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文書ファイル、αからβまでをアンロック。
α
第33試験報告。(中略)AI開発は順調に完了。大脳AIと小脳AIのリンクは無事完了した。
当面の課題は並列回路の小型化と神経回路との接続に主眼を置いた開発を行っていくことになるだろう。
以下必要経費などのため省略。
β
第61試験報告。ボディの開発は完了。人工筋肉及び各アクチュエーターの接続と五感センサー実装を行うにあたり、並列AIでは知覚できる感覚に限界があるため、前回実験時に使用したクローン体の脳を流用しボディに対応したパック化を行い、一部の知覚器官を生体部品に置き換えAIを人体の脳で使用することを可能にした。
ただし、脳というのは細胞によって構成された生モノだ。人工血液をナノマシンと一緒に体内に流すことで酸素と栄養を補給する。ナノペーストに脳や人工筋肉などの元の構造を記憶させておくことで万が一外部からのダメージで一部が破壊されてもナノマシンの働きで時間はかかるが再生が可能になる。ただし生体部品は経年による劣化が著しいため今後は出来るだけ生体部品のサイズを小型化し、機械でより正確な感覚を掴める様に改良が必要だろう。
以下必要経費などのため省略
再び体に意識が戻る。
「はぁ、はぁ・・・何・・・今の」
さっきのメールもそうだが、一体何があったんだ・・・
暗視装置の電源は切れている。もう使えないだろう。
ヘッドバンドを緩め頭から外す。どうせバッテリーの予備ももう無いし、充電ケーブルも用意がない。捨てていくしかない。
そういえば先程から左目が見えない。左目のあたりを触ってみると何かが目の周りに付いている。
眼帯?そこから細いケーブルが伸びて先ほどの暗視ゴーグルに繋がっていた。
ケーブルを引き抜くとこちらの眼帯の裏側に映像が浮かぶ。音響探知レーダーかはたまたソリトンレーダーか・・・どちらかは分からないが視界の左端にマップが表示されている。そしてケーブルが刺さっていたところの付近に指を当ててみると小さいスイッチのようなものが複数ついている。試しにひとつ押してみると2m位先までが見えるようになった。簡易的な暗視装置のようなものなのだろう。
サーマルゴーグルや赤外線暗視装置とは違い、綺麗にカラーで映像が映り出す。
ゴーグルに繋がっていたケーブルは汎用品ではなさそうなので一応回収。
「あ・・・メール・・・他には!?」
先ほどの端末を開き、メールをチェックする。
2つ目のメールを開こうとするがパスコードを要求される。
適当に数字を入力しても開かない。どうにもダメのようだ
「・・・ダメか」
仕方ない、目標を変えよう。
まずは当初の通りまずはここを抜けよう。
勢いよく立ち上がり、再び散策を開始する。
2m先は見えても若干心許なさを感じるので、先ほど拾ったライトを右手に持ち歩く。
先程よりもはるかに歩きやすい。解像度の高い映像っていうのはいいものだ。
私にはどうやら通常の過去の記憶は無いようだが、知識だけは備わっている。大方、予備記憶領域にでもバックアップを残していたのだろう。
どれくらい歩いただろうか、体感時間にして2時間。やっとの思いで非常階段を見つけることはできた。
登ることはできそうにない。が、階段の前を素通りしてからしばらく行った先に光が見える。
天井にヒビでも入ってるのだろうか、まるでエンジェルラダーのように眩く光が差している。ゆっくりと歩みを進め近づいていく。
しかし、ヒビは天井と床両方に大きく入っており、ジャンプすれば反対側には飛び移れそうだが上には移動できそうにない。下にはどうやら降りれそうだが・・・最悪はどこかから梯子とかを使えばヒビから登っていけそうだけど、どっちにしても後でだね。
「よいしょっと・・・」
ヒビの隙間から下の階へと飛び降りる。
着地した自分の両手足を起点に地面の土埃が舞い上がる。手に持ったライトと天井差し込む僅かな光が舞い上がった埃に乱反射し、暗視装置が回路と目の保護のため増幅を遮断する。
先ほど階段があった場所の直下に向かうために天井を見上げて方向を確認する。
土埃に視界を奪われながらもヒビから見える上階層の瓦礫などを目印に方向を確認してどうにか方向は把握できた。
土埃がゆっくりと流れる風にさらわれ、視界がだんだんとクリアになってきた。
開けた視界には、ただただ荒れ果てた廊下やひしゃげて開かなくなった扉達が映る。
「じゃ、探そうか」
誰ひとりとしていない荒れた空間に私の独り言が響く。
再び脱出のために一歩、また一歩と階段を探し歩き出す。瓦礫を押しのけ、倒れたロッカーを踏み越え、非常階段にたどり着く。
ここは通れそう。階段も目に見えてる限りは歩いていけそうだし問題なさそうだ。
やっと外に出られそう、という気持ちから少しだけ気分が上がる。
一段、また一段と上がるたびに歩調も心なしか軽いものになっていく。先ほど瓦礫で塞がっていた階層を軽い足取りで駆け抜け、光の差し込んでいた階層へとたどり着いた。
非常階段はここで途切れている。上がってすぐ右に扉があり、そこは開いていた。
そこには、ただひたすらに長い時間をかけて崩れたと思われるコンクリートの山、そこに咲き乱れる黄色や白の草花。割れたガラス窓にズタズタになりボロ雑巾の様体となったカーテン。
自分がいた場所、それはただの廃墟の地下に過ぎなかった。
建物を出て、しばらく周囲を探索した。
工事現場は確かにあった。アンドロイドたちが瓦礫の除去作業を行っている途中だったようだ。
建物の裏手にはどうやら山があったらしく、そこが土砂崩れを起こした際に建物の二階部分までが土砂に埋まっていた状態だったようだ。屋内に土砂が流入しなかったのは窓が少なく、全て強固なシャッターのようなもので塞がれていたからのようだった。表側の被害が少なかったようなのでこうやって推測はできるが事実はわからない。
土砂に埋まってから相当時間が経っていたようにも見えたが、なぜ今掘り返しているのかも謎だ。
「・・・とりあえず、近くの別の建物を探そう」
今目に入るのは正面の今自分が出てきた廃墟と、そこから向かって右に1.5km程先の廃病院くらいなものだ。
病院、ね・・・行ってみようか。何かわかるかも知れないし。
どうやら病院は土砂の被害を受けていなかったようで、建物が朽ちている以外は至って綺麗な見た目だ。
バリバリに割れたガラス戸をくぐり抜けて病院内に足を踏み入れる。
目の前には長椅子が複数並び、天井からは錆に錆びた鎖で「受付」と書かれたプラカードが寂しげにぶら下がっている。プラカードの下にはカウンターがいくつか並んでいて、少し大きめの病院といった印象だ。・・・もはや使う人などいないのだろうけど。
表の外待合には何もなさそうだ。
「ピィィ!!!」
中待合に移動すると複数の人影が椅子に座って見えた。あまりに突然現れるからびっくりした・・・
これだけ大きな声で叫んでもその人影はピクリとも動かない。
近づいて見るとアンドロイドたちが座ったまま眠りについていた。もう動くことはないのだろう。生体部品のほとんどが破損している。
座っている者の中には、頭部にPの刻印が入った者や、何かのカードを握り締めたまま眠っている者、頭にバンダナを巻いた者、お菓子が入っていたであろう袋を小脇に抱えた者、獣の様な耳と尻尾を生やした者など、アンドロイドの種類や見た目を問わず様々な者が一堂に会していた。このまま彼らは建物と共に朽ちていくのだろう。
足元には彼らの持ち物だったと思われる物が散乱して落ちている。
朽ちた紙袋から、財布、鍋、ヒヨコのおもちゃ、ひいてはナイフや刀、銃まで多種多様だ。
「ごめんね、いくつかもらってくよ」
銃は旧式のM45やMEUを警備アンドロイドが装備しているケースが多い、私のはUSP45なので共通弾薬だ。
自分の持っている銃と弾種の合うものを見繕って弾をもらい、錆びていないナイフを拾い上げ左肩にマウントする。
日が少しずつ陰り始め、外は既に茜色に染まりつつある。
「・・・屋上に行ってみよう」
きっと綺麗な景色が見れる。
なぜかその時は・・・そう思ったのだ。
はいどーん!
久しぶりに書いているのですごいペースが落ちました!
では、( ^ω^)ノシ