尊み殺しを最近怠っていたので殺す努力をしました(なおしばらく尊みはない模様)。いつもより優しい世界観です。
アズレンを欠片も知らなくても「艦船擬人化」だけ分かっておけば読めます。アズレンミリしらを引きずり込んでやる。
2018/7/23 全話で重い漢字使いなので軽く修正。
「…………なあ、赤城はなぜか分かるか?」
夜。艦も減り始めた食堂で思い詰めた表情の空母と、それを冷たい目つきで見つめる空母で合わせて二隻。二人用の席で向かい合っていた。
長い射干玉の髪と狐のような耳が特徴の空母、赤城。彼女は向かい合うエンタープライズを冷たく見据えたまま、呆れたように息を吐いた。
「なんで私なのかしら」
赤城が問う。銀髪の方――――エンタープライズはグラスの氷を見つめると言葉に詰まらせた。
銀髪の髪に紫水晶のような澄んだ瞳。赤く歪んだ赤城の昏い目とは対照的で、赤城はそんな彼女が嫌いだった。
エンタープライズが脱げそうだったチェスターコートを肩のすぐ下まで押し上げる。
「赤城は指揮官をいつもストーキ――――――見ているだろう? あなたなら何か分かるだろうと思って」
「ものを尋ねようという立場にしては言ってくれますね、エンタープライズ?」
――これでオブラートに包んだのだが。
赤城の指揮官への好意は常軌を逸していた。指揮官もそんな彼女の激しい――――いや、敢えて言うなら「重すぎる」愛には頭を悩ませているのも事実。
とはいえ今は相談を持ち掛けた側。言いたいことは飲み込む。
一方、赤城も意外なことだが気を回している。
普段なら取り合うこともなく無視をするだけの話なのだが、今日のエンタープライズはどうにも覇気がなくて張り合いに欠ける。彼女はエンタープライズを好ましく思うことなど天地がひっくり返ってもないのだろうが、それ以上に空回りしているのを見るのに耐えられない。
「それで? お前が指揮官様に避けられる、なんて絵面は想像ができないのですが」
赤城の言う通り、エンタープライズと指揮官の関係性はかなり良好な部類に入る。余程の意見の食い違いでも無ければ仲違いが想像もつかない。
盲目的な愛を向ける赤城だが、決してその現実が見えていない程視野が狭い訳でもない。というより、盲目的に指揮官を見ているからこそ好意や意図は容易に汲み取れる。
だから想像できない。赤城の私情を抜きにするなら、上官と部下としては殆ど最上級――――もしくはそれ以上の関係性に見えるのは間違いないのだから。
「私だって初めてだ…………だから聞いているんだ」
エンタープライズがわざわざ嫌われている筈の赤城にまで縋るのはそういう理由だった。
表情に陰りを見せるエンタープライズに赤城は苛立ち気味に言い捨てる。
「知りませんよ、機嫌を損ねることでも言ったのではなくて?」
そうなのだろうか、そう言うとエンタープライズは真面目に考え出す。
――いや、適当に言ってみただけなのですけど。
赤城は妙に真面目なエンタープライズにほとほと困り果ててしまう。
彼女達の反りが合わない事に敢えて明確に理由をつけるなら、どう言ってもカンレキに依るものが大きい。真珠湾攻撃、ドゥーリットル空襲、そしてMI作戦。順風満帆であった赤城の戦績に陰を生み、そして終止符を打った者こそがエンタープライズだ。
そしてこの性格。エンタープライズは真面目で、普通で、真剣で、強い。不真面目とは言わずとも、常識と遠いアウトローに生きる赤城としては眩しい、というより眼が灼けるような目障りな存在だった。
呆れた赤城が仕方なく新しい案を提供した。
「直接お聞きなさいな、私に聞くなんて遠回りも良いところでしょう。お得意のスケコマシスマイルで指揮官様をコロっとダマせば答えは得られるでしょう?」
「スケコマシ、とは随分な言われようだな…………ははは」
言った側から覇気のない笑みを見せるエンタープライズ。赤城は小さく鼻を鳴らした。
――言い返しもしないのがシャクにさわるのよ、お前。
この態度だって赤城は苦手だ。他と比べて明らかに当たりがキツかったり、棘のある言葉を向けてもエンタープライズは反撃の兆候を見せない。
流石に避けられたりこそしたが、赤城なら恐ろしい報復をするところだ。手ぬるい。
「聞けば良い、というのは全くの正論だ」
「そう思うのなら、私にいちいち聞かずに―――――」
「…………聞くのが怖いんだ」
は、と赤城が思わず聞き返す。
エンタープライズも海軍カレーを食べ終えたか、と思うとグラスを煽って目を伏せる。
「だから、怖いと言った」
「寝ぼけてます? 真っすぐ行って右ストレートみたいな性格だと思っていたのですが?」
「右ストレートはともかく、自分でもそういう性格のつもりだ」
乾いた笑いで誤魔化したエンタープライズに赤城が少しばかり苛立つ。
――調子が狂うわ。本当に、イヤな女。
掴みどころのない飄々とした立ち居振る舞いをする空母では有ったが、今日は加えて頼りないと来た。吹けば紙飛行機のように飛んでいく勢い。
流石に赤城も気色悪いというか、本格的に心配し始める。
「何が怖いのですか」
「…………もし、嫌いになったと言われたら。なんて考えてしまうのだ」
「コフッ!?」
赤城が吐血した。
――何、ひょっとしてギャグで言っているのでしょうか!?
急いで近場のティッシュで口元を拭い取ると、少し血相を悪くした赤城が食い気味に目を血走らせる。
「そ、それで? 続けなさい」
「い、いや。血を吐いたじゃないか、とりあえず医務室に――――――」
「続けなさい、と言ってるのよ」
赤城が紅い瞳で睨めつけると、蛇に睨まれた蛙のようにエンタープライズが止まってしまう。
彼女の視線は理由はともかく妙な威圧感を常に帯びている。本人はいつもなるべくニコニコしているつもりだし、別段物騒な言動ばかりしているわけではないがこうなってしまった。
この時ばかりは妙な目つきも役に立った、と赤城は内心ガッツポーズ。
「だ、だが乗り気でもないのだろう? 無理にとは」
「つまらない恋愛漫画でも山場の前まで来れば読まずにいられないモノでしょう!? いいから早く続けなさいな!」
「は、はい…………?」
一人で沼に嵌ってしまっている赤城に巻き込まれる形で有耶無耶に納得してしまうエンタープライズ。
――というか、なぜ恋愛漫画が引き合いに出てきたのだ?
勿論エンタープライズはさっぱり分かっていない。一応赤城を気遣って早く終わるように話を軽く纏めてから喋りだした。
「指揮官と言葉を交わすのが最近はとても怖いんだ」
「はい、それで?」
「何か喋る度にどう思われているか気になるし、前までは食事に誘うぐらいは何ともなかったのに今はためらってしまう」
「はい。次」
「ちょっとした態度を思い出して、嫌われたのではないかと不安になる」
赤城は目に見えて不機嫌になった。
「――――――何でお前は私に砂糖を吐くのかしら、何で私はそれに何だか謎の満足感を感じてるのかしら、分からないわ。全部分からない、やっぱりお前は嫌いよ」
「な、なぜだ!? 理不尽な!?」
珍しく動揺したエンタープライズが頭から帽子を落としてしまう。
赤城からしても同じような反応だった。前々から妙な所が抜けているな、程度には思っていたがそこまで重症だとは思っても見なかっただろう。
大体、その見た目に反して初心すぎてまさしく砂糖を吐かれている状態。最早砂糖シャワーである。
赤城は溜息をつく。エンタープライズはさっきから妙な様子の赤城が怖いのだろう、溜息一つでピクリと肩を震わせた。
「…………ええっと、一応聞きますが自分で分かりません? 何だか漫画で見たなー、とか聞いたことはあるなー、とかで心当たりは?」
「あったら赤城に聞きに来ない」
「………………はあ~~~~~~~~~~~~~~~~」
えげつない長さの溜息が漏れる。言葉も出ないという感覚を久方振りに味わった気分らしい。
――娯楽も一般常識も足りないのが私達ですが、こういう弊害が出るのってどうなのかしら。
赤城とは思えない真っ当な上層部への不満と、わざわざ聞かせに来たエンタープライズの嫌がらせとしか思えない言動への恨みと、昼間に指揮官に頼まれた事――――その他諸々、出来るだけ、吐き出せるだけ赤城の全てが次の一言に籠められた。
「そういうのを巷では恋と呼ぶのよ。私に話をするヒマがあったらアプローチでもしてくることね、この根性なし」
「なっ!?―――――根性なしだと!?」
妙な所に反応するエンタープライズに赤城はいよいよ体調を悪くした。
目が覚めると、最初に映ったのは見知った天井。と言っても、数えるほどしか見たことのない医務室の天井だが。
あのまま運ばれたのだろうか、赤城は特に記憶がない。確かエンタープライズをやたらと言いたい放題言ったことまでは彼女も覚えているのだが、直近の記憶を辿ろうとすればするほど曖昧だ。
「赤城、一体何が有ったんだ? とてつもなくうなされてたんだが」
ふと横を見ると、心配そうに赤城の手を握る白づくめの優男。
白い執務服に乱雑にくくられた黒髪が特徴の指揮官だ。彼の目は重桜でも珍しい純黒で、何でも彼自身が自分以外でそんな人間は見たことが無いのだとか。
握られていた手の暖かさに気付いたのだろうか、赤城が顔を発火したように赤くすると手を乱暴に振りほどく。
――あ。
赤城よ、時既に遅し。
「え!? あ!? いえ指揮官様これは深い事情が――――――!」
「いや、良いんだ………………やっぱり男に手を握られるのは気持ち悪いよな俺もそうだろうと思うよ…………」
「違います! 違うのです指揮官様!?」
項垂れて軽く涙すら浮かべる指揮官に肩を持って必死に弁明する赤城。
彼は転生者――――――もっと直接的に言ってしまえば、
これが中々曲者で―――――いや、本題に戻ろう。
指揮官は良いんだ、と肩から手を払うと力なく笑って仕切り直す。コイツはこういう奴である。
「それで、良ければ何で倒れたのか聞きたいんだ。今後も取り計らいが必要かもしれないしな…………」
「ああ、そういう事でしたら――――――!?」
赤城が喋りそうになったところを口を塞いで思考を巡らせる。
――待て、待つのよ赤城。エンタープライズが好意を持っているだなんて情報が指揮官に渡ってしまっては大問題よ! 何よりエンタープライズの方に問題しか無いのにもしものことが、いえそんな事は無いでしょうけれどあってしまっては困るわ!? そんなふわふわした女に指揮官様を任せるだなんて屈辱私は許しませんよ!
何やらいろいろ考え込んだが、結局の所
「ええっと、少し立ちくらみを起こしただけです。きっと先日に用があって夜更かししてしまったので、それが響いたのでしょう。ふふ――――――はははは!」
明らかに不自然な上ずった笑い声に、指揮官は首を傾げつつも
「…………そ、そうなのか。それなら良いんだ」
と言って話を済ませてしまう。何故此処まで露骨なのに疑えないのだろうか。
指揮官は良かった、と心から安心したように笑う。
「赤城が原因不明の奇病とかだったらどうしようかと。俺の貯金じゃ足りないだろうしなあ…………」
「心配症ですね、指揮官様は」
さり気なく自分の貯金で善処しようとする辺りがこの男のあざといというか、好かれるポイントだったりする。彼は普通である以上に腹立たしい程の善人なのだ。
姉を心配する子供のような言動に赤城も頬が緩む。
――そう言えばあの女はどこでしょうか。
「指揮官様、エンタープライズはどこへ?」
「え? エンプラちゃんなら何か難しい顔してどっか行っちゃったぞ、赤城は任せたって言われたから俺が此処で見てたって訳だ」
――仇敵ながら過去最高にナイスよ、エンタープライズ!
内心ガッツポーズ。恐らくエンタープライズにはこんな様子の赤城が想像できただろうし、だから指揮官に任せた面があるのだろうが其処まで赤城には気が回らない。
手の感触を気持ち悪いほど脳裏で反芻しながら赤城が続ける。
「何か言っていましたか?」
途端に指揮官が頭を掻いて
「あー、えーっと、それは、あのだな…………」
と歯切れの悪い返事になってしまう。
――やっぱり、そういう事ね。
赤城はカレンダーが7月であることを確認するなり、指揮官に詰め寄って尋ねる。
「指揮官様、エンタープライズにサプライズでも考えておいでですか?」
「何故バレたし」
赤城は最初からおかしいと思っていたのだ。
エンタープライズは赤城が嫌いこそすれど、人に辛く当たられるような性格とはとても言えない。
「指揮官様のことですもの、赤城に分からないことなんてあるはずがありませんわ~」
好意が一方通行な事実には気付いていない疑惑が有るが、まあ言っても仕方ないところである。
指揮官が降参、とでも言わんばかりに手を上げると言いにくそうに事情を喋り始めた。
「いやー、それで頼み事が有ったから来たのが3割ぐらいの本音でな…………」
「指揮官様たっての頼み事なら赤城はどんな事でも快諾いたしますわ」
それは心強い、とにへらと笑う。
――指揮官様は隠し事が下手な方ですから、避けるような形になっても仕方ありませんね。
要するに、二人共何らかの好意的な感情が一方通行というわけである。
指揮官は暫く言葉を選びかねるように視線を右往左往させて悩んでいたが、段々と決心がついてきたのだろう。最後には意を決したように真っ直ぐに赤城の眼を見た。
「エンプラちゃんへのプレゼント選び手伝ってください! お願いします、この通り!」
頭を下げて手を高く合わせる。予想がついていたとは言え赤城はトンカチで殴られた気分になる。
――いえ、分かっていました。指揮官様はそういう方ですもの、だから私は愛しているのですもの。けれどこれはやはり愛の試練ね疑いようもないわ。
けれど愛する者の頼みと有っては赤城も躊躇うことはなし。引き攣った笑顔を必死で続けながら
「わ、分かりました…………一航戦の名に懸けて尽力させていただきましょう…………」
と仕方なく快諾するしか無いのである。
惚れた弱みとは、まさしくこのような事を言うのだろう。
昔の話だ。
『素直で誠実に生きていくのが願いだ。だから意見があったらこっちから遠慮なく言わせてもらう。そっちも考えがあったらなんでも遠慮なく言ってくれ』
彼女はそう言って力を振るった。
今では何故そんな事をわざわざ言ったのかが分かる気がする。それはきっと、彼女がそうでありたかった――――実の所それだけなのだ。
他人に素直に。他人に誠実に。他人に。他人に。他人に――――――けれどそこには、いつも自分が足りていない。
彼女は強い少女だった、それは実力だけでなく心もだ。俺に比べてずっと問題をよく見据えていたし、ずっと多くの問題に立ち向かってきていた。
――だから俺は、彼女に甘えてしまった。
強さに。正しさに。俺は弱い人間だと開き直って、彼女の在り方に甘えてしまった。
今でも思う。アレは大きな間違いでしか無かったのだ。
『天の光は全て星、海の光は全て敵…………指揮官、争いのない日は果たして来るのだろうか』
俺は彼女が見せた光に眼を眩ませた。正しさに寄りかかった、彼女の在り方を肯定してしまった。
――最低だった。
その強さが何で出来ていて、その先に何が有るのかを俺は何も見なかった。
俺はまるで彼女を、英雄か何かと勘違いしてしまった。当然に正しくて、当然に強いものだと思いこんでしまった。
彼女はどれほど強く見えても、正しく映っても――――――結局の所。少女であることを、俺は失念してしまったのだ。
ちょっとばかし捏造がありますが、王道進行なシリアスラブするだけとなります。お誕生日おめでとう、エンタープライズ。金がありゃ月の土地の権利書でもくれてやるんだがな。
アバーズレーンとかいうカオスな小説も書いてます。読み比べると同一人物が書いたのか疑うと思う。
中原麻衣さんがはたらく細胞に出てたからずっと赤城で脳内変換されてた。
ミリしらでも何とかなるキャラ紹介(当小説に限る説明)
【エンタープライズ】
素直クール主人公系空母。よく砂糖を吐く。
他所より少し自己犠牲が強い。おっぱいのついたイケメン。
【赤城】
ヤンデレストーカー悪役系空母。よく毒を吐く。
他所より少しまともになっている。濃縮率に難アリの愛の化身。
【指揮官】
クソザコ優男童貞系軍人。二日酔いでよくゲロを吐く。
他所よりだいぶメンタルが弱い。意外と見かけない転生野郎。