したヲ級の艦載機から、自分の群れの仲間たちを逃がすために、単独でヲ級の艦載機をひき付けていたカモ吉であったが、かもめだと気がついて追撃をやめたヲ級の艦載機たちを確認した上で、深雪のもとに戻って来たのであった。

 

カモ吉「くあー くあー くー くあー」

 

 カモ吉は、深雪と白雪に『こっちだ、ついて来い』と言う様に鳴くと、雪風たちがいる戦闘海域へと飛んでいく。

 

深雪「カモ吉が雪風の所に案内してくれるみたいだ、ついて行こうぜ!」

 

白雪「そうね、行きましょう!!」

 

 深雪と白雪は、カモ吉を追って大海原を南方向に進んで行った。

 

 

 

 

美鈴「全く無線が入らなくなっちゃったけど、みんなは無事でしょうか……」

 

明石「うーん、どうしても南西方面に行くと、みんなと無線連絡がとれなくなっちゃいますねぇ」

 

 美鈴は提督室の窓から、艦娘たちが戦っている南西方面を眺めていた。

 

麗美「この鎮守府付近には、まだ大きな電波塔が無いから、どうしても無線の圏外になってしまっているのね」

 

明石「なるほど、だから南西方面に行くと不思議と交信が出来なくなっているんですね!」

 

あかぎ「今後のことを考えると、この島にも電波塔の建設が必要ということですか」

 

咲樂「近くにいれば、無線機同士で交信することが出来ますが、鎮守府までの交信は出来ないから、どこかで中継するしか今のところ方法は無いですね」

 

 麗美たちの会話を聞きながら、美鈴は難しい表情を見せる。

 

美鈴「なんか難しくてよく分からないですが、無線で話をするためには塔を建てる必要があるんですね」

 

大淀「今までは、近くにある紅月鎮守府の航空基地の電波が届いていたので、私たちも無線を使えていましたが、南西側までは電波が届いていなかったという事ですよ」

 

美鈴「う~ん、なんだか電波とか中継とか工学的なことはよく分からないなぁ……」

 

    くー くー くあー

 

 不安げに外を見つめる美鈴に、窓の外から一羽のかもめが声をかけてくるように鳴いてきた。

 

美鈴「あっ、カモ美か、どうしたの?」

 

カモ美「くー くー くあー くあー」

 

美鈴「そうか、カモ吉がみんなのところに応援に行ってくれているんだ、だから大丈夫だって言うんだね」

 

カモ美「くー くあー」

 

 美鈴は、不思議とカモ美が何を言っているのか分かる気がして、提督室から鎮守府の南西方向を見つめるのであった。




前回の投稿から約3ヶ月が経過してしまい申し訳ありませんでした!!

いつも仕事の疲れか、家に帰ってきてこの話を書こうとすると寝落ちする病がひどくて、全然書き進められずにいました……

2019年中には、第一章を完結させて、2020年には第二章をスタートさせようとしていたのですが、全然間に合っていませんね……


最後に、遅れてしまいましたが
明けましておめでとうございます!
2020年もヨロシクお願いします!!

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