華人小娘と愉快な艦娘たち   作:マッコ

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第52話 幸運艦

 高速で飛んできたカモ吉は、雪風に向かって高度を落としながら近づいてきた。

 

雪風「カモ吉が何かをくわえている?」

 

 カモ吉は、クチバシでくわえていたカプセルの様なものを雪風の上空から投下する。

 

    くぁー くぁー

 

雪風「あれは、雪風に?」

 

 移動する事が出来ない雪風は、懸命に手を伸ばしてカモ吉が落としていったカプセルの様な物体をキャッチする。

 

雪風「これは……、燃料のマークが書かれています」

 

 カモ吉が落とした物体は、フィルムケース位の大きさの緊急時用の携帯燃料缶であり、中身が入っている様子であった。

 

雪風「燃料なんて、どうしてカモ吉が?」

 

    ドォォォン

 

 カモ吉が運んできてくれた携帯燃料を雪風が見ていると、雪風に接近してきていた重巡リ級がフラフラになりながらも砲撃してきた。

 

雪風「あっ、危ないです! 早く燃料を……」

 

 リ級の砲撃は雪風には当たらなかったものの、近くに着弾したため波しぶきにより雪風の体はフラつかされていた。

 

 このままでは、逃げることも戦う事も出来ない雪風は、カモ吉を信じ急いで艤装に燃料を補給する。

 

雪風「これなら、少しだけですが、何とか動くことが出来そうです!」

 

 カモ吉が運んできてくれた燃料のおかげで、雪風の艤装に再度火が入った。

 しかし、ごくわずかな燃料のため完全な再稼働では無く、移動する程度の行動に限られていた。

 

 

 

 

ヲ級エリート「クッ! クチクカンガ ウゴキダシタダト!!」

 

 雪風が再稼働したことを確認したヲ級エリートは、大破状態の重巡リ級では雪風に追いつけないと判断し、榛名と交戦中の艦載機たちを確認する。

 

 50機ほどいたはずの艦載機は、榛名との交戦により半数以上撃墜されており20機ほどとなっていた。

 

ヲ級エリート「アノ センカンヲ シズメルコトハ デキナイカ……」

 

 金剛と合流したことで、士気の上がっている榛名は、再びゾーンに入った状態となっており、三式弾を駆使して次々とヲ級エリートの艦載機たちを撃墜していた。

 

ヲ級エリート「ダガ クチクカンヲ クイトメルニハ ヤツラニ ハタライテ モラワネバナ!」

 

 ヲ級エリートは、艦載機たちに指示を出し、半数を榛名の足止めに、残りの半数には雪風を攻撃する様に指示を出す。

 

 

 ヲ級エリートの艦載機と交戦中の榛名は、艦載機の半数が自分から離れて雪風がいる東方向へ向かい始めた事に気がつく。

 

榛名「まさか、雪風さんを狙う気じゃ!!」

 

 榛名は、とっさに雪風がいる方向へ移動を開始した艦載機に砲撃を仕掛けるも、距離が離れていたこともあって半数ほど撃ち漏らし、5機の艦載機が雪風に向かうことになってしまった。

 

榛名「しまった! 雪風さん、そちらに敵艦載機が!!」

 

 榛名はとっさに、無線で敵艦載機が雪風に向かった事を報告する。

 

 

金剛「くぅ! こっちからじゃ迎撃が間に合わないネ!!」

 

 榛名の無線を聞いた軽巡ヘ級と交戦中の金剛は、ヘ級に足止めされてしまっており雪風に向かって行った敵艦載機を追うことが出来ずにいた。

 

 

 

 

 重巡リ級に追われている雪風は、金剛や榛名がいる西方向に向かうことが出来ず、正反対となる東方向への移動を余儀なくされていた。

 

雪風「まだ、燃料が不足していて攻撃が出来ません! でも、何とか逃げてみます!!」

 

 雪風を追うリ級は、金剛の攻撃により大破しているため、動きに機敏さは無く、戦闘能力も低下しているが、駆逐艦の雪風にとって重巡の砲撃は脅威であった。

 

 カモ吉から受け取った燃料は微量であり、いつまで艤装を動かすことが出来るか分からない状況で雪風は懸命にリ級を振り切ろうとしていた。

 

雪風「金剛さんと榛名さんなら、残りの深海棲艦に負けるはずありません! だから、雪風が足を引っ張るわけにはいきません!」

 

 自分が無事に脱出することが出来れば、軽巡クラスのヘ級と大破状態のヲ級エリートとリ級が相手であれば、万全の状態の金剛と戦意高揚中の榛名が負けるはず無いと判断した雪風は、とにかくスピード差を活かしてリ級を振り切ろうとしていた。

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン

 

雪風「この音は、まさか!?」

 

 雪風が音のする上空に目を向けると、榛名が討ち漏らしたヲ級エリートの艦載機が、独特の飛行音を立てながら雪風に迫って来ている事に気がついた。

 

雪風「そんな……、こんなときに……」

 

 敵艦載機の接近に気がついた雪風が、青ざめた表情で上空を見上げていると、カモ吉が雪風の上空で大きく旋回している事に気がついた。

 

雪風「カモ吉? 敵の艦載機が来ます、速く逃げて!!」

 

    くぁー くぁくぁー

 

 カモ吉は、自身がやってきた北東方向に向かって何かに呼びかける様に鳴き声を上げた。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の司令室では、美鈴がモニターの前でソワソワと歩き回っていた。

 

麗美「南西方面の艦娘たちが心配なのかしら?」

 

 落ち着かない様子の美鈴を見かね、紅茶を飲み終えた麗美が美鈴に歩み寄って声をかける。

 

美鈴「えっ? えぇ、どうにも状況が分からないというのは……」

 

麗美「気持ちは分からなくも無いけど、落ち着きの無い指揮官は部下に不安を与えるわよ」

 

美鈴「た、たしかに……」

 

麗美「夕張の報告では、敵の規模はヲ級1体と巡洋艦2体に駆逐艦2体、対するこちらの戦力は金剛、榛名、雪風に、深雪と白雪が援軍に向かっている状況だったわよね」

 

美鈴「はい、白雪は武装無しの補給要員ですが、数ではほぼ互角でしょうか」

 

麗美「空母は確かに脅威だけど、夕張の報告だと大分かき乱している様だったわね」

 

美鈴「と言うことは、優勢だという事でしょうか?」

 

麗美「自分の部下を信頼し、任せる事ができるというのも優秀な指揮官の条件よ」

 

美鈴「部下を信じる……」

 

 美鈴は、麗美の言葉をかみしめながら目を閉じて、考え込む様に腕組みをしながら顎に右手を当てる。

 

美鈴「そうですね、でも……」

 

 美鈴は、ゆっくりと言葉を紡ぎながら右手を下ろし、真っ直ぐに麗美に視線を向けながら言葉を続ける。

 

美鈴「その言葉一つだけ訂正させてもらいますよ」

 

麗美「なにかしら?」

 

美鈴「あの娘たちは、私にとって部下なんかじゃありません……、大切な仲間です!」

 

 

 

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン ズガガガガ

 

 雪風を追ってきた敵艦載機は、反撃することが出来ない雪風に向かって機銃を撃ってくる。

 

雪風「う、うわぁ、でも当たるわけには……」

 

 雪風は体を動かしながら懸命に敵艦載機の攻撃を回避する。

 

    くぁー くぁー

 

 雪風を狙う敵艦載機に対して、カモ吉は威嚇する様に鳴き声を上げる。

 

雪風「ダメ! カモ吉だけでも速く逃げて!!」

 

 カモメにとっても脅威であろうはずの深海棲艦の艦載機に対し、ひるむこと無く向かって行く姿勢を見せるカモ吉ではあるが、有効な攻撃手段があるわけでは無い。

 

    ブゥゥゥゥン

 

 その時、西方向からプロペラ音が聞こえたため、雪風は音が聞こえた西方向に目を向ける。

 

妖精さん『コンゴウタチガ クルマデノ ジカンヲ、 ボクタチデ カセグンダ!!』

 

 雪風の視線の先には、雪風を支援するために駆けつけてきた金剛の零式水上偵察機3機があった。

 

雪風「妖精さん!? でもその機体じゃ……」

 

 零式水上偵察機は零戦のような戦闘機ではなく、あくまでも偵察機であるため敵艦載機と戦闘を行える様な武装は装備されていない。

 それでも、妖精さんたちは軽巡へ級に足止めを受けている金剛や、残りの敵艦載機を迎撃中の榛名が現状を打破して雪風の救援に来ることを信じ、少しでも時間稼ぎをしようと雪風を狙う5機の敵艦載機を追ってきたのであった。

 

 

 

 

    ズガガガガ ズガガガガ

 

 カモ吉や零式水上偵察機の妨害を受けながらも、2機の敵艦載機たちは雪風へ執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 

雪風「くぅ、このままじゃ、このままじゃ……」

 

 雪風の視線の先には、振り切れそうだったはずの重巡リ級がゆっくりではあるが迫って来る姿が映っていた。

 

妖精さん『コンゴウタチハ マダナノ? コノママジャ ヤラレチャウヨ!』

 

雪風「戦うことも、逃げることも出来ないなんて、雪風は、雪風は……」

 

 絶望的な状況で、自分が仲間たちの足を引っ張ってしまっていると思い詰める雪風は、泣き声になりながらも必死に上体を動かして敵艦載機の機銃を回避する。

 

    くぁー くぁくぁー

 

 カモ吉の警告する様な鳴き声に、雪風は視線を右方向に向ける。

 

 そこには、魚雷を装着した敵艦載機の2機が雪風に向かって接近して来る姿があった。

 

雪風「航空魚雷!? 避けられるの?」

 

 2機の敵艦載機は、雪風の右方から順番に航空魚雷を放ってくる。

 

雪風「絶対に避けないとっ!」

 

 航空魚雷が1発でも命中すると、駆逐艦である雪風にとって致命傷になりかねないこともあり、雪風は燃料の残量を気にする余裕もなくなり、艤装の機関を全開にしながら懸命に航空魚雷を回避した。

 

妖精さん『シマッタ! ユキカゼ ウエダ!!』

 

 航空魚雷を回避し終えたばかりの雪風に、零式水上偵察機の妖精さんの叫ぶ声が脳内に響き渡る。

 

雪風「妖精さんの声が…… 上?」

 

 妖精さんの声に気がついた雪風が上空に視線を移すと、そこには爆弾を装着した敵艦載機1機が高高度から雪風に向かって急降下していた。

 

雪風「あっ……」

 

 航空魚雷を回避したばかりの雪風を狙う様に、敵艦載機は急降下爆撃を仕掛けてきたのである。

 

 

 

 

    ドゴォォォォォォン

 

 何とかヲ級エリートの艦載機を撃退したばかりの榛名と、軽巡へ級によって足止めを受けている金剛のもとに雪風がいる方向からの爆音が聞こえて来た。

 

金剛「な、何の爆発デース!?」

 

榛名「あっちは、雪風さんが撤退していた方角です!!」

 

 慌てて爆音がした方角を確認する金剛と榛名は、距離が離れすぎていて詳しい状況を視認できずにいたが、黒い煙が上がっている様子だけは確認出来た。

 

榛名「まさか、雪風さんが……」

 

金剛「雪風が沈むわけ無い! 妖精さんたち状況を教えて欲しいデース!!」

 

 金剛は雪風のもとに向かっていた零式水上偵察機と通信を試みる。

 

     ザザザ…… ザザ……

 

 ノイズ混じりに、妖精さんの声が金剛の脳内に聞こえてくる。

 

妖精さん『ユキカゼ、シッカリスルンダ! ユキカゼ!!』

 

金剛「妖精さん、一体どうなっているデスか!? 状況を教えて下さい!!」

 

 ただならぬ様子の金剛を見た榛名は、最悪の状況を想像し血の気の引いた表情で金剛に声をかける。

 

榛名「お姉様、まさか雪風さんが……」

 

金剛「まだ分からないネ! でも良い状況では無さそうデスから、すぐにでも救援に向かうデース!!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 金剛と榛名の慌てる様子に気付いたのか、つかず離れずの状況であった軽巡へ級が積極的に砲撃を仕掛けて来る。

 

金剛「くっ、あのEnemyを何とかしなければ、後ろから攻撃されてしまう」

 

 ヘ級の攻撃を回避した金剛は、右手で榛名の左手を掴んで自身に引き寄せる。

 

金剛「雪風を攻撃しているのは、さっき向かって行った艦載機のはずね、三式弾を持ってる榛名には今すぐ雪風の救援に向かって欲しいネ」

 

 真剣な表情の金剛の指示を聞いた榛名は、動揺を振り払いながら力のこもった瞳で金剛の顔を見る。

 

金剛「ワタシもすぐに敵を倒して後に続くから、まずは雪風と合流して雪風に何かあったのなら雪風を連れて鎮守府に撤退するネ、OK?」

 

榛名「はい、雪風さんは沈ませません!」

 

 

 

 

 敵艦載機の急降下爆撃を受けた雪風は、大破しボロボロになりながら海上に倒れ込んでいた。

 

雪風「うぅ、もう体が動きません……」

 

 倒れた雪風を心配する様に、カモ吉が雪風の顔をのぞき込んでいる。

 

雪風「まだ敵がいます、カモ吉は早く逃げて……」

 

 損傷によって身動きを取ることが出来なくなった雪風のもとに、重巡リ級がゆっくりと迫って来ており、敵艦載機たちは金剛の零式水上偵察機を撃破するために攻撃を仕掛けていた。

 

 

ヲ級エリート「ソウダ、アノクチクカンヲ イキタママ トラエテ ヒトジチニスルンダ!!」

 

 自身も大破し満足に身動きがとれなくなっているヲ級エリートは、金剛や雪風たちからやや離れたところから、自身の艦載機や金剛を足止めしている軽巡ヘ級、大破している重巡リ級に巧みに指示を出して最後の抵抗を見せていた。   




ちょうど3年前の2018年4月24日にpixivで投稿を始めたこの『華人小娘と愉快な艦娘たち』今日で4周年となってしましました。
本家の艦隊これくしょんが先日8周年を迎えたので、ちょうど半分という事になりましたが、この『華人小娘と愉快な艦娘たち』は最近更新が遅くて申し訳ありません。

第1部のクライマックスも迫って来ましたが、なんとか頑張っていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします!!

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