この台で負けても
ゆるせぽね 冥王公認・心の俳句
可愛いペルセポネ姉貴を、もっといっぱい見たいっス!!
我輩はただただ、姉貴のそばにいられればいい! ほにゃっとかわいくて、でも豪華な格好と柔らかい顔がミスマッチで。いつもゆるくて、突拍子のない性格してて、何しでかすか分からない、そんな姉貴のことを見ていられたら……ああ、それだけでもう幸せなんス!
なのに姉貴ったら、ここ数ヶ月ずっと、構ってくれなかったんス。姿を見てないんス。我輩、仮にも門番だから、庭園から離れられなくて。
姉貴ったら、仕事ができたとか我輩に言って、それきりどっかに行っちゃって……。
「ケロちゃん? ケロちゃーん? 庭園、もうすぐ浮き上がるってぇ。避難しましょ?」
あっ。この声は……! 数ヶ月聞いてなかったそれは。ほんとに我輩を呼んでる……?
「ケロちゃーんっ!」
聞こえた。呼んでるっス。幻聴じゃないっ!
「姉貴! 姉貴~!」
全力で声のほうに駆けるっス! 首が締め付けられる……前に行けない……ええいっ、こんなもの!
あっ、見えた! 庭園の花畑のほうにいるっス! 咲き誇った数々の花の中心に、ピンク色の長い髪で、ヘカテの杖を持って、凛々しく立ってる……! 二股に分かれた頭のアホ毛をみょんみょんさせてる!
「寂しかったっスよぉ~! 姉貴~!」
「わっ! もう、抱きつかないの! お~、よしよし……きゃ、顔を舐めないのっ!」
ハッ、ハッ、ハッ。我輩、姉貴の匂いをとことん感じてるっス! ああ~落ち着く。赤ちゃんみたいな匂いがするっス……。
「あれ? ケロちゃん、首輪が壊れてるよ? てかケロちゃんが踏んだ地面、割れちゃってるよ!」
「クゥゥゥ~ン……」
そんなこと、今はどうだっていいんスよ! ずっと会いたかったんだから、踏む足に力が入るのは当然っス。
「すごい力。……ごめんね、ケロちゃん。そんなに寂しい思いさせちゃったんだね?」
ああ、姉貴が目の前にいる……てろんと、困り気味に眉毛が下がってて。鼻立ちも目立ちも美人で、なのにぷにぷに柔らかい顔で。
紫色の、きれいで大きな瞳で見つめてくれてる……。変わりのないお姿。
「ただいま、ケロちゃん」
優しい笑顔を、目の前で見ていられれば、我輩、もうあとは何もいらないっス。
「ふふ。ほらケロちゃん、あごを上げて?」
なんスか? あっ! あふぅ~ん……下あごヨシヨシされるのは、弱いっス! 幸せ……。
我輩の弟たちが嫉妬して、ぐるぐると鳴き始めたっス。耳障りっスねえ。我輩実は3人兄弟なんスよ、顔が3つあって。ふふん、先頭は兄たる我輩なんだから、いちばん甘えられるってのは当然の権利ス。みんな静かにするっス!
「あらあら。みんな撫でてほしいのねっ!」
ああ~っ! 我輩から感触がなくなって、他のヤツに! 首輪を引きちぎったのは我輩の役目だったのに! グルルルル……。
「ケロちゃん、そんなに鳴かないの。ケロさんとケロっぺがこわがってるでしょ? めっ!」
キッと、強い眼差しでたしなめられたっス。クゥゥゥ~ン。あっ、弟たちめ、挑発的な目で我輩を見てる……!
ちなみに弟たちはそれぞれ、ケロさん、ケロっぺて呼ばれてるス。
我輩たちの名前、記憶してる限りじゃケルベロスなんスが……姉貴にケロケロ言われすぎて、もうケロベロスでもいっかなって思ってるス。たぶん弟たちも同じ考えスね。
「姉貴! 仕事だなんて、何してたんスか? 本当に寂しかったっス!」
「ふふ。わたしね、ハーデスさまから新しい役目をもらっちゃったんだ!」
「役目~?」
冥王たるハーデスさまって、仕事するときとしないときの差が激しいからなあ。最近のハーデスさまはニート期って噂も聞いてるし。大丈夫かなあ~?
「あっ。ケロちゃんのその目、ハーデスさまのこと疑ってるでしょ?」
姉貴が人差し指をつきだして、我輩の鼻をつん、と触ったっス。
「だめだよ、もう! ……ふふ、ケロちゃんたら、そんなにしょげないでよ。庭園、空に浮かすってさ。だからわたしたちは、地上に避難してようよ?」
「クゥ~ン? 別に、一緒に浮かべばいいじゃないスか。空からの光景、姉貴も好きっスよね?」
「ううん。お散歩しようよっ! 壊れた首輪、用意してあげるから!」