無限螺旋英雄譚   作:望夢

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Diesのアニメが終わってしまった。燃え尽きそうだ。

次はどんなアニメがあるのかなぁ。


1ー7 蝋細工の博物館

 

 1900年初頭。新世紀である20世紀になって数年。

 

 19世紀終わりの年に神の国の消失(プロヴィデンス・ロスト)が起こっている事は確認しているクロウは、この時代で最も物事の動きが把握し易いのはロンドンであった。

 

 ロンドンにあるミスカトニック大学ロンドン校付属学園――またの名をダーレス学園である。を、見張っていれば物語がどう動くのかというのは把握できるだろう。下手に覇道財閥やミスカトニック大学秘密図書館特殊資料室のお膝元をウロウロするよりかは余程安全である。

 

 そこまで警戒しなくとも良いのだろうが、クロウはナコト写本の主である。さらに言えば本自体はミスカトニック大学秘密図書館の蔵書だ。それに気付かれて厄介なことになるリスクを避けるのは当然だろう。

 

 以上の理由から、クロウは英国はロンドンの地に足を踏み入れた。

 

 しかしアーカムの1/3の神秘性とはいえ世界有数の魔都である。連日夜になればそこかしこで邪悪な気配は蠢いている。

 

 紅い刀を手に刃を振るう。

 

 セラエノ断章からクトゥグアに関する記述を手に入れたことで拵えた緋々色金製の刀である。

 

 オリハルコンと同じく錬金術で造られる超常金属であり、魔導合金としてどちらも鬼械神の装甲に使われている。

 

 緋々色金は魔導合金としては人の手でも造ることが容易である。というよりオリハルコンは魔術的要素が強く絡む為に人の手で造るのは容易とは言い難い。

 

 その点錬金術で造れる緋々色金は生産施設さえ整えてしまえば人の手で造れてしまう辺り、人の為の超常合金と言えるだろう。

 

 その柄には炎の魔術刻印による加工を施している。

 

 クロウ自身、火の属性適正は並みではあるが、風と掛け合わせる事でその威力は充分過ぎるほどに発揮できるのである。反面水にめっぽう弱い、土にも余り強くはないという欠点があるが、土方面はクロハの魔術で充分対応出来る。故に属性的に弱いのはやはり水であった。

 

 日銭を稼ぐ為に、フリーの魔術師として今日も化け物(フリークス)退治に勤しむ。

 

 しかし此方もフリーランスの所為か、巷では炎髪灼眼の幽霊だとか言われている。

 

 それも火事で死んだ幽霊やら、戦地に行って死んだ亡霊だとか。

 

 軍服姿で焔を纏っていたから仕方がないのかもしれないが。ミイラ取りがミイラになるような事にはなりたくないとは思いつつ、今日もクロウは紅い刀を手に焔を纏い、化け物を切り伏せた。

 

「どうだクロハ?」

 

「いえ。依然反応はありません」

 

 化け物退治をしつつ、クロウは死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)を探していた。

 

 死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)――恐らくはエドガーという死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)の中でもかなり野蛮で攻撃的。言ってしまえば子供がいきなり大人にされたらああもなるのだろう。

 

 白き王を相手にする前の予行も出来るのではないかという期待もあっての事だが、今はまだこのロンドンに姿を現していないようである。

 

 死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)との手合わせは序のようなものであり、物語のタイミングを計る為でもあった。

 

 マスターテリオンが何を考えて自分をこの時代に送り込んだかは未だにわからないものの、なにかをさせる為であるが、態々死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)と対峙するという安直な目的だけなのだろうか。

 

 これがまだ数年前ならばまだ目的がハッキリしている為に対処はまだ簡単だ。――或いはないことになるが故に好きに動けというフリなのかが、クロウには判断がつかなかった。

 

「しかし。ロンドンはこうも日夜怪魔が蔓延る物なのか…?」

 

 ロンドンに渡って数日だが、それだけでも既に両手では足りない程度の邪神奉仕種族や、混血、余りにも強い狂気や魔力に当てられて変質した魔術師モグリなど。そういう手合いを相手にしていた。

 

 その合間にわざと見つけてもらう様に魔力を大幅に垂れ流しているのだが、網には未だに引っかけられていない。

 

「恐らく邪神ズアウィアの復活が原因ではないかと」

 

 その疑問にはクロハが答えを示してくれた。数年前に起きた邪神復活は、魔を断つ刃の初陣でもあった。

 

 正義と悪の神が地球上で争ったのだ。邪神復活の影響で魔に属するものの動きも活発になったのか。或いは星辰の日に備えて活動を始めたか。

 

「うっ!?」

 

「なに!?」

 

 そんなふたりを突然照らし出した強烈な光に、クロウもクロハも強烈な光によって焼かれた目を庇いながら、その光に向かって注意を向けた。

 

暗いと不平を言うよりも~っ! 科学の灯りをつけましょお~~っ!

 

 スピーカーの割れ掠れる様な女性の大声と共に現れたシルエット。まるで潜水服の様な出で立ち。巨大な怪物の双眸を思わせる二つのアーク灯。間違いないと、その出で立ちにクロウはその存在を認めた。

 

我は、˝科学の騎士˝なりィ~~

 

 凄んでいる様なのだが、掠れたスピーカーの所為で変に不気味であった。

 

『見つけましたよ、炎髪灼眼の幽霊さん! この世に未練があるのはわかりますが、このロンドンを騒がすのならば、この科学の騎士があなたの未練を照らし出しましょう!』

 

 科学の騎士こと、オーガスタ・エイダ・ダーレスそのひとである。彼女とのエンカウントは想定の範囲内ではあるが、まさか人払いの結界が効果を発揮していない事には驚いた。人払いの効力以上に彼女の探究心が上回っているというのは考えたくはなかったが。

 

「如何なさいますか、マスター?」

 

 そういうクロハの影からは猟犬たちの唸り声が聞こえる。クロウの許可さえあれば、ダーレス女史はすぐさまこの世で最も救いのない神話的生物に狙われて食い殺されるだろう。

 

 それは流石に邪神から何か言われそうなので、クロハを手で制する。

 

「別に照らしてもらう様な未練はないさ。そもそも死人でもない」

 

 そうして転移魔術を起動する。魔導書の頁がパラパラと捲れる様に舞い散る。

 

『あ、あなたは――!?』

 

「また会おう。科学の騎士よ」

 

 クロウはそう言い残して転移する。覇道財閥とは変に事を起こす気は今のところはないので、関わらない事が一番の回避方法だ。

 

 転移したのは泊まり先のホテルである。

 

 パラパラと紙が舞い、転移術式を構成する紙束になっていたクロハが人の姿に戻る。

 

「追跡の気配もありません。やはり死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)はこの地にはまだやって来てはいないのでしょう」

 

 というクロハの結論を聞きながらどうしたものかと考える。

 

 別に死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)に拘る必要もないのだろう。この時代でやるべき事が何であるかの指定は未だにない。

 

 目的がないとなると逆に何をして良いのか悩んでしまう。

 

 そんなクロウの手をクロハが取って自分の胸に掻き抱いた。

 

「マスター。この世の遍く森羅万象はマスターのものです。マスターは、マスターの御随意に過ごされるのがよろしいかと愚考致します」

 

 クロハの言うことも一理ある。何も言われていないのだから好きに動くというのも良いだろう。

 

「クロハは賢いな」

 

「んっ、…マスター」

 

 右手はクロハに抱かれてしまっているため、空いている左手でクロハの頭を撫でる。指通りの良い更々の髪はいつ撫でても最高の撫で心地を約束している。

 

 手を引かれて、先にベッドに倒れ込んだクロハの上に覆い被さる様に倒れる。

 

 ドレスのスカートからはわざと足を太股まで覗かせる。今日はスパッツらしい。そんな太股の半分程度を隠す黒い魅惑のアイテムは熱がスカートの中で籠っていたのか、しっとりと濡れていた。そして女の子特有の甘い香りに誘われる虫のように普通の男であれば自制などせずに飛びつくだろう。

 

 だがそれではこの忠犬美少女の良さの1/10も味わえないだろう。

 

 肘で上体を支え、しかし下半身は膝で支えるという端から見れば尻を突き上げた不様な格好だが、これで良いのだ。

 

 肘で支えた上体はギリギリでクロハの身体には触れていない。

 

 頭にも触れずに髪の毛を掬って手の中でその感触を楽しむ。

 

「ま、ますたぁぁ……」

 

 クロハに触れているのは彼女が抱いている手だけだが、その手は決して動かさない。

 

 快楽を得ようと身体を動かそうとするクロハだが、胸に置かれた手で押さえる事で彼女の動きは制限される。

 

 身動きしても快楽を得られないのはちょっとした拷問だろうが、焦らしプレイすら好物のクロハからすればこのまま放っておいても構わない。

 

 ただ髪の毛の感触を楽しむ事だけに集中する。それでも徐々にクロハの息が荒くなっていく。

 

 髪の毛とはいえそれを構成している情報もクロハの本体であるナコト写本である。

 

「ぁ、んぅ、ふぁぅ」

 

 こうして髪の毛で快楽を得るという無駄に高度な性感帯を獲得していたりもする。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……、ます、ひゃああああっっ」

 

 髪の毛に意識を集中して微細な感触で快楽を得ようとする所に、その白い首筋を甘噛みして、染み込んだ汗を吸い出す様に皮膚を吸い上げ大きな快楽をいきなり与えればどうなるか。

 

 背を仰け反らせながら腰を痙攣させ、快楽に思考を焼かれ、落ち着いた頃には蕩けきった表情を浮かべる美少女従者の出来上がりである。

 

 瞳を滲ませ、息を荒くし、汗と共に甘い香りを放つ美少女がベッドの上に添えられているという据え膳状態でも食らいつかずに耐えるというのも中々精神力が要る。

 

 劣情をコントロールする事もまた精神的な試練である。

 

 だがそれではクロハが可哀想なので愛撫は別口である。

 

 結果的に生娘(魔導書の精霊にその概念が適切かはわからない)のまま開発が進んでいるという別な意味でよろしくはない様な関係になってしまっている。

 

 触れる度にクロハの反応を面白がっている自分も大概なのではあるのだが。

 

 そういう意味では自分も鬼畜ではあるのかもしれないが。互いに愉しがっているただの乳繰り合いであるから鬼畜でもなんでもないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日ロンドン観光にクロウは繰り出した。

 

 夜と違い活気のある街並みは清々しいものだった。

 

 アーカムシティと同じく昼は人の持つ陽の気で陰の気を祓っていた。

 

 水も滴る魔導書になってしまった、微妙に湿っぽいナコト写本を腰のブックホルスターに納めながらクロウは古い街を歩き回った。

 

 そしてふと立ち止まったのは美術博物館だった。どうやら蝋細工を展示しているらしい。別に美術の展示物に興味があるわけでもないのだが、気になるのは美術館から感じる闇の気配だった。ロジャーズ博物館という名の博物館に足を踏み入れた。

 

 中に入ってみれば色々な蝋細工が置かれており、神話的な生物であるゴルゴンやキマイラ、ドラゴンや妖精の蝋細工が展示されていた。 

 

 それらは今にも動き出しそうな程の躍動感すらある。しかしその造形は変にリアル志向というか悪夢めいた造形だった。

 

 更に展示物はそれだけではない。

 

 成人だけが入れる特別展示室には少し異常な展示物が陳列されている。

 

 それこそSAN値直葬系のヤバい展示物の類だった。

 

 タコ頭のオブジェなんて見るんじゃなかったと後悔しつつ、普段はクロハが隣に居る事で己の何かを保っているのだろう。でなければ邪神の蝋彫像を事でここまでのダメージを受ける自分の脆さというのが説明できない。

 

 さらには本物そっくりの犬の死骸という恐るべき展示物だったが、それも普通の死体ではなかった。

 

 全身を何者かに食い荒され血を吸われたような、おぞましい死骸の蝋人形だった。

 

 ともかく冒涜的な展示物にはなるべく目を向けずにいると、ひとつだけ目を惹かれたものがあった。

 

 七色に光る球体の集合体――題して、ヨグ=ソトースであった。

 

 七色のシャボン玉の様な集合体の蝋細工に何故か目が離せなかったのだ。

 

「気になりますか?」

 

「うわ!?」

 

 極度の集中で急に声を掛けられて驚く。浅黒い肌の女性に声を掛けられたのだ。

 

「ああ。ごめんなさい。凄く熱心に見ていたものですから」

 

 そう言って詫びた彼女の名はオラボナというらしい。

 

 彼女がこちらを驚かそうとした意図はないとわかる。驚いたのはクロウ自身の非によるところもあるので、クロウも頭を下げた。

 

 しかし何故、ただの虹色の球体の集合体に魅入られたのかは、クロウ自身もわからなかった。

 

 しかし何故か惹かれてしまうのだ。それは光に誘われる虫の様に、それは恋をした少女が相手をつい目で追ってしまう様に。何故か、そう。無意識で、見つめてしまうのだ。

 

 まるで忘れてしまったなにかを思い出しそうで思い出せないというもどかしさも孕んでいた。

 

 そんな妙な感覚を抱きながらこれ以上SAN値を削る前に退散してしまおうと考えたクロウだったが、特別展示室から出て身を固まらせた。

 

「うーむ。中々独創的で斬新な造形ですけど、子供たちに見せるにはまだ早いかしら?」

 

 そこにいるのは金髪の、眼鏡を掛けた女性。耳に聞き覚えのある声は昨夜聞いたばかりである。

 

 冒涜的な展示品を普通に見て回るその胆力はいっそ尊敬してしまいそうな程だ。少なくとも今の自分は彼女の様にまじまじと冒涜的な展示品を観察する様には見て回れない。

 

 このまま退散して良いのだろうが、この博物館から感じる闇の気配。そこに来てダーレス女史の襲来である。何かが起こるのではないかと身構えてしまうのは仕方のない事だった。

 

「あら。ダメよキミ。ここから先は大人しか入れないのよ?」

 

 クロウは目の前の女性に関わるのが恐くなってきた。何故ならば今のクロウは魔術で見た目は子供でも大人として認識されるはずなのだが、エイダはクロウを子供として認識していると言うことは昨夜と合わせて魔術が効力を発揮していないということだ。

 

 やはりそれほどの探求心の持ち主と言うわけなのだろう。彼女以外にはしっかりと魔術で騙せているのだから、魔術自体が効力を発揮していないわけではないということだ。

 

「あら、あなた」

 

 気づかれたかとクロウは身構えるのだったが。

 

「肩に埃が着いているわ」

 

 身構えた力が変な抜け方をしてギャグ漫画の様に転びそうになるが、どうにか耐える。

 

「ありがとう。それよりこの先には行かない方が良い」

 

 肩の埃を取られたクロウは背後の特別展示室を指して忠告する様に言い放った。

 

「この先は普通の人間では魂を汚染される。闇の世界の住人であっても、あまり良い気はしない」

 

「闇の世界の住人…? あなたは」

 

 余計な一言が過ぎた。しかし率直な感想として間違ってはいない。故にそう言葉を放った時。

 

「おや。私の力作はお気に召しませんでしたかな?」

 

 特別展示室から出てきた中年の男性。人の良さそうな笑みを浮かべているが、クロウは然り気無くエイダの前に出て背に庇うように振り向く。

 

 同業者であるから感じる闇の気配と言うものを男から感じたからだった。

 

「いいえ。どれもこれも臨場感と躍動感を感じる素晴らしい作品だと思います」

 

「そうですか。そうです。そうですとも! 通常展示しているものは所謂お試し用。いえ、それでも丹精を込めて作っていますがね」

 

 彼はここの館長であるロジャースと名乗った。 

 

 この蝋細工の数々は彼の手製の作品で、その出本は魔導書という事だった。

 

 それを語る内にロジャースの口調は荒々しくなる。

 

「そうだ! 私は数々の魔導書を読み漁り、これらの外なる神々を形にした!!」

 

 そして魔導書の記述をもとにして実物もいくつか持ち帰り、蝋細工として展示しているそうだ。

 

 気味が悪いと展示物を見てそう感じる訳だ。

 

 というより命知らずの様に感じてしまった。良く今まで生きていたと感心する。

 

 しかしその狂い方からもう手遅れだと感じる。魂が汚染され、既に何かに囚われているのがわかる。魂に関しては心得がある。間違いないだろう。

 

「先生。私はそろそろお暇しようと思います」

 

「え、ええ。そうね。私もそろそろ帰らなくては。すみませんミスター。お話の途中に」

 

「いえいえ、こちらこそ。またお越しください。お嬢さん方」

 

 クロウの促しに乗じて、エイダもこの場を辞する事を決め、クロウの手を引く。それにクロウは少し驚くものの、彼女を先生と言った手前、彼女の教え子として振る舞う。

 

 博物館を出て暫く歩いた所で振り返られる。

 

「さて。あなたは何者なのかしら?」

 

「別に。あなたには関係のないことだ。そして、あの博物館には近づかない事をお薦めする」

 

「あら。それは何故?」

 

「言わなくてもわかるでしょう。あの博物館には本物がある」

 

 蝋細工とはいえ形のある邪神や旧支配者はそこにあるだけで世界を汚染する。可能な限り廃除しなければ何が起こるかわからない。

 

 彼女の手から離れ、去ろうとしたらまた手を引かれた。

 

「待って。あなたは魔術師なのでしょう?」

 

「何故そう思う」

 

「そう聞き返す時点で答えを言っている様なものです。普通の人なら、あなたは魔術師ですかと聞かれても笑われてしまうわ」

 

 確かに彼女の言葉は一理あり、そしてそうでなくとも普通ではない忠告をいくつかしているのだ。魔術師と言われても仕方のないことである。

 

「もしミスター・ロジャースの蝋細工が、彼の言うように本物もあるというのならば。それは世界を冒してしまう危険なものかもしれません。それを回収するお手伝いをしてくださらない?」

 

 正直。彼女と関わるメリットはないだろう。何故なら彼女とは――覇道財閥とは敵になるだろうからだ。

 

 そして、自分は悪徳を敷くものだ。

 

 しかし、聖約を反故にはしたくはない。

 

「今夜。博物館に忍び込む」

 

「忍び込むって。あまり穏やかではありません。相手は人間なのですから、正式な手続きを践まなくては」

 

「あれはもう手遅れだ。人の形をしていても人じゃない。そしてやるなら早い方がいい」

 

 特別展示室のさらに奥。作業場であるだろう場所から漂う気配。確実になにかをしている。それも、かなり不味いレベルのなにかを。だから近づかなかったのだ。

 

「それが出来ないのなら、関わらない事が身のためだ」

 

 魔導書の頁が舞う。するとエイダが目を見開いた。

 

 紙片の渦がクロウを包み込む。

 

「ではダーレス女史。また会いましょう」

 

 字祷子(アザトース)となって解け、光と共に消えるクロウ。

 

 だがその消え去った光の中から一枚の紙がひらひらと落ちてきた。

 

 それがエイダの手のひらに収まった。それが意味する事を受け取って取り敢えずはエイダは今夜まで待つことにする。

 

 また会いましょうという言葉を置いて行くということは手伝ってくれるという事だ。

 

 しかしエイダは今の光景に既視感を感じていた。

 

「あなたが、幽霊さんなのかしら?」

 

 

 

 

to be continued…


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