Báleygr   作:清助

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第六話「鉄の棺桶」

「ひとつ、注意しておくことがある」

「……ん?」

 車両を歩きながら師匠が言う。

 絶で気配を隠していたので、反応が少し遅れた。

「戦闘に入った場合、ジョネスとの戦闘は避けろ」

「……なんだそりゃ」

 思ってもみない忠告だった。

 まさか非念能力者に俺が負けるとでも思っているのだろうか。納得いきませんという顔つきで疑問を投げるが、憮然とした態度は変わらない。

「警告はした。おれに任せておけば何も問題はない」

 反論しようと口を開いたが、その前に前方で轟音が鳴り響く。

 多くの悲鳴と窓ガラスが割れる音。

 列車がぐらりと傾く。

 一瞬の浮遊感が身体を襲い、思わず息がつまった。激しい金属音と衝撃が乱反射のごとく車両を駆け抜ける。列車は重力の方向に従い、かろうじて再びレールの上にその身を落ち着けたようだ。接触不良のせいか、下方から木霊する金属音が鳴り止まない。

 奇跡的な偶然はそう何度も続かないだろう。

 噤んでいた言葉を再開する。

「どういうことだ? 意味がわからないんだが」

 断続した重低音が鳴り響く。

 形状の変化した連結ドアを槍で壊しながら、師匠は淡々と口を開いた。

「ダージ・ムロニルス」

「……?」

「そういう男がいた。ダブルのゴーストハンターで、強力な特質系能力者だった」

 突然何を言い出すんだこの人は。俺は顔を顰めた。

 車両がトンネルに突入する。

 先ほどの爆発で電気が停止したのか、空間は一様に暗くなる。

 こじ開けた次の車両に踏み込んで、俺は鼻を覆う。

 子供の頃、こんな臭気を感じた気がする。

 それは覗き込んだ井戸の底に、蝿を漂わせながら浮いていた猫の死骸を見た時のような感覚だ。

 明かりがないので先は見えない。

 規則的な列車の音だけが鮮明に聞こえた。

 闇の中で師匠の声が静かに反響する。

「昔の話だ。そいつは成り行きで創成期の幻影旅団やネテロと戦っていたが、悉く生き残っていた。今にして思えば、ひどく悪運の強い男だった」

「師匠の友人だったのか?」

「修行仲間だったな。おれよりもずっと強かった」

 歩き出した足元にぬるりとした感覚。

 語られる内容が過去形なのは、嫌な予感しかしない。

「ひょっとして、死んだ……とか?」

「ああ、そんな男でも死んだ」

 トンネルを抜ける。

 視界に入るのはどす黒い朱色だ。

 窓や床にそこかしこに飛び散っている。

 そこらじゅうの座席に座っているのは、人間ではなく肉塊だった。

 込み上げてくる吐き気をかろうじて抑える。

「ダージは何が原因で死んだと思う?」

 おぞましい光景を前に師匠は歩くのを止めない。

 前方の車両に人の気配を感じたからだ。

 俺は死体を見ないように背中だけを見つめていた。

「病気とか……か?」

 その背中が止まり、ちらりと視線を一度向けられ、すぐに戻った。

 深いため息が聞こえる。

「原作登場人物トンパを殺害せよ。依頼などの間接殺害は不可。時期は問わない」

「……え?」

「奴の解除条件だった。難易度はCランク。熟練の念使いにとっては取るに足らない簡単なもの、そう思っていた」

 何処か遠いところのことを思い出すように続ける。

「だが現実は振る舞われた紅茶に入っていた毒で即死だ。なぜダージは何の疑いもなくそれを飲んだのか、なぜ一般人であるトンパをすぐに殺さなかったのか、そもそもトンパが毒物を使うのか。経緯も動機もわからない。だがなるべくしてそうなった」

 そこまで言われて、俺は初めて事態の異常性に気づく。

 同時に死神の念能力について気になっていた箇所を思い出す。

「『能力発動者は能力発動時点で他の神々の世界に干渉することが可能になり、同時に神による干渉を阻害する』……」

師匠は振り返った。

「そうだ、神による干渉の阻害。阻害ということは僅かでも干渉がある、ということだ。死神とは別にこの世界にも、どうやら神様はいるらしい。そしてこの神は、転生者がどう足掻こうが強制的に物語を『原作沿い』にしようとする」

「じゃあ師匠の知り合いは……」

「転生者の間では、この現象を修正力と呼んでいる。特に原作登場人物に何らかの危機が訪れると、ご都合主義のごとく周囲のすべてが転生者に牙を向く。いいか、もう一度言う。ジョネスには手を出すな」

 放たれた理由にしばし沈黙する。

 ひょっとしてこの電車に逃亡したジョネスがいる時点で、俺たちは何者かによる作為的なご都合主義の舞台に上がってしまったのではないか。

 そう思えたからだ。

 答えるべき解が見つからないまま俯いていると、ふいに服の裾を引っ張られる感触がした。

 振り返ると、座席に座った女性がこちらを見ている。

「師匠! 生存者が……」

 言いかけた希望の言葉は、彼女の胸元から溢れる大量の鮮血を凝視して飲み込んだ。

 顔は土気色だ。瞳に生気がない。

 血まみれの手に抱えられているのは、顔のない幼児。

 吐き気よりどうしようもない遣る瀬無さを感じて、俺は唇を噛むしかなかった。

「立ち止まるな、行くぞ」

「……あいよ」

 静かな怒りを表すように、先ほどよりも乱暴に次の車両のドアが開け放たれる。

「凝を怠るなよ」

「了解」

 車内とは打って変わり、野外の開けた場所だった。

 流れる景色と風が捩れるように視界を過ぎる。

 通常はコンテナが載っている貨車の部分だろう。平面状に伸びた戦場が3両ほど連結して繋がり、その奥に煙をあげた機関室が見える。

 所々に警官たちの死体と燃え盛る荷物が転がっていた。

 向こうの扉の前に人影が二人。

 柔和な顔をした大柄な男と、眠たそうな瞳をした女性だった。

 片方はジョネス、もう片方は転生者だろうか。

「……ジョネス、逃げて」

 こちらに気づいた女性が男を押し出すように前車両に移動させる。

 逃がすまいと一歩踏み出すと、真横に突き出された師匠の左手に静止をかけられた。

「師匠?」

 戸惑いの声を上げている間に女性が振り返る。

 立ち昇るオーラが念能力者であることを如実に表していた。

 左手を下げながら師匠が前に出る。

「解除条件は?」

「……?」

 物静かな姿勢を崩さない女。

 構わず師匠は続ける。

「死神の念能力解除条件はなんだ? 条件次第なら手伝おう」

 女はそれを聞くとほっとしたような、苦虫を噛み潰したかのような複雑な面持ちをした。

 数秒の沈黙の後に呟くように口を開く。

「ジョネスのトラップタワー登場を防げ、です……」

「嘘だな」

 間髪いれずに師匠は怜悧に切り返す。

 俺も同意見だ。

 そんなものは例えば自分ならハンター試験の試験官になったり、駄目もとで他の理由をつけてネテロ会長に頼む。そうでなくても原作時期に脱獄させれば事足りる。

 何より既に多くの死人を出しているこの過程は踏まない。

「ここまでの惨状、ジョネスの殺人を許容している節がある。解除条件は、おそらくそれに関係があるものだろう」

 眼前のオーラが爆発した。

 膨大な師匠の念量を見た女が忌々しそうに瞳を歪める。

ついでに俺も気圧された。それほどの圧力だった。

「出来るなら穏便に事を進めたい。もう一度聞く、お前が死神にかけられた解除条件は何だ?」

 告げる断罪者の口調はどこまでも明瞭だった。

 巨大な背中は揺れることなく、その手に携える槍のように真っ直ぐ伸びている。

 勝ち目がないことを悟ったのだろう。

 女は諦めたように眼を閉じる。

 深呼吸をしながら語られた内容は、恐ろしいほどに澄み切った絶望だった。

「『原作開始前までに解体屋ジョネスに666人以上の解体をさせよ。生きている人間に限る』。達成難易度Cランクです。これで、満足ですか?」

「……同情する」

「結構ですよ、偽善者め」

 吐き捨てた言葉とは対照的に、彼女の顔は今にも泣き出しそうな子供のようにくしゃくしゃになっていた。

 死へ向かっていくような緩慢な動作で、敵意という名の交戦の意思を見せる。

 容認はできない。

 まともな人間なら、きっと誰もが思うことだ。

 だからこそかける言葉が見つからなかった。

 こちらも対応するように構えるしかないのだ。

 殴りかかる理由がまたできたみたいだ。死神という糞野郎に。

 師匠が俺の方に歩みを戻しながら、肩を軽く叩く。

「お前に任せた。殺すなよ」

「了解」

 迷わず答えた。

 流れ行く景色が町並みのそれへと変わっていく。

 歩き出す足先からオーラを滾らせる。

「……子供?」

 女が前に出てきた俺に訝しげにそう言う。

「でも手加減はしない……」

 呼応する形でこちらに歩みを伸ばした。

 緊張で少し喉が渇く。

 風が突き刺さすように頬と服を叩いている。

 修行で身についた回避重視の構えは、自分でも驚くほどスムーズに進行する。思ったよりも行ける気がした。

 鋭く息を吐き出しながら丁寧に堅を行うと、相手が息を呑む様子が伺えた。

「……っ」

 先に動いたのは相手だ。

 反射的に凝をする。

 視界に映るのは踏み込みからの右の掌打。移動した念量は表面のオーラ割合で言うと4割ほど、対応して左手を添えながら同時に回避すべく腰を捻る。

 完全に軌道から反れた。

 何が起こったのか判らないといったその顎先を無意識のまま殴る。

 これは僅かに掠る。

 足先から落ちそうになった女は驚愕の表情を浮かべて即座に後方に逃げた。

 一瞬のやり取りだ。

 身体が硬かったせいで狙いが浅くなってしまったが、本気で殴っていれば今の一撃で勝負が決まっていただろう。

 ひょっとして自分が思っていたよりも強いのか、俺は。

「キシュハ相手に毎日組み手をしていれば、そうなる」

 ちらりと後ろを振り向くと、仁王立ちで腕を組んだ師匠が当然のごとくそう言った。

 正確には毎日気絶させられていた、の間違いだけどな。

 ただのイジメとしか思えなかった今までの修行の日々も、実は立派な強さの糧となっていたのだ――そういうことにしておこう。じゃないと泣くしかない。

 気を取り直しながら再び構える。

 硬直した首もとの筋肉を慣らしながら、じっとりとオーラを練った。

 顎へのダメージから復帰した相手が念弾を放ってくる。

 想定していたより速度は遥かに遅い。

 先ほどの攻撃の衝撃から抜け切れていないのだろう。追撃をかけなかったことを後悔する。

 ――いや遅すぎる。

 僅かに白く発光する念の弾。

 凝で確認するまでもない。何か仕掛けられている。

 追尾機能がついている可能性も考慮して全力の堅を続けながら回避。

 ――案の定、念弾が炸裂する。

 つんざくような大音量を響かせながら、小さな小規模のオーラが散弾となって襲い掛かった。

 車両内で数度聞いた派手な爆音の正体はこれか。

 花火のような拡散型の発。相手の能力は放出系か変化系とみた。

 腕にオーラを回して置いたので全力でガードする。

 後方で巻き込まれた師匠が見える。

 すべての念弾を槍の一振りで弾いているのを尻目に、俺は素早く脚にオーラを流し込んだ。

 散らばる分、回避は難しいが威力はない。

 オーラ総量を含めた実力も俺の方が上。

 ならやることは、全力で近づくことだけである。

「――!?」

 俊足で接近し、拳を叩き込んだ。

 ガードされるが構わず上から殴り飛ばす。狙いは顎だ。師匠には首元を狙えと言われたが、あいにく俺にはそこまでの力量はない。

 吹き飛んだ相手は前方の車両に激しい音を立てて激突した。

 女のオーラが極端に乱れる。

 条件反射のように手を伸ばしてもう一度念弾を打とうとしているようだが、完全に顎に攻撃を当てた。

 しばらくまともな念の行使は不可能だろう。

 意識を完全に刈るべくさらに力強く踏み込む。

「……ますか」

「……?」

 ふら付きながら幽鬼のように立ち上がる相手が呟いた。オーラが正常に動作するまでの時間稼ぎのつもりならお粗末――。

「間違っていますか、私は」

「……」

 それは気味の悪いほどに静かな口調だった。

 追撃をかけようとした俺は足を止める。

 先ほどから変わらない眠たそうな瞳で、女は静かに続けた。

「貴方達だって判るでしょう? 達成できなければ地獄に落ちるって言われて、はいそうですかって足掻かない人間が、一体どこにいるんでしょうか?」

 臓物を傷つけたのか、口から大量の鮮血を吐いていた。

 それにも関わらず、歌うように女は問う。

「貴方ならどうします? 他人の命を犠牲にすることが己の使命ならば、貴方ならどうします?」

「それは……」

「私は」

 震える声だった。

「私は、666人が虐殺されていくのを黙ってみようとする道を選びました。誰にも認められることのない糞くだらない自己犠牲をするよりも、ずっと安全で楽な道を選びました。それが間違っているんでしょうか。間違っているって言えるんでしょうか。そもそも、此処に住んでいる人たちって、漫画の世界の住人なんじゃないですか? 親しくもない人間ですらどうかも疑わしい生き物に、どうして自分の命を投げ出さなきゃいけないんですか?」

 それはきっと、転生者全員が思っていることだ。

 ここは漫画の世界。

 華々しい主人公が歩いていて、絶対的な悪が存在していて、記号化された人々が呼吸をしている。

 それが当たり前なのだ。当たり前のことだから。

 何故俺は小さい頃から孤児院で暮らしてきたのに、明確な思い出や一緒に住んできた子供たちの顔を思い出せないのだろうか。

 何故俺は車両にいた乗客たちの死に様を見て、言いようのない空しさを感じたのだろうか。

 俺は果たしてそれらを現実と認めて、彼らを人間として接して生きているのだろうか。

 考えるのが怖くなった。

「……だからって、誰かを殺していい理由なんてないはずだ」

 苦し紛れに内心の心情とは違う正義を使った。小さな反論は過ぎ去る町並みに溶けていく。

 それを見透かしたように、女は優しい笑みを浮かべる。

「見逃して、くれませんか? 忙しいんですよ、これから。毎日毎日、いかれた殺人鬼が満足するように、身寄りのない孤児や不治の病を持った生贄を連れて行かなきゃいけないので………………お願いします、どうか見逃してください」

 腹の底から搾り出すように出した懇願に、俺は立ち尽くすしかなかった。

 動けと命令しても身体が言うことを聞かない。

 残酷な運命を持ってしまった彼女に、いったいどんな言葉が、行動が、絶対的に正しいと言えるのだろうか。

 俺にはわからなかった。

「己を捨てなければ、守れないものもある」

 それは誰に向けた言葉だったのだろうか。

 後ろからそんな師匠の声が聞こえた。

 振り返った俺は、きっと迷子のような情けない顔をしていただろう。

「戸惑うな。やれ」

「師匠――」

「やるんだ、お前がどんな選択をしても、結局は自己満足に過ぎない」

「……」

「ルカ」

 言葉に促されて考えないように女に近づいていく。

 彼女は壊れそうな笑みでこちらを見据えている。

 俺は歩みを止めることができなかった――と、女の背後のドアノブが回されるのが視界に映る。

「……ルカ!!」

 一際大きい師匠の叫び。

 先ほどとは違う警告の声。

「悪いな。やっぱり我慢できなかった」

 開かれた扉からぬるりと手が伸びて、呆然としている女の喉元に触れられる。

「あんたの肉、掴みがいがありそうだ」

「え……?」

 ゴムのような物がはち切れる音がした気がする。

 女の首元からパンクした自転車の空気ように、大量の血液がごぼごぼと湧き出す。糸が切れたように崩れる女性。

 それを見下ろすジョネスの顔は恍惚としていて――。

「――っ!」

 咆哮をだす前に冷水を掛けられたように俺の思考は停止した。

 火山のような強大なオーラが背後から感じられたからだ。

 振り向くと、悠然とこちらに向けて歩んでくる金色の獅子。

 猛るオーラは大気を焦がし、まるで蜃気楼のように周囲を歪めている。その表情は相変わらず何を考えているのかわからないくらい憮然としていて、それが何か恐ろしかった。

 眼鏡の奥の瞳が、鮮やかな朱色を浮かべている。

 師匠は俺の肩に軽く手を置くと、目の前を通り過ぎる。

 肩に感じたオーラが酷く重い。

 異常に気づいたジョネスが本能で後ずさるがもう遅いだろう。

 瞬きしている間に轟音が響いた。

「師匠……」

 あり得ない方向に身体を折り曲げているジョネスいた。小刻みに動いていることから辛うじて息はあるようだ。

 緩慢に棍を引き抜く師匠が視界に入る。

 しかしながら今の動き、全く捉えることすらできなかった。

「あ……」

 師匠の足元で倒れている女性を見る。

 こちらは眼を見開いたままぴくりとも動かない。

 言いようのない罪悪感。

 俺がもっと早く決断していたら、女性は助かったかもしれないのだ。

 いや、本当は安心していたのかもしれない。

 逆にあの場で女を助けたとしても、真の意味で彼女を救うことなどできなかったと諦めてもいた。 これで良かったと許容してしまう自分が許せなかったのだ。

 しゃがみこんだ師匠はその瞳をそっと閉じた。表情は伺えない。くるりと反転すると、足早に俺に近づいてきた。

「いてっ」

 槍の棒先で軽く叩かれる。

「戦闘中に考え事をするな、阿呆」

 炎のようなオーラが嘘のように落ち着いていた。

 緋の目も元に戻っている。

 いろいろな意味でもっと怒られると思っていた俺は拍子抜けした。

 それが顔に出ていたのか、師匠が煩わしそうに片眉をあげる。

「なんだ」

「いや、殴り飛ばされるくらいは覚悟してたんだが」

「……ドMか?」

「俺が悪かったから真面目な顔で一歩下がってから言うのは止めてくれ」

 ふむ、と気のない返事をして師匠が押し黙った。

 視線を逸らして再び女の亡骸を見る。

 彼女のような人間は、きっとこれからも出るに違いない。そのとき果たして俺は、迷わず悔いのない行動を選ぶことができるのだろうか。

「ルカ」

 虚無感に浸る俺に、一声がかかる。

 目の前には聳え立つ大きな背中が見えた。

「正しいことをしたいなら、まずは強くなれ」

「……へいへい」

 不器用な慰めの言葉に、同じく不器用に俺は返すしかない。

 流れ行く景色を見やる。

 過ぎ去る市街。その奥には天空闘技場が雄大に構えていた。

 願わくば戦いの地で、この腑抜けた心も鍛えられるようになれば、と思った。

 そうしてふと、忘れていた事柄を思い出す。

「というか列車、止まらなくね?」

「みたいだな」

 茶化して現実逃避した俺に、マイペースな返答が届いた。

 

 


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