広島県立瀬戸内女子学園。高校戦車道の世界に彗星の如く現れたこの学園の隊長を務める少女は今日も笑う。

「たとえ仏や天魔じゃろうと、ウチの裏は絶対取れん」

息抜きに書いた思い付きのネタです。相州戦神館學園シリーズのネタが多分に含まれてますが、知らなくても別に大丈夫です。

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勢いで書いたけど、どうするんならこれ。

光の奴隷みぽりんのほうが現在どうにも詰まってるというか、展開に悩んでいるその勢いのままに新しい短編を書く作者。




釈迦ノ掌

 瀬戸内女子学園。

 

広島県広島市に本拠を持つこの学園艦を一言で表すならば、平凡という単語で事足りるだろう。

 

各種部活動やその他諸々に目立った活動実績はなく、昨今の少子化の影響も相まって生徒数も徐々に減少。

 

比較的力を入れている戦車道も、万年一回戦敗退の弱小校といった有様で、文部科学省の中では近いうちに予定される学園艦の統廃合の対象と目されていた。

 

――壇 静摩(だん しずま)が現れるまでは。

 

戦車道の名門でもないごくありふれた家に生まれたこの少女は、周囲の誰もが予想していなかった偉業を成し遂げることとなった。

 

当時一年生だった彼女を隊長として始まった全国大会。彼女の指揮の下、瀬戸内は下馬評を覆す快進撃を見せる。

 

聖グロリアーナ、プラウダといった強豪校を、そしてついには当時全国大会八連覇を果たしていた王者・黒森峰女学園をも打ち破り見事優勝を勝ち取ってみせたのだ。

 

そして、一年後の第62回全国大会。

 

名だたる強豪校が瀬戸内への――いいや、壇静摩という一人の少女への対策を詰めに詰めて迎えたこの大会でも、それら全てを鼻で笑うかのように瀬戸内は勝ち進んだ。

 

「たとえ何がどんなんなろうと、ウチの掌から出られる奴はおらんのじゃ――きはは」

 

奇策も正攻法も、まるで未来が見えているかの如く通用せず躱され、利用され、あるいは読まれるその様を見た全ての人間が、大会前に静摩が報道陣に伝えた挑発とも受け取れる言葉を思い出していた。

 

尋常ならざる神算鬼謀――自らの掌に孫悟空を転がす釈迦の如く、ただの一度も相手に裏を取らせないその様から、ついた異名が”盤面不敗”。

 

もはや誰も、瀬戸内の快進撃をまぐれと笑う者はいなくなっていた。

 

そして迎えた決勝戦。相手は昨年と同じ、黒森峰女学園である。

 

ここでもやはり、得意(・・)の神算は遺憾なく発揮されることになった。黒森峰の戦車部隊が足場の悪い崖を進むその時を狙い、先回りしていた全二十の車両による攻撃が一斉に放たれる。

 

そしてここで、誰もが予想していなかった事態が起きることとなる。

 

砲撃により足場を失った黒森峰の戦車一輌が、そのまま増水した川へと落下。さらにそれを救助すべく、なんと黒森峰フラッグ車の車長を務めていた西住みほという少女が眼下の川へと飛び込んでいったのだ。

 

結果、車長を失った黒森峰フラッグ車は撃破されてしまう。あまりにあっけない、そして物議を醸す結末だった。

 

そして、その様子にただ一人――静摩だけは、いつもと変わらぬ軽薄な笑みを浮かべていた。

 

「――それでは、決勝戦についてお伺いします。まず、黒森峰の動きを完璧に予測したあの作戦は見事でした」

 

「はん?」

 

そして、試合後のインタビュー。無名の高校を率い見事連覇を果たしたということもあってか、閉会式の舞台を使って行われていたその途中。至極真っ当なはずのインタビュアーの問いに、しかし静摩は虚を衝かれたかの如く目を丸くし……次いで、弾けるように笑いだした。

 

「く、はっ――はは、はははははははははは!作戦?予測?なるほど、なるほどなるほど――うははははははははは!こりゃええ、おまえら笑わすのう!」

 

「なッ――あ。ええと……」

 

予想外の反応に、インタビュアーは面食らって言葉が出ない。

 

完璧な先読みの果てに、彼女はチームメイトに移動を命じた。そして実際、その目論見は見事成功を収め、瀬戸内女子学園は連覇という偉業を成し遂げたのだ。

 

ならば当然、それを可能とした静摩の作戦をこそ賞賛すべきであろうし、だからこそ彼女がなぜ笑うのか誰も理解できない。

 

意味が分からない。そんな気持ちがインタビューの様子を見つめる全ての者に共通して生まれた。なおも腹を抱えている静摩は自分に集まる疑念の視線にようやく気づいたのだろう、涙を拭いながら言葉を継いだ。

 

「おお、そりゃあ作戦よ。そうすりゃ勝つと分かっとったけえ。じゃがのォ、おまえらが言うとるような先の読み合いなんぞウチは苦手じゃし興味もない。萎えようが、そういうもんは。こすい真似して勝って何が面白いんじゃ、ふゥが悪いわ」

 

それはとても、先ほども――そして今までも悪魔じみた神算を発揮していた人物の言葉とは思えない。矛盾しているし、筋が通らない。

 

――いいや、まさか。

 

「囚われちょるのォ。そがァな様じゃけえおまえらはウチに勝てんのじゃ。作戦じゃ理念じゃゆうんは確かに大事じゃが、おまえらはそれに縋りついとるだけじゃろうが」

 

そもそもの大前提が間違っていたならば、どうだ?

 

目の前のこの少女は、我々が考えていたような神算鬼謀の打ち手ではなかったとしたら。

 

事実、静摩の言動はとてもそんな大人物のそれとは思えない。いいやむしろ、何も考えていないようでさえある。

 

そして、彼女はそのことを肯定した。

 

「ウチは反射神経の人間よ。さっきも言うたが、先の読み合いなんぞは苦手じゃし興味もない」

 

「じゃけえ大して考えん。臨機応変、その時々よ。おまえらみとォな凡人にゃあウチはアホに見えるんじゃろうが、それでも負けたことがないんでの。

 そしてこれからも、ウチは負けん。ええ機会じゃ、教えちゃろう」

 

声にえぐみを効かせ、誇るように静摩は宣言する。

 

「笑うんはウチじゃ。これはすでに決まっちょる。西住流じゃろうと島田流じゃろうと――いいや、たとえ仏や天魔じゃろうと、壇静摩の裏は絶対取れん。

 分かったか、ヒヨッコども」

 

「…………」

 

自負と言うにはあまりにすぎる大言壮語。その主張には一切の理屈が存在せず、もはや妄言とよぶべきかもしれない。

 

「で、ではあの時。黒森峰のフラッグ車を撃破した際のことですが……」

 

しどろもどろな様子のインタビュアーのその言葉に、カメラの横で様子を観ていたディレクターがぎょっとした様子でインタビュアーを身振りで制止する。インタビュアー自身、自身の問いが禁忌に近いものだと気付いたのだろう、しまったといった風に顔を青くしていた。

 

全国大会の連覇を、言い方は悪くなるがどこの誰とも知れぬ馬の骨に妨害された黒森峰は、当然この第62回大会には並々ならぬ気概で挑んでいた。そこには黒森峰戦車道に多大な影響力を持つ”西住流”の意志が強く反映されていたことは誰もが知るところである。

 

そして、決勝戦での黒森峰副隊長・西住みほによるフラッグ車の放棄。それは勝利をこそ第一とする西住流の教えに真っ向から反することなのは否めなかった。

 

その正誤を問うような質問。これにどちらの立場で答えても、事態が悪化することは間違いないのだ。

 

壇静摩が西住みほを擁護すれば、それはすなわち表立って西住流という巨大な力が明確に静摩の敵になることを意味する。少なくとも彼女が将来そちらの方面に伝手を作ることなどはほぼ不可能になるだろう。

 

では逆に、非難もしくはそれに類する答えならばどうなるか。直接の非難でなくとも、例えば”そのおかげで勝てた”などと言ってしまえば、今度は西住みほの立場が非常に危うくなる。

 

どちらにしても一人の少女の人生を左右しかねないその質問に、静摩はやはり変わらぬ様子で答えた。

 

「何も。ただそうなった(・・・・・)だけじゃろうが。ウチが動いた結果、ウチに都合のええところに収まっただけよ」

 

「正誤云々なんぞたいぎぃだけじゃろうが。所詮全部ウチのための伏線なんじゃからのォ。――ひひ、かかかかかかかか!」

 

唖然とする一同を気にした様子もなく、静摩はけらけらと笑いながら自軍の列の先頭に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう。壇静摩こそが盤面不敗。

 

型に嵌らず、何にも囚われず、だからこそ己は負けぬと信じきっている。

 

ゆえに、彼女の笑みを消して苦渋という敗北を舐めさせることなど未来永劫能わない。

 

それこそが壇静摩に与えられた天運(のろい)なのだ。

 

 

 




勝負事の世界に摩を突っ込んではいけない(戒め)
一応簡単なキャラ紹介をばおいておきます。

壇 静摩(だん しずま)
所属校:瀬戸内女子学園
学年:3年生(アニメ本編開始時。西住みほより一つ上)
担当:隊長・戦車長
身長:160cm
出身:広島県広島市
誕生日:9月1日
年齢:17歳
好きな食べ物:美味いもの
趣味:ボードゲーム、風水


全国大会二連覇を果たし、今また三連覇を狙う瀬戸内女子学園の隊長。軽薄かつ適当な性格の極みであり、その行動はほぼ全てが思い付きで一貫性など皆無。しかしそれらの盲打ちがどういうわけかうまくいってしまうという驚異的な天運の持ち主。本人も自身の強運っぷりを何の根拠もなしに本気で信じきっている。

まあ要するに、摩な女の子です。名前が万仙陣のほうの盲打ちと被っているが、気にしてはいけない。

そして最後に一言。

広島弁難しいわ!(涙目)

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