SIX HUNDRED~俺の600族が最強過ぎなんだが~ 作:ディア
シロナさんの試合との後俺はイッシュ地方にやって来ていた。その理由は言うまでもなく雲隠れだ。あれから事情を知ったシロナさんはファンにあの試合の動画をシンオウ地方内で公表しただけでなくシロナさんの地方チャンピオン返上のせいでシロナさんのファンのポケモンバトルの申し込みが絶えず、俺に来たのでこうして雲隠れしているということだ。
『サー、少し歩くのが速すぎます』
俺の後ろで小さな足を使って着いていくポケモンはサザンドラのリック。リックは通常のサザンドラとは違い、脂肪が付きすぎて飛ぶことが出来ない為にこうして歩いて俺の後ろで着いていっている。それならモンスターボールに入れた方が良いとかそういう風に言うかもしれないが、リックを時折散歩させないと健康に悪く、ポケモンドクターからも運動させるように言われている。
「歩くのが速いんじゃなくお前が遅いだけだ。わかったら汗水流して歩け」
『サー、イエッサー……』
弱気な軍人口調で答え、渋々と歩いて脂肪を燃焼させるリック。まあリックが俺に従うのは二度目の主人である俺に捨てられたくないのが理由だろう。捨てられたところを拾ったのが俺だったってだけだ。このリックって名前もメタボリックから由来しているらしいしな。酷い話だ。
「あそこまで行ったらガラマメだ」
とは言えちゃんと褒美はやるから虐待している訳ではない。
『サー、イエッサー!』
それを聞いたリックが急に元気になり、飛びはねながら走る……飛びはねるのは、飛びはねないと走ることが出来ないからだ。
『待ってろガラマメェーっ!』
ボールのように弾けながら走る様はとても動けないからという理由で捨てられたとは思えなかった。
『到着しました、サー!』
「よし、ご苦労。ガラマメだ」
『ああ、旨い……! それというのも運動した後に来る塩辛さが──』
ガラマメを食べるとリックがグルメレポーターの如くすらすらと語り始める。そんな中、一つの人影──ポケモンのヒトカゲではない。あれを無理やり漢字にすると火蜥蜴だ──がうっすらと見える。そして俺の姿を認識したのであろう人影は気まずそうに去ろうとする。
だが逃がさない。俺はリックを回収してその人影の前に立ち塞がる。
「よう……久方振りだなアイリス」
その人影の正体は一人の少女。この少女こそが俺をリーグ出禁にしてしまった張本人、アイリスだ。
「し、シック……」
アイリスは俺がリックを連れているのを見て、竜の里から奪ったものだと勘違いし、警察に通報。それで元の持ち主が捨てたと言えばよかったんだが、元の持ち主は金目当てにリックを奪われたと主張して来た為俺はムショに放り込まれるだけでなくリーグ出禁となった。その後、リックは元の持ち主に引き取られたが勝てない、交換の対価に合わないことを理由に再び捨てられ、俺のところにやって来て俺のポケモンとして活躍するようになった。それを聞いたアイリスは俺のことを泥棒扱いしたことを謝罪したが、未だに罪悪感があるようで俺を見ると申し訳なさそうにしてしまう。
「まだ気にしているのか? あの事を」
「だって貴方、まだリーグ出禁なんでしょ?」
それは仕方ない。リーグは一度でも悪者になったら容赦はせず、何をしても許される傾向がある。ワタルさんが悪人に向けてカイリューにはかいこうせんをけしかけても逮捕されるどころか咎めないのはそういう背景があり、俺も冤罪とはいえ元悪人だから許して貰えない。ましてやつい最近まで悪の組織の幹部や頭が、リーグに所属していたのだから尚更だ。
「まあな……ところでアイリス、イーリスって女を知っているか?」
「誰それ?」
はて、妙だな。イッシュからカントーに帰って来たトレーナーの話だとイーリスは女性としては史上最年少のチャンピオン──男性を含めると三番目に若いチャンピオン──となり、今も現役のはずだから有名なはずだが……もう引退してしまったのか?
「イッシュ地方のチャンピオンの名前だがもう別の奴に変わったのか?」
「……イッシュの地方チャンピオンなら知っているわ」
「是非とも会わせてくれ」
即答だった。もしその紹介してくれたチャンピオンがイーリスでなくとも問題ない。俺がここに来た理由は雲隠れだけじゃなく、リーグ出禁をなくしてもらえるように呼び掛けようとしているからだ。
「わかった。彼女はソウリュウシティのソウリュウジムで待っているわ」
アイリスがソウリュウシティの街中に入っていき、それを見ていた俺はリックをモンスターボールから取り出す。
「リック、ソウリュウジムまでいくぞ」
『本気ですか?』
「無論、先ほどガラマメを食べたんだからその分運動しないとな」
『ヒィーッ!』
「ただし、栄養補給の時間も取るから安心しろ」
俺がそう告げるとリックが信じられないと言った表情で俺を見つめる。普通ダイエットをするなら食事は取らない方がいいと思っているようだが、そんなことはない。
確かに食事を少なく、運動を増やせば体重を落とせるが運動するカロリーが足りないから運動しようにも出来ないから無茶だ。
ではどうするかというと一日に数回に分けて食事をし、運動をさせ続ける。そもそも脂肪は身体の燃費しきれなかったカロリーが余分な体重として蓄積されてしまったものだ。よく減量しようと食事の回数を減らすバカがいるがそれは逆効果。食事の回数が少なくなると一回あたりの食事の量が多くなり、腹も減りやすくなる。腹が減ると次に食べる食事からカロリーを全て取る身体に変化していき、使われないカロリーは脂肪となって蓄積されてしまう。ところが数回に分け、少量の食事にすればそれがなくなり、無駄なくカロリーを消費するようになる。もっとも運動をしないと意味がなくなってしまう為に多少スパルタになってしまうのが難点だ。
『ほ、本当ですか、サー?』
「ああそうだ。さっさと走れ」
『サー、アイアイサー!』
リックが歓喜し、ソウリュウジムまでゴム毬のように跳ねていく。サザンドラだから飛べよ……
『到着!』
「よし、それじゃ入るぞ」
リックにポケマメをあげて中に入るとそこに立っていたのはガチムチの逆三角形体型の筋肉爺さん。いかにも厳格そうな雰囲気を醸し出している。
「お前がシックか?」
「そうですが」
威圧的に話かけられ、短くそう返事しか出来なかった。
「アイリスから聞いている。着いてきなさい」
間違いない……! この威圧感はチャンピオンだ。
そう思いながら、着いていった先にはポケモンバトル用のバトルステージが用意されていた。
「ここは本来、ソウリュウジムのジム戦で使用するステージだ。しかしアイリスにどうしてもエキシビションマッチを開催したいと言われたから貸すことにした」
「貸す?」
どういうことだ? この人がチャンピオンじゃないのか?
「そうだ。思い切りチャンピオンにその思いをぶつけてみたまえ」
そしてその老人に誘導されると再び、人影が見えてくる。ただし先ほどのアイリスとは髪型も服も違う……誰なんだ?
「待たせたわね、シック」
だがその先から聞こえてきたのは確かにアイリスの声。もしやと思い、顔を覗くとそこにはアイリスの顔があった。
「なるほどそういうことか」
それを見て俺は納得した。
「そうよ。イッシュ地方チャンピオンとはあたし──」
「チャンピオンはアイリスとは双子だったのか」
そう、アイリスと地方チャンピオンは姉妹、それも双子の関係だ。だからアイリスがコンタクトを取れたんだ。
「違うわよ! 正真正銘、貴方とさっき会ったばかりのアイリスがイッシュ地方チャンピオンよ!」
「……本当か?」
「本当よ。ねえおじーちゃん」
「そのとおり。彼女が現イッシュ地方チャンピオンのアイリスだ」
イーリスじゃないのか? いや……あり得ない話じゃない。イーリスはアイリスとも読めるから全然不思議な話ではない。
「なるほど……それでこのステージを用意した以上、アイリスは俺とポケモンバトルをしたいってことでいいのか?」
「ええ。あの動画を見たら誰だって戦いたくなるわ。でもあたしは貴方と戦う資格はないと思い込んでいた。あのとき許して貰えるまでは」
なるほどそれで逃げようとしていたのか。
「でも今は違うんだろ」
「ええ……アイリス個人としては貴方のポケモンとポケモンバトルを通して触れ合いたい。イッシュ地方チャンピオンとしてはシロナさんの仇を討ちたい……あたしの挑戦受けてくれるかしら?」
「良いだろう。ただし条件がある」
「条件?」
「俺が勝ったらリーグ出禁を取り消すように呼び掛けてくれ」
「勿論!」
アイリスが掛け声と共に取り出したポケモンはリックと同じ種族のサザンドラ。メタボなリックとは違って痩せており、宙に浮かんでいる。
「リック、お前の出番だ」
『サー、イリア殿の戦闘が少ないと思いますが』
「なら仕方ない。お前の運動不足の解消相手はアイリスのポケモンじゃなくギラギラに変わ──」
『サー! あの小娘のポケモン全滅させてみせましょう』
ギラギラの名前を出した途端にこれだ。ギラギラのポケモンバトルはえげつないからな。
「よし、準備OKだ。アイリス、やろうか」
「それじゃいくわよサザンドラ。りゅうせいぐん!」
いきなり、りゅうせいぐんかいな。
りゅうせいぐんは竜タイプの特殊技としては最高クラスで威力は強力だがその分能力が下がりデメリットも大きい。りゅうせいぐんを使う時は両刀使い──物理も特殊両方使えるポケモン──か、打ち逃げか、あるいは白いハーブという能力を落とす効果を一度だけなくす道具を持たせるかのどれかだ。
両刀使いのポケモンはボーマンダやジャラランガに適性があるが、サザンドラは特殊技が強く物理技を使う選択肢はない。となれば打ち逃げか白いハーブを持たせるかのどちらかだが、チャンピオンはほとんど打ち逃げをすることはあり得ず居座ることが多い。
「リック、受け止めろ」
『サー、イエッサー!』
俺の指示に従い、りゅうせいぐんを受け止め、リックがアイリスのサザンドラに視線を向ける。俺がリックにそう指示させた理由はリックはやたらタフネスで、レックウザのりゅうせいぐんですら三回も耐えてしまう程の耐久性があるからだ。
「リック、りゅうのはどう」
『サー! イエッサー!』
リックのりゅうのはどうがアイリスのサザンドラに炸裂し、その場に倒れる……耐久型じゃないのか?
「サザンドラ戦闘不能!」
アイリスのサザンドラが戦闘不能となり老人──シャガさんがそう宣言するとアイリスが笑みを浮かべていた。
「私のサザンドラが一撃で……! お疲れ、サザンドラ」
サザンドラをしまい、アイリスが口を開く。
「リック、貴方は間違いじゃなかったわ。そこまで強くなれたのは間違いなくシックのおかげよ」
『小娘、知った口をきくな』
「こ、小娘ぇっ!?」
うん? アイリスはリックの声が聞こえるのか? だが、この様子を見ると間違いじゃなさそうだ。
『そもそも貴様があの(差別用語の為、削除されました)を同郷出身だからと言って庇ったのが原因で出会うのが遅れたんだ。もし遅れてなければ──』
「よせリック」
『しかし!』
「アイリス、リックに同情するなら次のポケモンで勝ってみせろ」
「……そうね。認めたくないけどいまのあたしにリックをどうこうと言えるわけじゃない。勝者となって言わせてもらうわ!」
アイリスが次に取り出したのはオノノクス。こいつはガブリアスのようなタフさや攻撃力、そして素早さこそないが、物理攻撃と素早さを上昇させる変化技のりゅうのまいを覚えるのと特性かたやぶりを持っているポケモンで一度積まれたら、しんそくが使えるイリアやしんかのきせき──進化前のポケモンに持たせると物理防御と特殊防御が大幅に上昇する──持ちポリゴン2などタフさに定評のあるポケモンでない限り突破することは不可能だ。
「オノノクス、りゅうのまいよ!」
「リック、りゅうのはどう!」
やはりと言うべきか、オノノクスにりゅうのまいを指示し、物理攻撃と素早さを上昇させた。その隙を逃すはずもなくりゅうのはどうを放たせ、攻撃する。しかしオノノクスは倒れない。
「タスキ持ちか」
タスキ持ち。きあいのタスキを持っているポケモンの略だ。きあいのタスキはきあいのハチマキと同じく攻撃を受けても耐えきる道具だ。ただしタスキはハチマキとは違い一度だけでかつ体力が満タンの状態でしか発動しない。しかしハチマキは通常発動する確率は10%で不確定要素が絡むのに対してタスキは確実に耐えてくれる。その為ダンのようにハチマキを持っているのは珍しく、タスキを持たせるトレーナーが多い。
「オノノクス、反撃ーっ! ドラゴンクロー!」
オノノクスのドラゴンクローがリックに直撃し、ダメージを負う。これでリックが通常のサザンドラであれば倒れていただろう。
『そんな程度の攻撃でどうこう出来るとでも思ったか?』
だがそれを耐えきってしまうのがリックだ。リックは特性ふゆうを失った代わりに異常なまでのタフさを身に付けている。大事なことだから何回も言わせてもらう。
そしてリックが右手にあたる頭と左手にあたる頭でオノノクスを掴む。
「オノノクス、連続でドラゴン──」
「リック、りゅうのはどう!」
アイリスの指示を途中で遮り、リックがオノノクスの全身にりゅうのはどうが直撃する。世間一般的に特殊攻撃が強いと言われるサザンドラであるリックの特殊攻撃を二度も、しかも効果抜群の特殊技を受けて無事でいられる訳がない。
「オノノクス戦闘不能!」
「……負けちゃったか。お疲れ」
アイリスがオノノクスをボールに収納し、白旗をあげる。レッドさんといい、どうしてそんなに準備がいいのかわからないところではある。
「トレーナーアイリスの降参により勝者シック」
それにしても何故シャガさんは審判をしているのか、と考えていると思い当たることがある。この試合はエキシビションマッチ、つまり公開試合だ。非公式戦ではあるが野良試合とは違って観客や審判もいる試合だ。
「アイリス、何故降参した?」
それにつけても謎なのが降参したことだ。レッドさんとは違いアイリスは地方チャンピオン。シロナさんのように降参しない方が当たり前だ。彼女らのポケモンにはチャンピオンのポケモンという意地があり、降参してしまえばチャンピオンという肩書きが下落してポケモン達は信頼しなくなり戦わなくなってしまう。シロナさんが降参しなかったのは主にそれが理由だ。
「あたしがイッシュ地方チャンピオンという肩書きで戦っていたなら降参なんてしなかったわ。だけど今のあたしはただのトレーナー、アイリス。あたし個人の感情で戦う訳には行かないわよ」
確かにそうだな。地方チャンピオンはすべからく負けず嫌いでないとやっていけない。しかしその負けず嫌いな性格のせいでポケモンを犠牲にしてしまう。アイリスはそれを恐れたのか。
「それに……リーグ出禁がなくなればシックと戦える機会があるからその時にリベンジさせてもらうわ」
いや、違った。アイリスは敢えて俺との全面バトルをしなかった。そうすることで未練が残り、余計に戦いたくなる。つまりモチベーションの維持させる為だけにそうしたんだ。これは中々出来ることじゃない。ポケモンとの信頼を築き上げたアイリスだからこそ出来るが他のチャンピオン、いやほとんどの連中には出来ない。それが出来るのはレッドさんくらいのものだろうな。そういった意味では次に戦う時はアイリスが一番厄介だ。
「なら、俺はリーグ出禁が解けるまでの間、さらに修行して強くなる。その時まで待っていろ」
リックにポケマメをやり、収納して俺は修行場を求めその場を去った。
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