メインディッシュは各々お楽しみ下さい、そんな酷い感じで終わります。
「私と休憩でもどうかしら、エンタープライズ」
「………………Repeat please.」
思わず母国語に戻るエンタープライズ。訓練が終わって漸く休憩だ、彼女が汗を拭いながら昼食に思いを馳せている時に赤城はやってきた。
――何? あの赤城が、私と?
思わずエンタープライズが問う。
「だ、大丈夫か? 頭でも打ったんじゃないか、取り敢えず医療室に…………」
「お前は私を何だと思っているのかしら」
「何って、赤城だ」
――指揮官様の押し売りのつもりなのかしらね、コレ。
赤城は不満そうに鼻を鳴らすが、これは鎮守府の誰が見ても10人中9人、いや30人中29人が異常事態と判断するだろう。
最近の会話量の多さだけでも周りからまことしやかに「赤城は罰ゲームでもさせられているのでは」などと囁かれる始末なのに、そりゃあエンタープライズも動揺する。
赤城はイライラしてきたのだろうか、急かし始めた。
「それで、はいかいいえかどっちかしら?」
「何故食い気味に休憩の同伴を迫られているんだ…………!?」
全くその通りである。
しかしそんな文句をたれている猶予もないらしく、じわじわと赤城が詰め寄ってくる。
――この圧には逆らえない。
あと一歩で息のかかる距離、という所でお手上げという様子でエンタープライズが手を上げた。
「分かった、分かったとも。戸惑っただけで別に嫌とは言っていないだろう?」
「そう、じゃあ先に席は取っておくわ」
急にあっけらかんと踵を返す赤城に、エンタープライズは頭にハテナマークばかり浮かべたままに片付けに入る。
「………………」
「………………」
食堂は凍りついていた。理由は言うまでもなくこの二人のせいである。
独りで悍ましいオーラを放っていた赤城の前に座るだけでエンタープライズは一苦労だったが、かと思えば黙々と進む食事はもっと辛かった。
何よりその異様な空気感に周りがどよめいてコチラを見ているのがエンタープライズには一番堪えた。何もしていないのに、という意識が有っては当然辛い筈である。
耐えかねたエンタープライズが、漸くの思いで声を絞り出す。
「な、なあ赤城…………一体何の用なんだ?」
「――――――お前、指揮官様の何処が好き?」
「ええ!? い、いきなり何!?」
思わずエンタープライズが素に戻る。食堂に入る半分が彼女の素の声を初めて聞いたもので、どよめきは大きくなる。
赤城は冷たい目つきで「早く」とだけ急かしてくる。
――何で私、こんな所で公開処刑されるんだろ…………。
流石のエンタープライズもタジタジになるが、有無を言わさぬ目つきに仕方なく言葉を絞り出す。
「何、と言われても分からない…………言ったじゃないか、それが本当なのかも分からないと」
「呆れた。言葉に出ないと?」
「そうだ」
赤城が心底呆れた、と言わんばかりに大きな溜息をつく。
「何と薄っぺらい愛なのかしら。お前、本当に好きなの?」
「だから分からないと」
「お前の行動はお前の口より雄弁よ。なのにその幼さ、指揮官様も見る目がありませんわね…………」
やれやれ、とでも言いたげに肩を竦める赤城。何だか小馬鹿にしたような仕草は赤城らしくもない。
――何だ、何がしたい。
何処かオーバーアクションのままに一人芝居が周りだす。
「例えば顔付きであれ評価は有って然るべきじゃないかしら、特にあの目。伽藍堂に精一杯何かを詰め込もうとしているあの目は、人間らしくて堪らないとは思わなくて?」
「…………いや」
エンタープライズの声は静かだった。
赤城は続ける。
「あの歩き方もとても好ましいわ。自信が無いと言いながら、自堕落と嘯きながらもあの整った歩き方。まさしく人間性の写し鏡よ、見れば見るほど愛おしい」
「――――別に、そうでもないだろう」
何処と無くエンタープライズの機嫌は悪いように聞こえた。
「無遠慮に喋るようで気を張り巡らせる様子も素晴らしいわ、私はあの手の人間が大層好きみたいなのよね」
「それで?」
赤城がずいと顔を近づけた。
「
「そういうものではない」
初めて返ってきた強い否定に、赤城の口元がニヤリと歪む。
――やっと出てきた。
「あら? 誰かが好きだ嫌いだなんて、所作を集めて総合評価するだけのものではないのかしら?」
「違う」
「人を愛するっていうのは、総合的に合格な相手を見繕うことではなくて?」
「違う!」
「では、何ですか?」
「それは――――――――!」
エンタープライズが赤城の胸元を引っ張り寄せるなり、紫水晶の瞳を鋭く輝かせる。
「そうじゃない! 良い所も、悪い所も、嫌いな所も、好きな所も全て含めて尊く思うことこそが好意だ! そんな何処かの試験の採点のような下らない考え方で、優劣をつけて他者を愛して良いものではない!」
「全て肯定しろと言っているんじゃない。汚点も、弱点も、全て含めて私は指揮官が好きなだけだ――――――ッ!」
赤城の嗤いが、止まった。
「…………遅いわ、結論が遅すぎるのよ。お前はすぐ考え込んで、こんな簡単なことも忘れるわ――――――愚か、やっぱりお前は嫌いよ」
力むエンタープライズの手を簡単に振りほどくと、つまらなそうに酸素コーラのストローをゆっくりと吸い始める。
「さっさとそれを言ってきなさい」
「…………何?」
拍子抜けしたエンタープライズが呆けた顔で尋ねる。
「私が根本から間違えていました。お前に小細工なんて無理よ、ストレートしか投げられない
立ち上がったエンタープライズを、ふいっと片手で席から押しのける。
「な、何だ急に? 調子が狂う…………」
「さっさと三振を取ってきなさい、ホームランを願うばかりだけど多分――――――――そうね、まあ半々かしら」
「だから何を――――――」
じれったい女ね、と赤城がうんざりしたような顔でぴしゃりと指をさす。
「そのまま言えばいいのよ。どう好きなのか、どう大事に思ってるのか、どうなりたいのか」
「お前はそれが一番よ――――――――綺麗事過ぎて、私は嫌いですけどね」
――でも、どうあれそれは指揮官様の為になる言葉。
彼は専らエンタープライズが立ち止まったままだと勘違いしている。それは足枷であり、彼の自信を砕いた一つの要因なのだろう。いや、もしくは彼が自信がないと『思う為の』道具なのかも知れない。
だが。赤城が見るに彼の出した結論はエンタープライズを立ち止まらせたものではないと思えた――――――むしろ、出会わないよりはずっと前に進んでいる。
何せ、分からない感情を赤城に尋ねたその時から、彼女はきっと昔とは違ったのだから。
――それは、伝えるべきことよ。私に不利益であろうと、敵へ塩を送る行為だとしても、それは解決しなくてはいけない。
赤城はエンタープライズが嫌いだ。指揮官が好きだ。指揮官が好きなエンタープライズはもっと嫌いだ。仲良くなるなんてまっぴらごめんだ。
でも。
――――でも?
理由はわからない。
「お前、カーブなんて要らないのよね。ストレートで勝っちゃうのよ…………大嫌い、やっぱり大嫌い」
「でも。指揮官様の為を思って、エンタープライズに私は思いつく限りの最適解をぶつけて差し上げます。真っすぐ行って攫ってきなさい」
「かくして無事、二人はケッコンしました。めでたしめでたし――――――姉さま、しっかりしてください」
「こ”れ”か”飲”ま”す”に”い”ら”れ”ま”す”か”…………うぅ~」
赤城は妹を巻き込んで自棄酒をしていた。
結果から言うと赤城の目論見は見事大成功、二人きりの執務室で二人は愛なんて誓いあってハッピーエンド。影の功労者の赤城は置いてけぼりで、何だか綺麗な感じでトゥルーエンド。
確かに彼女からすれば、かなり辛い内容である。ありきたりで、語るまでもないくらいで、でも良い話。赤城はまあ、仕方ないと。
思おうと思ったが思えない。そりゃそうである。
「これでいいのよ、正しいのよ赤城…………あんな癪な女でも! 指揮官様は選んだのよ! そうよね加賀!?」
「ま、まあそうだろうな。正しい、大丈夫だ、指揮官はきっと上手く幸せになるさ。ああ、加賀が保証しますとも」
テーブルにへたりこんでメソメソする赤城の頭を撫でる。
「見てなさいよ…………お前みたいなありきたりな安っぽい恋愛漫画のような顛末になんてしてやらないわ。予想もつかない紆余曲折で最後は私が一位なのよ、お前は負け組なんだからぁ!」
「はいはい、姉さま。もう一杯飲みますか」
「飲むわ!」
この晩酌は一夜続き、流石にエンタープライズも次の日から赤城には頭が上がらなくなったという。
拘りなのだろうか。
赤城は「自分が一番だ」とは言うが、二人の関係性について全く否定はしないらしい。口では言うが優しい方なんだ、と指揮官に加賀はいつも笑って返事する。
お久しぶりです、何とか完結。雑にまとめてごめんなさい。
一年ぶりに読み直して「赤城さん、良い人…………」とだけ感じていました。以上。過去の私とは別の私がお送りしました。続きは各自お楽しみください。
でもきっと、一年前の私も赤城について書いていたんじゃないのかなと。
適当に書こうと思ったんですけど何か短編二位の人居るから頑張った…………。とーきどきこういう事ありますよね、びっくりして心臓止まるというか。