そして初六千字超えです!
第78管理外世界セレンディア。
砂漠しかないこの世界に神のうっかりで殺された少年、雨宮錬は居た。
「はあ。なんでこんな場所の探索なんてしないといけないのかな…」
彼が転生して早9年。しかしその体は14歳のもの。彼はある研究所で生み出され、そして現在の家族に助け出されたのだ。
その家族と共に次元世界をまたにかける便利屋“Hunter Pigeon”として活動している。
管理局が重視しない事件の解決、遺跡周辺の事前調査、引越しetcやる仕事は沢山あるのだが、錬を助けた店主、ヘイズ・ヴァーミリオンがあまりにもお人好しで貧乏くじを引きやすい為年がら年中赤字まみれである。
今回もスクライア族の依頼で遺跡の周囲調査を依頼されたのだが…
「なんで、なんでその遺跡が見つからないのさー!」
そう、錬が来る前に砂嵐が起こったらしく目的の遺跡が砂に埋もれてしまったのか見当たらないのだ。
「はあ、これだったらもうちょっと準備してくるんだったかな…」
今更言っても仕方がないことを愚痴りつつ周辺を散策していく。
【高密度情報制御検知】
脳内に一瞬展開された窓の表示を知った時、彼は自身の脳を戦闘状態へと移行した。
世界は情報でできている。
現実世界のあらゆる物体から物理法則まで、突き詰めれば『情報』でできている。
その情報は『情報の海』にあり、通常如何なる方法を持ってもアクセスすることは出来ない。
しかし、情報の海を高度な演算能力誇るCPUを用いて書き換えることで現実世界にも影響を及ぼすことが可能となる。それを『情報制御理論』と言った。
これを提唱した科学者が居た。がしかしその科学者が居た世界では魔法があった。だから必要ないと一周され、夢物語だと蔑まれた。しかし男は諦めず、極秘にその情報制御理論を扱い、魔力に頼った魔法ではなく、純粋な科学として魔法を使う存在を生み出した。
生まれながらにして脳に生体コンピュータを持ち、情報制御を行って世界を書き換える存在、魔法士を。
【I‐ブレイン戦闘起動。制御系・分子運動制御《マクスウェル》、制御系・身体運動制御《ラグランジェ》運動加速係数五倍・知覚速度二十倍で定義】
どこだ、どこからくる…?
情報の海に全神経を研ぎ澄ます。
【高密度情報制御検知・危険度大】
錬は脳に浮かんだ窓を理解した瞬間その場から退避し、先程まで居た場所を鋭い剣が薙ぎ払われた。
なぎ払われた場所にいたのは黒曜石のような黒い髪をした、同い年くらいの少女であった。
白衣であろう服を纏い、その両手には身丈を超えるほどの銀色の剣。つまり
「騎士!?」
騎士。対魔法士戦、及び対魔導師戦に特化された、強敵を屠るために存在する魔法士。
圧倒的な運動加速を誇り、その速度からくる必殺の剣を振るって敵を屠る、個人戦・魔法士戦・魔導師戦において最強を誇る魔法士。
「…………」
少女は自分の能力が把握されていることに少し顔を顰めるものの剣を正眼に構える。
型にハマった、綺麗な構え方だ。だけど
(対魔法士戦においてその構えは素人丸出しだよ)
【制御・《マクスウェル》[銃弾]】
周囲の熱を奪い数百の氷の弾丸を生成し、僅かなラグを混ぜながら少女に放たれる弾丸。
少女から見たら恐ろしくないそれを少女は余裕をもって回避していく。しかしその直後少女の瞳は驚愕に見開かれる。
【制御・《マクスウェル》氷槍檻発動】
少女を取り囲むように360度に氷の槍を生成し、少女を方位する。
必殺の一撃。入ったら最後。決して逃げることが敵わない絶対の攻撃。
【発射】
それを何のためらいもなく少女に解き放つ。
(これで決まれば…)
話を聞けるかも知れない、そう思ったが氷槍檻を少女は自分の運動制御を最大にして自分が通れるくらいの穴をこじ開け、脱出する。それでもいくらかは直撃し、ダメージをおっていた。
が、しかし錬は逃げられたことに呆然としていた。否、全く違う意味で呆然と、いや、見とれていた。
少女の動きが、綺麗だったために。
一瞬の隙を付き、少女は錬の前まで一瞬で移動し、剣を振りおろそうとするが正気に戻った錬はそれを紙一重で回避する。
「運動加速、38倍ってところかな…カテゴリーBクラスってところか。けど、あくまでそれはその剣を使ってるからだけど」
カテゴリーB。魔法士のおおよそのレベルを図る為に分けられている。下からC<B<Aとなっており、魔法士の能力の基準となる。
カテゴリーCはBランク魔導師数人分の戦力、カテゴリーBはAAランク魔導師五人分の戦力、そしてカテゴリーAはオーバーSランク魔導師三人分に匹敵するというものである。このラング分けは巫山戯ていると思われるが巫山戯ていない。カテゴリーAという存在はたった一人であっても戦局をひっくり返せる可能性を持っている。
そしてそれだけの精度のI‐ブレインを量産することは出来ない。I‐ブレインは生体コンピュータであるため、個体差のバラつきが激しく、基本的にCランクが当たり前である。
しかし、目の前の少女のカテゴリーを錬はAだと思っていた。
「その理由はなんでしょうか?」
少女が錬の言った独り言に質問をしてくる。本来だったら答える必要はない。だがしかし錬は答える。
「理由は簡単だよ。明らかに君の能力に騎士剣があってないからさ」
騎士剣。それは騎士の能力を補助する攻撃用デバイス兼機能拡張デバイスである。
騎士は見合った能力を持った騎士剣を持たなければその力を大きく制限される。
だから錬はその騎士剣が見合っていないと言ったのだ。
「…私の能力がその程度が限界だとは思わないんですか?」
少女が更に質問をしてくる。
「思わないね。だってさっきの攻撃で一瞬回避するのに自己領域を展開するのを躊躇したでしょ? 躊躇して使わなかったってことは剣の能力が低いせいで使えないか、もしくは自己領域を展開したら騎士剣が耐えられなくなるって考えるのが普通でしょ?」
自己領域。
自身の周囲の物理定数を自分が最も動きやすい状態に書き換えることで飛行を可能とし、亜光速移動をも行うことのできる騎士の切り札的能力。
これを使えば氷槍檻を抜け出すことは容易であったはずだ。しかし、それを躊躇った
躊躇うということはそれが騎士剣が耐えられない他に理由がない。
騎士剣は銀に論理回路という技法を用いて物理強度、情報強度を上昇させたミスリルという金属が刀身に使われている。しかしこのミスリルは情報のキャパシティを超えてしまうといとも簡単に壊れてしまう性質を持っているのである。
よって、使ってしまうと壊れてしまう可能性があったが故に使うことができなかった。
だから錬は剣が悪いと言ったのだ。
「…よほど、対魔法士戦を経験した魔法士なんですね」
「いや、僕なんてまだまだだよ。兄たちの方が強いしね」
錬は苦笑しながらそう少女に返す。
「じゃあ今度はこっちの番だ。どうして僕を襲ってきたの?」
少女は数旬躊躇ったのち、答えた。
「ここに来る魔導師を殺せ、と命令されたからです。もっとも、来たのは魔導師ではなく、魔法士でしたけど」
魔導師の暗殺。つまり、この星に魔導師が来て欲しくなかったということかまたは少女の能力実験為、またはここに来るスクライア族の妨害目的のどれか一つ。恐らくは二つ目であると錬は予想する。
「命令を無視してもよかったんじゃないの? まさかそれが出来ない?」
少女がこれもまた数瞬躊躇った後、答えた。
「私はI‐ブレインに一種の首輪取り付けられています。それは私が死ぬか、I‐ブレインが停止するまで停止することはありません」
つまりは、無理矢理。やらなければ自分が死ぬ。魔導師にはできないが、魔法士にはできる外道の手段。文字通りの首輪。
「最後の質問。自由になりたい?」
少女は言った。
「私は…沢山、知りたかった…」
そう言った直後、少女はこちらに突撃をしてきた。
知りたいと言った。つまりは自由になりたいなどということはブロックワードによりいうことが出来ないのであろう。つまり彼女は自由になりたいのだ。
「その一言で十分だよ」
【制御系・分子運動制御《マクスウェル》、生成系・論理回路生成《ファインマン》常駐。容量不足。《ラグランジェ》強制終了】
左腕を払い、《マクスウェル》の力で目の前の空間にマクスウェルの悪魔を展開。目標点を中心に30センチ角の立方体型領域を設定。錬のI‐ブレインの演算能力でもトレースが可能なレベルまで空気分子の数を制限する。その領域に右手を突っ込み、親指と中指を弾く。俗に言う、指パッチン、フィンガースナップ。
その音を起爆剤として制限された空間内にて分子の位置を変更し、論理回路を生成することで行う、情報解体。
情報解体。騎士が持つ、騎士剣を介して接触した物質の構造体の存在情報を一時的に消去することにより物理的に原子・物理レベルにまで分解する騎士特有の技であるが、錬の家族であるヘイズはこれを遠隔で行うことができる。
ここで雨宮錬のI‐ブレインの能力を紹介する。
悪魔使い。
それはあらゆる魔法士の雛形にして完成形。通常魔法士は一つのことに特化させることで情報制御を行うがなぜ、複数同時別の能力を行使をしないか。否。出来ないのである。I‐ブレインに存在する基礎領域は一度一つのことを覚えると書き換えることができないのだ。だから魔法士は一つの事以外原則できない。だが悪魔使いは違う。通常いかなる方法をもってしても書き換えることの出来ないI‐ブレインの基礎領域を書き換えることによりありとあらゆる能力を行使出来るのである。だが、悪魔使いの真価はそれとは全く違う。戦闘経験を元に、相手の能力をコピーするというものなのである。つまり、錬は戦えば戦うほどに学習し、自分が再現可能であるのならばそれをコピーし、自分の能力とすることができる自己進化能力なのだ。
しかしそれは完全に再現することはできない為にどうしてもその能力は劣化してしまうというデメリットも存在する。つまり、一つ一つの能力は二流程度でしかない。だが、そうであったとしても圧倒的選択肢のアドバンテージを持つことが出来るのである。
このファインマンもヘイズの能力、破砕の領域のコピー。精度、威力ともに分子が半分以下しかない為に本来の半分程度でしかないが、そうであったとしても驚異的。
論理回路が形成された領域に少女の剣が振り下ろされる。
触れた剣は形成された論理回路により情報解体されるが、魔法士は情報的に圧倒的に強固であるが為、本来なら情報解体出来ないため、持っている剣も例外ではないため、分子一個分を解体するだけであった。
だが、それだけで十分なのである。
論理回路は幾何学模様を何十にも重ねて作り上げる回路であり、その生成は原子一個レベルでも崩れた場合、望んだ効果は得られなくなる。そして騎士剣に使われている金属はミスリル。ミスリルは論理回路によって強度を上げられた銀であり、論理回路が破壊された場合どうなるか。
パリン。
崩壊するのである。
騎士剣は言わば増幅装置。騎士の能力を限界にまで高める為の触媒である。騎士剣はミスリルの刀身と演算中枢の結晶を象嵌されている。そして騎士は騎士剣なしでは攻撃手段を持たない。本来なら騎士剣のミスリルは解体不能であるが今回はあまりのも粗悪品であったが為に可能だっただけ…。
少女の目が大きく見開かれ、そこに大きな隙が生まれる。
それを見逃すほど、錬は甘くはない。
【制御系・電磁場制御《ディラック》、制御系・身体係数制御《ラグランジェ》運動係数五倍、知覚速度二十倍で定義。容量不足。《マクスウェル》、《ファインマン強制終了》】
電磁場制御により錬の拳は電気を纏うった拳を少女の右側頭部へ振り下ろした。
✝✝✝✝✝✝✝✝
少女は加速された視界の中、電気を纏った拳が振り下ろされれるのを見た。
―――ああ、やっとこれで自由になれる。
少女はある組織が生み出した魔法士だった。ある事件の主犯役の為に生み出され、逮捕後処分される命にあった。
今回の襲撃もその為の布石であり、遺跡調査に来たスクライアの一族を襲撃し、事件を起こそうとしたのだ。
だが、組織の思惑ははずれ、調査に来たのは目の前の魔法士の少年。
自分以外の魔法士は死んだと思っていた。少女にとってそれは驚愕することだった。
少女は自分以外の魔法士は居ないと聞かされて三年間過ごしたのだ。
だからたまらなく嬉しかった、それと同時に苦しかった。
見られた以上、生きて返すワケにはいかなかったからだ。
自分のI‐ブレインに打ち込まれた首輪がそれを許さなかった。
だから悲しかった。殺してしまうことが、たまらなく苦しかった。
だが結果はどうだ? 自分の剣は砕かれ、電気を纏った拳が今自分に振り下ろされてるではないか。
(色々、したかったなぁ…)
拳が少女の頭に直撃する。そして
【警告。I‐ブレイン強制停止】
少女は意識を失った。
「こ、ここ、は………?」
次に少女が目を覚ましたとき、そこは見たことない部屋だった。
自分が居た実験施設などとは全く違い、ベットと机がある以外何もない部屋だった。
「気がついたんだね」
よかったという声が真横から聞こえた。
自分と戦っていたあの少年だった。
「あの、どうして…私は生きてるんですか…?」
少女は疑問を口にした。
ここはどこかなど聞く前になぜこのようなことを聞いたか。
それは少女は自分は死んだと思ったからなのだ。
「ああ。ちょっとばっかり賭けだったんだけど君の頭にあるI‐ブレインに電気を流し込んで強制停止させたんだ。言ったでしょ? 自分が死ぬかI‐ブレインが停止しなき限り停止しないって」
つまり、この少年は私を助ける為にあんなことをしたのだ。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は錬。雨宮錬。宜しくね」
そう言って、手を差し伸べてきた。
「…えっと、私は…その、名前はないですけど…その、よろしくお願いします」
少女も握り返した。
「名前がない? うーん、だったら名前を考えないと…」
うーんと考え始める少年。
「あの、私はこれからどうしたらいいでしょうか…?」
「どうって?」
考えるのをやめて少年、錬は聞いてくる。
「私は作り出されたから、その、行き場所がないから…」
自分に行き場所はない。つまりここを出たあと行く宛がないのだ。
元居た場所に帰るという選択はない。戻れば最後、またあの日々に戻るのだ。
「じゃ、じゃあさ。ここに、僕らと一緒にいない?」
「え?」
錬はトンデモないことを言い出した。
「僕やここに居ないヘイズ、それにイル兄はさ、どっかの研究所から逃げ出してきたり助け出されたりして皆で一緒に生活してるんだ。だから君の一緒にどうかな、なんて」
アハハと照れながら頬を掻く錬。
「本当にそれだけですか?」
更に疑って怪しんだ風に錬を見る少女。
「………笑わない?」
「笑わないからどうぞ」
錬は数瞬迷い、そして覚悟を決めたようにまっすぐ少女を見つめ
「君に…その、ひ、一目惚れしたから……………」
「へ? え? ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう少女。
(一目惚れ? え? つまり好き? Love? どどどどどどどうしたら!?)
少女は赤面し、必死に頭を回転させるも思うように考えられない。
なぜなら、培養槽で生まれ、育てられたからと言ってもI‐ブレインの成長にはある程度の知識や感情、生活の情報は必要なのだ。神の気まぐれに頼るI‐ブレインの成長には必要なことだったが為と、ひと時でも夢が見られるようにと思った優しい科学者が与えた情報に恋というものがあったのだ。
だから少女はどう判断したらいいかわからなかった。
「ああもう! 男は度胸だ! 僕と一緒にいてください! じゃなくてえーっとつきあってください!!」
頭を錬が下げた。
だから、思わず少女は
「は、はい」
受けてしまった。
どうだったでしょうか?
感想を待ってます